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高松高等裁判所 昭和49年(ラ)7号 決定 1974年6月06日

抗告人 広田健太郎

相手方 高井久夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨、理由は別紙のとおりであつて、その理由とするところは要するに、抗告人は、原裁判所が定めた催告期間内に、権利行使のための損害賠償の訴を提起し、右訴訟は、現在、控訴審に係属中であるが、抗告人はその請求を拡張する予定であるから、いまだ被担保債権額の確定しない段階で、一括して供託された本件保証金八〇〇万円の一部である七〇〇万円につきその担保取消決定をすることは許されない、というにある。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によると次の事実が認められる。

松山地方裁判所昭和四八年(ヨ)第六八号有体動産仮差押事件について、債権者石丸信隆は、八〇〇万円の保証を立てて、昭和四八年六月二二日右仮差押決定を得、同月三〇日抗告人所有の有体動産に対してその執行をしたが、同年八月七日これを解放した。右石丸信隆は、同年六月二二日、右保証として供託した担保の取戻請求権を相手方高井久夫に譲渡し、翌二三日到達の書面で供託官にその旨の通知をした。原裁判所は、相手方の申立に基づき、抗告人に対して右権利の行使を催告し、これに応じて抗告人は同年九月一日松山地方裁判所に石丸信隆を被告とし、前記仮差押の執行によつて蒙つた損害賠償として五〇万二四四〇円及びこれに対する昭和四八年七月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める訴を提起し、同四九年一月三〇日、一部認容の判決があつたが、抗告人はこれを不服として控訴し、右訴訟は現在高松高等裁判所に係属中である。相手方は同年三月八日八〇〇万円の保証のうち七〇〇万円について担保取消の申立をなし、原裁判所はこれを容れてその旨の決定をした。

以上の事実が認められる。

2  そこでこうした事実に基づいて、抗告理由について判断する。

本来、民訴法一一五条三項は、担保に関する権利関係の不確定状態を確定するための制度であるから、原則として催告期間の徒過によつてその担保取消に同意したものとみなされ、担保取消をし得る状態になるところ、ただ、権利行使の着手が催告期間経過後になされても、その担保取消決定前に権利行使の証明がある場合や、それが担保取消後になされても、即時抗告がなされ、これについての抗告審の決定があるまでは、なお、担保権者は権利行使をしたことを証明して、その担保取消決定を免れうるに過ぎないのである。しかして将来、請求拡張の予定であるからといつてもいまだ現実に請求の拡張がなされていない以上は、確定的に権利行使があつたとはいいえないところ、将来の請求拡張を予定して、その部分の担保取消を許さないとすれば、権利行使のない部分についてまでそれがあつたと同様な取扱いをすることになり、担保権者の保護に偏する反面、担保提供者に過大の犠牲を強いる結果となり、不当である。

これを本件についてみると、前認定の経緯によつて原決定がなされたものであるが、抗告人が現在に至るまで請求を拡張したことについては何らの立証もなく、また、一括して供託した担保の一部取消をすることは法律上何ら違法でないから、八〇〇万円の保証のうち七〇〇万円(抗告人の権利行使をしている損害については一〇〇万円の担保が残存することとなり、これは右訴訟の終結期間を考慮してもその担保として必要にして十分なるものである)について、その担保取消につき抗告人の同意があつたものとして、右担保取消決定をした原裁判所の措置には何らの違法はない。

3  その他記録を精査しても、原決定を違法とすべき理由は存しないから民訴法四一四条、三八四条によつて本件抗告を棄却し、抗告費用は同法八九条によつて抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(裁判官 秋山正雄 後藤勇 磯部有宏)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消すとの裁判を求めます。

抗告の理由

一 抗告被申立人高井久夫は、石丸信隆から仮差押保証金債権(松山地方裁判所昭和四八年(ヨ)第六八号有体動産仮差押事件)を譲受けたとして、本件担保取消決定を申立てたものです。

二 抗告申立人は石丸信隆に対し、違法、不当な有体動産仮差押執行のため蒙つた損害を求める訴訟を松山地方裁判所に提起し(昭和四八年(ワ)第二八八号損害賠償事件)、昭和四九年一月三〇日一部認容の判決がありましたが、不服でありますから控訴を申立てております。

三 抗告申立人は、損害額について、控訴審で請求を拡張する予定であり、これが審理が始まつてもいないのに担保取消決定をするのは違法であります。

四、石丸信隆は、金八〇〇万円を一括して供託しているのに、その一部のみの担保取消決定をするのは間違つています。

五、なお本件仮差押には、添付告訴状の写のような事情がありますから、これをご斟酌下さい。

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