高松高等裁判所 昭和28年(ネ)173号・昭28年(ネ)174号 判決
本件控訴中反訴請求部分についての控訴は、之を棄却する。原判決中主文第一項及第三項中本訴の訴訟費用(共同参加人の関係も含む)負担に関する部分を次のように変更する。
控訴人は、被控訴人谷口清太郎及同(原審共同参加人)谷口ユウに対し末尾添付目録<省略>(二)及(三)記載の不動産につき松山地方法務局字和出張所(元字和島区裁判所夘之町出張所)大正十四年八月二十四日受付第二、九六四号をもつてなされた同年七月二十八日付抵当権設定契約を原因とする債権額千八十七円、利息年一割、元利金弁済期同年十二月二十日なる抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべし。
被控訴人谷口清太郎その余の請求を棄却する。
反訴に関する控訴費用は控訴人の負担とし、本訴に関する訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人谷口清太郎と控訴人との間に生じたものは、これを四分しその一を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とし、被控訴人(原審共同参加人)谷口ユウと控訴人との間に生じたものは控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は、原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。被控訴人谷口清太郎は、控訴人に対し金三十三万三千円を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする旨の判決並右金員支払の部分について、担保を条件とする仮執行の宣言を求め。被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
事実関係について、当事者双方の主張したところは、左の通り補正する外孰れも原判決摘示の事実と同じであるから茲に該摘示を引用する。
被控訴人等において、「原判決二枚表七行目の家督相続は、前戸主岡崎永次郎の隠居による。同八行目「原、被告間において、大正十四年七月二十八日清算をし云々支払義務を承認した」とは、主張の如き支払義務を承認する和解契約が成立した趣旨である。原判決添付目録記載の不動産所在の村名を、石城村と又目録(一)の(1) (最初のもの)、畑二畝二歩とあるのを二畝二十二歩と訂正する。右目録(一)の不動産は、昭和四年二月九日所有権移転登記前より現在まで引続き被控訴人等がこれを占有管理しておりその間殊に昭和六年頃該不動産中一町三反一畝十二歩地上に生立四十八年生の松を、売却、伐採した等のことがあつたに拘らず昭和二十七年に至るまで控訴人が異議を主張しなかつたことに鑑みるも債権担保のため所有権移転登記がなされたに過ぎないことが明らかであり該担保契約には、被担保債権については返済期の定めはなかつた。本訴は、右担保契約の約旨に基いてその担保の目的物返還のため所有権移転登記手続を求め、又目録(二)及(三)の不動産は、抵当権が設定契約を合意解除し消滅したるによりこれが設定登記即ち現松山地方法務局字和出張所に当る元字和島区裁判所夘之町出張所大正十四年八月二十四日受附第二、九六四号をもつてなされているものの抹消登記の手続を求める。又右の目録(二)及(三)の不動産は、被控訴人両名の長男谷口市太郎の所有であつたところ同人は昭和十九年七月二十四日死亡し、直系卑族がないので被控訴人両名が遺産相続をし共有権を取得した。控訴人主張右目録(一)の不動産に関する公祖公課は、本件の如く債権に利息を附する場合においては、特約がない限り担保権者の負担たるべきであり仮りに被控訴人の負担すべきものとするも債務完済による移転登記手続の際諸費用として清算すれば足りる、又債権担保のために売渡の登記をしたに過ぎないのであり控訴人抗弁の如き買戻特約付の売買ではないから民法第五百八十条に反するものでなく再売買の予約でもないから消滅時効援用等の抗弁は、失当である。」と述べた。
