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高松高等裁判所 昭和31年(ネ)186号 判決 1960年4月14日

控訴人 大上孫重 外四名

被控訴人 東雲健 外二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人松本源平は控訴人等に対し、別紙目録記載の山林(但し共有持分十分の六)につき、徳島地方法務局神領出張所昭和二十九年八月三日受附第五二七号を以てなされた同日附売買に因る共有権取得登記の抹消登記手続をせよ。

被控訴人東雲健、同河野萬三郎は、控訴人等に対し、別紙目録記載の山林(但し共有持分十分の六)につき、徳島地方法務局神領出張所昭和二十九年八月三日受附第五二八号を以てなされた同日附売買に因る共有権取得登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用(補助参加に因つて生じた分を含む)は、第一、二審共被控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人東雲健、同河野萬三郎代理人並に被控訴人松本源平は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

控訴人等並に被控訴人東雲、同河野の事実上の主張は、

控訴人等代理人及び補助参加代理人において、亡小間坂縫蔵は、同人が昭和二十三年五月二十九日控訴人大上孫重、同田上霍太郎との間に締結した別紙目録記載の山林(以下本件山林と称す)についての売買契約に基き、控訴人両名に対し共有持分十分の六につき所有権移転登記をなす義務を負うたまま昭和二十八年十二月十七日死亡したものであるが、亡縫蔵の相続人である小間坂キミにおいて昭和三十三年六月十日に至り、控訴人大上孫重に対し共有持分十分の三につき、控訴人田上霍太郎の相続人である岩井タミヱ、西窪貢、田上実(田上霍太郎は後記の如く昭和三十一年十月十一日死亡)に対し各共有持分十分の一につき、所有権移転の本登記をなしたものである。而して右本登記は昭和二十九年二月十日本件山林に対する亡縫蔵の持分十分の六につき控訴人両名のためになされた所有権移転請求権保全の仮登記(徳島地方裁判所の仮登記仮処分命令に因るもの)に基くものであるから、仮登記の順位保全の効力に基き、右仮登記と本登記との中間(昭和二十九年八月三日)においてなされた小間坂キミより被控訴人松本源平へ、更に同被控訴人より被控訴人東雲健、同河野萬三郎への本件山林に対する共有持分十分の六についての各共有権移転登記は無効に帰するから、その抹消を求めるものである。

なお控訴人田上霍太郎は昭和三十一年十月十一日死亡し、その直系卑属たる岩井タミヱ、西窪貢、田上実の三名が相続し、田上霍太郎の有していた権利義務を承継したものである。被控訴人東雲、同河野の主張はすべてこれを争う、と陳述し、

被控訴人東雲健、同河野萬三郎代理人において、

(一)  亡小間坂縫蔵は、訴外三木ヨシノとの間に三木富美(昭和十八年二月十九日生)なる子を儲けていたものであるところ、右富美について昭和三十一年七月十一日認知の裁判が確定し、認知は出生の時にさかのぼつてその効力を生ずるから、亡縫蔵(昭和二十八年十二月十七日死亡)の相続人は、妻たる小間坂キミと右直系卑属たる三木富美の両名となつた訳である。然るところ控訴人両名は昭和二十九年二月六日徳島地方裁判所に対し、亡縫蔵の相続人は、右小間坂キミの外小間坂トヨ(縫蔵の義姉)、松尾フジノ(縫蔵の実妹)、松尾久平(縫蔵の義弟)及び国原シズヱ(縫蔵の実妹)であるとし、右五名を相手方として、本件山林に対する縫蔵の共有持分十分の六につき仮登記仮処分命令の申請をなし、同裁判所は同年二月八日右申請を容れて共有持分移転請求権保全の仮登記仮処分命令を発し、控訴人等主張の仮登記がなされたものであるが、右仮登記仮処分は亡縫蔵の真正の相続人を相手方としてなされたものでないから、右仮処分命令に基く仮登記は無効たるを免れない。

