大判例

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高松高等裁判所 昭和31年(う)189号 判決

論旨は、金券を高知県金庫において現金と引換えたものが、本件十五万円及び十万円の現金であり、金券が同金庫において現金化された時にはその現金は公金たるの性質を失うと言うのである。

本件当時の高知県の副出納長であつた証人窪田金壱その他の証人の証言中にも、いわゆる金券(出納係員が金庫に現金の支払を命ずる支払案内・支払通知書等)が県金庫において現金化された時は公金(県所有金)でなくなるとの趣旨の部分があるが、これは正当な請求権者に正当な金額を支払うため正当な手続の下に発行された金券に対し県金庫から現金が払い出された通常場合のことである。本件のように、県の出先機関である土木出張所の予算が不十分であるため、その業務運営に必要な金員を確保する目的で、同出張所管下で施行される県直営の土木工事につき真実材料・運送賃等を業者に支払うかの如く偽り又はこれらの業者に支払うべき金額を偽つた書類を作成し、これに基いて金券の発行を受け、この金券を県金庫において現金化するような場合は、この現金化された金銭は元来土木出張所の正当な業務運営のために使用すべく現金化されたもので、土木出張所の所長・出納員又はその管下の地区主任等又は形式上の請求権者である右業者の私有物とするため現金化されたものではないから、依然その現金の所有権は県にあり、同現金は公金であると言わなければならない。(昭和五年七月七日大審院判決参照)この場合は県所有の公金がその所在を変えたに過ぎないものと認むべきである。論旨は理由がない。

論旨は、被告人が一時被告人個人の建築用材の代金に充当した本件の現金十五万円及び十万円は、杉地区主任等が詐欺した賍物たる金員であり、これを同主任等が本山土木出張所の定員外雇傭人の給料・出張所維持費・食糧費・接待費等に充当するため被告人に給付したものであるから、不法原因給付であつて同主任等に返還請求権がないから、右金員については被告人の横領が成立しえない、と言うのである。

本件被告人が横領した金員が杉地区主任等が高知県の県支金庫から詐取した賍物であつたとしても、所論のような事情による給付は不法原因給付と目することはできない。のみならず寄託関係が不法原因であるため寄託者が寄託物の返還請求権を有しない場合にも、受託者がこれを不法に領得すれば、横領罪が成立するというのが判例である(昭和二三年六月五日最高裁判所判決・昭和一一年一一月一〇日大審院判決・昭和二五年八月二三日福岡高等裁判所判決参照)。加うるに本件におけるように、県の出先機関である土木出張所の正当な業務運営に必要な経費に当てるため、その職員が同出張所管下の直営土木工事の材料代・運搬賃等につき恰もそれ等を業者に支払うものの如く偽り又は支払うべき金額を多額に偽つて、それらに関する書類を作成しこれらを使用して、県金庫から現金を引き出して、これを同土木出張所の正当な業務の運営に使うため保管して置く場合には、全く県の出先機関としての正当な業務を完全に遂行しようとするだけであつて、その金員を不正に使用しようとする場合ではないから、不法領得の意思を欠き、文書に関する罪その他の罪が成立することはありうるが、詐欺罪は成立しないのである(昭和二八年一二月二五日最高裁判所判決参照)。よつてこのような目的・手段によつて県支金庫から引き出された本件の金銭は賍物とは言えないのである。仮にこれが賍物であるとすれば被告人が賍物に関する罪を犯していることになりかねないのである。論旨は理由がない。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 松永恒雄)

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