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高松高等裁判所 昭和36年(ネ)86号 判決 1962年11月27日

控訴人(被告) 高知県教育委員会

被控訴人(原告) 横田慧 外五三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、認否は、左記の通り附加する他、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

二、被控訴人らの主張

(一)  後記控訴人の主張(一)に関し次の通り主張する。

(1)  被控訴人の右主張は、時機に遅れた攻撃防禦方法であり、民事訴訟法第一三九条第一項により許されない。即ち、本件審理にあたり、原審では昭和三五年一二月一二日に口頭弁論終結の上、判決されたのであり、右主張のような事由は、原審口頭弁論終結前に既に控訴人にとつては明白な事実なのであるから、原審においてこれをなし得た筈である。しかるに控訴審において、はじめてこれを主張することは、控訴人の故意又は重大な過失に基づく時機に遅れた攻撃防禦方法というべきである。

(2)  被控訴人らは、いずれも本件訴を維持する法律上の利益を有する。

被控訴人らがいずれも控訴人主張の通り再採用、正式採用されたこと、被控訴人横田、同弘瀬が解職されたこと、右両被控訴人及び被控訴人平山、同光本、同浜田、同東、同国見の七名を除くその余の被控訴人らに関しては、給与上控訴人主張のような措置のとられていることは認める。

しかしながら、右被控訴人平山、同光本、同浜田、同東、同国見については、控訴人の自認する如く、現に昇給遅延の不利益が存し、これは、将来とも右被控訴人らが教職員の身分にある限り存続する。控訴人は、これらの不利益は損害賠償請求により充足されるというが、本件処分の取消しなくして、この処分の違法を前提とする訴を提起することはできないから、右被控訴人らは、右の点について本件処分の取消しを求める利益がある。

次に、被控訴人横田、同弘瀬を除くその余のすべての被控訴人に関しては、控訴人は、これらの被控訴人の身分上の取扱いについは、それぞれ正式採用とした日以後は条件付職員として勤務した期間を勘案して何らの不利益を蒙ることないようにした旨主張するが、これらの措置は控訴人の右時点における裁量措置にとどまり、今後被控訴人らが教職員の身分を保有する以上、すべての期間、すべての任命上、雇傭勤務条件上の諸問題について正式採用が遅れたことに対する一切の不利益措置が全くとられることはないという法律上ないし制度上の保障はなんら存しないのである。換言すれば、正式採用が遅れた被控訴人らを差別して取扱うか否かは、専ら控訴人の裁量にのみかかつているものというべく、このようなことは、被控訴人らの有する地方公務員法上の身分保障の権利にてらしてみても許されざるところである。右の点において、被控訴人らは本件訴を維持する法律上の利益があるといわなければならない。

更に、被控訴人横田、同弘瀬に関しては、本件処分の取消しが確定すれば、右被控訴人らは、昭和三四年一〇月一日に正式任用されたものとなり、地方公務員法上の身分保障を受けることになる。その結果、控訴人がなした昭和三五年三月三一日付の解職処分なるものは、分限又は懲戒の規定と手続によらない法律上存在しない処分であり、明らかに無効のものであり、右解職処分により身分を喪失する筋合のものでないことになる。右両被控訴人は、右の点について、本件訴を維持する法律上の利益を有する。

(二)  後記控訴人主張の(二)の主張については、条件附採用職員については、不利益処分に関する審査の請求権は認められないが、これは、行政庁内部において簡易迅速に不利益処分の是正を求めることができないというに止まり、裁判所に提訴する権利までも失うものではない。

(三)  後記控訴人主張の(四)の主張について。

条件附採用職員は、条件附採用期間優秀な成績をおさめた場合に限つてその優秀性を厳格に認定し、その結果正式採用されるのではなく、その期間通常の勤務状態で特段に劣悪な状況のない以上、期間満了とともに当然正式採用されるべき法律上の権利を有する。任命権者は条件附採用職員がその期間通常の勤務状態で経過した以上、直ちに正式任用の手続をとる義務がある。右の通常の勤務状態であつたか否かは、校長又は教頭に対する口頭の照会、具申書の提出等によつて極めて容易に認定できる。したがつて、たまたま勤務評定書が提出されないからといつて、他になんらの方法もとらず、いきなり本件解職処分をなすのは、任命権者としての義務に違反し、条件附採用職員の法律上の権利、利益を侵害するもので、違法といわざるを得ない。

