高知地方裁判所 平成10年(行ウ)4号 判決 2001年5月11日
原告
甲
同訴訟代理人弁護士
山原和生
被告
高知税務署長
田中廣海
同指定代理人
鈴木博
同
佐藤典明
同
白石豪
同
海野眞次
同
福家郁夫
同
白石国夫
同
東田雅彦
同
西原祐輔
同
渡部誠二
同
田中稔
同
中野明子
同
山本光則
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
1 被告が、原告に対し、平成8年2月19日付けでなした、原告の平成4年分、平成5年分及び平成6年分の所得税の各更正処分のうち、順次納付すべき税額23万0800円、20万7900円、14万9800円を超える各部分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 被告が、原告に対し、平成8年2月19日付けでなした平成4年1月1日から平成4年12月31日まで、平成5年1月1日から平成5年12月31日まで及び平成6年1月1日から平成6年12月31日までの各課税期間の消費税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は、被告が、平成8年2月19日、喫茶店を経営する原告に対し、平成4年分ないし平成6年分の各課税期間の所得税について原告がした各白色申告に対して、それぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をし、さらに、平成4年1月1日から平成4年12月31日まで(以下「平成4年課税期間」という。)、平成5年1月1日から平成5年12月31日まで(以下「平成5年課税期間」という。)及び平成6年1月1日から平成6年12月31日(以下「平成6年課税期間」という。)の各課税期間の消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしたことが違法であるとして、原告がこれらの処分の取消しを求めたものである。
2 当事者間に争いのない事実等
(1) 原告は、平成元年11月ころから、高知市内で、喫茶店「A」を経営していた。
(2) 原告は、平成4年課税期間、平成5年課税期間及び平成6年課税期間について、被告に対し、消費税の確定申告書を提出しなかった。
(3) また、原告は、被告に対し、平成4年ないし平成6年分の所得税について、以下のとおり申告した。
ア 平成4年課税期間
確定申告日 平成5年3月12日
事業所得金額 312万8280円
納付すべき税額 23万0800円
イ 平成5年課税期間
確定申告日 平成6年3月11日
事業所得金額 298万4260円
納付すべき税額 20万7900円
ウ 平成6年課税期間
確定申告日 平成7年3月13日
事業所得金額 274万4880円
納付すべき税額 14万9800円
(4) 被告は、平成8年2月19日付けで本件各課税期間の消費税について、次のとおり決定及び無申告加算税の賦課決定処分をした。
ア 平成4年課税期間
課税標準額 5034万8000円
課税標準額に対する消費税額 151万0440円
仕入れ税額控除額 ―
限界控除税額 ―
納付すべき税額 151万0400円
無申告加算税 22万6500円
イ 平成5年課税期間
課税標準額 4370万4000円
課税標準額に対する消費税額 131万1120円
仕入れ税額控除額 ―
限界控除税額 41万2695円
納付すべき税額 89万8400円
無申告加算税 13万3500円
ウ 平成6年課税期間
課税標準額 4248万3000円
課税標準額に対する消費税額 127万4490円
仕入れ税額控除額 ―
限界控除税額 47万8967円
納付すべき税額 79万5500円
無申告加算税 11万8500円
(5) また、被告は、同日付けで、本件各年度の所得税について、次のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ア 平成4年課税期間
事業所得の総収入金額 5185万9391円
事業所得金額 975万4751円
納付すべき税額 178万0200円
過少申告加算税 20万6000円
イ 平成5年課税期間
事業所得の総収入金額 4501万5829円
