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高松高等裁判所 昭和51年(ネ)286号・昭55年(ネ)125号 判決

控訴人・附帯被控訴人(以下控訴人という。) 丸和林業株式会社

右代表者代表取締役 北岡浩

右訴訟代理人弁護士 田岡嘉寿彦

同 新堂賢二

控訴人 神崎林業株式会社(旧商号不二木材株式会社)

右代表者代表取締役 遠藤福雄

控訴人 農林中央金庫

右代理人支配人 島田恒夫

右両名訴訟代理人弁護士 田岡嘉寿彦

同訴訟復代理人弁護士 新堂賢二

控訴人西村以外の控訴人ら補助参加人 亀田忠七

右訴訟代理人弁護士 原秀雄

亡久積為吉訴訟承継人 被控訴人・附帯控訴人(以下被控訴人という。) 久積ソデノ

右訴訟代理人弁護士 荒木重信

同 中川内良吉

右訴訟復代理人弁護士 松下宜且

亡久積為吉訴訟承継人 被控訴人 久積康人

亡久積為吉訴訟承継人 亡久積清恵訴訟承継人 被控訴人 久積米太郎

亡久積為吉訴訟承継人 被控訴人 久積照明

右三名訴訟代理人弁護士 三木大一郎

主文

一、本件控訴に基づき、原判決主文第一項を次の通り変更する。

被控訴人らに対し、

1. 控訴人西村一清は、別紙物件目録記載の土地について、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記を所有権の一部九分の四の移転登記に、

2. 控訴人元木静、同西尾愛子、同寺崎英子、同田所貴美江、同中内孝志及び同中内傳は、別紙物件目録記載の土地について、別紙登記目録(二)記載の所有権移転登記を西村一清の持分九分の四の移転登記に、

3. 控訴人丸和林業株式会社は、別紙物件目録記載の土地について、別紙登記目録(四)記載の所有権移転登記を中内春義の持分九分の四の移転登記、同登記目録(五)記載の所有権移転請求権の権利者全員持分全部移転登記を後記二の持分移転請求権の権利者全員持分全部移転登記に、

4. 控訴人神崎林業株式会社は、別紙物件目録記載の土地について、別紙登記目録(六)記載の所有権移転登記を丸和林業株式会社の持分九分の四の移転登記に、

5. 控訴人農林中央金庫は、別紙物件目録記載の土地について、別紙登記目録(七)記載の根抵当権設定登記を神崎林業株式会社の持分九分の四についての根抵当権設定登記に、

それぞれ更正登記手続をせよ。

二、附帯控訴に基づき、控訴人丸和林業株式会社は、被控訴人久積ソデノに対し、別紙物件目録記載の土地について、別紙登記目録(三)記載の所有権移転請求権仮登記を中内春義の持分九分の四の移転請求権仮登記(権利者寺崎博文ら三名の持分は平等)に更正登記手続をせよ。

三、被控訴人らのその余の請求(被控訴人久積ソデノの附帯控訴にかかるものを含む。)を棄却する。

四、訴訟費用のうち参加によって生じた費用は、第一・二審を通じこれを九分し、その四を被控訴人ら、その五を補助参加人の各負担とし、その余の費用は、第一・二審を通じこれを九分し、その四を被控訴人ら、その四を控訴人西村一清、同丸和林業株式会社、同神崎林業株式会社及び同農林中央金庫、その一を控訴人元木静、同西尾愛子、同寺崎英子、同田所貴美江、同中内孝志及び同中内傳の各負担とする。

事実

一、申立

控訴人らのそれぞれの代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らのそれぞれの代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人久積ソデノ代理人は、附帯控訴に基づく新請求として、「控訴人丸和林業株式会社は、被控訴人久積ソデノに対し、別紙物件目録記載の土地について別紙登記目録(三)記載の所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続をせよ。附帯控訴費用は控訴人丸和林業株式会社の負担とする。」との判決を求め、控訴人丸和林業株式会社代理人は、附帯控訴棄却の判決を求めた。

二、主張

当事者双方の主張は、次の通り付加するほか、原判決事実欄第二当事者の主張の項に記載の通りであるから、これを引用する(但し、原判決七枚目表三、四行目の「立木を予定転売先に持込んだ」を「立木を転売すべく予定転売先にその話を持込んだ」と、同一一枚目表一行目の「不二木材」を「神崎林業」とそれぞれ訂正する。)。

