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高松高等裁判所 昭和46年(ラ)46号 決定 1971年10月22日

抗告人

姫田克

代理人

武市官二

主文

原決定を取消す。

本件競落はこれを許さない。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

不動産任意競売の競売期日の公告に「不動産の表示」が要求されるのは、競売不動産を特定し、その同一性を知らせるためのみならず、競買希望者に不動産の種類、坪数等その実情を知らせて他の公告記載と相まちその実質的価値を知らせるためであり、これによりできるだけ多数の競買希望者の参加を得て可及的に適正、有利な価額による不動産の売却を実現し、債権者の満足をはかるとともに、一方債務者の利益をも保護しようとする目的に出たものと解すべきである。従つて右公告には、それがなされるまでの段階で、登記簿上の表示と不動産の実況とが著しく相違し、その同一性又は評価に影響があると認めるべき変動のあることが明らかとなつた限り、登記簿上の表示のみならずあわせて不動産の実況をも記載すべきが当然であり、さような措置がなされないまま、もし右公告の表示が著しく不動産の実況と相違していて、右公告の目的を達することがとうていできないものである場合は、その公告の表示は競売法に準用される民訴法六五八条の要求する「表示」を欠く違法なものというべきである。もつとも裁判所としては、法規の要求するところが、実際上も殆んど不可能な公告自体によつて競売不動産の実質的価値を知らせるに足るすべての事項の記載を要求する趣旨とはとうてい考えられない点に鑑み、公告前にあらゆる競売不動産につき特にその実況を調査、確定の上公告に記載すべき義務まで負うものと解すべきではなく、ただ、競売不動産の価格鑑定の結果等公告前になされる手続において著しい相違が判明した場合にのみ、その表示を行なうべき義務があるにとどまるものというべきである。なお、抗告人は、本件不動産について後記のとおりその地目が実況と相違しているので、競売申立人において地目変更の登記を行なつた上で競売申立をなすべきである旨主張するのであるが、競売申立人が自ら進んでそれを行なうのであればともかく、然らざる場合にまで競売申立人に対しさような義務を認めるべき根拠はない。

記録を調査すると、本件不動産につき提出された鑑定人の評価書の記載によれば、その実況は住宅団地内の空地で、しかも整地までなされた完全な宅地であるが、本件競売期日の公告の表示には、この実況につき何らの記載がなく、単に登記簿謄本の記載のとおり「徳島市八万町千鳥五五番地七雑種地六六平方メートル」と表示されているにとどまるものであることが認められる。そして右表示の地番、地積が現状に合致しないことを認めるに足る資料はないので、右表示でも本件不動産の同一性の認識に支障があるとは認められないが、しかし、その地目が単に雑種地として表示されたことは、著しく現況と相違するものであり、しかもこれが本件不動産に対する競買希望者の人数並びに評価の価額につき及ぼす影響は決して僅少なものとは考えられない。従つてこの点において右公告の表示は前記公告の目的にそうものとはとうてい認められない。

そこで本件競売期日の公告は競売法により準用される民訴法六五八条一号の表示を欠く違法があるというべきであるから、原決定は取消を免れない。

よつて原決定を取消し、本件競落はこれを許さないこととし、主文のとおり決定する。

(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消し更に相当の裁判を求める。

抗告の理由

一 抗告人は競売法第二七条第三項二の債務者であり本件競売事件についての利害関係人であります。

二 本件不動産は地目は雑種地の登記であるが現況は宅地であり而も分譲住宅地の区域内にあり雑種地と相違して相当なる価格を有するものであるが故に本件競売申立を為すについては必ず登記簿の地目を宅地に地目変更登記をして競売申立を提出せねばならない債権者は民法四二三条債権者代位権により地目の変更登記を為し以て競売申立をして物件表示と登記簿上記載の物件が一致すべきものであり現況宅地を雑種地と表示して競売せられたるものなれば競売法に準用せられる民事訴訟法第六七二条第一号前段により競売を許す可からざることに該当するもので之れが為め競落の許可の決定に因りて利害関係人である抗告人は著しく損失を被むるものであります。

即ち本件土地は別紙証明書の如く該地は補装道路は勿論上下水道の設置は完成し少くとも一坪九万円相当の価格を有すべく右の如く民事訴訟法第六七二条第一号に違反するものであり為めに利害関係人は著しく損失を蒙るものでありますが故に茲に抗告の趣旨記載の裁判ありたく即時抗告をいたします。

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