事業所得金額 838万1947円
納付すべき税額 134万3100円
過少申告加算税 14万4500円
ウ 平成6年課税期間
事業所得の総収入金額 4375万8284円
事業所得金額 854万5992円
納付すべき税額 121万1700円
過少申告加算税 12万0500円
(6) なお、被告は、(4)及び(5)の各処分を、推計課税の方法で行った。
その具体的内容は、以下のとおりである。
すなわち、原告の取引先に対する反面調査により把握したコーヒー豆等の仕入れ金額を比準同業者の平均売上原価率で除して原告の総収入金額を算出し、右総収入金額に比準同業者の平均特前所得率(特前所得とは、収入金額から、仕入原価、一般経費及び特別経費を控除した残額をいう。)を乗じて、事業所得の金額を推計して所得税を計算し、さらに、消費税についても、各年分の事業所得の総収入金額をもって本件係争各課税期間の課税資産の譲渡等の税込み対価の額とし、それらを基に各課税標準額を算定する。
ア 同業者選定の具体的基準については以下のとおりである。
(ア) 原告の店舗が存する高知税務署並びにこれに隣接する伊野及び南国税務署の各管内において喫茶店を営む個人
(イ) 平成2年分から平成6年分を通じて青色申告書を提出している者
(ウ) 喫茶店以外の事業を兼業していない者
(エ) 年間を通じて事業を継続している者
(オ) (イ)の各年分を通じて不服申立又は訴訟が係属中でない者
(カ) (イ)の各年分のコーヒー豆等の仕入れ金額が、平成2年分は230万円から921万円まで、平成3年分は242万円から968万円まで、平成4年分は252万円から1006万円まで、平成5年分は214万円から857万円まで、平成6年分は200万円から800万円までの範囲内にある者
イ 本件係争各年分の所得金額等を推計するに当たり被告が採用した同業者のコーヒー豆等の仕入れ金額及び売上原価率等は、青色申告決算書等に基づき把握したものであり、また、原告のコーヒー豆等の仕入れ金額は仕入れ先である株式会社B高知支店及びC株式会社高知支店の売上台帳に基づき把握したものである。
(7) 以上の計算方法を前提とした場合、所得税等の計算は以下のとおりとなる。
ア 平均売上原価率及び平均特前所得率
(ア) 平均売上原価率(総収入金額に占めるコーヒー豆等の仕入れ金額の割合の平均値)
平成4年分 9.70パーセント
平成5年分 9.52パーセント
平成6年分 9.15パーセント
(イ) 平均特前所得率(総収入金額に占める特前所得の金額の平均値)
平成4年分 18.81パーセント
平成5年分 18.62パーセント
平成6年分 19.53パーセント
イ 原告のコーヒー豆等の仕入れ金額(以下「売上原価の金額」という。)及び総収入金額
(ア) 売上原価の金額
平成4年分 503万0361円
平成5年分 428万5507円
平成6年分 400万3883円
なお、本件係争各年分の売上原価の金額の算定に当たり、原告の事業内容及び事業規模等からみて、同各年分の年初及び年末の棚卸金額に著しい変動があるとは認められないことから、年初及び年末の棚卸金額を同額とした。
(イ) 総収入金額((ア)の本件係争各年分の売上原価の金額を同各年分の各平均売上原価率で除して求めた金額)
平成4年分 5185万9391円
平成5年分 4501万5829円
平成6年分 4375万8284円
ウ 事業所得の金額(イ(イ)の本件係争各年分の総収入金額に同各年分の各平均特前所得率を乗じて求めた金額)
平成4年分 975万4751円
平成5年分 838万1947円
平成6年分 854万5992円
エ 以上のとおりであり、原告の本件係争各年分の各事業所得の金額は、前記(5)記載のとおり本件更正処分の事業所得の金額と同額になる。
オ また、本件各更正処分が適法である場合、計算上、過少申告加算税の額は、前記(5)記載の額となる。
(8) また、被告は、原告の消費税について、以下のとおり判断し、計算した(なお、平成6年課税期間分については、後記の審査裁決により一部取り消された後のものの計算方法である)。
ア 原告の納税義務について