1. 被控訴人久積ソデノ代理人は、次の通り陳述した。

(一)  (附帯控訴による新請求の原因)別紙物件目録記載の土地(通称権田山。以下本件山林という。)は、昭和三九年一一月当時、承継前の第一審原告久積為吉(以下為吉という。)の所有であった。本件山林には、別紙登記目録(三)記載の通り訴外寺崎博文ほか二名を権利者とする所有権移転請求権仮登記がなされ、且つ、同目録(五)記載の通り控訴人丸和林業を権利者とする右請求権の権利者全員持分全部移転登記がなされている。為吉は、本訴係属中の昭和四五年一二月二五日死亡し、その権利義務の三分の一を妻である被控訴人久積ソデノが相続した。よって、被控訴人久積ソデノは、控訴人丸和林業に対し、本件山林の共有持分権に基づく妨害排除請求として、右(三)の登記の抹消登記手続を求める。

(二)  後記3の(二)の事実のうち、本訴の原告が為吉であったこと及び相続の関係は認め、その余の主張は争う。3の(三)ないし(六)、4の(二)の事実はいずれも否認する。

2. 被控訴人久積康人、同久積米太郎、同久積照明の代理人は、次の通り陳述した。

(一)  承継前の被控訴人(第一審原告)久積清恵は、本訴係属中の昭和五一年一一月二二日死亡し、その権利義務を父である被控訴人久積米太郎が相続した。

(二)  前記1の(二)と同旨。

3. 控訴人西村、同丸和林業、同神崎林業、同農林中央金庫の代理人は、次の通り陳述した。

(一)  前記1の(一)、2の(一)の各事実は認める。

(二)  本訴の原告は為吉であったが、同人の死亡により、妻である被控訴人久積ソデノ、養子である久積忠七(現姓亀田)及び久積チカ子(同)、廃除により相続権を失った実子久積米太郎を代襲した同人の子である被控訴人久積康人及び承継前の被控訴人久積清恵並びに被控訴人久積照明の六名が為吉の権利義務を共同相続して原告となったところ、右忠七及びチカ子は、昭和五〇年四月一五日付で本訴の取下書を原裁判所に提出し、原裁判所は、その取下げを認め、両名を除外して審理判決をした。しかし、本訴は、右相続の段階において、本件山林を共有するに至った右六名が原告となり共有権に基づき共有物にかかる所有権移転等の登記の抹消登記手続を求める形態となったものであって、その形態は固有必要的共同訴訟と解するのが相当であるから、共同原告の一部である右忠七及びチカ子が訴えの取下げをしても、その取下げは効力を生じないものといわなければならない。従って、原裁判所の審理判決は訴訟手続違背であるから、原判決を取り消し本件を原裁判所に差し戻すべきである。

(三)  為吉は、自己の所有であった本件山林につき別紙登記目録(一)記載の通り控訴人西村名義に所有権移転登記がなされていることが、前記忠七の告訴(被告訴人は控訴人西村)によって刑事事件となったことに伴い、警察官から事情を聴取され、遅くとも昭和四一年初め頃には、右登記の事実を警察官から聞いて知ったのに、これに対応した措置をとることなく放置し、昭和四三年夏心神喪失の常況になったが、その間、右登記や控訴人らが主張している本件山林交換契約につき何ら異議を述べなかったから、その登記及び契約が前記忠七の無権代理行為によるものであったとしても、これを追認したものというべきである。

(四)  控訴人西村は、既に主張した経緯(原判決六枚目表一〇行目から一〇枚目裏九行目まで)或は右(三)の追認により本件山林の所有権を為吉から譲り受けて取得した。承継前の第一審被告中内春義は、昭和三九年一一月二七日、控訴人西村から本件山林を買い受けた。別紙登記目録(三)記載の寺崎博文ほか二名は、昭和四三年一月五日右中内春義との間で、同人から本件山林を買い受ける予約をし、それに基づく所有権移転請求権を保全するため、同記載の仮登記を経由した。控訴人丸和林業は、同月一九日右寺崎博文ほか二名との間で、同人らから右所有権移転請求権を買い受ける契約を結び、右目録(五)記載の通り、その請求権移転登記を経由した。従って、被控訴人久積ソデノの附帯控訴による新請求は失当である。

