高松高等裁判所 昭和28年(う)657号・昭28年(う)656号 判決
本件起訴状における公訴事実は、被告人は昭和二十二年十一月頃当時徳島県警察部刑事課勤務の警部補であつたのを奇貨として、同県名東郡南井上村日開の味噌醤油製造業榎本亀美子方で同人に対し、全然警察部の部員に分配する意思がないのに拘らず、警察部の人達が味噌醤油に不自由しているので何とか分けてやりたいから融通してくれないかと申し向け、同人をしてその旨誤信させてその頃同所で同人から醤油一石二斗及び味噌六十貫を交付させて、これを騙取したと言うのである。原審第十三回公判において右「被告人は」とあるを「被告人は住友信吾及び曽根岡樌と共謀の上」と訴因の変更あり、更に第二十回公判において、前示「榎本亀美子方において同人に対し」及び「同人をしてその旨誤信させてその頃同所で同人から」とあるに対しそれぞれ「榎本義治方で同人に対し」、「同人をしてその旨誤信させてその頃同所で同人の妻榎本亀美子を介して同人から」と変更して択一的に訴因の追加が為されている。原判決は証拠によつて右追加訴因の事実を認め被告人単独で榎本義治からの醤油三斗八升入り三樽及び味噌二十貫入り三樽の詐欺罪を認定していること所論の通りである。なるほど右起訴状における被害者は榎本亀美子であり択一的追加訴因による被害者はその夫榎本義治であり、この点のみを形式的に論ずれば別個の犯罪であるかのようであるが、現実具体的に公判審理の対象となる犯罪事実が同一なりや公訴事実の同一性を維持するや否やの判断は各事実の全般につき実質的になさるべきである。この観点よりする時は右択一的訴因追加によつては公訴事実の同一性を害するものとは認められない。右追加によつては公訴事実の同一性を害するものとは認められない。右追加訴因によつて公訴事実の同一性が害されることを前提とする弁護人岡林一美の論旨はいずれも採用しがたい。