消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。以下「消費税法」という。)9条1項は、当該課税期間にかかる基準期間における課税売上高が3000万円以下である小規模事業者について、消費税法に特別の定めがある場合をのぞき、消費税の納税義務を免除する旨規定している。
原告の本件係争各課税期間にかかる基準期間(それぞれ平成2年1月1日から同年12月31日まで、平成3年1月1日から同年12月31日まで及び平成4年1月1日から同年12月31日まで。)における課税売上高の算定に当たっても、実額計算の方法により算定することができなかった。そこで、前記の方法により類似同業者を抽出し、課税売上高を推計したところ、いずれの基準期間の課税売上高も3000万円を超える。したがって、本件係争各課税期間につき消費税法9条の適用はなく、本件係争各課税期間に行った課税資産の譲渡等について原告は消費税の納税義務を負う。
イ 課税標準額(本件係争各年分の事業所得にかかる総収入金額(課税資産の譲渡等の税込み対価の額)に103分の100を乗じて算定した額であり、国税通則法118条1項に従い、1000円未満の端数は切り捨てたもの)
本件係争各課税期間の総収入金額を本件係争各課税期間の課税資産の譲渡等の税込み対価の額とし、これを基に課税標準額を算定した。
平成4年課税期間 5034万8000円
平成5年課税期間 4370万4000円
平成6年課税期間 4248万3000円
ウ 課税標準額に対する消費税額(課税標準額に消費税法29条所定の税率100分の3を乗じて求めた金額)
平成4年課税期間 151万0440円
平成5年課税期間 131万1120円
平成6年課税期間 127万4490円
エ 仕入れ税額控除の額
被告は、原告の平成4年課税期間及び平成5年課税期間の消費税について、消費税法30条7項にいう仕入れ税額控除の要件としての「帳簿等の保存」がないとして、仕入れ税額控除を認めなかった。
なお、原告は、被告に対し、平成6年度分の売上帳、売上伝票の一部及び必要経費にかかる領収書の一部を提出した。
これらの帳簿等で、消費税法30条1項の規定により仕入れ税額控除を認めうる課税仕入れにかかる支払対価の額は、次のとおりである
平成4年課税期間 0円
平成5年課税期間 0円
平成6年課税期間 183万5726円
同じく、仕入れ税額控除の金額(課税仕入れにかかる支払対価の額(税込み)に消費税法29条所定の税率100分の3を乗じて求めた金額)は次のとおりである。
平成4年課税期間 0円
平成5年課税期間 0円
平成6年課税期間 5万3467円
オ 限界控除税額(本来納付すべき税額×(5000万円-課税売上金)÷2000万円)
原告の課税売上高は
平成4年課税期間 5034万8923円
平成5年課税期間 4370万4688円
平成6年課税期間 4248万3770円
であり、平成5年課税期間及び平成6年課税期間の課税売上高が5000万円に満たないから、右各課税期間について消費税法40条1項が適用される。
計算式に従って算定した限界控除税額は次のとおりである。
平成5年課税期間 41万2695円
平成6年課税期間 45万8874円
カ 納付すべき税額(ウの課税標準額に対する消費税額からエの仕入れ税額控除額及びオの限界控除税額を控除して求めた金額であり、国税通則法119条1項に従い、100円未満の端数を切り捨てたもの。)
平成4年課税期間 151万0400円
平成5年課税期間 89万8400円
平成6年課税期間 76万2100円
キ 以上のとおり、原告の本件係争各課税期間の消費税の納付すべき税額は、平成4年課税期間及び平成5年課税期間については前記(4)のとおりであり、平成6年課税期間については後記(9)のとおりとなる。
ク なお、期限内に申告書の提出がなかったことについての無申告加算税の額は、それぞれ平成4年課税期間及び平成5年課税期間については前記(4)、平成6年課税期間については後記(9)記載のとおりとなる。
(9) 原告は、前記各処分について、平成8年4月5日に異議申立てをしたところ、被告は、同年7月1日、いずれも棄却する旨の決定をした。
そこで、原告は、同年7月24日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成9年12月11日付けで、平成6年課税期間の消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分の一部を取消し、以下のとおり決定したが、その他の処分については棄却の採決を行った。この裁決書謄本は、同年12月19日、原告に送達された。
