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高知地方裁判所 平成13年(行ウ)18号 判決 2002年12月03日

原告

オオノ開發株式会社

同代表者代表取締役

大野照旺

同訴訟代理人弁護士

稲瀬道和

野垣康之

被告

高知県知事

橋本大二郎

同訴訟代理人弁護士

下元敏晴

同指定代理人

中澤純夫

外5名

主文

1  原告が平成12年5月8日付けでした採石法33条に基づく採取計画認可申請及び森林法10条の2第1項に基づく林地開発許可申請について,被告が何らの処分をしないことは違法であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

主文と同旨。

第2  事案の概要

1  争いのない事実

(1)  原告は,高知県高岡郡中土佐町上ノ加江字休場山<番地略>他12筆の土地において岩石の採取を行うに当たり,採石法33条の定める採取計画の認可及び森林法10条の2第1項の定める林地開発行為の許可を受けるため,平成12年5月8日,被告に対し,所定の申請書を提出した(以下「本件各申請」という。)。

(2)  被告は,行政手続法6条に基づき,申請により求められた許認可に対する処分をするまでの標準処理期間として,採石法33条の認可については60日,森林法10条の2第1項の許可については80日と定めている。

(3)  被告は,平成14年9月10日(本件口頭弁論終結時)現在,本件各申請に対して何らの処分をしていない(以下「本件不作為」という。)。

2  争点

(1)  本件訴えの適否

(被告の主張)

鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(以下「鉱調法」という。)50条は,公害等調整委員会(以下「公調委」という。)に対して裁定を申請することができる事項に関する訴えは,裁定に対してのみ提起することができると定め,いわゆる裁決主義を採用しているところ,同法1条2号によれば,採石法33条の認可に係る処分及び森林法10条の2第1項の許可に係る処分は,いずれも公調委に対して裁定を申請することができるものとされている(採石法39条1項及び森林法190条1項も同旨。)。

ところで,鉱調法1条2号は,裁定の対象を「処分」に限定しているが,ここでいう「処分」には以下の理由から「不作為」も含まれると解すべきである。

① 行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和37年9月15日法律第161号,以下「整理法」という。)の附則2項によれば,行政庁の不作為についてもこの法律の規定が適用される旨規定している。

② 不作為を不服申立ての対象としている行政不服審査法(以下「行服法」という。)の附則3項は同様の文言を用いている。

③ 上記許認可処分が公調委の裁定の対象とされているのは,それが一般公益や他の産業との調整を要することから,専門機関としての公調委の判断に任せるのが適当とされているためであり,この趣旨は不作為についても妥当する。

以上によれば,本件不作為についても公調委に対する裁定申請を経ることが必要であって,その裁定を対象としていない本件訴えは,訴訟要件を欠き,不適法である。

(原告の主張)

本件不作為は,鉱調法1条2号にいう裁定の対象には当たらず,被告の主張は以下の理由から失当である。

① 整理法の附則2項は,改正後の鉱調法等の関係法律の規定が整理法施行前の行政庁の処分や不作為に対しても適用されることを定めた経過措置規定に過ぎない。整理法は,同日に公布された行服法制定に伴う一括処理法であって,関係のある行政法規の全てに附則として盛り込まれたものに過ぎず,当該行政法規の本則規定の解釈に影響を及ぼすような性質のものではない。

② 行服法は,法律概念としての「処分」と「不作為」とを明確に区別して用いており,行服法の制定によって,採石法39条1項に定める同法33条の「処分」や森林法190条1項に定める同法10条の2第1項の「処分」が不作為を含む趣旨であると解する余地はない。

③ 鉱調法は,裁定手続規定として,専ら「処分」に対する不服申立ての規定しか置いておらず,行服法のように「不作為」についての不服申立ての規定は置いていないのであって,本則の予定していない手続が上記附則によって新たに制定されたと解する余地はない。

④ 公調委の役割は,採石法33条の認可・不認可の処分や森林法10条の2第1項の許可・不許可の処分について,専門的見地に立ってその適法性を裁定することであって,標準処理期間を経過した申請に対し法律に基づく行政判断を示さないことの違法性の有無を判断する機関ではない。

(2)  本件不作為の違法性の有無

(原告の主張)

本件不作為は,いずれも被告の定めた標準処理期間を大幅に超過し,処分をすべき相当の期間が経過していることは明らかであって,違法である。

(被告の主張)

地方自治法は,平成11年7月の地方分権一括法の制定により大幅に改正され,地方公共団体に関する法令の規定は,地方自治の本旨に基づいて解釈運用しなければならないとする指針が明定された(同法2条12項)。また,採石法33条の認可及び森林法10条の2第1項の許可に係る事務は,いずれも機関委任事務から自治事務に移行されたが,自治事務については,国に対して,地方公共団体が地域の特性に応じた事務処理ができるよう特に配慮すべきことを義務づける規定が新設された(同法2条13項)。