(四)  その余の後記控訴人主張事実は総て争う。

三、控訴人の主張

(一)  被控訴人らは、本件処分につき無効または取消しを求める法律上の利益を有しない。即ち、

(1)  被控訴人らは、昭和三四年九月三〇日本件処分により解職されたが、全員その翌日たる同年一〇月一日に再び条件附採用職員として採用されている。

(2)  被控訴人横田慧、同弘瀬光明、同平山巌、同光本朝枝、同浜田恵一、同東嘉清、同国見惺を除くその余の被控訴人らは、いずれも昭和三五年四月一日正式採用となり、現に教員としての身分を保有し、勤務をしている。しかも、その給与に関しては、いずれも再採用に当つてさきに条件附採用職員として勤務した期間を勘案して、不利益を受けないように給与額を定め、昭和三五年四月一日の昇給期においても、本件処分を受けずに正式採用になつていたと同様に昇給がなされており、その他恩給等についても条件附採用職員としての勤務期間は通算されるのであるから、右被控訴人らは、本件処分によつては、何らの不利益を受けていない。

(3)  被控訴人平山巌、同光本朝枝、同浜田恵一、同東嘉清、同国見惺らは、いずれも本件処分とは別に昭和三五年三月三一日に解職処分を受け、翌四月一日に条件附採用職員として採用され、同年一〇月一日に正式採用となつて、現に教員としての身分を保有し、勤務中である。

(4)  被控訴人横田慧、同弘瀬光明の両名は、本件処分とは別に教育者に不適格という理由で昭和三五年三月三一日に解職され、現に教員たるの身分を有しない。

以上の通りであるから、右(2)記載の被控訴人らについては、本件処分を取消すことにより、何らの利益を受けるものでなく、(3)記載の被控訴人らは、本件処分を取消すと、昇給が六ケ月間遅延した損失を回復するという利益は生じるが、これをもつて本件訴訟の利益ということはできないし(このような不利益の回復は別途損害賠償請求訴訟によるべきである。)その他については、右(2)記載の被控訴人らの場合と同様である。右(4)記載の被控訴人らについては、既に本件処分以外の事由によつて教員たるの身分を喪失しているのであるから、本件処分の取消しに因る利益はない。よつて、被控訴人らは、いずれも、本件訴をなす利益を有しないものである。また被控訴人らが挙げている一部の給料手当や将来の昇給進級などの関係は、もし仮りに不当、不利益があつたときには、法令の定めによつて首長に対して直接に適切な措置を要求する等の方法で行政庁内部で処理すべきであつて、そのような事由があるからといつて、本件のような事案を司法裁判所に直接出訴し得る理由とすることはできない。

なお、控訴人の右主張に対し、被控訴人らは、時機に遅れた攻撃防禦方法である旨主張するが、公法関係の訴訟は公益に関係するところが多いから、通常の民事訴訟とは、その性質上自ら異つた方法で扱われるべきであり、又、控訴人の右主張は、本件訴訟の経過に照らし、時機に遅れたものではない。

(二)  本件処分は、いわゆる特別権力関係の内部における処分であり、このような処分に対しては、法律に特別の定めがない以上、裁判所に出訴してその取消し等を求め得ないものと解すべきところ、条件附採用職員については、一般職員と異り、不利益処分に関する審査請求権ならびに審査の判定に対する出訴権が与えられていないのであるから、被控訴人等は、直接本件処分の取消しを求めて出訴することができない。つまり、本件処分は抗告訴訟の対象にはなりえず、これを取消すことは、司法権の範囲を逸脱することになる。

(三)  仮に、本件処分につき抗告訴訟が許されるとしても、条件附採用職員については、その性質上、一般職員に与えられているような身分保障は排除されているのであり、その解職は、一般職員のそれとは異り、任命権者の絶対的自由裁量に任せられている。もつとも、地方公務員法第二八条第五項所定の条例がある場合にはこれに従わなければならいが、高知県の場合には、右条例も制定されていない。従つて、本件処分については、その事由の如何によつて違法となるというような余地は全然ないものである。

