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高松高等裁判所 昭和54年(う)277号 判決 1980年2月12日

本籍

徳島市北沖洲一丁目一番地の五二

住居

右に同じ

製材業

佐々木和太吉

大正四年一一月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、徳島地方裁判所が昭和五四年九月一〇日言渡した判決に対し、被告人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官赤池功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一〇月及び罰金七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴ってある弁護人森吉徳雄作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は量刑不当の主張であって、罰金刑の減額を求めるものである。

そこで、記録により検討するに、本件は個人で製材業を営んでいた被告人が売上収入の一部を除外するほか棚卸除外をするなどして自己の所得を秘匿し、二か年にわたり合計約三、七〇〇万円の所得税を免れた事案であるところ、本件の動機目的は不況対策にあって特段同情すべきものはなく、手段方法は二重帳簿の作成という単純大胆で脱税率も高率ではあるが、被告人に前科前歴なく、本件の動機、脱税による利益の使途等において悪質とまではいえないこと、経営も法人組織に変更され、経理も税理士の関与指導を得るに至り、再犯のおそれは少くかつ被告人も反省していること、発覚後速かに修正申告をなし本件脱税に伴う諸税(起訴年度前の分を含む)を完納して十分な不利益を受けていること、すでに老境に入りつつあることなど諸般の事情を考慮すると、被告人を懲役一〇月(二年間執行猶予)及び罰金一、〇〇〇万円に処した原判決の量刑は罰金額の点においていささか重きに失するものと認められる。論旨は理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所において直ちに判決する。

原判決が認定した事実にその掲げる法令をすべて適用し、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑田連平 裁判官 川上美明 裁判官 佐々木條吉)

○昭和五四年(う)二七七号

控訴趣意書

所得税法違反 被告人 佐々木和太吉

右被告人に対する頭書被告事件の控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和五四年一一月一九日

弁護人 森吉徳雄

高松高等裁判所 第三部 御中

第一 原判決は公訴事実と同一の事実を認定したうえ、被告人に対し、懲役一〇月及び罰金一、〇〇〇万円に処し、懲役刑については刑の執行を二年間猶予したものであるが、その量刑は著しく重きに過ぎ到底破棄は免れないものと思料するので本申立に及んだものである。

第二 本件公訴事実における金額は、近時の脱税事件としては少額の部類に属するものである。このことは、近時の新聞等の報導で顕著な事実と言うべきであろう。被告人は本件発覚後に速やかに本件脱税に伴う諸税を全額納税しているもので、実害は全くなくなっているものである。

第三 被告人六四才の今日まで本件を除いては何らの不都合な所為に及んだことはなく、真面目に仕事一途に進んで来たものであり、再犯のおそれなど全くないものである。即ち、本件後、会社組織にして経理を明朗化しており所得税を脱税する等という可能性は全くなくなっているものである。

第四 被告人は、経営していた製材業を法人化しており、右資本金に私財を投入しているので一、〇〇〇万円という大金は個人的に調達は難しく従って、これに右の如く大金の罰金刑を科するのは酷であると言わざるを得ない。

第五 本件脱税により利得した金員は前記第二で記述した諸税等の納入で全額使用してしまっており今まだ被告人の手元に残っているものはない。従って、現存する利得額は零であってこれに対してかかる大金の罰金を科するのは酷といわざるを得ないものである。

第六 以上の諸理由により本控訴の申立に及ぶものである。

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