平成6年課税期間
課税標準額 4248万3000円
課税標準額に対する消費税額 127万4490円
仕入れ税額控除額 5万3467円
限界控除税額 45万8874円
納付すべき税額 76万2100円
無申告加算税 11万4000円
3 争点
(1) 推計課税の必要性
ア 被告の主張
(ア) 被告の調査担当職員である乙調査官(以下「乙調査官」という。)は、本件係争各年分の所得税及び消費税の調査のため、平成7年9月21日ころから平成8年2月15日ころまで、原告の店舗へ臨場するなどし、原告に対し帳簿書類の提示及び確定申告額を正当とする具体的な説明を求めたが、原告からは、平成9年12月15日ころに、平成6年度分の売上帳、売上伝票の一部及び必要経費にかかる領収書の一部の提示を受けたのみで、それ以後、乙調査官の再三の要求にもかかわらず、他の調査書類等を提示しなかった。
また、平成8年2月15日には、原告に対し、消費税の仕入れ税額控除について説明するとともに調査額を開示し、修正申告を慫慂した。
これに対し、原告が、「できるわけないでしょう。」と言って修正申告を拒絶したため、開示額で更正処分等を行う旨言い渡した。
(イ) 所得税について
乙調査官らは、原告から提示を受けた平成6年度分の売上帳、売上伝票の一部及び必要経費にかかる領収書の一部の内容を検討したが、必要経費にかかる領収書の保存が一部分であったこと、売上帳の元である売上伝票の保存が一部分であったことから売上票の中身を確認することができなかった。
したがって、原告の本件係争各年分の所得金額の算定に当たっては明らかに推計課税をする必要性があった。
なお、原告は、乙調査官らが調査をなすに当たり、原告に対し、事前通知なく突然来店したり、原告の調査理由開示請求に対しその必要性や理由を全く示さず、また、原告が依頼している者の立会いがあることを理由に調査せずに帰ってしまったのであって、かかる調査に基づく処分は違法であると主張する。
しかし、調査担当職員が質問検査権を行使する際の事前通知、具体的調査理由の告知、第三者の立会い、反面調査など、実施細目については、実定法上特段の定めがなく、権限ある調査担当職員の合理的選択にゆだねられているものと解されているところ、本件において、被告の調査担当職員が原告に対し、帳簿書類等の提示要求、事業概況の聴取等質問検査権を適法に行使した調査を行っていることは明らかである。
以上により、所得税について、推計課税を行う必要性が認められる。
(ウ) 乙調査官が原告に対し消費税額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、実額計算の方法では消費税額を算定をすることができなかった。やむを得ず、被告は各年分の事業所得の総収入金額をもって本件係争各課税期間の課税資産の譲渡等の税込み対価の額とし、それらを基に各課税標準額を算定した。
以上により、消費税についても推計課税を行う必要性が認められる。
イ 原告の主張
推計の必要性として、一般には、①納税者が帳簿書類そのほかの資料を備え付けていない場合、②帳簿書類等が備え付けられているが、その記載内容が不正確で信頼性が乏しい場合、③納税者が課税庁の調査に非協力的な態度をとったため、課税庁が直接資料を入手できない場合が挙げられ、本件で被告は③を主張するようである。
しかしながら、原告は、平成7年10月12日の調査担当職員の調査の際、調査場所の机上に帳簿書類等を準備していた。
しかるに、調査担当職員は、原告に立会人がいるということのみで、帳簿書類等の調査に着手しなかったのであるが、調査できる状況で格別の根拠なく調査しなかったのであって、調査担当職員が任意に職責を尽くさなかったものである。
すなわち、被告が、原告の所得金額を実額で把握できなかったのは、被告側の調査担当職員の任意の調査未着手によるものであって、原告が非協力的であったからではない。
また、調査担当職員は、原告に対して事前通告をせずに臨場したり、臨場の際に、原告が調査理由の開示を要求しても、申告が適正になされているかの調査としか答えなかったりしたのであって、違法なものであるから、調査担当職員の調査に原告が協力しなかったとしても、正当事由がある。