(四)  仮りに条件附採用職員の解職処分についても、任命権者の自由裁量権が無制限なものでないとしても、本件処分は、自由裁量権の合理的な範囲を逸脱したものでない。

(1)  即ち、条件附採用職員は地方公務員法第二二条第一項により六ケ月の勤務期間その職務を良好な成績で遂行したときにはじめて正式採用になるのであつて、この良好な成績で遂行したか否かの判定は、同法第四〇条による勤務成績の評定制度が採用されている場合には、これによらなければならないことは、同法第一五条の規定からしても当然のことである。しかして、控訴人は右の勤務評定制度を定めたのであるから、控訴人としては、右制度に従つて勤務評定をしなければならず、右以外の方法によつてこれをなすことは違法というべきであるのみならず、勤務評定制度自体の混乱を招くものであり、その弊害は甚大である。

そして、本件のように勤務評定義務者である校長が右規定による勤務評定書を提出しないというようなことは予想し得なかつたところであり、その不提出の場合の処置については、何らの定めもない。しかも、その不提出が確定的に判明したのは、昭和三四年九月二八日であり、同月三〇日には被控訴人らについて正式採用するか否かを決定しなければならぬことになつていたので、控訴人としては、自ら他の方法によつて評定を行うことは事実上不可能の状態であつた。

右のような事情の下に、控訴人としては、やむを得ず被控訴人らを一応解職し、翌日再採用したのであつて、本件処分は合法的な処置というべきであり、取消さなければならないようなかしはない。

(2)  被控訴人らに本件処分を受けるべき事由が存しなくても、本件処分は違法でない。

即ち、およそ、行政は公共の福祉を目的として全体に奉仕するために行われるべきものであるから、その行政の運営を円滑ならしめ、内部の秩序を保持し、能率を向上させるためには、個人的利益ないし権利と両立せしめ得ない場合には、これを侵害することもやむを得ない場合がある。例えば、職制もしくは定数の改廃又は予算の減少等個人に直接関係のない別途の事由が生じたために降任は免職の処分を受ける場合もある。

本件処分についても、被控訴人らに処分による不利益を蒙るべき直接の責任はなくても、右のような行政の目的からして本件処分は勤務評定制度の運営上、又条件附職員の制度上やむを得ない処分というべきである。しかも、被控訴人らの大部分は、右勤務評定制度について強硬な反対をしていた高知県教職員組合の組合員であり、所属校長に対し、評定書の不提出を強く要求していたものであり、本件処分の事由たる勤務評定書の不提出につき、被控訴人らにもその責任がないとはいえない。

(五)  なお、もし本件処分の取消しが確定すると、被控訴人らは、もとの条件附採用職員の立場に戻らねばならないが、既に必須要件の条件評定期間は経過しているという、行政上全く措置のしかたのない状態に陥る。

この場合、本件処分の取消によつて、被控訴人らが直ちに正式職員に採用になるわけのものではなく、それについては、法令に定められた方式による勤務評定を要するのであり、他の方法によることは、違法でもあるし、人事管理の混乱を招くことになる。このように考えると、本訴によつて、本件処分の取消しを求めても、その実益がないというべきである。

理由

一、先ず控訴人の訴の利益に関する抗弁について考える。

(一)  被控訴人らは、いずれも昭和三四年九月三〇日本件処分により解職されたが、その翌日たる同年一〇月一日に全員再び条件附採用職員として採用されたこと、被控訴人横田慧、同弘瀬光明、同平山巖、同光本朝枝、同浜田恵一、同東嘉清、同国見惺を除くその余の被控訴人らは、いずれも昭和三五年四月一日正式採用となつたこと、右被控訴人平山、同光本、同浜田、同東、同国見らは、いずれも本件処分とは別に昭和三五年三月三一日に解職処分を受け、翌四月一日に再び条件附採用職員として採用され、同年一〇月一日に正式採用となつたこと、以上の各被控訴人らは右各正式採用後引続いて教員たるの身分を保持していること、右被控訴人横田、同弘瀬らは、本件処分とは別に、昭和三五年三月三一日に教育者に不適格という理由で解職され、現に教員たるの身分を有しないものではあることは、いずれも当事者間に争いない事実である。

(二)  したがつて、控訴人主張の事由は、昭和三五年一二月一二日の原審口頭弁論終結以前に既に控訴人にとつては極めて明白であつたと認められ、このような事由を原審においては全く主張せず、当審に至つて始めて主張するのは、いわゆる控訴人の故意又は重大な過失によつて時機に遅れて提出された攻撃防禦方法に当るといわなければならない。しかし、控訴人の右主張は、法律上の見解であり、事柄としては比較的単純であり、更にこれがために証拠調べを必要とするものではないから、いまだ、これがために訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。

