高松高等裁判所 昭和39年(ネ)222号 判決 1966年1月13日
控訴人
大橋千代子
被控訴人
高岡福重強制管理人
中矢近太郎
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し金一一万六三七円を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その一を被控訴人の負担とする。
この判決は、被控訴人において金三万円の担保を供するときは、その勝訴部分につき仮りに執行することができる。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述≪省略≫証拠≪省略≫
理由
昭和三六年一月二六日松山地方裁判所昭和三六年(ヌ)第五号不動産強制管理申立事件において、債権者渡部貞一の申立により債務者高岡福重所有に係る本件建物に対して強制管理開始決定がなされ、その決定正本がその頃第三者である控訴人に対し送達されたこと、右決定において、被控訴人(弁護士)がその強制管理人に任命され、債務者高岡福重は、本件建物の賃料を処分することを、また控訴人(第三者)は、強制管理人である被控訴人以外の者に本件建物の賃料を給付することを、それぞれ禁止されたこと(以上甲第一号証参照)、本件建物のうち一階部分については、当時控訴人が右高岡福重から賃料月額金二万一、〇〇〇円、毎月末払いの約でこれを賃借していたが、右賃貸借は昭和三八年二月七日まで継続したこと、ならびに控訴人が被控訴人に対し、昭和三六年三月分より昭和三七年三月分までの右賃料を支払つたことは、いずれも当事者間に争いがない。
そして成立に争いのない甲第三号証によると、本件建物は、その後抵当権の実行により競売に付され、訴外渡部修夫が競落に因りその所有権を取得し、昭和三八年二月一二日右訴外人のため所有権移転登記がなされると共に、同日本件強制管理申立登記が抹消されていることが明らかであり、本件強制管理は既に終了しているものといわなければならない(なお強制管理取消決定がなされた形跡は存しない。)ところで強制管理人である被控訴人は、強制管理中である昭和三七年四月一日から昭和三八年二月七日までの未払賃料につき、強制管理終了後の昭和三八年九月六日控訴人に対する支払命令の申立をなし、控訴人の異議申立により、本件訴訟に移行したものであることもまた記録上明らかである。しかし強制管理が終了しても、強制管理中の事務が残存している場合には、強制管理人の職務は、なお存続し、強制管理人は、強制管理期間中に生じた収益(本件の場合家賃)であつて、未だその取立を終つていない分については、強制管理終了後においても、その取立をなし、必要な場合には原告として第三者に対しその請求訴訟を提起することもできる権能を依然有するものと解するのが相当であるから、本訴が不適法であるということはではない。
そこで、被控訴人が本訴において請求する前記未払賃料については、既にその債務が消滅しているとの控訴人の抗弁について按ずるのに、右賃料は、前記のように本件強制管理期間中のものであること明らかであるから、強制管理終了後においても、右賃料が未払である以上、これに対する強制管理の効力はなお存続し、訴外高岡福重は、右賃料債権を処分することがでないとともに、控訴人は依然として右賃料を強制管理人である被控訴人に対し支払うべき義務を負つているものといわなければならない。したがつて仮りに控訴人主張のように、昭和三八年八月二八日控訴人が訴外高岡福重との間で右賃料の支払いについて示談をなし、同訴外人に対し、未払賃料の一部については、反対債権と相殺し、その残額を現金で支払つたとしても、強制管理人を度外視してのそのような相殺および弁済は無効であつて、控訴人は被控訴人に対し右賃料支払の義務を免れることができないものというべきであるから、控訴人の右抗弁は、その主張のような事実があつたかどうかの判断をなすまでもなく失当であつて、採用できない。≪以下、省略≫(浮田茂男 加藤龍雄 山本茂)