高松高等裁判所 昭和28年(う)97号・昭28年(う)96号・昭28年(う)98号・昭28年(う)95号 判決
記録について所論の点を調べてみると原審は昭和二六年一一月一四日附決定を以て被告人に対する賍物故買等被告事件と当時大分地方裁判所に係属中の被告人に対する賍物運搬等被告事件とを併合し同年一二月一一日以降数回その審理を重ねているが同日の公判期日及びその後の公判期日にも後者の担当弁護人羽田野忠文に対し各期日の通知を怠りまたその期日に同弁護人の出頭もなかつたことは弁護人所論の通りである、ところが右羽田野弁護人については記録上解任され若しは辞任した形跡も認められないのみならず同事件についての昭和二六年一一月六日附大分地方裁判所の公判調書に依ると同期日に裁判長は次回公判期日は追而指定する旨告げて閉廷して居りその後松山地方裁判所の前記併合決定に基いて右事件記録が同裁判所に送付されたところ原審松山地方裁判所は前記の通り羽田野弁護人に対するその後の公判期日の通知を怠りしかもその不出頭の侭審理結審しているのであるから右は所論の通り同弁護人の弁護権の行使を不当に制限したものであつて明かに訴訟手続上の瑕疵があるものと言はなければならない、尤も原審の右昭和二六年一二月一一日以降開かれた各公判期日には他の弁護人(原審弁護人篠原三郎、同白石近章)が立会つて居り被告人も羽田野弁護人の不出頭について別段異議を申述べた形跡もなく又昭和二六年一二月一〇日附原審弁護人篠原三郎及び同白石近章の連署を以て篠原三郎を主任弁護人に選任する旨の届を原審に提出しているけれども右選任届は前記羽田野弁護人の連署を欠ぐ不適法なものであるばかりでなく弁護人は訴訟法上被告人に属する権利を行使する外その独自の立場から被告人の権利を擁護する権利をも有するものであつてその公判期日に出頭することは当該弁護人の基本的権利とも言ふべきものであり、しかも羽田野弁護人が右期日の通知を受けなかつたことについて同弁護人に何等の瑕疵も記録上認められないからたとえ爾余の弁護人が公判期日に立会し、被告人に於て特に羽田野弁護人の不出頭に異議を述べなかつたとしても前記公判期日の通知を同弁護人にしなかつたことの手続上の瑕疵は治癒されるものではない、況んや本件に於ては原審は所論の通り右羽田野弁護人不出頭の侭その取調を行つた所論の各証拠を有罪認定の資料としているのであるれらこの違法は当然判決にも影響を及ぼすと認められるので原判決はこの点に於て破棄を免れない、論旨は理由がある。