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高知地方裁判所 平成10年(わ)108号 1998年6月23日

本店所在地

高知市朝倉丁一八九〇番地一三三

有限会社朝倉商会

右代表者代表取締役

土居秀雄

本籍

高知市石立町九〇番地二

住居

同市朝倉丙二一一七番地二七

会社役員

土居美惠

昭和一二年七月一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官明石成司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社朝倉商会を罰金一九〇〇万円に、被告人土居美惠を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人土居美惠に対し、この裁判が確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社朝倉商会(以下、「被告会社」という)は、高知市朝倉丁一八九〇番地一三三に本店を置き、包装資材の加工販売等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人土居美惠(以下、「被告人」という)は、被告会社の取締役として、被告会社の業務全般を統括していた者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が九五八四万六〇一六円(別紙一-1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、売上の一部を除外し、仕入れを過大計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、同年一一月二九日、同市本町五丁目六番一五号所在の所轄高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一九四七万〇〇八九円で、これに対する法人税額が五九〇万七四〇〇円(ただし、確定申告書は、誤って、所得金額を一七四一万〇〇四六円と、法人税額を五一三万四九〇〇円とそれぞれ記載)である旨の内容虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第三七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三四五四万八四〇〇円と右申告税額との差額二八六四万一〇〇〇円(別紙二-1のほ脱税額計算書参照)を免れ、

第二  平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が九〇〇二万四七一一円(別紙一-2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、同年一一月三〇日、前記所轄高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一三五四万六二三〇円で、これに対する法人税額が三九八万九九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書(前記押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三二六六万九二〇〇円との差額二八六七万九三〇〇円(別紙二-2のほ脱税額計算書参照)を免れ、

第三  平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六〇五六万四七五七円(別紙一-3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、同年一一月二九日、前記所轄高知税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八四六万八九一八円で、これに対する法人税額が二二二万〇九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前記押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二一七五万六九〇〇円との差額一九五三万六〇〇〇円(別紙二-3のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成一〇年三月二九日付け及び同月三〇日付け(三通)各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する平成八年一〇月一五日付け、同月一八日付け、同月二五日付け、同年一一月一日付け、同月二二日付け、同年一二月一二日付け、平成九年三月一三日付け、同年四月二五日付け、同年五月二一日付け、同年六月一八日付け、同月一九日付け及び同月二〇日付け各質問てん末書

一  被告会社代表者土居秀雄の検察官調書

一  矢野満貴の検察官に対する供述調書

一  塩田永子及び水田幸子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  岩原俊彰及び畠中耕一(平成八年一〇月一八日付け)作成の各申述書

一  登記官島内章認証の登記簿謄本

一  大蔵事務官各作成の売上高調査書、仕入高調査書、期末棚卸高調査書、期首棚卸高調査書、交際費調査書、租税公課調査書、支払手数料調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、損金算入利子割額調査書、交際費の損金不算入額調査書、事業税調査書、その他所得調査書

判示第一及び第二の各事実について

一  畠中耕一作成の平成八年一〇月三〇日付け申述書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までのもの)

一  確定申告書(平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度分)一綴り(平成一〇年押第三七号の1)及び修正申告書(平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度分)一綴り(同押号の2)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までのもの)

一  確定申告書(平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの事業年度分)一綴り(前記押号の3)

判示第三の事実について

一  森岡公司の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までのもの)

一  確定申告書(平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの事業年度分)一綴り(前記押号の4)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してしたものであるから、被告会社に対して、いずれも法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑を科するべきところ、判示第一及び第二の各罪について、情状により、同条二項を適用して、罰金額をそれぞれ免れた法人税の額以下とし、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により判示各罪の罰金の多額を合計した金額の範囲内で、被告会社を罰金一九〇〇万円に処することとする。

次に、被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役一年に処し、情状により、同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、包装資材の加工販売等を目的とする被告会社の取締役として業務全般を統括していた被告人が、被告会社において、平成四年一〇月から平成七年九月までの三事業年度に合計二億四六四三万円余の所得がありながら、売上の一部を除外し、仕入れを過大計上するなどして、右所得のうち二億〇四九五万円余を秘匿した内容虚偽の確定申告書を提出する不正の行為により、合計七六八五万六三〇〇円の法人税をほ脱した事案であり、そのほ脱額は多額で、ほ脱率も三事業年度平均で約八六・四パーセントの高率である。そして、その脱税の手段、方法は、発覚しにくい店頭の一見客や小規模農家に対する現金売上分を売上から除外し、あるいは、架空名義での取引による売上分を除外するなど、悪質であり、また、被告人がかかる脱税に及んだ動機は、多額の支払手形の決済資金に窮する事態に立ち至った場合に備えての資金を捻出するためなどとするものの、そのような資金留保は、本来、正当な納税義務を果たした上で行うべきであり、そもそもの脱税の動機も極めて安易というべきで、しかも、結果的には、被告人は、脱税した簿外資産を個人財産と混同させていたことも認められ、犯情もよくなく、以上に加えて、本件のような多額の脱税事犯は、申告納税制度の根幹をゆるがし、国家の課税権を著しく侵害するものであるとともに、納税者の税負担の不公平感をも増大させかねない反社会的な犯行であることにも照らすと、被告会社及び被告人の刑事責任は重いというべきである。

しかし、他方で、被告会社は、現在までに、判示の三事業年度を含む平成二年一〇月から平成八年九月までの六事業年度について、修正申告を済ませ、法人税本税のほか重加算税及び延滞税を納付しているほか、法人特別税、法人臨時特別税、消費税や事業税等の地方税の納付も行っていること、さらに、被告人において、ほ脱した所得を個人用途に費消した事実までは認められず、現在、本件各犯行を真剣に反省していること、被告会社においても、本件発覚後、担当税理士を替えるなどして、経理体制の改善を図り、今後の再過なきことを期していること、また、被告人には、これまで前科、前歴はないことなど、被告会社及び被告人のために量刑上考慮すべき事情も存する。

そこで、以上のほか、諸般の事情を併せ考慮し、被告会社及び被告人を主文掲記の各刑に処し、被告人に対しては、その刑の執行を猶予するのを相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

別紙一-1

修正損益計算書

自 平成4年10月1日

至 平成5年9月30日

<省略>

別紙一-2

修正損益計算書

自 平成5年10月1日

至 平成6年9月30日

<省略>

別紙一-3

修正損益計算書

自 平成6年10月1日

至 平成7年9月30日

<省略>

別紙二-1

ほ脱税額計算書

自 平成4年10月1日

至 平成5年9月30日

<省略>

別紙二-2

ほ脱税額計算書

自 平成5年10月1日

至 平成6年9月30日

<省略>

別紙二-3

ほ脱税額計算書

自 平成6年10月1日

至 平成7年9月30日

<省略>

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