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高松高等裁判所 昭和48年(ラ)35号 決定 1973年9月20日

抗告人

近藤盛雄

右抗告人から、松山地方裁判所昭和四七年(ケ)第七〇号不動産競売事件につき同裁判所が

昭和四八年二月二七日なした競売許可決定に対し、即時抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙に記載のとおりである。

よつて判断する。

一抗告人は、原決定添付別紙目録記載の本件土地(四筆)の鑑定評価額およびこれに基づいて定められた最低競売価額は低廉に過ぎると主張するが、記録によれば、本件土地は松山市の中心地より西方約四キロメートルの愛媛県々道松前・三津浜港線に面してあり、松山市都市計画の工業地域にあること、本件土地の評価に当つては、高松市国税局の設定した昭和四七年一月における路線価評価額3.3平方メートル当り金三万六〇〇〇円を基準とし、これにその後の地価上昇率を二〇パーセントと見込み、さらに当地区における土地の市場価額が右路線価評価額の平均約二倍であることや、本件四筆の土地は接続した土地で、これを一体としてみれば、間口が狭いのに対し奥行が長く、かかる地形上の特質による減価率が五パーセント、建付地としての減価率が五パーセントとそれぞれ見込まれることなどの諸事情を綜合し、本件土地四筆はいずれも3.3平方メートル当り金七万七七〇〇円であると評価した上、本件土地のうち(1)松山市北吉田町一二〇七番の一の土地は金一六三二万五〇〇〇円、(2)同所一二〇七番の二および同番の三の各土地は、いずれも各金三八九万一〇〇〇円、(3)同所一二〇三番の一二の土地は金九一万八〇〇〇円と評価し、右評価額に従つて本件土地の最低競売価額が右と同額に定められたことが認められるところ、右事実からすれば、他に特段の反証のない本件においては、本件土地に対する評価額およびこれに従つて定められた最低競売価額は相当というべきであつて、抗告人主張の如く不当に低廉なものではないというべきである。よつて右評価額が不当に低廉である旨の右抗告人の主張は失当である。

二つぎに、抗告人は、本件競売において、本件土地とその地上の建物とを一括ないし同時に競売しなかつた点に違法があると主張するもののようである(抗告理由一の(イ)後段および同二参照)。しかし、裁判所は、元来、同一債権を担保するため数個の不動産の上に設定された共同抵当権の実行であつても、各不動産毎に最低競売価額を定めて個別競売をなすのが本則というべきである。ただ、建物とその敷地に共同抵当権が設定された場合などのように共同抵当権の数個の目的物が経済的に緊密な関係にあるものについては、これを一括評価して実施するいわゆる一括競売にするか、或は、数個の目的物を各別に評価してその各最低競売価額を定めた上、これを同時に、かつ、同一人に競落させる方法(いわゆる抱合せ一括競売)によるのが、個別的に競売するよりも利害関係人にとつて有利であり、かつ、民訴法六七五条の過剰競売の規定の準用がなく、民法三九二条一項の適用のない場合には、例外的に、執行裁判所は、個別競売によることを許さず、むしろ右一括競売ないし同時に同一人に競落させる方法によるべきであると解するのが相当である。これを本件についてみるに、記録によれば、本件競売申立にかかる抵当権は、本件土地四筆とその地上に存する家屋番号一二〇七番の一、木造スレート瓦葺二階建居宅一棟と家屋番号一二〇七番の三軽量鉄骨造スレート葺平屋建作業場兼倉庫一棟の建物につき設定されたものであるが、他方本件共同抵当権の右目的物の一部には先順位の抵当権が設定されている外、後順位の抵当権も設定されており、かつ、本件土地および右建物の評価額は、本件執行債権、先順位の抵当債権、公租公課、執行費用等の総額を上廻ることが認められるから、本件土地および右建物を一括評価した上これを一括して競売することは、民法三九二条一項の適用上許されないものというべきである。つぎに、本件土地四筆と右建物二棟を各別に評価してそれぞれの最低競売価額を定めた上、その全部を同時にかつ同一人に競落させる方法によるべきか否かについてみるに、記録によれば、本件執行債権および先順位の抵当債権並びに公租公課、執行費用等の合計額は約二〇〇〇万円であるところ、本件土地の評価額は合計金二五〇二万円余であつて、前記執行債権額等を優に上廻ること、したがつて本件土地の外に、さらにその地上に存する前記建物二棟(その評価額の合計額は金六四六万二〇〇〇円)を同時に競売するとすれば、その総額は金三一四八万円余となつて前記執行債権を著しく超過することになることが認められる。しかして抵当権の実行による任意競売についても、特段の事情がない限り原則として民訴法六七五条の準用があると解すべきところ、抗告人主張の事実のみからは、本件土地とその地上に存する前記建物とを同時に競売するにつき、民訴法六七五条の準用を排除しなければならない事由があるとは解し難く、他に右規定の準用を排除すべき事由のあることを認め得る証拠はないから、本件土地とその地上に存する前記建物とを同時に競売することは、民訴法六七五条の規定に照らし許されないものというべきである。してみれば、原裁判所が本件土地とその地上の建物とを同時に競売しなかつたことにつき何等の違法もないというべきである(なお、記録によれば、本件土地のうち松山市北吉田町一二〇七番の一の土地の評価額は金一六三二万五〇〇〇円であり、また同所一二〇七番の二の土地の評価額は金三八九万一〇〇〇円であつて、その合計額は金二〇二一万円余となること、したがつて右二筆の土地以外に、同所一二〇七番の三および同番の一二の土地を同時に競売することは、前記本件執行債権額等を超過することになることが認められるけれども、他方記録によれば、本件土地は一連の地続きになつているところ、本件土地のうち公道に面しているのは前記一二〇七番の一二の土地のみであつて、他の三筆の土地は全く公道に面しておらず、右三筆の土地は一二〇七番の一二の土地と共に利用するのでなければ、その利用価値は極めて乏しくなるし、また一二〇七番の一二の土地は公道に面した巾約三〇センチの細長い水路であつて、それのみではほとんど利用価値のないこと、そして右一二〇七番の二および同番の三の土地は同一建物の敷地となつており、現に右四筆の本件土地の利用状況は一筆の土地と全く同様に一体として利用されている関係にあること、したがつて右四筆の土地を各別に競売することは、その土地の利用関係に関し著しい不合理ないし不都合の生ずることが予想されるのであつて、右四筆の土地は社会的経済的にこれを同時に競売して同一人に競落させる強度の必要性のあることが認められるところ、かかる場合には、例外的に民訴法六七五条の準用はないものと解するのが相当であるから、同条の規定に拘らず、本件土地四筆を同時に競売してこれを同一人に競落させることは許されるものと解すべきである)。よつて本件土地とその地上の建物とを同時に競売すべきである旨の抗告人の主張は失当である。