(二)  本件山林に対する共有持分十分の六につき、控訴人等主張の如く昭和三十三年六月十日なされた所有権移転の本登記も無効である。即ち控訴人等の主張する亡縫蔵と控訴人両名との間の本件山林売買契約は債権契約であつて、代金全額の支払があつたとき売買目的物件の所有権が移転する約旨のものであるところ、三木富美につき前記の如く昭和三十一年七月十一日認知の裁判が確定したから右富美は亡縫蔵の相続人として本件山林につき縫蔵が有していた共有持分十分の六を小間坂キミと共に相続し、これを共有するに至つたこととなり、少くとも右認知の裁判の確定した昭和三十一年七月十一日以後においては、完全に右相続に因る共有権を主張し得るものである。従つて控訴人等がその主張の如く本件山林に対する共有持分十分の六につき縫蔵の相続人の一人たる小間坂キミより共有権移転の本登記を受けたとしても、相続人の一人たる前記三木富美が右登記に登記義務者として加わつていない以上、右登記は無効たるを免れない。

(三)  本件山林に対する亡縫蔵の共有持分十分の四については、昭和二十一年三月二十日の売買に基く徳島地方裁判所の昭和二十四年三月十九日附仮登記仮処分命令により同年三月二十二日被控訴人松本源平のため所有権移転請求権保全の仮登記がなされているものであるところ、昭和二十九年八月三日右仮登記は抹消されているけれども、右抹消は司法書士の錯誤に基くものであつて無効であり、右仮登記の効力は依然存続しているものである。従つて控訴人等主張の如く昭和二十九年二月十日の仮登記に基く本登記がなされたとしても、右仮登記に先立ち前記の如く昭和二十四年三月二十二日被控訴人松本源平のため仮登記がなされているのであるから、控訴人等は被控訴人等に対し右昭和二十九年二月十日の仮登記の効力を主張し得ない筋合である。

(四)  控訴人田上霍太郎が控訴人等主張の日に死亡し、岩井タミヱ、西窪貢、田上実の三名が相続したことはこれを争わない、と述べた外原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。被控訴人松本源平は、答弁として、控訴人等の主張事実はすべてこれを認める、と述べた。

立証として、

控訴人等代理人は、甲第一乃至第三号証、同第四乃至第六号証の各一、二、同第七号証の一乃至三、同第八、九号証を提出し、原審証人守田政次、同西窪貢、当審証人平田武一、同小間坂キミの各証言並に当審における被控訴本人松本源平尋問の結果第一回を援用し、乙第一、二号証及び同第十六号証の各成立は不知、爾余の乙号各証の成立はこれを認める、乙第九号証の二を利益に援用すると述べ、

控訴人等補助参加代理人は、丙第一号証、同第二号証の一、二及び同第三号証を提出し、当審証人久保悦太郎の証言並に当審における被控訴本人松本源平尋問の結果(第一、二回)を援用し、乙第一、二号証、同第四号証の一の一乃至四、同第四号証の二乃至四及び同第十六号証の各成立は不知、爾余の乙号各証の成立を認める、と述べ、

被控訴人東雲、同河野代理人は、乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一の一乃至四、同第四号証の二乃至四、同第五乃至第八号証、同第九、第十号証の各一乃至三、同第十一号証の一、二、同第十二乃至第十六号証、同第十七号証の一、二、同第十八号証の一乃至三及び同第十九号証の一、二を提出し、原審証人近藤正明、同大串弥一、同西岡玄一、当審証人大窪吉三郎、同久保悦三郎の各証言、当審証人小間坂キミの証言の一部、並に当審における被控訴本人河野萬三郎尋問の結果を援用し、甲第二、第八、第九号証の各成立を認める、同第一、第三号証、同第四乃至第六号証の各二の成立はいずれも不知、爾余の甲号各証中官署作成部分の成立を認めるも、その余の部分の成立は不知、丙号各証の成立を認める、と述べ、

被控訴人松本源平は、当審証人竹田義邦の証言を援用し、甲第八、九号証の各成立を認める、同第一乃至第三号証、同第四乃至第六号証の各二の成立は不知、爾余の甲号各証中官署作成部分の成立を認めるも、その余の部分の成立は不知、丙号各証の成立を認める、と述べた。