したがって、本件は、納税者が課税庁の調査に非協力的な態度をとったため、課税庁が直接資料を入手できない場合とはいえず、推計課税の必要性はない。
(2) 推計課税の合理性
ア 被告の主張
この点について、被告の採用した推計課税の方法は、前記争いのない事実(6)記載のとおりの同業者率による推計であるところ、その方法や、同業者選定基準の内容は合理的なものと認められる。
イ 原告の主張
原告は前記のとおり、被告に対して帳簿書類等を提示していたのであるから、これを検討考慮して必要最小限を推計で補うべきであり、これを度外視し、同業者率を用いてなされた本件推計は合理性を欠く。
また、喫茶店といっても、店によって扱うコーヒー、食品、食材等に相当な違いがあるので、コーヒー豆等の仕入れ金額から売上金額を推計することはきわめて粗雑であり、合理性がない。
喫茶店の収益は、店の雰囲気や顧客に対するサービスのあり方によって左右されるものであるし、店構え、造作、設備、従業員の状況、提供する飲食物の種類・質等種々の要素によって変わるのであるから、売上金額に単純に平均所得率を乗じて所得金額を算出する方法は、推計の方法としては合理性を欠く。
(3) 消費税の仕入れ税額控除について
ア 被告の主張
消費税法30条7項にいう「帳簿等の保存」とは、単なる物理的な保存と解すべきではなく、税務職員による適法な提示要求に対して、帳簿等の保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態におくことを含むと解するのが相当である。
そして、本件の場合、原告は、本件各更正処分時に、帳簿等の適法な提示要求に対して正当な理由もなくこれに応じなかったのであるから、消費税法30条7項に規定する帳簿等の「保存」がなかったものとなる。
したがって、処分時において提示されなかった帳簿等については、訴訟の段階に至って提示しても、処分時において「保存」がなかった事実が覆るものではないから、処分の適法性に消長を来すものではない。
イ 原告の主張
(ア) 本件において、調査担当職員は納税者である原告に対し、帳簿等の保存がなければ仕入れ税額控除不適用となることを十分説明しておらず、そういう状態でなされた本件仕入れ税額否認は無効である。
(イ) 消費税法30条7項にいう保存を、税務職員による適法な提示要求に対して、帳簿等の保存の有無及びその記載内容を確認しうる状態におくことを含むと解したとしても、被告は、このような状況に該当しないという事実を立証しなければならないところ、被告は、このような状況について何ら立証していないし、また、原告は、帳簿、領収書等について、作成時から現在まで保存しているし、被告の調査担当職員に対して、これらの帳簿等を任意提示したにもかかわらず、調査担当職員はこれを調査しなかったのであるから、上記の状況にあったとは認められない。
(ウ) 仮に、帳簿類等を原告が提示拒否したことが認められるとしても、原告は、本件訴訟において、消費税法30条8項、9項所定の書面を証拠として提出し、別紙1、2のとおり、仕入れ税額控除を主張する。
したがって、仕入れ税額控除を認めるべきである。
第3争点についての当裁判所の判断
1 本件では、被告の税務調査の状況がその中心的な争点となっているので、以下、被告の税務調査の態様について検討するに、当事者間に争いのない事実、関係各証拠(甲37、38、乙3、乙の証言及び原告甲本人)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 乙調査官は、高知税務署個人課税第四部門に所属し、個人事業者の所得税と消費税について、調査や指導を行っていたが、平成7年9月ころ、上司である丁統括官から、原告の平成4年分から6年分までの所得税と消費税に関する調査の指示を受けた。
(2) そこで、その調査のため、原告に対して、事前に用件や訪問する日時について連絡せずに、平成7年9月21日午前11時ころ、原告が高知市内で経営する喫茶店「A」(以下「原告店舗」という。)に臨場し、原告に対し、身分証明書を提示し、平成4年ないし平成6年の所得税及び消費税の調査である旨告げて説明して、調査に協力するよう依頼した。