三つぎに、抗告人は本件競売申立にかかる根抵当権の被担保債権(執行債権)は、その弁済期が到来しておらず、かつ、確定していないから、本件競落は許可さるべきではないと主張する。しかし、記録によれば、本件執行債権は、債権者愛媛信用金庫が抗告人に対し、昭和四五年一二月二三日抗告人と締結した信用金庫取引約定に基づいて貸与した貸金一〇〇〇万円およびこれに対する昭和四七年四月三日以降右完済に至るまでの約定利率年18.25パーセントの割合による遅延損害金であるところ、抗告人は債権者に対し、右貸金一〇〇〇万円の支払のために、昭和四六年一二月三一日、金額を一〇〇〇万円、支払期日を昭和四七年一月一五日とする外所要の手形要件を記載した約束手形一通を振出してこれを差入れたこと、しかるに抗告人は、右約束手形の支払期日が到来しても、右約束手形金の支払いも右貸金の返済もせず、その後昭和四七年四月二日までの約定利息を支払つたに過ぎないこと、そこで右債権者愛媛信用金庫は昭和四七年一〇月三日付その頃到達の内容証明郵便をもつて抗告人に対し、右貸金一〇〇〇万円およびこれに対する昭和四七年四月三日以降右完済に至るまでの年18.25パーセントの割合による遅延損害金を同年一〇月一三日までに支払うよう催告し、右支払をしないときは、本件根抵当権を実行する旨の通告をしたこと、なお、本件根抵当権は、抗告人が債権者愛媛信用金庫に対して負担する手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越等による継続的取引契約上の債務を担保するために設定されたものであつて、当初からその存続期間の定めはなかつたが、右債権者は何時でもその都合により右継続的取引を中止して根抵当権を実行し得べき約定であつたところ、債権者のなした前記通告は、抗告人の右不履行を理由に右継続的取引を中止して本件根抵当権を実行する旨の意思表示であることが認められる。ところで、貸金債権の支払のために約束手形が振出された場合には、特段の反証のない限り、右約束手形の支払期日が貸金の弁済期であると認むべきであるから、他に特段の反証のない本件においては、本件貸金一〇〇〇万円の弁済期は、前記約束手形の支払期日である昭和四七年一月一五日であつたというべきところ、その後右弁済について同年四月二日まで期限の猶予がなされたか否かは暫く措き、少なくとも同月三日以降にまで右期限の猶予がなされたことを認め得る証拠はなく、また債権者において、昭和四七年一〇月三同付内容証明郵便をもつて、抗告人との前記継続的取引を中止して本件根抵当権を実行する旨の意思表示をしたことは前記のとおりであるから、本件競売申立のなされた昭和四七年一〇月一八日当時には、本件執行債権である本件根抵当権の被担保債権はその弁済期が到来し、かつ、その内容は確定していたものというべきである(なお、昭和四六年法律九九号によつて改正された民法三九八条の二〇の規定は右改正前に設定された根抵当権についても適用があると解すべきところ、右同条によれば、競売の申立があつたときは、被担保債権元本は確定するから、この点からも、本件被担保債権は確定しているものというべきである)。よつて、この点に関する抗告人の主張は失当である。

