高松高等裁判所 昭和28年(ネ)33号 判決
控訴代理人は原判決を破棄する、昭和二十五年二月二日付別紙目録(原判決添付目録を引用する)記載の土地につき控訴人等の先代竹内石太郎に対して愛媛県農地委員会(被控訴人の前身)のなした訴願裁決は無効であることを確認する、仮に無効でないとするも同委員会のした右裁決を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴を棄却する旨の判決を求めた。
当事者双方事実上の主張は、控訴人において「控訴人竹内スヱは竹内石太郎の妻、その余の控訴人等は右石太郎の子であり石太郎死亡によりその遺産相続をした」と補述し、被控訴人において「控訴人等と竹内石太郎との身分関係及相続の事実は争わない」と述べた外孰れも原判決摘示の事実と同じであるから茲に引用する(立証省略)。
三、理 由
訴外高畑俊雄が中山町農地委員会に対し原判決添付目録記載の農地につき、昭和二十年十一月二十三日現在において該農地に就き耕作の業務を営んでいた賃借人であるとして昭和二十二年法律第二百四十号による改正農地調整法の附則第三条に則りその所有者竹内石太郎と賃貸借契約を締結することに関し承認を受けて協議を求めたが調わなかつたのでこれが賃貸借に関し裁定を求める請求をしたこと及該請求により同町農地委員会において昭和二十三年十二月八日前記農地につき賃貸借の設定をすべき旨の裁定をしたこと、右竹内石太郎が愛媛県農地委員会(被控訴人の前身)に対し該裁定を不服としこれが取消を求めるため訴願したこと及県農地委員会においては昭和二十五年十二月二十二日付で訴願人竹内石太郎と表示し訴願を理由がないものとし棄却する旨の裁決をしたことは孰れも当事者間に争いがなく、右訴願の裁決書の謄本が翌昭和二十六年十月二十八日頃送達されたことは弁論の全趣旨によつて認め得られる。然るに右竹内石太郎が裁決前の昭和二十四年八月七日死亡したものであること及控訴人スヱがその妻でありその余の控訴人等が孰れも子であり遺産相続をしたものであることは被控訴人の争はないところである、しかして控訴人は前示訴願の裁決は右の如く死者竹内石太郎に対しなされたものであるから無効であると主張するけれども本件農地賃借権の回復裁定の如く結局財産権的性質に関するものは一身専属的のものでないからそれに関する事項について当該農地の所有者から訴願がなされ、その裁決前に該訴願人が死亡したが該裁決書の謄本がその相続人の一人に現実に送達された(このことは本件弁論の全趣旨に徴し認め得られる)ような場合にはたとえその裁決(即ち行政処分)が形式上は死者たる竹内石太郎を名宛人としてなされても、その実体においては右石太郎の相続人でその権利承継者たる控訴人等に対してなされたものと解するを相当とすべく従つてこれを違法無効であるとはいい得ない。故に本件訴願棄却の裁決は控訴人等に対する行政処分として有効であるから控訴人等の右主張は採用しない。
よつて予備的請求について審按するに、本件農地及その他が一毛作田であること、該農地等を前記竹内石太郎が訴外高畑金兵衛に賃貸し同人に耕作させており昭和二十年度の稲作を収穫せしめたことは被控訴人においても明らかに争はないし争うものと認められる資料も存しないから自白したものと看做すべく原審及当審証人奥田源一郎の各証言、原審における控訴人竹内鶴松、竹内スエ各本人の供述における右石太郎が昭和二十年十月頃同年度稲作の収穫を終へた本件農地を前記金兵衛から返還を受けたかのような部分は措信し難く控訴人爾余の立証に右石太郎が同年十一月二十三日までに本件農地の返還を受けていたことの認められるものがない、却つて原審証人高畑マツミ、竹田ナツヨの各証言、前示控訴人竹内スヱ本人の供述の一部を綜合すると、右高畑金兵衛が昭和二十一年三月二十四日死亡しその子の訴外高畑俊雄において本件農地の賃借権を承継したが同人(予ねて応召していた)は未復員でありその妻マツミだけとなるに至つたところその後同年四月上旬前記石太郎から右マツミに対し賃貸農地の返還を申出でかつ同女の夫俊雄が復員すれば元通り耕作をさせるとの約定をし遂に同人をして賃貸農地の約半分に当る本件農地の返還を承認するの已むなきに至らせたものであることが認められるので、本件農地は昭和二十年十一月二十三日現在において前記高畑金兵衛が賃借耕作していたがその後叙上の如き経過によりその承継人高畑俊雄において耕作できなくなつたものである。ばかりでなく成立に争いのない甲第一号証、原審における検証の結果前示証人高畑俊雄、高畑マツミ、竹田ナツヨの各証言、前示証人及び奥田源一郎控訴本人竹内鶴松、竹内スヱの各供述の各一部を綜合すれば前記高畑金兵衛は昭和十八年十月頃息子俊雄応召による人手不足のため同人帰来までの約で賃借農地の一部を他に転貸したが前記竹内石太郎においてそれを黙示的に承認していた事情があるのを窺えるし前記高畑マツミも前段認定の返地をしたので右転貸地の返還を受けたこと、及昭和二十一年十月頃右俊雄が復員したが前記石太郎は約旨のように元通りの耕作をさせないので遂いに昭和二十三年五月右石太郎を相手として冒頭認定の如きこれが農地の賃借権回復に関する協議裁定を請求したところ右石太郎は高畑方において前記返還を受けた転貸地の耕作をすることを承認し、又石太郎方耕作地(前段認定の高畑からの返還部分)は高畑方耕作地(前段返還地の残半分)よりも一段高い所にあり高畑方耕作地え潅漑用水を引き入れるには石太郎方の耕作地を経由しなければならない状態にあるので石太郎は高畑方耕作地え潅漑用水を供給するにつき便宜を与えることを約したので右請求を取下げたが石太郎は同年の潅漑水の供給について約旨の履行をしないので右俊雄においては自己の耕作を全うするために要する潅漑には右石太郎の耕作部分たる本件農地の賃借権を回復するより外方法がないので再び本件の賃借権回復請求をするに至つたものであること並右解約当時右俊雄方は家族三人であり田一反許りと部落中最悪と云われる畑四反四畝位を耕作し生活状態は良好でないと思われるが控訴人鶴松方は田三反八畝位と若干の畑を耕作し山林も所有しかつ俊雄に比し遙かに高額の住民税を納めている等その生活状態良好であることを認められる、右挙示の書証供述等のうちこの認定に反する部分は措信し難い、この認定の諸事実に前段認定の事実とを併せ考えると、本件農地の賃貸借解約は結局正当であるとは云い難いし本件賃借権回復請求が信義に反するもの又は控訴人鶴松等が本件農地の耕作をやめるとしてもその生活状態が俊雄の生活状態に較べて著しくわるくなるものとも認められないから農地委員会において本件賃借権の回復請求の承認をすることができない事情はないので冒頭認定の町農地委員会の承認及裁定に違法はなくそれを容認した県農地委員会の裁決も違法はないからこれを違法であるとして取消しを求める請求も亦失当である。
右説示のように控訴人等の本訴請求は孰れも失当であるからこれを棄却した原判決は相当なので民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却し同法第九十五条第九十三条第八十九条に則り主文の通り判決する。
(裁判官 前田寛 太田元 森本正)