大判例

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高松高等裁判所 昭和29年(う)932号 判決

判決理由〔抄録〕

論旨は歩行者が児童のみであったり、或は歩行者と自動車とがほぼ同一線上にあったような場合は格別、本件如き場合に於ては歩行者が夜間自動車の前照燈に照らされてもそれが為に眩惑して狼狽進路を誤るということは有り得ないという。歩行者が十分な注意を払っている限りは一時眩惑されることがあっても沈着冷静に対処するならば退避を誤ることなく無事離合し得ることの通常であることは所論の通りであるけれども、通行人は如何なる人も絶えず車馬にのみ注意を向けて居るものとは限らない。或る者は脳中に思索を耽りつつ或る者は同伴者との談話に夢中であり或る者はよそ見の為に進行し来る自動車等を眼前に見出して驚愕する場合があり得る。本件の場合六十五年の老女と未だ七年の幼女が共に手をつないで何を語り何を興じつつ歩行していたかも知れないのであって、必ずしも前方からの自動車等にのみ注意を払っていたとはいえないのである。而も被害者等の歩んでいた線と被告人の進行していた線との間隔は僅か一、二歩を誤ることによって重大な危険が発生する虞のある状態にあったことは結果に徴して明らかなところで既に認定した通りである。その上自動二輪車の速力は一秒間に十一米という高速度である、一分間には六百六十米余、十秒間には百十米余であるからほんの僅かの間に眼前に現われるのである、左様な場合歩行者は児童でなく又自動二輪車とほぼ同一線上にあった場合でなくとも、前照燈に照らされた場合これに眩惑して一時その場に佇立するの已むなきに至ったり或は急拠避譲するに際し狼狽してその方向を誤ることもあり得る。まして本件の場合は他に通行人なく道路北部方面(中央以北)は広くあいて居るのであるから被害者等は自動二輪車の方がそちらによけて通ってくれるものと考えたかも知れない。然るによけてくれると思った自動二輪車が予期に反して避譲せず一瞬の間に寸前に迫り来った為狼狽したのかも知れない。或は又これと反対に右側通行する被害者等が前方より対面交通の状態で進行し来る自動二輪車を認めた際咄嗟の場合自動車は左側進行であるから右寄り(自動車からいえば左寄り)に進行して来るかも知れないと考え、夜間右側(道路南寄り)道路端の足場の悪い方へ避けるよりも却って左方即ち道路中央部の方へ避けた方がよいとその場の判断を誤ってあわて中央部へ避譲したのかも知れない。兎に角本件の場合左様なことが考え得られるのであるから被害者等にも過失があるにせよ自動車運転者としてはここに思を致して同人等との離合に際しては、著しく速力を減じ以って同人等をして狼狽せしめないよう進行するか或は逸早くハンドルを右斜に切って同人等との間隔を十分保ち得るよう進行し万一同人等が進路を誤るようなことがあっても絶対同人等に危害を及ぼさないよう細心の注意を払って運転すべき業務上周到な注意義務があるものといわなければならないのであってこの点に関する論旨は採用の限りではない。

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