控訴人において「岡崎永次郎の隠居及その相続並目録(二)及(三)の不動産が訴外谷口市太郎の所有であり同訴外人の死亡及被控訴人両名との身分関係並被控訴人等が相続により右不動産を共有するに至つたことは認める。目録(一)の不動産の売買代金は、現金千円を当時被控訴人清太郎に交付した外残代金二百三十円は原判決五枚表十一及十二行目に亘り掲記の被控訴人清太郎の訴外銀行に対する元利債務金二百三十円を同被控訴人のため立替支払つたのでその求償債権と相殺済である。仮りに売渡担保であるとしても、その契約に基く売(買)戻しを請求するの権利は、民法第五百八十条の趣旨に鑑み十年以内に行使しなければならないに拘らず契約成立後十年を経過してからなされた本件請求は失当である。そうでないとしても再売買の予約であるから十年の時効により消滅するので時効の利益を援用する。原判決五枚裏十一行目以下の取得時効は、占有の始めにおいて善意無過失であつたから昭和十四年二月九日民法第百六十二条第二項による時効完成し所有権を取得したとの趣旨である。反訴の原因たる被控訴人の立木売却、伐採並名誉毀損の所為は故意によるものであり、控訴人は農業を営みその資産は部落内で一位、村内で二三位にある者である。」と述べた。
<立証省略>
三、理 由
先づ本訴請求につき審究する。
被控訴人清太郎が大正十四年七月二十八日頃控訴人に対する元金千八十七円、利息年一割、元利金弁済期同年十二月二十日とする約定の消費貸借債務担保のため、愛媛県東字和郡石城村所在末尾添付目録(一)の内(1) 乃至(18)の不動産及目録(二)及(三)の不動産計二十六筆につき抵当権設定の契約をし、かつ同年八月二十四日字和島区裁判所夘之町出張所(現松山地方法務局字和出張所)受付第二、九六四号をもつて右抵当権設定の登記を経由したこと。その後被控訴人清太郎と控訴人との間において、昭和四年二月九日右不動産中前記目録(一)の内(1) 乃至(18)の不動産について、右抵当権設定登記の抹消登記をし、かつ該不動産及同目録の内(19)乃至(23)の不動産と共に同日前記出張所受附第九七一号をもつて売買により控訴人名義に所有権移転登記がなされたこと、前記目録(二)及(三)記載の不動産は、訴外谷口市太郎の所有であつたが昭和十九年七月二十八日同訴外人死亡によりその父被控訴人清太郎、母被控訴人(共同参加人)ユウにおいてその遺産相続をし共有となつたことは、孰れも当事者間に争いがない。
被控訴人等は、右不動産の所有権移転登記は、控訴人の有する前記千八十七円の債権担保の目的をもつて控訴人に該不動産の所有権を移転し、元利金の弁済期を定めずその完済次第控訴人は右不動産の所有権を被控訴人清太郎に返還する約旨の所謂売渡担保契約によりなされたものであり、右売渡担保契約締結と同時に前示目録(二)及(三)の不動産に対する抵当権設定契約を合意解除するに至つたものであると主張し、控訴人は前記事実摘示の如く代金を支払い真実買受けたものであると抗争するので審究するに、原審証人菊地治、谷口ユウ並原、当審における証人菊地貞治(原審の第一、二回とも)、谷口村太郎(原審の第一、二回とも)の各証言及被控訴本人谷口清太郎(原審の第一、二、三回とも)の各供述に被控訴人主張のような売渡担保の約定及抵当権設定契約解除の約定ができて右所有権移転登記がなされたものであるかのようなものがあるけれども以下の事実が認められるに比照したやすく信用できないし被控訴人その余の立証に右主張事実を確認し得られるものがない。