よつて、右控訴人の抗弁は民事訴訟法第一三九条によつて却下されるべきであるとの被控訴人らの主張は、採用し難い。

(三)  ところで、一般に、条件附採用の職員は、条件附期間を良好な勤務成績で経過したときは、あらためて、特別の手続を要することなく、当然に正式採用となると解すべきことは、当裁判所も後記引用にかかる原判決理由中の記載と同一の見解を有する。従つて、前記被控訴人横田、同弘瀬、同平山、同光本、同浜田、同東、同国見らを除くその余の被控訴人らについては、いずれも本件処分の翌日再び条件附採用職員として採用されたとはいえ、本件処分を受けずに正式採用となつた場合に比べて、正式採用が六ケ月遅れたことになり、又、一度解職処分を受けてあらためて再採用になつたという事実も消し難いのであるから、これらの事実は、右被控訴人らがいずれも教員たるの身分を保持する限り、被控訴人らの履歴の汚れとして、将来にわたつて、被控訴人らに不利益を及ぼす虞がないとはいえない。特に我が国における終身雇傭という現状、そこで年功序列が重視されている実情に鑑みると、右被控訴人らが不利益を受ける虞れは、現在のところ権利侵害の可能性が発生したに止まるけれども、しかもなお右虞から免がれるため現に本件処分の取消を求める法律上の利益があると認めるのが相当である。

控訴人は、右被控訴人らを再び採用するに当つて、給与面に不利益を蒙ることのないように措置したから、現在も将来も本件処分によつて不利益を受けることはないと主張するが、これらの措置は、控訴人の現在における裁量措置にとどまり、今後、右被控訴人らがその地位を保有する間、すべての人事関係にわたつて(例えば勤勉手当、特別昇給、昇任、昇格等)本件処分が取消された場合と同じように一切の不利益な措置がとられないという法律上ないし制度的な具体的保障は存しないといえる。又、控訴人は、仮りに、将来、昇給等について不当不利益があつたならば、その時に法令の定めにより直接適切な措置を要求すれば足りると主張するが、右不当ないし不利益は、必ずしも直接に本件処分を受けた事実または遅れて正式採用された事実を理由としてなされるわけではなく、むしろ、一般には、右事実を言外の理由としてなされることが多いと解せられるので、措置要求の制度が認められているからといつて、それで足りるというものではなく、本訴の必要がなくなるわけではない。むしろ、具体的に不利益が生じた時に、個々にそれを是正するより前に、一般的にかかる不利益を生ずる虞をなくしておくために、本訴が必要であるというべきであり、以上のような控訴人主張事由をもつて本件訴の利益がないということはできない。

(四)  次に前記被控訴人平山、同光本、同浜田、同東、同国見らについては、本件解職処分が取消されると、昭和三四年一〇月一日から正式採用となり、正式採用職員としての身分保障を受けることとなり、右被控訴人らに対する同三五年三月三一日付解職処分に対して審査請求等を為し得る利益が生じるばかりでなく、前記(三)で詳述したような利益(しかも、前記被控訴人らよりも高度の利益)を当然有するものであるから、右被控訴人らに対しても、本訴を維持する利益があるというべきである。

(五)  更に、前記被控訴人横田、同弘瀬らについては、前記(三)、(四)の被控訴人らと同様本件処分が取消されると、昭和三四年一〇月一日から正式採用となり、身分保障を受けることになるから、同被控訴人らに対する前記昭和三五年三月三一日の解職処分について審査請求等をなし得る権利を有することとなり、これまた、同被控訴人らについても本訴を維持する利益があるというべきである。

(六)  なお、控訴人は、本訴は実益なく、又、本件処分の取消しを命じることは、行政権に対する司法権の不当な介入である等と主張するが、もし、本件解職処分を取消す判決が確定した時には、第一回の条件附採用期間中被控訴人らが職務を良好な成績で遂行しなかつたと認むべき事実が存しない本件においては(本件の処分理由から右のように解せられる)、控訴人は右条件附期間満了の時に被控訴人らが正式採用になつたものとして取扱うべきであり、かかる場合には勤務評定を定めた法令の予想しなかつた事態であること、その後被控訴人ら(但し、被控訴人横田、同弘瀬を除く)が勤務評定を受けて正式採用されている事実から、更めて勤務評定を要しないものと解するのが相当である。かく取扱つたからといつて、この特殊例外の事例が人事管理や勤務評定に関する法令に違背したり、それら制度を混乱させるとは認められない。また、このような取扱になつたからといつて、司法権が不当に行政権に介入したことになるものでもない。