理由

被控訴人松本源平は、控訴人等の主張事実をすべて認めるところであり、右事実によれば控訴人等の請求は正当である。

そこで被控訴人東雲、同河野に対する請求について審按する。

訴外小間坂縫蔵が昭和二十八年十二月十七日死亡したこと、別紙目録記載の山林二筆(以下本件山林と称す)につき、(一)昭和二十九年二月十日徳島地方法務局神領出張所(以下単に神領出張所と称す)受附第一〇八号を以て、昭和二十三年五月二十九日の売買に基き、徳島地方裁判所の昭和二十九年二月八日附仮登記仮処分命令に因り、控訴人両名のため共有持分(亡小間坂縫蔵の持分十分の六)移転請求権保全の仮登記がなされたこと、(二)昭和二十九年七月三十一日神領出張所受附第五二一号を以て、本件山林に対する亡縫蔵の持分十分の六につき、訴外小間坂キミ(縫蔵の妻)が昭和二十八年十二月十七日相続に因り共有権を取得した旨の登記がなされたこと、(三)昭和二十九年八月三日神領出張所受附第五二七号を以て、同日附売買に因り、被控訴人松本源平が右小間坂キミより前記共有権(持分十分の六)を取得した旨の登記がなされたこと、(四)昭和二十九年八月三日神領出張所受附第五二八号を以て、同日附売買に因り、被控訴人東雲健、同河野萬三郎が被控訴人松本源平より前記共有権を取得した旨の登記がなされたこと、(五)昭和三十三年六月十日神領出張所受附第六六三号を以て、前記(一)の仮登記に基き、昭和二十三年五月二十九日の売買に因り、控訴人大上孫重並に控訴人田上霍太郎の相続人等たる岩井タミヱ、西窪貢、田上実の三名が夫々共有権を取得した旨(但し控訴人大上孫重の取得持分は十分の三、控訴人田上霍太郎の相続人等の各取得持分はいずれも十分の一一)の登記(以下これを本登記と称す)がなされたこと、並に控訴人田上霍太郎が昭和三十一年十月十一日死亡し、その直系卑属たる岩井タミヱ、西窪貢、田上実の三名が相続したことは、いずれも本件当事者間に争がない。

凡そ仮登記に基く本登記がなされた以上、その仮登記が不動産登記法第二条の第一号所定の場合たると第二号所定の場合たるとを問わず、仮登記と本登記との中間になされた登記にして本登記の権利に牴触するものは、仮登記の順位保全の効力に基き無効に帰し抹消されるべきであること多言を要しないところであるところ、被控訴人東雲、同河野(以下単に被控訴人東雲等と称す)は、前記(一)の仮登記及び(五)の本登記の各効力を争うにつき、以下順次判することとする。

先ず被控訴人東雲等は、前記(一)の仮登記は、亡小間坂縫蔵の真正の相続人を相手方としないでなされた仮登記仮処分命令に基くものであるから無効であると主張する。成立に争のない乙第三号証の一、二及び丙第二号証の一、二に徴すれば、控訴人両名は昭和二十九年二月六日徳島地方裁判所に対し、亡小間坂縫蔵の相続人は、小間坂キミ(妻)、小間坂トヨ(縫蔵の義姉)、松尾フジノ(縫蔵の実妹)、松尾久平(縫蔵の義弟)及び国原シズヱ(縫蔵の実妹)であるとし、右五名の者を被申請人として本件山林に対する共有権移転請求権保全の仮登記仮処分命令の申請をなし、同裁判所は同年二月八日右申請を容れて仮登記仮処分命令を発したこと、右仮処分命令に基き同年二月十日前記(一)の仮登記がなされたこと明らかであるところ、成立に争のない乙第五号証(戸籍謄本)によれば、訴外三木富美(昭和十八年二月十九日生)につき、小間坂縫蔵死亡後である昭和三十一年七月十一日同女が亡縫蔵の子であることを認知する旨の裁判が確定し、同年七月二十一日同女の母三木ヨシノがその旨の届出をしたこと明らかである。而して認知は出生の時にさかのぼつてその効力を生ずること民法第七百八十四条の定めるところであり、被相続人の死後被相続人の子として認知された者も相続開始の時に遡つて相続人となるものであるから(民法第九百十条参照)亡小間坂縫蔵の真実の相続人は、その配偶者たる小間坂キミと直系卑属たる右三木富美の両名となること被控訴人東雲等代理人指摘の通りである。しかし認知は第三者が既に取得した権利を害することができないこと民法第七百八十四条但書の明定するところであるから、相続不動産につき既に仮登記を経由している第三者の権利を害することができないものであるのみならず、凡そ仮登記仮処分命令の申請は、特定の名義人の登記につき仮処分命令による仮登記の嘱託をなすことを申請するのであつて、その特定の登記名義人(登記名義人が死亡しているときは、その相続人)を相手方としてその者から一定の行為を請求する性質のものではなく、一定内容の仮登記を嘱託するという裁判所の行為を求めるものと解するのが相当であり、仮登記仮処分命令の申請を受けた地方裁判所は、仮登記権利者が仮登記原因を疎明したときは、必ず仮登記仮処分命令を発し、且つ登記官署に対し仮登記を嘱託することを要するものである(不動産登記法第三十二条参照)。従つて本件の場合仮登記仮処分命令において被申請人として表示された者が結果的に見て(右命令当時は、前記三木富美は未だ相続人ではなかつた)真実の相続人でなかつたとしても、仮登記仮処分命令に基く仮登記を無効とすべきいわれはなく、被控訴人東雲等の前記主張は理由がない。