そして、乙調査官は、原告に対し、仕入れ先や従業員の状況について聴取するとともに、所得税の確定申告の基になった収支内訳書や帳簿、書類を見せるように依頼したが、原告が、その場にないと返事をしたため、次回の臨場までに原告が収支内訳書や帳簿書類を揃えて、乙調査官に提示することを約束した。
(3) 同年10月12日午後3時ころ、乙調査官は、事前に原告に臨場の了解をとった上、丙上席調査官とともに原告店舗に臨場し、原告から店舗の二階部分に案内されたが、同所には、原告の他に8~9名の者がおり、机上には帳簿と書類の束がおかれていた。
乙調査官は、原告に対し、8~9名の者の名前と原告との関係を聴取したが、原告は、それはできない、知り合いの者である旨答えるのみであった。
乙調査官は、机上の帳簿等を調査し、原告から取引先や取引内容などといったことを聴取しようとしたが、その場合、第三者がいる状況では、公務員に課せられている守秘義務を守ることができないおそれがあると考え、原告に対し、立会いの方が同室している状況では調査を進めることができないので立会いの方には退席してほしい旨述べたところ、原告及び立会人らは、書類を揃えているのだから立会人の同席の下で調査をしろ、立会人がいなければ調査には応じられないなどと主張して、立会人の同席を強硬に主張し、さらに、乙調査官らが説得しても、立会人らから、退席させるならば録音をとらせろ、端の方に寄るから調査は紙に書いて筆談で行えといった抗議をするなどした。
乙調査官らは、これらの方法は通常の手段ではないことからこれらの提案を断ったが、立会人らがいる状況で調査を続行することは守秘義務に違反するおそれがあるので、その日の調査をうち切ったが、その際、原告に対し、今後は税務署独自の方法により調査を進める旨説明するとともに、立会人のいない状況で帳簿や書類を見せるよう依頼した。
それ以後も、乙調査官は、原告に対し、立会人のいない状況で帳簿や書類を見せるよう依頼したが、快い返事はなかった。
(4) 乙調査官は、これらの経緯から、所得税等について実額課税ができないおそれがあると判断し、同月19日から原告の取引先等に対し取引照会等を行い、原告の本件係争各年分(所得税)、本件係争各課税期間(消費税)及び本件係争各課税期間の基準期間のコーヒー豆の卸売業者からの仕入れ金額(以下「コーヒー豆仕入れ金額」という。)を把握した。
(5) 乙調査官は、同年11月30日午後3時ころ、事前連絡せず原告店舗に臨場し、原告に対し、第三者の立会人がいないところで帳簿書類を提示してもらうように依頼した。また、その際、原告の店の売上げが3000万円を超える可能性があることから、帳簿又は請求書等の保存が確認できないときには仕入れ税額控除の適用ができないことを、仕入れ税額控除についてのパンフレット(乙9の2)等を手渡して説明した。
しかし、原告は、帳簿などを見せるより先に税務署が調査した数字を出してほしいと言い、さらに、帳簿等について、ここにはないから今日は見せることができない旨答えた。
乙調査官は、税務署の調査額はでていないと説明し、さらに加えて、立会人のいない状況で帳簿等を見せるように重ねて依頼し、店舗を退去したが、その際、原告から、臨場の際、事前連絡が不要である旨の申し出があった。
(6) 乙調査官は、同年12月7日午後2時半ころ、事前に連絡をせずに原告店舗に臨場し、原告に対し、消費税の仕入れ税額控除の説明と併せて、立会人のいないところで帳簿等を提出するよう求めた。
そうすると、原告から、書類等は民商に渡している、連絡すると立会いうと言うので、手元に残っている領収書だけでも見てもらえないかとの申し出があったので、次回臨場時に手元に残っている書類を提示してもらうことを約束してその場を退去した。
(7) 乙調査官は、同月15日午後1時半ころ、原告に連絡の上、原告店舗に臨場し、原告から平成6年分の①売上帳、②売上伝票の一部、③必要経費にかかる領収書(およそ段ボール一箱分)の提示を受けた。
そこで、乙調査官は、売上伝票の金額を書き写し、売上帳と照合するなどして調査し、原告に対し、次回臨場時には、他の帳簿等も併せて提示するよう依頼して退去した。
