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高松高等裁判所 昭和63年(ラ)2号 決定 1988年11月09日

主文

原決定を取り消す。

相手方の本件申立を却下する。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は主文と同旨で、抗告の理由は別紙(一)のとおりであり、相手方の反論は別紙(二)のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によると次の事実が認められる。

(一)  当事者間に本件土地(原決定別紙物件目録記載の土地)につき次の内容の賃貸借契約(以下「本件契約」という。)が存在する。

契約締結日 昭和二〇年秋ころ

契約の目的 非堅固な建物の所有

期間 定めなし。ただし昭和五〇年秋に更新され、残存期間は昭和七〇年秋まで

現行地代 昭和五九年一月以降月額四万九〇〇〇円

現存建物 木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺平家建 店舗兼居宅(本件建物)

(二)  本件土地の所在する地域は、昭和四五年五月七日市街化区域(用途地域は商業地域)になり、同年一二月二八日準防火地域に指定された。

(三)  本件土地付近の状況は、本件契約締結時は戦災による焼野原でバラックの建物がある程度であったが、徳島市の中心部にあたり、現在では病院、店舗等鉄筋コンクリート造の建物が密集している。

(四)  鑑定委員会は本件土地の立地、都市計画法上の規制、付近土地の利用状況等を検討したうえ、本件土地が現状において堅固な建物の建築を相当とする旨の意見を提出している。

(五)  相手方先代坂東由吉(以下「由吉」という。)は抗告人先代から借家をして居住していたが、昭和二〇年七月の戦災で右家屋が焼失し、抗告人先代も家族ともに被災死したので、右戦災跡地に当時管理人となっていた西岡某の許可を得て本件建物を建築して居住するようになり、昭和二一年に復員してきた抗告人がこれを追認して本件契約が締結された。

(六)  由吉は本件建物で森永乳業株式会社(以下「森永乳業」という。)の販売店として牛乳等の販売業を営んでいたが、長男相手方は東京に出ており、二男は既に死亡し、長女は京都に嫁ぎ、後妻も先に死亡したので、晩年は独り暮しをしていたところ、昭和五八年一一月死亡し、その後は相手方が森永乳業と契約を結び、被用者大浜忠を支配人にして本件建物で牛乳の販売業を続けている。このところ、本件建物のうち、店舗部分は昼間使用されているが、その余の部分は平均月一回徳島に来る相手方の宿泊場所となっているにすぎない。

(七)  相手方は現在六五歳で、昭和二七年東京へ出て不動産業を営業目的とする大洋産業株式会社を設立し、その社長として事業を行い、引き続き東京に居住し、その子女も東京近辺に居住しており、その家族を含めてさしあたり本件建物に住居を移すつもりはないが、本件土地使用による収益を高めるため、本件建物を取り壊して本件土地上に鉄筋コンクリート造五階建店舗兼居宅の建築を予定し、これを貸店舗、マンションにし、その一部を将来徳島に帰った時の住居としたい意向である。

(八)  本件建物は現在老朽化しており、このまま推移すると遠からず朽廃に至る状況にある。

(九)  抗告人は大正七年五月二〇日生で昭和四九年三月勤務先の徳島県庁を退職し、二年間非常勤として同県庁に勤めた後、モータープールの管理を仕事にしているが、現に居住している土地建物(敷地は二八九・二三平方メートルの宅地で建物は鉄筋コンクリート造陸屋根二階建車庫兼居宅)を所有し、その一階部分をモータープールに使用しているほか、二〇〇・六九平方メートルの宅地と一一六・〇二平方メートルの宅地を所有し、その大部分をモータープールに使用している状況にあるものの、養子夫婦と孫三人がおり、これらの者への財産分けも考慮すると本件土地を自ら使用する必要があると強調している。そして、本件土地の返還を強く望んでいる。

2  右認定の事実によると、本件土地については地域環境の変化によって堅固な建物所有を目的とする土地使用を必要とする状況が生じているものと認められるが、準防火地域に指定されたのは前回の期間更新の前からのことであり、相手方の本件借地条件変更申立の主たる動機は、本件土地の地域環境の変化によって本件建物での生活を前提とした土地利用状態を維持することが困難になったからというのではなく、相手方先代の死亡で借主側に事情の変化が生じ、相手方が本件土地上に新たに営業用建物を建築して借地使用による収益を増加させることを考えるようになったことによるものであることが認められ、将来の新たな生活を指向するという意味において、借地条件を堅固な建物所有を目的とするものに変更すべき緊急の必要性に乏しいとも言える。

一方、抗告人は本件土地の返還を希望しており、本件建物の朽廃の時期は不確定であるが、借地期間の満了時には更新を拒絶して争うことが必至の状況にあり、この場合、借地期間は昭和七〇年秋までとなっていて、残存期間が七年足らずあるので、確定的な予測は困難であるが、本件契約が締結された事情、当初の借主由吉の死亡、建物老朽化の状態、抗告人の土地使用を求める事情、相手方の土地使用目的等を総合的に勘案すると、立退料の提供をもって補完すべきであるか否かはともかくとして、期間満了時抗告人について契約更新拒絶の正当事由が認められる余地がないわけでもなく、右のような一切の事情を考慮すると、現時点において将来の更新拒絶をほとんど不可能とするにも等しい本件借地条件の変更を認めるのは相当でない。

そうすると、本件借地条件変更の申立は理由がなく却下を免れない。

3  よって、右と異なる原決定は不当で、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消して本件申立を却下し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高田政彦 裁判官 松原直幹 裁判官 孕石孟則)

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