成立に争いのない甲第一、二号証第七号証の一乃至七第八号証の一乃至五、乙第五号証、第十八号証の一乃至十八並右乙第五号証が控訴人の手裡に在る事実、当審における控訴本人岡崎勇の供述を綜合すれば、控訴人は、被控訴人清太郎と話し合い冒頭認定二十六筆の抵当不動産が金千八十七円の債権を担保するには多過ぎるので内八筆の不動産(目録(二)及(三)記載のもの)だけを担保(抵当権)として残し、その余の十八筆の不動産(目録(一)の(1) 乃至(18)のもの)については、抵当権設定契約を解除したうえ他の五筆の不動産(目録(一)の(19)乃至(23)のもの)をも併せて前認定の所有権移転登記をしたものであることが認められる。ところで(1) 成立に争いのない乙第四号によれば右所有権移転登記は控訴人主張の如く恰かも真実売買に基因するものであるかの如き観があるけれどもこの点に関し控訴人その本人尋問において原審における第一乃至四回及当審における一回)或いは「買受けは形式上代金千円となつているが実際は、当時被控訴人に頼まれて同人の穂積銀行に対する債務七百円の元利を代払いし、字和商業銀行に対する元利金三百円及三好曽賀治に対する二口の借用金五百円の元利も同様代払いした外にも額は忘れたが現金を被控訴人に支払う等して計金二千五、六百円を費した」(原審第一回)と言つたり或いはまた「被控訴人に頼まれ同人の穂積銀行に対する多額の借金を立替え払いしたのでこれが代償として外に同人に数百円の現金をも支払うたうえ二十三筆の土地を、買受けたものである」(原審第二回)と言うふうに供述が変つたり更らに「売買に際し被控訴人清太郎の懇請により内金千円を現金で支払い三百円を同被控訴人の債権者たる字和商業銀行に直接控訴人自ら立替え支払い、同じく穂積銀行に対する七百円、蔵貫浦(註三好)に対する五百円の各債務は右被控訴人に現金を交付してその支払を完了させた」と言うに三転した、かと思うと後記反証に基く被控訴代理人の反対尋問により叙上供述は、記憶違いかも知れん、本件不動産代金から銀行に対する債務を支払うため差引いたか差引いていないかも記憶がない、とに角古い昔のことで記憶がない」(原審第三回)と言うことになつた、然るにその後又「買受代金は被控訴人が現金が欲しいと言うので現金で支払い、字和商業銀行の立替えも代金から差引かず将来精算するつもりであつた」(原審第四回)と述べたり「前記不動産を買受けるについて、字和商業銀行の百三十円は私から直接支払うた外に合計二千六百円位を当時被控訴人に渡して買受けた」(控訴審)と供述するので右乙第四号証記載金額が買受け代金でないことが明らかである、又代金額及その支払に関する供述が前後矛盾し支離滅烈でもあるから到底信用し得られない状況であり(2) しかも成立に争いのない甲第五号証の二第六号証の一第七号証の一乃至七被控訴本人の供述に徴し成立を認められる甲第四号証の一、二第五号証の一第六号証の二及右本人の各供述を綜合すると、被控訴人清太郎は、昭和十四年十二月二十日頃訴外三好に対する二口の借用金八百円の元利を支払い、又昭和十六年十月十五日訴外穂積銀行(その承継人伊予合同銀行山田支店)に対する借用金八百七十円の元利を支払うたことが認められるので前記控訴本人の供述は真実に副わないものというべく、しかも控訴本人自ら供述(原審第二回)するように控訴人は被控訴人清太郎に対し他に多額の貸金があり而かもそれが無担保でいずれも弁済未了であるのだから右売買代金債務中立替払いによる求償債権と相殺したという以外の残額代金も現金で支払うことなく当に右貸金債権と相殺することが一応考えられる普通のことであるに拘らず控訴人の立証に当時同被控訴人に現金を必要とした特別事情の窺知し得られるものがないばかりでなく却つて原当審において被控訴本人清太郎も前認定の所有権移転登記をする際控訴人から代金の支払いを受けなかつたと供述していることを併せ考えると、むしろ売買代金額は協定されず素よりその代金の授受等もされなかつたものと看做すを相当とすべきではなかろうか、そうすると前掲乙第四号証により抗争の如く控訴人が売買代金を支払つたとの事実を証することはできないし控訴人が該不動産の公祖公課を納付していたことは被控訴人の争わないところであるけれども単にそのことのみで売買代金支払済の事実認定の資料とすることはできない。