(8) 乙調査官は、平成8年1月18日午後2時ころ、店舗に臨場して、帳簿等の提示を求め、その時点の調査額を概ね開示した。そして、原告が、乙調査官に、同年1月22日か24日に、その他の帳簿等を提示することを約束した後、乙調査官は、その場から退去した。
その後、同月18日の5時ころ、原告から電話で、民商から、今更書類を見せても一緒と言われたので、帳簿等提示の約束を撤回する旨連絡を受けたが、乙調査官は、原告に対し、所得金額の計算はあくまで実額計算が基本である旨説明し、帳簿等の提示を求めた。
しかしながら、その後、乙調査官は、原告に対して電話で3回程帳簿等の提示を求めたものの、原告は多忙を理由にこれに応じなかった。
(9) 乙調査官は、平成8年2月15日午後2時半ころ、丁統括官と一緒に原告店舗に臨場し、原告に対し消費税の仕入れ税額控除について説明するとともに調査額を開示し修正申告を慫慂した。
しかし、原告はこれを拒絶したため、乙調査官らは、開示額で更正処分等を行う旨言い渡し、その場を退去した。
これらの手続きに基づき、被告は、本件更正処分等を行った。
2 以上の事実関係を下に、各争点を検討する。
(1) 争点1について。
前記認定事実によれば、原告の平成4年ないし平成6年度の所得税及び消費税につき、被告の担当調査官である乙調査官は、原告店舗に臨場あるいは原告に電話することによって、再三にわたり、第三者の立会いのない場所で、帳簿、書類の提示をするよう原告に対し求めたにもかかわらず、原告は、第三者の立会いに固執するなどしてこれに応じず、平成6年分の売上帳、売上伝票の一部、必要経費にかかる領収書の一部の提示を行ったのみであったこと、原告提示の売上帳、売上伝票の一部、必要経費にかかる領収書の一部についても、売上伝票や領収書等の保存が一部分であったことから、同年度の所得金額も、実額計算の方法では算定できなかったものといえる。
そうすると、所得税及び消費税について、納税者が課税庁の調査に非協力的な態度をとったため、課税庁が直接資料を入手できない場合に該当するというべきであるから、被告が、原告の平成4年ないし6年分の所得税及び消費税について、推計課税をする必要性があるというべきである。
なお、原告は、被告担当調査官の質問検査権(所得税法234条、消費税法62条)に違法があり、これに従わなかったとしても原告に不利益に扱うべきではないと主張するが、上記の認定事実によれば、被告担当調査官の質問検査権の行使に何ら違法な点は認められないから、原告のこの点に関する主張は、理由がない。
(2) 争点2について
原告の平成4年ないし6年分の所得税及び消費税について、被告が採用した推計課税の方法及びその具体的内容は、前記争いのない事実(6)記載のとおりであるところ、その方法や内容、同業者選定の基準については合理的なものと認められる。
なお、この点について、原告は、①被告に対して帳簿書類等を提示していたのであるから、これを検討考慮して必要最小限を推計で補うべきであり、これを度外視して同業者率を用いるべきではない、②喫茶店といっても、店によって扱うコーヒー、食品、食材等に相当な違いがあるので、コーヒー豆等の仕入金額から売上金額を推計することはきわめて粗雑である、③喫茶店の収益は、店の雰囲気や顧客に対するサービスのあり方によって左右されるものであるし、店構え、造作、設備、従業員の状況、提供する飲食物の種類・質等種々の要素によって変わるのであるから、売上金額に単純に平均所得率を乗じて所得金額を算出する方法は、推計の方法としては合理性を欠く等主張する。
しかしながら、①について、前記認定事実のように、原告が被告に対して提示した帳簿書類等は平成6年度分のさらに一部分のみであり、被告に対して帳簿書類等を提示していたとの主張はその前提を欠く。
また、②、③についても、前記争いのない事実(6)記載のとおりの基準で原告と個別的類似性のある同業者を抽出している以上、所得率、差益率等について同業者間に存ずる個別的条件の差異は、同業者の平均値を採用することによって一定限度に捨象されされうる上、実際に採用された同業者間の売上原価率及び特前所得率の間にも平均値を採用することが合理性を欠くと認められるような著しい差異は認められない。
したがって、この点に関する原告の主張は失当である。
(3) 争点3(仕入れ税額控除)について