次に被控訴人東雲等代理人は、前記(五)の本登記は三木富美に対する認知の裁判が確定した後のことに属するに拘らず、小間坂キミのみが登記義務者としてなされたものであつて、縫蔵の相続人の一人である右富美が登記義務者として加わつていないから無効であると主張するにつき考察する。成立に争のない丙第二号証の一、二(登記簿謄本)に徴すれば、前記(五)の本登記は昭和三十三年六月十日縫蔵の相続人たる小間坂キミのみが登記義務者としてなされたことを窺うことができるところ、当時縫蔵の相続人の一人として前記三木富美が存したことは前叙認定により明らかである。しかしながら右丙第二号証の一、二に原審証人守田政次の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証、官署作成部分の成立に争がなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一乃至三、成立に争のない甲第九号証、原審証人守田政次、同西窪貢、当審証人小間坂キミ、同竹田義邦の各証並に弁論の全趣旨を綜合すれば、亡小間坂縫蔵は昭和二十三年五月二十九日控訴人両名との間に、本件山林につき、代金を百三十万円、買主は売主に対し契約と同時に金七十万円を、昭和二十四年三月末日迄に残代金六十万円を夫々支払い、所有権移転登記は残代金支払と同時になす約の下に、売買契約を締結し、控訴人両名は右契約締結と同時に縫蔵に対し代金内金として金七十万円を支払つたこと、当時本件山林は登記簿上小間坂縫蔵、吉川玄逸、竹田有朝及び竹田義邦の共有に属し、その各共有持分は縫蔵及び吉川玄逸が各十分の四宛、竹田有朝及び竹田義邦が各十分の一宛であつたこと、その後昭和二十五年八月三十一日に右竹田有朝及び竹田義邦よりその各十分の一の共有持分権を小間坂縫蔵に移転する旨の登記がなされ(縫蔵の共有持分は十分の六となる)、また同年九月二十日前記吉川玄逸よりその十分の四の共有持分権を直接控訴人両名に対し移転する旨の登記がなされたこと、しかし縫蔵の十分の六の共有持分権については控訴人両名に対しその移転登記がなされないまま、縫蔵は昭和二十八年十二月十七日死亡するに至つたこと、その後右縫蔵の共有持分権につき前記の如く昭和二十九年二月十日控訴人両名のため仮登記仮処分命令に基く仮登記がなされたが、控訴人大上孫重並に控訴人田上霍太郎(同人は昭和三十一年十月十一日死亡)の相続人等は、昭和三十三年六月十日残代金六十万円を縫蔵の相続人たる小間坂キミに支払つて、同日右仮登記に基く本登記がなされたものであることを肯認することができ、右認定を動かすに足る証拠はない。右認定の事実に徴すれば、亡小間坂縫蔵は昭和二十三年五月二十九日控訴人両名との間に、本件山林の売買契約を締結したことにより、控訴人両名に対し本件山林の所有権を移転すべき債務(当時の縫蔵の持分十分の四以外については、各共有権者よりその各共有持分を譲受けて買主に移転すべき債務)を負うに至つたこと明らかであり(但し所有権移転登記をなす時期は、前記約定により残代金の支払を受けた時)、右所有権を移転すべき債務(所有権移転登記の義務が含まれる)は縫蔵の死亡に因り縫蔵の相続人がこれを承継するに至つたものというべきである(但し本件山林に対する十分の四の共有持分権については、前記の如く吉用玄逸より控訴人両名に対し直接共有権の移転登記がなされたから縫蔵の相続人において承継したのは、控訴人両名に対し本件山林に対する十分の六の共有持分権を移転すべき債務である)。この場合縫蔵の相続人が数名であつたとしても、数名の相続人が被相続人縫蔵より承継した本件山林の共有権を買主に移転すべき債務はいわゆる不可分債務に属するものと解するのが相当であるから、買主は相続人の一人に対しても全部の履行を求め得るものといわなければならない(大審院昭和一〇年一一月二二日判決参照、大審院裁判例(九)二八八頁)。然らば小間坂縫蔵の相続人の一人たる小間坂キミが、右債務の履行として昭和三十三年六月十日控訴人等に対しなした前記(五)の本登記が無効であるとはいえない。