(五)  本来、共同相続した財産に関する訴訟においては、その相続人全員が共同して訴訟当事者となるのが普通であるが、本訴においては、為吉の共同相続人のうち、前記忠七及びチカ子は、控訴人らの主張を支持して訴えを取り下げているので、その持分各九分の二について前記控訴人西村への登記及び交換契約を承諾又は追認したものというべきであるから、被控訴人らは、右持分合計九分の四については本件各登記の抹消登記手続を求めえないといわなければならない。また、前記控訴人西村への登記及び交換契約が忠七の無権代理行為によるものであるとしても、忠七は、九分の二の割合で本人たる為吉を相続しているので、右割合については本件山林の処分行為の無効を主張しえず、同人の妻であるチカ子も、かかる忠七の立場を肯認し、自己の相続分である九分の二につき右処分行為の無効を主張しないとの態度をとっているから、この点からしても、被控訴人らは、本件各登記の全部抹消を求めることはできないというべきである。従って、前記控訴人西村への登記及び交換契約につき為吉が関与しておらず本件各登記が不正のものであるとしても、被控訴人らは、忠七及びチカ子の持分合計九分の四を除いた一部抹消登記(更正登記)手続を求めうるにすぎないものというべきである。

(六)  なお、原判決は、前記控訴人西村への登記及び交換契約が為吉不知の間に忠七の無権代理行為によってなされたもので、これにつき表見代理は成立せず追認も認められないと認定判断しているが、これは虚偽の多い被控訴人久積ソデノの供述をほぼ全面的に信用し、反対の証拠を不当に採用しなかった結果であって、甚だしい事実誤認というべきである。

4. 控訴人元木、同西尾、同寺崎、同田所、同中内孝志、同中内傳の代理人、補助参加人代理人は、次の通り陳述した。

(一)  前記1の(一)、2の(一)の各事実は認める。

(二)  前記3の(六)と同旨。

三、証拠<省略>

理由

一、まず、控訴人西村、同丸和林業、同神崎林業、同農林中央金庫は、本件を原裁判所に差し戻すべきである旨主張するので、この点につき判断する。

本訴の原告は為吉であったが、同人の死亡によって、後記の通り、被控訴人久積米太郎を除く被控訴人ら、承継前の被控訴人久積清恵、久積忠七(現姓亀田)及び久積チカ子(同)の六名が為吉の権利義務を共同相続して原告となったことは、当事者間に争いがなく、本件記録によれば、右忠七及びチカ子は、昭和五〇年四月一五日の原審第一五回口頭弁論期日において、本訴の取下書を提出したうえその旨陳述し、控訴人(被告)らは、その取下げに同意したこと、被控訴人久積ソデノら残余の共同原告四名は、右相続により本訴は相続人六名が共同して有する一つの所有権(共有権)に基づき控訴人或はその被相続人ら名義の本件各登記の抹消登記手続を求める形態となり、それは固有必要的共同訴訟と解すべきであるから、共同原告の一部の者による右取下げは無効であると主張したが、同年一一月二六日の原審第一七回口頭弁論期日において、原裁判所が、右相続により生じた本訴の訴訟形態は類似必要的共同訴訟にすぎないから、忠七及びチカ子は有効に訴えの取下げをなしうるとの見解のもとに、両名に関する訴訟は取下げにより終了した旨宣言したので、やむなく、本件山林の共有持分権に基づく妨害排除請求として本訴を維持追行し、原判決がなされるに至ったことが認められる。

しかして、右の事実によれば、六名の相続人が為吉の権利義務を相続して原告となったことにより本訴が固有必要的共同訴訟の形態になったと仮定しても、訴えの取下げをした忠七及びチカ子を除く共同原告四名の本訴請求は、結局、共有者全員が共同して有する一個の所有権たる共有権によるのではなく、共有持分権に基づく妨害排除請求として控訴人或はその被相続人ら名義の本件各登記の抹消登記手続を求める趣旨のものに移行していることが明らかであり、かかる請求については、保存行為として、各共有者が、各自の共有持分権に基づき、単独に訴訟を提起できると解するのが相当であるから、共同原告であった忠七及びチカ子を除外して行った原裁判所の審理判決に違法の廉はないというべきである。