乙第三、八、十、十七号証も上叙認定の妨げとならず控訴人爾余の立証に右認定を覆すに足りるものがないので控訴人抗争の如き売買代金は支払われなかつたと言うべきである(3) ばかりでなく原審証人谷口ユキ、坂本寅松、字都宮国継並前示証人菊地治、谷口ユウ、谷口村太郎の各証言及び被控訴本人、控訴本人(原審第一回)の各供述を綜合すれば、前認定の所有権移転登記がなされたに拘らず依然被控訴人清太郎はその後引続き本件不動産を耕作収益し或いは山林の手入をし立木の伐採、植林をする等管理しこれを占有して来たが別に占有改定、貸借等がなされたものではないことをも確認できる。この認定に反する当審における控訴本人の供述は措信しない、又占有には事実状態を伴うことを要するから公簿上の所有名義人が納税をし、又はその地目変更の手続をしたと言うことだけで占有していることにはならないから前記乙第三、八、十、十七号証も右認定を妨げない。叙上(1) 乃至(3) の如き事情が認められるに鑑みると前記所有権移転登記は控訴人抗争の如き売買に基いてなされたものでないと言うべきである。
然るところ前認定抵当不動産の一部を千八十七円の債務の担保に残しその余を他の不動産と共に控訴人に所有権移転登記をするに至つた事実及上叙諸事情と成立に争いのない乙第一号証の一乃至六第十四号証、甲第一号証第三及八号証の各一乃至五、前示証人菊地治、菊地貞治の各証言及び被控訴本人の供述並びに控訴本人の供述の一部とを綜合しかつ当事者間に争いのない控訴人が岡崎永次郎の隠居によりその家督相続をした事実も併せ勘案すれば、被控訴人清太郎は前段認定の話し合いの際控訴人に対する前記抵当付債務以外控訴人先代からの借金計五千二百余円の債務(被控訴人等は上叙抵当付債務金千八十七円は、大正五年から同九年頃までに被控訴人清太郎の借用した金五十円、五百円、六百円等の債務を整理計算した残存債務のすべてであるかのように主張し被控訴人本人もそのように供述するけれども前示乙第一号証の一、二、五の各借用証が控訴人手裡に現存する外乙第五号証の存すること並びに控訴本人の供述に徴し採用できない、従つて被控訴人の証拠抗弁も採用しない)及び控訴人が利害関係を有する第三者として同被控訴人の字和商業銀行に対する百三十円の借用債務元利金を代位弁済したことによつて生じた求償債務をも担保するため、被控訴人清太郎は右目録(一)の不動産を売買により控訴人名義に所有権移転登記をし、これにより控訴人は該債務の弁済を五年乃至十年即ち長くとも十年間猶予する約定のもとに前認定の所有権移転登記をするに至つたものであると做すを相当とする。この認定に反する前示各証人及び被控訴本人、控訴本人の供述部分は信用し難い。そうすると右担保契約は所謂譲渡担保であるから該契約により控訴人は目的物の所有権を取得するがこれを担保目的に適合するよう行使すべき義務を負うものであつて、当然目的物が確定的に控訴人の所有に反するものではない、しかも控訴人の全立証によるも、弁済期到来と共に当然目的物が確定的に控訴人の所有に反することゝなる等の約定の存することの認められるものがない。ので弁済期に被担保債権が弁済されないときは、控訴人においてこれを任意に売却し、又は評価して弁済に充当し残額があれば被控訴人に返還すべきである、従つて控訴人が右手続に着手する前には、被控訴人において元利を提供してなおその目的物の返還請求ができる関係が存するものと言うべきである。
以上説明の通りであり元利を提供して担保物返還請求のできることは、汎ゆる担保契約通有の法律関係に過ぎず、勿論買戻乃至それに準ずる特約、又は再売買の予約と言うことはできないから買戻に関する民法第五百八十条の精神に鑑み契約以来十年を経過した後の本訴所有権移転登記請求は失当であるとか再売買予約の完結権が消滅時効完成により消滅した旨の控訴人の抗弁は孰れも失当なことが明らかである。