以上説明のとおり、被控訴人らは、本件解職処分後再採用されているけれども、なお右処分の取消によつて回復すべき法律上の利益があるというべきであるから、本訴において、右処分の取消を求める法律上の利益を有するものというべく、したがつて、右利益がないとする控訴人の主張は採用できない。

二、被控訴人らの請求原因及び控訴人の前記以外の主張に対する当裁判所の認定判断は、次に附加するほか、すべて原判決理由に記載と同様であるから、その記載をここに引用する。(もつとも、本件処分が無効であるとの主張に対する判断は、当審においては必要がないので、その部分は除外する。)

(一)  控訴人は、被控訴人らが控訴人と特別権力関係にあるので、本件処分の取消を求める抗告訴訟を提起することは許されないと主張する。なる程、被控訴人らは、控訴人の職員として、その包括的な支配権下にあることは明らかであり、被控訴人らは右支配権に服従すべき義務があるから、その範囲内における権力の発動に対しては、特別の規定のない限り争訟を提起することができるかどうかは困難な問題であるが、少くも、一般に公務員の免職処分の如く、被処分者を特別権力関係から全く排除するものは、単なる特別権力関係の内部的処分ということはできず、このような処分に対しては出訴できるものと解すべきである。その理は、条件附採用職員についても同様であつて、条件附採用の場合は、不利益な処分に対して簡易迅速にその是正を求める審査の請求権は認められていないが、これを以つて、直ちに本件の如き違法な解職処分に対する司法裁判所への出訴までも禁じられているものと解することはできない。控訴人の右主張は理由なく、被控訴人らの本訴提起は、違法でない。

(二)  控訴人は、被控訴人らを免職するか否かについては、控訴人は絶対的自由裁量権を有し、処分事由によつて違法の問題が生じる余地はないと主張する。なる程、条件附採用職員については、正式採用職員に与えられている身分保障を排除し、任命権者に広範囲の自由裁量権を認められているとはいえ、それが絶対無制限なものということはできず、任命権者のなす解職処分等については、自から合理的範囲の制約が存するものというべきである。(この点についても、当裁判所は原判決(原判決理由中の二の(二)後段の記載を引用する。)とその見解を同じくする。)従つて、控訴人の右主張も採用し難い。

(三)  控訴人は、本件処分は自由裁量権の合理的範囲に属すると主張し、その事由として、本件被控訴人らに対しては、定められた勤務評定の方法をとり得ず、従つて、勤務評定によらずに正式採用することはできないから、やむなく解職したものであり、本件処分は違法でないと主張する。

もとより、法令の定めはその通りであるけれども、本件においては、控訴人側の内部事情によつて、右法令の定めに従うことができなかつたのである。しかも、前記のとおり、条件附採用職員は、条件附期間を良好な勤務成績で経過したときは、あらためて特別の手続を要することなく、当然に正式採用となるものであり、かつ、当時の状勢によれば、定められた勤務評定書の不提出がかなり以前から予想し得た筈である。このような法の予想しない事態に際して、控訴人としては法規の末に拘泥することなく、合目的的に、臨機の方法をとるべきであつたし、またその余裕があつたといわねばならない。それをしも違法というべきではないし、勤務評定制度がそのために混乱するとは考えられない。条件附採用職員は、その原因の如何にかかわらず、所定の方法によつて良好な勤務成績の実証が得られない限り、解職されてもやむをえないというのは、本末顛倒のそしりをまぬがれない。

また、控訴人は、条件附採用職員については、被処分者に処分を受けるべき事由が存しない場合でも、行政の目的上必要がある場合には、任命権者において免職等をなし得る場合があると主張する(前記控訴人主張の(四)の(2)記載)が右主張に関し控訴人が挙げているような職制もしくは定数の改廃、予算の減少等による免職等の場合は、その免職等について合理的な理由がある場合であつて、本件解職の場合と同視することは適当でないし、又、前記の通り、本件処分が勤務評定制度上或は条件附採用職員制度上やむを得ない処分であるということもできない。

控訴人の右各主張は、いずれも採用できない。

三、以上の通りであつて、控訴人が、本件解職処分が違法でない事由として主張する点は、いずれも採用し難く、被控訴人らの本件解職処分の取消しを求める本訴請求は、理由があるというべきであるから、これを認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 渡辺進 水上東作 石井玄)

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