従って、右の主張は採用の限りでない。

二、次に、被控訴人らの本訴請求の当否について判断する。

1. 本件山林が、昭和三九年一一月当時、為吉の所有であったこと、本件山林には、為吉から控訴人西村に対する別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記がなされ、続いて、承継前の第一審被告中内春義に対する同目録(二)記載の所有権移転登記、訴外寺崎博文ほか二名に対する同目録(三)記載の所有権移転請求権仮登記(右中内春義からの登記)、控訴人丸和林業に対する同目録(四)記載の所有権移転登記(右同)及び同目録(五)記載の右所有権移転請求権移転登記、控訴人神崎林業に対する同目録(六)記載の所有権移転登記(控訴人丸和林業からの登記)、控訴人神崎林業を債務者(設定者)とし同農林中央金庫を権利者とする同目録(七)記載の根抵当権設定登記がそれぞれなされていること、為吉は、本訴係属中の昭和四五年一二月二五日死亡し、その権利義務を妻である被控訴人久積ソデノ、養子である久積忠七(現姓亀田)及び久積チカ子(同)、廃除により相続権を失った実子久積米太郎を代襲した同人の子である被控訴人久積康人及び承継前の被控訴人久積清恵並びに被控訴人久積照明の六名が共同相続したこと、右久積清恵は、本訴係属中の昭和五一年一一月二二日死亡し、その権利義務を父である被控訴人久積米太郎が相続したこと、右中内春義は、本訴係属中の昭和五一年一月一六日死亡し、その権利義務を妻である控訴人中内傳、子である控訴人元木、同西尾、同寺崎、同田所、同中内孝志の六名が共同相続したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

2. しかるところ、控訴人ら及び補助参加人は、控訴人西村は昭和三九年一一月八日頃為吉の代理人である前記忠七との間で本件山林と同控訴人所有の山林一九筆とを交換する旨の契約を締結して本件山林の所有権を取得し別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記を経由したものであり、仮に右契約が忠七の無権代理行為であったとしても、これについて民法一〇九条ないしは一一〇条の表見代理が成立し或は追認がなされているから、右登記は実体を具備しており、また、別紙登記目録(二)ないし(七)記載の登記もその記載の各登記原因に基づいてなされたもので実体に合致している、と主張するので、当裁判所は、更に審究してみたが、やはり右主張は採用し難いものと考える。その理由は、次の通り付加、訂正するほか、原判決理由二ないし四(原判決一八枚目裏一行目から三一枚目表七行目まで)の説示と同じであるから、これを引用する。

(一)  原判決二〇枚目裏一行目の「一一日」を「一四日」と訂正する。

(二)  同二三枚目裏九行目の「右本訴において」を削除する。

(三)  弁論の全趣旨により成立の認められる丙第九号証、当審証人亀田忠七、同倉本三芳の各証言によれば、前記忠七は、控訴人西村の要請により、為吉の名義で同控訴人と山林の交換契約を締結し、本件山林につき同控訴人のため別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記を経由したところ、その契約及び登記が、同控訴人において、本件山林を同地上立木と共に担保とし、為吉に支払うべき同立木の買受代金を調達するためのものであったのに、同控訴人が約旨に反し本件山林を中内春義に売り渡して別紙登記目録(二)記載の通り所有権移転登記に及んだので、これが詐欺罪を構成するとして、為吉の名義で同控訴人を高知警察署に告訴したこと、その告訴事件を担当した同警察署の捜査主任であった右倉本は、昭和四一年一月前後頃、為吉宅に赴き、同人から事情を聴取したこと、しかるに、為吉は、右の契約や登記に異論を唱えたり、これに対応する措置をとるなどの積極的な態度に出ることなく、昭和四三年夏頃心神喪失の常況になったこと、以上の通り認められる。控訴人西村、同丸和林業、同神崎林業、同農林中央金庫は、右認定の事実に立脚して、為吉は倉本の事情聴取を受け右(一)の登記がなされていることを知ったのにこれを放置していたから忠七の無権代理行為たる右契約及び登記を追認したものというべきである、と主張する。しかしながら、右倉本の証言によっても、同人の事情聴取の際、為吉との間でどのようなやりとりがなされたのか明らかでないうえ、倉本が右登記の事実を為吉に告げたことは一応窺えるものの、右証言によれば、当時、為吉は高齢であり且つ病臥中であったことが認められるので、右登記の存在を明確に認識したか否か疑わしいから、同人において、右契約及び登記を放置する結果になっていたとしても、同人が自己に対する関係において本来無効である忠七の無権代理行為につきあたかもそれが有効な代理行為である場合と同様の法律効果を発生せしめる旨の意思表示たる追認をしたとは到底いい難い。