次に被控訴人東雲等代理人は、本件山林に対する小間坂縫蔵の持分十分の四については、前記(一)の仮登記より以前である昭和二十四年三月二十二日被控訴人松本源平のため所有権移転請求権保全の仮登記がなされて居り、右仮登記は昭和二十九年八月三日抹消されているけれども、右抹消は司法書士の錯誤に基き不要のものと誤信してなされたものであつて、無効であるから、右仮登記の効力はなお存続している。従つて昭和二十九年八月三日になされた被控訴人松本源平への共有権移転登記(前記(三)の登記)及び同被控訴人より被控訴人東雲健、同河野萬三郎への共有権移転登記(前記(四)の登記)は抹消されるべきでないと主張するにつき審按する。前掲丙第二号証の一、二によれば、本件山林に対する亡小間坂縫蔵の持分十分の四につき、昭和二十四年三月二十二日神領出張所受附第一二九号を以て、昭和二十一年三月二十日の売買に基く徳島地方裁判所の昭和二十四年三月十九日附仮登記仮処分命令により被控訴人松本源平のため所有権移転請求権保全の仮登記がなされていること、然るところ昭和二十九年八月三日神領出張所受附第五二五号を以て、同日附放棄に因る右仮登記の抹消登記がなされていること明らかである。しかし右仮登記の抹消が被控訴人東雲等主張の如く司法書士の錯誤に基きなされたことを肯認するに十分な証拠がなく却て成立に争のない乙第九号証の二、同第十七号証の一、二、当審証人久保悦太郎の証言並に当審における被控訴本人松本源平(第一回)の供述を綜合すれば、司法書士である久保悦太郎は昭和二十九年八月三日被控訴人松本源平の代理人である訴外豊岡暢一より松本源平関係の登記を全部抹消してくれと依頼されたため、右依頼に従い被控訴人松本源平の代理人として神領出張所に対し、昭和二十四年三月二十二日なされた前記仮登記の抹消登記手続をなしたものであることを窺うことができ、右抹消登記手続が右久保司法書士の錯誤に基きなされたものとは未だ認め難い。従つて前記仮登記の抹消が無効であることを前提とする被控訴人東雲等の主張は採用し難い。

然らば控訴人等が被控訴人等に対し主文第二、三項掲記の各共有権取得登記の抹消登記手続を求める本訴請求は、爾余の点に対する判断をなすまでもなく理由があるといわなければならない。

仍て右と結論を異にする原判決は不当であるから、民事訴訟法第三百八十六条によりこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき同法第九十六条第八十九条第九十三条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 谷弓雄 浮田茂男 橘盛行)

目録

徳島県名西郡神山町下分字三ツ木四百四十八番の一

一、保安林 九町八反六畝十一歩

同所四百四十八番の二

一、山林 二十六町三反十歩

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