高知地方裁判所 平成11年(行ウ)9号 判決 2001年10月19日
原告
甲
同代理人弁護士
植松守雄
同
物部康雄
被告
高知税務署長
徳永正
同指定代理人
河合文江
同
島田豊繁
同
平山昌範
同
白石国夫
同
東田雅彦
同
山本順昭
同
佐藤典明
同
海野眞次
同
倉本幸芳
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が、原告に対し、平成8年12月10付けでなした次の各処分を取り消す。
① 原告の平成4年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
② 原告の平成5年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに同年を課税期間とする消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
③ 原告の平成6年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに同年を課税期間とする消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
④ 原告の平成7年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに同年を課税期間とする消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は、個人で土木建設業を営んでいた。
(2) 被告は、平成8年12月10日付けで、原告の平成4年、5年、6年及び7年の各年分・各課税期間分の所得税及び消費税について、別紙1課税等経過表の「1 所得税」の各「更正処分等」欄記載の各所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに同表の「2 消費税」の各「更正処分等」欄記載の各消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分(以下、所得税及び消費税の更正処分を「本件各更正処分」、重加算税の賦課決定処分を「本件各重加算税処分」といい、これらを合わせて「本件各処分」という。)をした。
(3) 原告は、本件各処分を不服として被告に異議申立てをしたが、被告はこれをいずれも棄却する旨の決定をしたため、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、平成11年3月31日付けで審査請求は棄却され、同年4月3日ころ、裁決書謄本が原告に送達された。
(4) 本件各処分は、原告が、A株式会社(以下「A」という。)及び同社の営業を引き継いだ株式会社B(以下「B」といい、両者を合わせて「A等」という。)から受注を受けていた土木工事に関し、Aの営業部長(その後常務取締役)であった乙(以下「乙」という。)に支払っていた「乙組」宛の別紙2「外注費の過大計上額の明細」の各「支払金額」欄記載の帳簿上の外注費(以下「本件外注費」という。)が実質的にはA等に対する「売上戻し」すなわち「預かり金の返還」であるにもかかわらず、これを原告の所得と認定したものであって、本件各処分には原告の所得を過大に認定した違法がある。
(5) よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)ないし(3)はいずれも認める。
(2) 同(4)のうち、原告が帳簿上本件外注費を必要経費として計上していたことは認めるが、その余は争う。
3 被告の主張
(1) 本件課税等の経緯
別紙1課税等経過表のとおり。
(2) 本件各更正処分の適法性
① 被告が原告に対する平成4年ないし7年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税の調査を行ったところ、原告は、A等から受領した請負工事代金に関し、別紙2「外注費の過大計上額の明細」のとおり、工事の発注を行った事実のない本件外注費を必要経費として過大計上していた。
② そのため、被告は、原告に対し、本件外注費の過大計上額について説明を求めたが、原告は、本件外注費は、A等の営業担当者であった乙からの依頼に基づき、請負工事代金を過大請求したもので、過大請求によって受領した金員はすべて乙に渡したと主張しただけで、その事実を証する具体的な説明や書類の提示はしなかった。
また、被告において、乙及びA等に対し、原告の主張する事実の確認を行ったが、A等は、水増し請求を受けて過大な請負工事代金を支払ったことを否定しており、A等が原告からの水増し請求に基づいて過大な請負工事代金を支払ったという事実を確認することはできなかった。