(四)  控訴人ら及び補助参加人は、被控訴人久積ソデノの供述には虚偽が多いからこれを信用するのは不当であり、反対の証拠を採用すべきである旨主張する。なるほど、被控訴人久積ソデノの供述は、細部にわたって全面的に信用できるとは思えない節があり、他方、前記忠七は、原審及び当審を通じ、かねてより養父である為吉から本件山林にかかるものを含む不動産の登記済証等の交付を受けその財産の管理処分を委託されていたし、控訴人西村との間で本件山林につき交換契約を結び同控訴人に対し別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記をするについて予め為吉の承諾を得た、その承諾なしに同控訴人と通謀して右の契約及び登記をしたのであれば、それが発覚することになるから、前記のような告訴をする筈がないなどと証言し、また、控訴人西村は、右交換契約締結の前に、為吉から本件山林地上の立木を買い受ける契約を結び、その際、同人が「あとのことは忠七とやれ」と言ったから、その言に従って、忠七との間で交換契約をし同人に登記の手続をしてもらったなどと供述している。しかし、本件では、特に、為吉から控訴人西村に本件山林の所有権が移転したこと、即ち別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記が実体を具備している事実につき、控訴人らが立証責任を負担し、被控訴人久積ソデノの供述は、控訴人らの立証(本証)に対する反証の関係にある。そして、既に認定した諸般の事情(原判決二四枚目裏末行から同二八枚目裏末行まで)、当事者間に争いのない為吉と控訴人西村との間に締結された本件山林地上の立木の売買の契約書(甲第四号証、乙第一号証)には為吉の所持していた実印が押捺されているが、控訴人ら主張の本件山林交換の契約書(乙第二号証、丙第八号証)には右実印ではなく忠七が調製所持していた為吉名義の印章が押捺されているにすぎないこと、別紙登記目録(一)記載の控訴人西村への所有権移転登記の手続は、忠七が司法書士に依頼して行い、その際、登記申請書に添付すべき為吉の所有権に関する登記済証が滅失したとしてこれに代わるいわゆる保証書を利用しているが、このことは、忠七が為吉から本件山林その他の登記済証を交付されていたということと矛盾すること(忠七は、右登記手続当時、本件山林の登記済証を見失っていただけだと証言するが、にわかに首肯し難い。)、忠七が控訴人西村を告訴したのは、前記の通り、同控訴人が為吉に支払うべき立木の売買代金を調達するための担保とするというので同控訴人に対し本件山林の所有権移転登記をしたのに、同控訴人においてこれを中内春義に売り渡し忠七を欺罔した結果となったからであって、当時の忠七の立場からすれば当然の処置であったとも考えられ、それが忠七において為吉に無断で右登記等をしていたことと矛盾するとは必ずしもいえないこと等に鑑み、また、全面的には信用できないとはいえ反証としての被控訴人久積ソデノの供述にも照らせば、右のごとき忠七の証言や控訴人西村の供述を信用し乙第二号証や丙第八号証が真正に成立したと認めることには、多々躊躇の念を禁じ難い。従って、本件においては、被控訴人久積ソデノの供述が全面的に信用できるからというのではなく、控訴人らが立証責任を負う前記事実について十分な立証がなされているとはいえないから、これを認定することができないのである。

(五)  当審における証拠調べの結果のうち、以上の認定、判断に抵触する証人亀田忠七の証言及び控訴人西村の供述は、他の証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定、判断を左右するに足りるものはない。

(六)  それゆえ、本件山林の所有権が全面的に為吉から控訴人西村へ移転したとはいえないから、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記は完全には実体に合致しないものといわざるをえず、そうである以上、同登記目録(二)ないし(七)の各登記も同様となる筋合である。

3. そこで、控訴人西村、同丸和林業、同神崎林業、同農林中央金庫の、控訴人らは本件各登記の一部抹消登記(更正登記)手続を求めうるにすぎない旨の主張について考えるに、前記の通り、為吉から控訴人西村に対する別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記は、忠七が為吉を代理する権限を有せずに行った無権代理行為たる契約に基づきなされたものであるところ、その後為吉が死亡して同人の権利義務を被控訴人ら及び忠七並びにチカ子が共同相続し、その相続分は、身分関係からして、被控訴人久積ソデノが三分の一、その余の被控訴人三名が各二七分の二、忠七及びチカ子が各九分の二であり、忠七については、無権代理人である同人が本人である為吉を相続した結果、相続分の範囲において本人と代理人の資格が同一人に帰した関係を生じている。また、忠七及びチカ子が原裁判所に提出した前記取下書の記載と弁論の全趣旨によれば、両名は、別紙登記目録(一)記載の所有権移転登記が有効であることを認めて本件訴えを取り下げ、本件各登記の抹消は求めない態度に出、控訴人らも、その取下げに同意し、双方間には右登記をめぐる紛争はなくなっていることが明らかであるから、忠七及びチカ子としては、少なくとも、為吉を相続したことによる本人の立場において、控訴人らに対し、前記のような忠七の無権代理行為が有効な代理行為であると同様な法律効果を発生せしめる旨の意思表示、即ち追認をしたものとみるべきである。