消費税法30条は、仕入税額控除について規定し、同条1項において、事業者が、国内において課税仕入れを行った場合又は保税地域から課税貨物を引き取った場合には、課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入にかかる消費税及び当該課税期間中に保税地域から引き取った課税貨物につき課せられた又は課せられるべき消費税額の合計額を控除すると定め、同条7項本文は、第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入等の税額の控除にかかる帳簿又は請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入又は課税貨物にかかる課税仕入等の税額については適用しないと規定する。
そして、同条7項本文は、大量反復性を有する消費税の申告及び課税処分において、迅速かつ正確に、課税仕入の存否を確認し、課税仕入にかかる適正な消費税額を把握するためにもうけられたものであることに鑑みれば、同項にいう「保存」とは、法定帳簿又は法定請求書等が単に客観的に存在しているということだけではなく、税務調査段階において、適法な提示要請があれば直ちにこれを提示できる状態での保存を意味すると解するのが相当である。
しかしながら、前記認定事実のように、原告は、被告調査担当職員が調査のために原告店舗に臨場した際、机上に帳簿等を準備していたものの、調査担当職員の調査の際は第三者の立会いをやめていただきたいとの依頼を拒絶するなどし(守秘義務との関係から、被告調査担当職員の判断で、原告の所得税・消費税の調査の際に、第三者の立会いを拒絶することは、所得税法234条、消費税法62条で認められた質問検査権の行使として適法であることは前記のとおりである。)、被告調査担当職員の調査の続行を不可能ならしめたのであり、このような状況からは、税務調査段階において、適法な提示要請があれば直ちにこれを提示できる状態での保存がなかったといわなければならない。
(なお、原告は、被告に対し、平成6年度分の一部については、帳簿等を提出したにもかかわらず、被告が、この提出にかかる分についても仕入れ税額控除を認めていなかったが、その後、国税不服審判所長に対する審査請求の際に、平成6年課税期間の消費税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分の一部を取消し、当該帳簿等の記載部分に関し、仕入れ税額控除を認め新たに消費税額控除を認める決定をしたのであるから、現在においてはその瑕疵は治癒している。)
また、被告は、本件訴訟手続きにおいて、法定帳簿等を証拠として提出し、仕入れ税額控除を主張しているが、消費税法30条7項の趣旨からみて、税務調査段階での保存がなかったと認められる本件事実関係の下では、課税処分の取消訴訟の段階で新たに法定帳簿等を提出して、仕入れ税額控除を主張することはできないというべきである。
したがって、原告の主張は結局失当である。
(4) なお、上記の争点の他に、原告は、被告の調査方法の違法を論じるが、前記認定事実に照らせば、被告調査担当職員の調査に何ら違法な点は認められないから、原告のこれらの主張は失当である。
(5) 加えて、以上を前提とする限り、原告は、平成4年ないし平成6年分の所得税について過少申告をし、同期間の消費税について、被告に申告すべきであったのに無申告であったことが認められ、これらについて正当事由が認められないから、所得税の過少申告加算税及び消費税の無申告加算税の賦課決定処分は適法である。
3 よって、本件各請求はすべて理由がないから、これらをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき、行訴法7条、民訴法61条を適用して主文のとおり判決する
(裁判官 櫻井達朗 裁判官 中野宏一)
裁判長裁判官 水口雅資は、転補のため署名捺印できない 裁判官 櫻井達朗
別紙1
総集計
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別紙2
30条8・9項該当
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