③ そこで、被告は、本件外注費の過大計上額は、所得税法37条に規定する事業所得の必要経費及び消費税法30条に規定する課税仕入れに該当せず、原告には上記金員に相当する所得があったものと判断し、原告の本件各係争年分の所得税及び平成5年1月1日から平成7年12月31日までの各課税期間の消費税の額は別紙3の「所得税額・消費税額の算定表」のとおりとなることから、本件各更正処分を行った。
なお、乙は、その後、本件外注費に相当する金員を原告から受領したことを認めているが、仮に、原告が乙と共謀してA等に請負工事代金の水増し請求をし、原告がこれを本件外注費として乙に交付していた事実があったとしても、それは原告がA等から請負工事代金として受領した金員の一部を乙に預けていたにとどまるものであって、A等に対し、売上げの一部を戻したとか、預かり金を返還したことになるわけではないから、原告が本件外注費に相当する金員を原告の事業所得の総収入金額から除外できるものではない。
したがって、本件各更正処分は適法である。
(3) 本件各重加算税処分の適法性
原告が、本件外注費を所得税法上の必要経費及び消費税法上の課税仕入れに計上し、それに基づき、課税標準等を過少に記載した本件各係争年分の所得税及び消費税の確定申告書を提出したことは、国税通則法68条に規定される「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
したがって、本件各重加算税処分は適法である。
4 被告の主張に対する認否
(1) 被告の主張(1)のうち、原告の確定申告の内容及び本件各処分の内容は認めるが、その余は争う。
(2) 同(2)①は認める。同②は否認ないし争う。同③のうち、本件各処分の内容は認めるが、本件各処分が適法であるとの主張は争う。
(3) 同(3)のうち、原告が、本件外注費を所得税法上の必要経費及び消費税法上の課税仕入れに計上した上、これを除外した本件各係争年分の所得税及び消費税の確定申告書を提出したことは認めるが、その余は争う。
5 原告の反論
(1) 本件外注費に相当する金員は、いずれもA等からの預かり金であり、原告の本件各係争年分の事業所得の金額から除外されるべきものである。
(2) 本件外注費に相当する金員は、いずれもA等からの預かり金であって、そもそも課税売上げに該当しないものであり、仮に、消費税法上、課税売上げに含まれるとしても、原告は、その後、本件外注費に相当する金員を乙に交付しており、これはA等に対する売上げの値引き・割り戻しとなるから、同額に対する消費税額は、課税売上げにかかる消費税額から控除されるべきものである。
6 原告の反論に対する被告の認否
(1) 原告の反論(1)、(2)はいずれも争う。
(2) 仮に、原告が乙に交付した本件外注費の一部が原告の課税仕入れの対象となる支払いに費消されていたとしても、本件外注費を乙(乙組)へ支払った旨の記載は虚偽であるから、消費税法30条7項所定の正規の課税仕入れの記載とみることはできないし、原告が乙が費消したとする金員に係る帳簿又は請求書等を保存していたとは認められないから、上記規定は適用されない。
理由
第1請求原因(1)ないし(3)の各事実及び同(4)のうち、原告が帳簿上本件外注費を必要経費として計上していた事実は、いずれも当事者間に争いがない。
被告の主張(1)の事実のうちの原告の確定申告の内容及び本件各更正処分の内容、同(2)①の事実及び同③の事実のうち、本件各重加算税処分の内容、同(3)の事実のうち、原告が、本件外注費を所得税法上の必要経費及び消費税法上の課税仕入れに計上した上、これを除外した本件各係争年分の所得税及び消費税の確定申告書を提出した事実は、いずれも当事者間に争いがない。
第2本件各処分の適法性について
1 本件外注費の計上及び本件各処分に至る経過について
前記第1の当事者間に争いのない事実及び証拠(甲4の1ないし9、同5、6、同7の1ないし4の各1、2、同8、9の各1、2、同10の1、2の1ないし4、同11の1、2、同12の1、2の各1、2、同13の1、2の各1ないし3、同14、同15の1、2、同16、17の各1ないし4、同18、20、証人乙、同丙、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 乙は、昭和63年ころ、DからAに出向し、営業課長、工事部長などの役職に就き、工事の受注、下請けへの発注を担当し、平成7年中に、Aがその一部門をBとして切り離してからは、その常務取締役として営業に従事するとともに、実質的な社長として同社を統括していた。
(2) 原告は、Cの名称で建築、土木の仕事に従事しており、Dにいた乙と面識を持った昭和60年ころから法面工事を始めるに至ったが、C自体の従業員は妻の丙だけであり、受注した下請工事は全部外注形式でさらに下請けに出していた。
(3) 原告と乙は、平成元年ころから仕事上で付き合い始め、原告は、Aが受注した法面工事の下請工事を請け負うようになった。