ところで、無権代理人が本人を相続し本人と代理人との資格が同一人に帰するに至った場合には、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じ、無権代理行為は相続と共に当然有効となるものと解するのが相当であって、この理は、相続が共同相続による場合であっても、共同相続による相続財産の共有は民法二四九条以下に規定する共有とその性質を異にするものではなくその共有持分は各共有者が独自に譲渡できる関係にあることに鑑み、同様に解すべきであり、また、無権代理行為の本人たる地位を相続した共同相続人の一部の者がその行為を追認したにすぎない場合でも、右のごとき相続財産共有の性質からして、その追認は有効であると解すべきである(かように解しても、無権代理行為をし或は追認をした者以外の共同相続人の権利を実質的に奪うことにはならないし、本件のように、無権代理行為の相手方において、無権代理行為をし或は追認をした相続人の共有持分についてはその行為が有効である旨主張している以上、無権代理行為に関する相手方の権利を害することにもならない。)。

従って、前記認定の事実に徴し、本件の場合においては、忠七の無権代理行為は同人及びチカ子の相続分合計九分の四の範囲でその行為の時に遡って効力を生じ、要するに、本件山林の所有権の割合的一部九分の四は控訴人西村に移転し、その限度において別紙登記目録(一)記載の登記は実体関係に符合しており、更に、同目録(二)ないし(七)記載の各登記も、同記載の各登記原因たる法律行為の存在することが弁論の全趣旨によって認められるから、やはり右の限度で実体を具備していることに帰するといわなければならない。

そして、右のような場合、被控訴人らが、相続により取得した相続分に相当する本件山林の共有持分権に基づく妨害排除として、本件各登記を実体的権利に合致させるため、控訴人らに請求できるのは、本件各登記が、被控訴人らの持分に関しては実体を欠くものの、右九分の四の持分に関する限り実体を具備していることからして、本件各登記の全部抹消登記手続ではなく、実体を欠く部分についての一部抹消(更正)登記手続でなければならないと解せられるので、右主張は理由がある。

三、以上によれば、被控訴人らの別紙登記目録(一)(二)及び(四)ないし(七)記載の各登記の抹消登記手続請求は、控訴人西村に対し、(一)の所有権移転登記を所有権の一部九分の四の移転登記に、控訴人元木、同西尾、同寺崎、同田所、同中内孝志及び同中内傳に対し、(二)の所有権移転登記を西村一清の持分九分の四の移転登記に、控訴人丸和林業に対し、(四)の所有権移転登記を中内春義の持分九分の四の移転登記、(五)の所有権移転請求権の権利者全員持分全部移転登記を後記の持分移転請求権の権利者全員持分全部移転登記に、控訴人神崎林業に対し、(六)の所有権移転登記を丸和林業の持分九分の四の移転登記に、控訴人農林中央金庫に対し、(七)の根抵当権設定登記を神崎林業の持分九分の四についての根抵当権設定登記に、それぞれ更正登記手続を求める限度で正当として認容すべきであるから、これらの登記の全部抹消登記手続請求を認容した原判決を右の通り変更し、控訴人久積ソデノの控訴人丸和林業に対する附帯控訴による別紙登記目録(三)記載の所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続請求は、同仮登記を中内春義の持分九分の四の移転請求権仮登記(権利者寺崎博文ほか二名の持分は平等)に更正登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し、右の各限度をこえる請求はいずれも失当であるから棄却すべきである(なお、付言するに、被控訴人らとしては、別紙登記目録(一)記載の登記がなされる前の本件山林にかかる為吉名義の登記のうち右の更正登記の経由により残存することとなる九分の五の持分につき、前記の各自の相続分に応じ相続による移転登記手続をして、その権利の保存を図るべきである。)。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条、九四条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 宮本勝美 裁判官 上野利隆 山脇正道)

<以下省略>

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