大判例

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高松高等裁判所 昭和28年(ネ)287号 判決

被控訴人より控訴人に対する高松地方裁判所昭和二十六年(ワ)第一四一号約束手形金請求事件の和解調書の執行力ある正本に基く強制執行は金四万円を超過する部分についてはこれを許さない。

控訴人のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その一を被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は原判決を取消す、主文第二項記載の債務名義に基く強制執行はこれを許さない、訴訟費用は被控訴人の負担とするとの判決を、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を各求めた。

事実関係につき当事者双方の陳述したところは原判決摘示事実と同一であるから茲にこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人が控訴代理人主張の主文第二項記載の債務名義に基き控訴人所有不動産に対し強制競売の申立を為しその開始決定のあつたことは当事者間に争がない。

控訴代理人は右債務名義たる和解調書は控訴人が(一)昭和二十四年十二月二十八日被控訴人に宛て振出した金額五万円、満期昭和二十五年一月二十六日なる約束手形に基く手形上の債務につき為された裁判上の和解を内容とするものであるところ、右和解当時、控訴人は(一)の債務の外(二)訴外中井雅由が昭和二十四年十月三十一日被控訴人に宛て振出した金額五万円、満期同年十一月三十日なる約束手形について手形上の保証を為したことによる債務金五万円を被控訴人に負担し、控訴人は先に被控訴人に対し時価三万円に相当する三相十キロ変圧器を代物弁済として引渡し、且つ金二万三千円を支払つていたので、これをもつて(二)の債務を消滅せしめ(一)の債務金五万円のみを認め右金員を昭和二十六年九月末日迄に被控訴人に支払う趣旨で前記和解を為したのである。よつて控訴人は同年十二月十一日右和解に基く債務の内金一万円を被控訴人に弁済したが残額の支払を為し得ざる間に被控訴人から強制競売の申立があつたので、残金四万円を被控訴人方に持参提供したところ、控訴人が従来被控訴人に対して為した弁済はすべて(二)の基本債務たる金五万円の貸金に対する一箇月八分の割合による利息の弁済に充当せられ、(二)の債務は消滅していないことが判明した。

しかしながら控訴人は前記の如く(二)の債務が消滅しているものと信じて(一)の債務について裁判上の和解を為したものであつて若し(二)の債務が消滅していないものとすれば本件和解に応ずる意思がなかつたものであるから、右和解にはその要素に錯誤があり無効である。

従つてこれについて作成された和解調書も無効であつて執行力を有しないものであると主張するが、控訴人主張の(二)の債務を消滅しているものとして本件和解を為したとの点に関する当審証人宮脇フジの証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果は、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果と対比すると直ちに採用し難く、他に(二)の債務消滅を本件和解の内容として表示せられたことを認むべき確証がないから、仮令控訴人において(二)の債務が消滅しているものと速断して和解を為したとしても、右錯誤はいわゆる動機の錯誤であるに止り右和解を無効ならしめるものでないから、これに基き作成された和解調書も亦無効のものでないことは勿論である。

たゞ被控訴代理人は昭和二十六年十二月十一日控訴人より支払を受けた金一万円は(二)の基本債務である金五万円の貸金に対する一箇月八分の割合による利息債務の弁済に充当されたものであると主張するが右金一万円授受の際、控訴人或は被控訴人から何れの債務の弁済に充当するかについて意思表示のあつたことを認むべき確証がないから(尤も原審及び当審における控訴本人尋問の結果によれば控訴人は本件和解に基く債務の履行として右金一万円を支払う意思であつたことが認められるが、控訴人は右金員を訴外宮脇フジをして被控訴人方に持参せしめ、訴外人がこれを被控訴人に交付する際その弁済を充当すべき債務を指定したことを認むべき証拠がない。また被控訴人が右金一万円を受領した際宮脇フジに交付した受領証である甲第一号証の三には貸金の内金として受領した旨の記載があるが、原、当審における被控訴本人尋問の結果によれば右受領証は単に控訴人の被控訴人に対する債務の一部弁済として金一万円を受領した旨を記載したのに止り、これをもつて(二)の基本債務の弁済に充当する旨の意思表示を為したものとは認められない。)民法第四百八十九条に従い充当せらるべきものと解すべく、本件和解調書に基く債務及び(二)の基本債務共に弁済期を経過していたことは前記の通りであつて、

債務者が同一債権者に対し共に弁済期に在る数個の金銭債務を負担する場合において、その一について既に債務名義が存在し、何時債権者より強制執行を受くるやも測られざる状態に在るときは、仮令この債務が無利息債務であつて、他の債務について高率の利息が付せられていたとしても前者の債務をもつて債務者の為めに弁済の利益多きものとなすべきこと疑がないから、前記一万円は民法第四百八十九条第二号に従い本件和解調書に基く債務金五万円の一部弁済に充当せられたものといわなくてはならない。

従つて本件債務名義は金四万円を超える限度においては執行力を有せざるに至つたことが明かであるから控訴人の本訴請求はこの部分の執行力の排除を求める範囲で正当であつて認容すべきであるが、その余の部分は失当として棄却すべきものである。

然らば右認定と異り控訴人の請求を全部排斥した原判決は失当であるから、民事訴訟法第三百八十五条に則りこれを変更すべきものとし訴訟費用の負担について同法第九十六条第九十二条本文を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 前田寛 太田元 岩口守夫)

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