高松高等裁判所 昭和30年(う)357号 判決
被告人が植野内子の胸元にジヤツクナイフを突付け声を出したら殺すぞと申し向けたのは、未だその時には強盗する意思はなく、同女をそのまま帰宅させると原判示第一の植野キヨに対する犯罪が発覚して逃走する暇がなくなるので同女を暫く帰宅させない為にした行為であることは所論の通りである。しかし強盗の着手は必ずしも初めから強盗の目的でその手段として暴行脅迫を加えた場合にかぎらず、他の目的で被害者に暴行脅迫を加えたところその為極度に畏怖して反抗不能の状態にあるのを看て、その機を利用して金品を強奪しようと決意し、被害者に金員を要求し被害者の身体に触つて金品を物色したような場合には、その時強盗の着手があつたものと解すべきである。従つて被告人が初め植野内子にジヤツクナイフを突付け声を出したら殺すぞと脅迫したときには未だ強盗の意思がなく、内子を威して暫く足止めして置く為であつたにしても、その為同女が極度に畏怖して反抗不能の状況にあるのを看て取るや、この機に乗じ金員を強奪して高飛の旅費を得ようと決意し、同所で銭を持つとらんかと申し向けたところ、同女が家に帰つたらあると答えて胸に手を当てたので、懐中に所持金があるものと思い同女の胸部を衣類の上から触つて物色したというのであるから、ここに強盗の着手があつたものと言わなければならないのである。そして斯様に物色した際所持金はなかつたが女性の身体に触つた為遽かに劣情を催し、更に進んで同女を強姦しようと決意するに至り、畏怖の為抗拒不能の状態にある同女のモンペ、パンツ等を脱がせてその場に仰向けに押し倒し、その上に乗り掛つて強いて姦淫を遂げ、更に同女が腕時計をつけているのを知るやこれを強奪すべく時計を貸せと申し向け同女所有の新品女物腕時計一個を手交させてこれを強取したのであるから、強盗その機会に於て婦女を強姦したのであつて強盗強姦罪を構成することは論を俟たず、所論のように単なる強姦と見るべきではないし、最後に腕時計を奪取したのは当初着手した強盗の完成であつて、もとより論旨主張のように窃盗や単なる物品の授受に過ぎないものではない。原判決には審理不尽も事実誤認も擬律錯誤の違法もない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)