又上叙認定の如く、控訴人は、目録(一)の不動産を占有していないからこれが取得時効完成の抗弁も失当なこと説明を要しないところである。
しかして前示甲第三号証の一乃至五及被控訴本人、控訴本人の各供述を綜合すれば、被控訴人清太郎は、控訴人に対し昭和十七年二月頃から同二十年十二月頃までの間数回に亘り計金二千二百三十五円を、前記抵当付及び譲渡担保の各債務元利金の内入としかつその都度金千八十七円の債務に対し弁済する旨意思表示をして弁済したことを窺知できる、この認定に反する控訴本人の供述部分は信用しない。そうすると右内入弁済により前示抵当付債務金千八十七円の元利金は完済されるに至つたが譲渡担保の被担保債務は、一部弁済となるに過ぎない計算となることが明らかである(記録「一〇五丁」の計算表参照)仮りに被控訴人の右弁済充当の意思表示が認められないとしても、前掲各証拠によれば、控訴人の有する総債権に対し弁済されたことが認められるし前認定のように譲渡担保による被担保債権は、該契約の際長くとも十年間弁済を猶了されたが抵当付債務は当時既に弁済期到来していたのであるから右認定の内入弁済金は民法第四百八十九条第三号により先づ抵当付債務から充当されるべき筋合である故結局右結論に影響しない。又この認定により上叙譲渡担保の被担保債務は承認による時効中断の効を生じたと言うべきであるから被控訴人の該債務が消滅時効完成したことの抗弁も失当である。
更らに又被控訴人清太郎は上来の認定及説明により明かなように譲渡担保の目的物であることを知りながら占有していたものであると言うべく、完全なる所有の意思をもつてする占有とはいえない。他にこの認定を覆すに足る被控訴人の立証もないので所有の意思をもつて占有することを要する被控訴人の取得時効完成の主張もこの点において既に失当である。
以上により明らかな通り結局被控訴人主張の目録(二)及び(三)の不動産に対する抵当権は被担保債務消滅したから被控訴人清太郎、同(共同参加人)ユウのこれが抹消登記手続を求める請求は正当として認容すべきも目録(一)の不動産は譲渡担保の目的物でありその関係の消滅したことの認められるものがないから該譲渡担保契約の趣旨によりその所有権移転登記手続を求める被控訴人清太郎の本訴請求は失当として排斥すべきである。
次に反訴請求につき審按する。
反訴主張事実中控訴人(反訴原告)は、前記目録(一)の不動産を所有するところ被控訴人(反訴被告)清太郎はその内(14)の山林一反五畝地上生立の立木を勝手に他に売却して昭和二十四年中に松、雑木等二百斤、昭和二十七年夏頃檜五百才を伐採させ(22)の山林四畝八歩地上生立の松、檜等三千才を昭和二十五年中に右同様他に売却して伐採させ、(9) の山林八畝二十九歩地上生立の檜一万二千才を、昭和二十六年八月頃右同様他に売却して伐採させ、故意に控訴人の所有権を侵害し因つて控訴人に合計金二十三万三千円の損害を被らしめたと主張する点は、仮りに被控訴人清太郎において主張に副う山林地上の立木を勝手に他に売却して伐採させた事実があるとしても、前段認定に明らかなように控訴人はその主張の山林を同被控訴人から債権担保のため所有権の移転登記を受けているのであり同被控訴人に対する関係においては実質上担保の目的範囲において権利を行使し得るに過ぎずそれを超えて完全なる所有物として使用収益及び処分するの権限を有しないと言うべきである。そうすると完全なる所有権を有することを前提とし、それが侵害されたとする反訴請求は既にこの点において失当でありかつ控訴人の叙上権利は窮局のところ目的物の交換価値から優先弁済を受けることを内容とするものであるからこの優先弁済を受け得られなくなつた場合、それに因り生じた損害の賠償を求め得るに過ぎないのでありこの場合にも、担保権者に損害を生じたことを要件とするから右譲渡担保物件の価値が右売却伐採により被担保債権の額以下になりその弁済を得らない状況になつたことを必要とする、ところで控訴人の全立証によるも右担保物件の価値が被担保債権の額以下になつたことは勿論債権の弁済を得られない状態になつたことを確認できないからこの点よりするも亦請求は失当と言うべきである。