原告は、平成3年ころから平成7年ころの間、乙からの要請に基づいて、A等から受注した下請工事に関し、工事代金の水増し請求をし、A等から支払われる工事代金から水増し請求分を控除して乙に預け、乙の営業活動の資金等を捻出することに同意し、原告の経理を担当していた丙を通じて、平成3年1月ころから同年8月ころまでは乙の個人名義の普通預金口座へ銀行振り込みの方法により、その後は乙に直接現金を交付する方法により、乙に本件外注費にほぼ相当する毎月100万円を超える金員を渡すとともに、乙(乙組)が原告との間の工事を請け負った事実はなく、本件外注費は実際には支払いがなかったにもかかわらず、原告の帳簿上、乙(乙組)に対し、その支払いがなされたものとして処理していた。
(4) 乙は、原告から受領した本件外注費に相当する金員の一部を法面工事受注のための交際費等の営業活動の資金として利用し、余った金員は、そのまま保管し、他方、原告は、乙に上記金員を預けることにより、原告自らは格別の営業活動をすることなく、乙によってA等が受注した法面工事の大部分の下請工事をA等から受注できるという事実上の利益を得ていた。
この間、原告及び原告において経理を担当していた原告の妻丙は、乙に支払っていた本件外注費に相当する金員について、乙あるいはA等からの領収書を受領できなかったため、その支払いに関する経理上の処理に困っていたが、原告は、原告の帳簿上に本件外注費を計上することに関しては、A等の経理担当者に対してはもちろん、乙に対しても何らの相談をしないままであった。
(5) A等の経理担当者は、原告が、乙の要請に基づいて請負工事代金について水増し請求をしていた事実及び原告が乙に対して本件外注費に相当する金員を支払っていた事実は全く知らなかった。
そのため、A等は、原告からの請負工事代金の請求については適正なものと判断して原告の請求どおりの支払いをしており、水増し請求分に対応する請負工事代金の返還を原告に要求したことは一度もなかった。
(6) 原告は、平成5年9月20日から平成8年4月9日にかけて、本件各係争年分に係る所得税の各確定申告を行った。
しかし、被告は、原告の上記各確定申告については、本件外注費に相当する金員が事業所得の必要経費に該当しないにもかかわらず、原告の帳簿上にはそれが必要経費として計上されているとの疑いを抱き、税務調査を行った上、その経費性を否認し、本件外注費に相当する事業所得及び課税売上げがそれぞれあったものとして、本件各更正処分を行うとともに、原告が、本件外注費を所得税法上の必要経費及び消費税法上の課税仕入れに計上し、課税標準等を過少に記載した本件各係争年分の所得税及び消費税の確定申告書を提出したことは、国税通則法68条に該当するとして、本件各重加算税処分を行った。
(7) 乙は、原告から受領した本件外注費に相当する金員はA等の経理担当者には一切引き渡しておらず、原告の確定申告が問題となった時点において約4256万円もの金員を保管していたため、本件各処分後、原告に上記金員を返還したが、原告はこれを売上戻しあるいは預かり金の返済としてA等に返還することなく、自ら受領し、本件各処分に基づく納税に充当した。
2 本件各更正処分の適法性について
前記1に認定した事実によれば、本件外注費の計上は、乙がA等からの下請工事を原告が受注できるよう取り計らうための活動資金等を捻出するための手段であり、原告は、A等から過大に受領した請負工事代金の一部を上記の目的のために乙個人に預けていたものと認めるのが相当であって、これをA等に対する売上戻しあるいは預かり金の返還と認めることはできないというべきである(なお、本件外注費が必要経費に当たらないことはいうまでもなく、原告も本件外注費が必要経費に該当するとは主張していない。)。
したがって、本件外注費に相当する金員は、所得税法上、原告の事業所得に含まれるとともに、消費税法上、原告の課税売上げに含まれるといわざるを得ないから、本件各更正処分は違法とはいえない。
3 本件各重加算税処分の適法性について
原告が、本件外注費を所得税法上の必要経費及び消費税法上の課税仕入れに計上した上、これを控除した本件各係争年分の所得税及び消費税の確定申告書を提出したことは、前記第1のとおりである。
また、前記1認定の事実によれば、原告が行った本件各係争年分の確定申告は、乙(乙組)が原告との間の工事を請け負った事実が存在しないにもかかわらず、原告の帳簿上に本件外注費を必要経費として計上することによって、原告がA等から過大に受領した請負工事代金の一部を原告の事業所得あるいは課税売上げから除外しようとしたものと認められるから、原告の上記行為は、国税通則法68条に該当するものと考えられる。
したがって、本件各重加算税処分は違法とはいえない。
第3結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀田廣美 裁判官 北川和郎 裁判官 寺垣孝彦)
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