なお、記録を精査しても、本件競落の許可をした原決定には何等の違法も認められない。

よつて、民訴法四一四条三八四条を準用して本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(加藤龍雄 後藤勇 小田原満知子)

〔抗告の趣旨〕

1 原決定を取消す、

2 本件競落はこれを許さないとの御裁判を抑ぎ度い、

〔抗告の理由〕

一 本件競落許可決定は

(イ) その競売の前提である目的不動産の価格鑑定(評価)が実体調査及県下、殊に松山市の四囲における地価の詳細な調査検討を遂げないで行われた嫌いがあり、所謂机上論の域を寸毫もでゝおらないその真価と著しい隔りを有つ低廉そのものであつてこれは所有者であり債務者に多大の損害を及ぼすものであつて再鑑定を求めて目的不動産のもつ真価に略近い価格を評価とし且これを踏まえた最低競売価格としてあらためて競売の再施を行われることがそのとるべき措置手段ではないかと抗告人は考える、

尚この点に加えるに原裁判所は数ケの不動産に対する競売を実施するに際つてはその全部を競売する場合は格別、土地と建物が共同担保である場合にその何れを売却するかは執行裁判所の専権に委ねられてはおれどもその売却方に細心の注意を払れないときはその処分が容易に能きないばかりか高価の不動産が徒らに低廉価に引下げられ債務者の蒙る損失は誠に大きいものがあること抗告人が多弁を用いるまでもない顕著の事実である、原裁判所にこの点につき一挙手一投足の煩をさける為の観察を忽せにした違法を帯びて居るのではなかろうか

(ロ) 更に債権者の競売申立の手段に就ての瑕疵の点も併せて本抗告の理由として掲げておく

そもそも本件は根抵当権にもとづく競売申立のそれなのにその競売申立に先ち根抵当権により担保せられる信用金庫のルールによる貸出し又は手形割引等の取引即ち被担保債権が現在又は将来の債権の担保を目的とするものなのでこれが被担保債権の弁済期を到来(基本契約の解約)せしめた上その残債権を確定せしめたのちその抵当権実行の手段をとるべきものであるしかるに債権者においてこれが手続を履践した事跡が本件競売記録を見るも全然これを看取することができなかつた。

してみると本件競売申立は実質的に被担保債権の履行期は来て居らないまゝで競売申立をしたことゝなり、抵当権の実行に依りその満足を計らうとするものゝ執るべき一連の手続中最も重要な点の欠けること即ち瑕疵ある抵当権実行手続の許されないものと解せられる(競売法の競売に準用を明規せる民事訴訟法第六七二条第一号御参照)

二 更に一歩すゝんで本件競落を見た物件は皆土地であつてその一部の地上には建物(土地とともに担保権が設定せられて居る)が存在しこれが競落の結果法定地上権の設定せられたものと看做されるかどうかは他日を期すことゝし一応その土地が一の負担付と見らる場合は仮りに評価は適正……真価に略々近いもの……なりとしても一応経済感覚をもつものはその競買申出等を躊躇することは公知の事実であり、これが競売は無瑕疵の手続とは認められない問題を醸す事実であること抗告人が贅ずるをまたないところというべきであろう。

この点競売場に集える競買希望者が抗告人に示唆を与えた点で抗告人にもその消息が会得できたところである。

三 尚抗告理由一の(イ)(ロ)の点に就ても仔細の理由を纒めた上のちに更に詳かな事実補充書によりその真相なり抗告人の所信を具申したいが限られた抗告期間が存するので不取敢以上の理由により本抗告の申立をなした次第である。

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