又反訴の主張事実中被控訴人清太郎が控訴人の名誉を毀損したとの点を審理するに、本件記録に徴し前段の本訴請求事件につき原裁判所において開廷された昭和二十七年十二月十日の口頭弁論(記録三〇六丁)において、被控訴人(その代理人)が乙第一号証の三、四に在る被控訴人の印影につき、さきにその成立を認めると述べたのは、錯誤によるものであるから取消す、そして右成立を否認すると述べ、猶同号証が偽装証書であることを証するため証人及被控訴本人の尋問並びに鑑定等証拠方法の申出をし、その続行期日として開廷された昭和二十八年一月二十二日の期日(三三二丁)における尋問に対し被控訴本人が「控訴人の父から五十円を借用したがその後計算の際それを含めたものが金千八十七円の債務となつた、その外借金はない若し控訴人が借金があると言うならそれは既に申し上げている如く作つたもの(註、仮装の意であると解する)でありそれに関する借用金証書は偽造としか思えません」旨述べたこと(記録三四三丁裏)及び既に申上げている如くと言うのは、「乙第一号証の三、四は被控訴人の父浜治が他に多額の借金を負うているように証書を作つておけば次男である被控訴人も相当な財産が貰えると言うのでそのため実際は、何等貸借がないのに表面上借金があるよう体裁を作るため贋の借用証書を作つて貰つたと聞いたことがありその贋の借用証書であるかも知れない」(第一回供述「一二九丁裏」)旨疑問を抱いていた、又「控訴人から上叙同旨の理由で証書を作らないかと言う話があつたので成程と思い証書作成に同意し印鑑を預け一任した、借用の記憶がない証書の印影は、被告がその印鑑を勝手に使つて作成したと思います」(第二回供述「二八六丁以下」)との供述を指すことが明らかであること並びにその後翌二十八年一月二十七日提出された鑑定書によると「右乙第一号の三、四の印鑑が被控訴人の認めるその余の書証に在る印影と同一である」旨鑑定されたことが認められる、それ等事情によれば、前記被控訴人の既に申し上げた如く云々偽造としか思えませんの供述は、乙第一号証の三、四が既述の如く貸借を偽装乃至は仮装するため作つた贋の借用証書であり、借受けた憶えがないに拘らず控訴人がそれをもつて貸金があると言うのなれば偽造としか思はれないと心境を述べたまでに過ぎず偽造したと述べたのでない趣旨であると解するを相当とする。仮りに偽造した趣旨の供述であるとしても、右認定に明らかなように、同被控訴人はその供述後提出された鑑定書により初めて右乙第一号証の三、四の印影は自分の印鑑による印影であることが判然としたのでその直後開廷された同年二月十二日の口頭弁論(三〇七丁)において直ちに前記の否認を改め成立を認めると答弁したことの認められる等特別な事情が存するのに徴すれば、該供述は、被控訴人が信じていたことを供述するため自然になされるに至つたものであり他意の存しなかつたと思はれる情況であり加うるに記録に徴し窺はれる本件の事実及び争点並びにこれが訴訟進行状況、被控訴人の年令及びそれにより推知できる能力等をも併せ考えると、それが本件訴訟当事者としてなすことを許される攻撃防禦の範囲を逸脱するものでないと解されるので控訴人の名誉を毀損するの故意は素より過失の存することの認められるものもないと言うべきである。それ故爾余の判断を俟たずこの点の請求も失当である。
以上各説明の如く原判決が被控訴人清太郎同(共同参加人)ユウの請求を認容したのは相当であるが被控訴人清太郎その余の請求を認容したのは不当であるからこれを変更するものとし、又控訴人の反訴請求を棄却したのは相当なのでこの部分に対する控訴は棄却すべきものとし民事訴訟法第九十六条第九十五条第八十九条第九十三条第九十四条に則り訴訟費用の負担を定め主文の通り判決する。
(裁判官 前田寛 太田元 森本正)