これらの規定は,憲法92条の定める地方自治の本旨を具体化したものと考えるべきであるから,採石法33条の認可の基準を定めた同法33条の4及び森林法10条の2第1項の許可の基準を定めた同法10条の2第2項については,上記地方自治法の規定と整合性を持たせ,都道府県知事が「地域の特性に応じた」対応ができるように解釈しなければならない。

上記のような観点から採石法33条の4及び森林法10条の2第2項の定める許認可基準を見ると,都道府県知事による規制が認められているのは,防災の必要性や第三者への加害の可能性がある場合に限定されているが,都道府県知事が「地域の特性に応じた」対応をするためには,これだけでは不十分であり,環境や景観,事業主の地域住民への事業の説明責任などの諸事情も考慮する必要がある。そうすると,上記許認可基準は,防災の必要性や第三者への加害の可能性がある場合など,公共の福祉の観点から通常想定される典型的な場合を列挙したに過ぎず,環境や景観,事業主の地域住民への事業の説明責任などの諸事情から典型的な場合と同視し得るような高度の規制の必要性が生じた場合を例外的に許認可の判断に加えることまで排除する趣旨ではないと解釈すべきである。

本件各申請については,中土佐町長及び同町議会はいずれも開発計画に反対する旨の意見であり,住民意識調査の結果でも反対意見が多数を占めている。被告としては,このような反対意見を重大に受けとめ,上記のような例外的な場合に当たるとして判断を留保しているところであり,処分をすべき相当な期間は未だ経過していない。

第3  当裁判所の判断

1  争点1(本件訴えの適否)について

被告は,鉱調法1条2号にいう「処分」には「不作為」も含まれ,本件不作為は公調委の裁定の対象になる旨主張する。

しかし,鉱調法1条2号は,公調委の裁定の対象について「処分」としか規定していない上,同法は,行服法と異なり,裁定の手続について,専ら処分に対する不服申立ての規定しか置いておらず,不作為についての不服申立ての規定を置いていない以上,同法が「処分」に加えて「不作為」も公調委の裁定の対象に含むべきことを想定していると見ることはできず,同法1条2号の「処分」に「不作為」が含まれると解することはできない。

被告は,その主張の根拠として,整理法の附則2項を挙げるが,この法律は,行服法(昭和37年9月15日法律第160号)の施行に伴う関係法律の整理等を一括して処理するためのものであり,その附則は,関係法律すべての附則であって,鉱調法独自の附則ではない上,この法律による改正後の関係法律の規定がこの法律施行前の行政庁の処分や不作為に対しても適用されることを定めた経過措置規定に過ぎないから,かかる附則によって鉱調法1条2号の解釈に変更が生じたと見る余地はない。

なお,被告は,不作為についても,処分と同様に,専門機関としての公調委の判断に任せるのが適当である旨主張するが,公調委の専門性が期待されるのは,許認可処分であるにせよ,不許可・不認可処分であるにせよ,行政庁の第1次的判断が示された上で,その適法性を判断することにあり,申請に対し行政庁としての第1次判断を留保していることの当否にまでは及ばないというべきである。

以上によれば,被告の主張は失当であり,本件訴えは適法である。

2  争点2(本件不作為の違法性の有無)について

被告が,行政手続法6条に基づき,申請により求められた許認可に対する処分をするまでの標準処理期間として,採石法33条の認可については60日,森林法10条の2第1項の許可については80日と定めていること,本件各申請に対して2年4か月以上の間(本件口頭弁論終結時現在)何らの処分をしていないことは,前記第2の1(2)(3)のとおりである。

被告は,採石法33条の4及び森林法10条の2第2項について,憲法92条を具体化した地方自治法2条12項,13項と整合性を持たせて,都道府県知事が「地域の特性に応じた」対応ができるように解釈すると,都道府県知事は,採石法及び森林法の各条文上列挙されている防災の必要性や第三者への加害の可能性があるなどの典型的な場合に限らず,環境や景観,事業主の地域住民への事業の説明責任などの諸事情からそれと同視しうるような高度の規制の必要性が生じた場合も規制をすることができる旨主張する。

なるほど,都道府県知事が施策の遂行に当たり,環境の保全や景観の維持に対する住民の意向に配慮すること自体は理解できなくはないし,採石法33条の4及び森林法10条の2第2項の解釈においてもそれらの事情を考慮することができると解する余地がないわけではない。

しかしながら,仮に被告の主張するような解釈を前提とするとしても,被告自らが定めている標準処理期間からしても,本件各申請に対して2年4か月以上もの間何らの処分をしないことが正当化できるものではなく,本件不作為は,本件各申請に対して処分をすべき「相当の期間」(行政事件訴訟法3条5項)を優に経過したもので,違法というべきである。

3  結論

以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・亀田廣美,裁判官・西理香,裁判官・寺垣孝彦)

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