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高松高等裁判所 昭和36年(ラ)59号 決定 1963年3月19日

抗告人 山代長作(仮名)

相手方 山代武(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を松山家庭裁判所大洲支部へ差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨は「原審判を取り消す。相手方を抗告人の推定相続人から廃除する。」との裁判を求めるというのであり、その理由の要旨は次のとおりである。

抗告人、相手方間の松山家庭裁判所大洲支部昭和三一年(家イ)第三八号財産譲渡調停事件において、相手方所有の大洲市喜多山字小沖乙○○○番地の○田二畝二三歩のうち二分の一の持分及びその他の不動産と抗告人所有の数筆の不産動とを交換することと、当事者双方は共同して右のうち農地の交換につき昭和三二年二月末日までに、農地法第三条による県知事の許可申請手続をすること、右不動産全部につき交換による所有権移転登記手続が完了したときは、抗告人は同年一二月二〇日かぎり相手方に対し金四〇万円を支払うことなどを条項とする調停が成立した。

抗告人は相手方とともに、右の許可申請手続をしたが、右の田地の持分については不許可となり、交換の目的物たる不動産のすべてにつき移転登記を経由することが不可能となつた。そこで抗告人は相手方の要望に応じ、右調停における金四〇万円支払いの代償として自己所有の時価約一五〇万円に相当する山森、立木、真竹などを相手に贈与し、前示調停における契約を解除する旨相手方と契約して、従前の紛争を解決した。

しかるに相手方はその後抗告人を被告として前同庁へ執行文付与の訴(同庁昭和三六年(家ロ)第一号事件)を提起し、同訴において、抗告人が前示調停における金四〇万円の支払いを回避するため、相手方の再三に互る催告にもかかわらず、前示田地持分の交換についての許可申請手続に協力しない旨主張した。

相手方の右の訴提起は虚偽の事実を主張して紛争をさらにむしかえし抗告人から強制的に重ねて金四〇万円を取得しようと意企するもので、抗告人に重大な侮辱を加えたものである。原審判は右訴の提起を以上のように実質的に考察することなく、単に訴状の用語だけに着目し、重大な侮辱に該らないと判断して抗告人の申立を却下したものであるから不当である。

以上の抗告理由の当否を原審及び当審における資料に基いて考察した結果当裁判所は次のとおり判断する。

相手方が抗告人の子たる推定相続人であることは本件の記録及び原審の資料たる同庁昭和三六年(家ロ)第一号事件の記録から推認することができるところ、仮りに、抗告人主張のように、相手方が抗告人との間で、既存の調停により取得すべきであつた金四〇万円の代償を抗告人から取得し、右調停による契約を解除し、従前の紛争を円満に解決したことにしておきながら、その後において故らに父子間の紛争を再然させ、右調停に基く強制執行により抗告人から重ねて金四〇万円を利得しようと意企し、抗告人が調停上の義務に違反している旨の虚構の事実を主張して、右調停調書に執行文の付与を求める旨の理由のない不当な訴を提起したものとすれば、その行為は抗告人に対する違法行為であつて、民法第八九二条に規定する廃除原因に該当する余地があるということができる。

そして原審における申立の理由からも、抗告人は右のような意図に基く不当な訴を提起されたことを廃除原因として主張するのであることが明らかなのであるから、原審としては単に右訴における主張の表現だけに止まらず、進んで前示調停の成立から右訴の提起までの間における当事者間の交渉の経緯並びに右主張事実の真偽等を調査し、右訴が果して抗告人主張のような意企に基く不当なものであるかどうかを審理した上、それが廃除原因に該当するかどうかを判断すべきであつたといわねばならない。

しかるに、原審は右のような審理を尽くすことなく、審理の対象を単に右訴の訴状の表現に限局し、その中に抗告人を誹毀、ざん謗するような言辞がないことを認定しただけで、直ちに抗告人の申立を却下したものであることは原審判の判文から明である。のみならず、前示(家ロ)第一号事件の記録によれば、相手方は、右事件で、抗告人が前示田二畝二三歩のうち二分の一の持分の移転につき農地法第三条の許可申請手続に協力しない旨主張したことが認められるところ、当審に提出された証明書によれば、右と反対の事実が認められるから、少くとも相手方の右主張は虚構であることを推測することができる。

要するに原審が必要な審理を尽さなかつたことは明らかであり、その結果原審判の理由だけではいまだ抗告人の申立が相当でないことを肯認するに足らないから、原審判は不当であり、その取り消しを求める本件抗告は理由がある。

そこで家事審判規則第一九条第一項により、原審判を消り取し、本件を原審へ差し戻することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安芸修 裁判官 東民夫 裁判官 水沢武人)

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