高知地方裁判所 平成14年(行ウ)18号 判決 2004年3月26日
原告 有限会社A
同代表者代表取締役 甲
被告 高知税務署長
蔵本輔典
同指定代理人 片野正樹
同 藤本義文
同 富﨑能史
同 田尾照明
同 宇都宮浩
同 浜田幸秀
同 阿部幸恵
同 中川義信
同 鈴木久市
同 友澤哲郎
同 倉本幸芳
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が原告の平成11年3月1日から平成12年2月29日までの事業年度の法人税について平成13年12月25日付けでした更正及び加算税賦課決定(知法(法)第641号)を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が、被告の更正及び加算税賦課決定が違法であるとして、その取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 本件訴訟に至るまでの経緯
① 原告は、高知市に本店を置く冷凍設備設置工事業等を目的とする資本金500万円の同族会社である。
② 原告は、平成10年10月13日、B公社(以下「公社」という。)との間で、原告が、公社に対し、高知県が事業主体となっている県道高知北環状線道路改良事業の用地として、原告所有の高知市高須新町の各土地(以下「本件各土地」という。)を土地代金7204万5572円で譲渡し、公社が、原告に対し、土地代金の他に動産移転料4万8184円及び残地補償金225万6750円を加えて合計金7435万0506円を支払うことなどを内容とする契約を締結した。
③ア 原告は、同月20日、原告、国(四国地方建設局)及び株式会社C(以下「C」という。)の三者間において、原告が、国に対し、建設省四国地方建設局が事業主体となっている一般国道55号高知南国道路工事事業の用地として、原告所有の高知市高須新町に所在の土地及び同土地上の建物ほか(以下「本件各物件」という。なお、本件各土地と本件各物件を併せて「本件物件」という。)を土地代金1億0896万2216円で譲渡し、国が、原告に対し、土地代金の他に建物移転料4636万2000円、工作物移転料533万0360円、動産移転料68万8380円、移転雑費補償金354万7390円、立竹木補償金4347円及び営業補償金577万5227円を加えた合計1億7066万9920円を支払うとともに、原告が、そのうちの1億0800万円で、Cから国を介して、本件各土地の代替地(高知市若松町の土地ほか1筆のC持分35分の27)を取得するとの契約を締結した。当該代替地取得代金には、前記②の譲渡代金等の一部が充てられた。
イ 原告は、同月、原告、公社及びCの三者間において、Cから公社を介して、3200万円で本件各土地の代替地(前記アの高知市若松町の土地ほか1筆のその余のC持分35分の8)を取得し、当該取得代金には前記②の譲渡代金等の一部を充てるとの契約を締結した。
ウ 上記各代替地については、同月22日、いずれも原告名義の所有権移転登記が経由された。
④ 原告は、同月28日、本件各物件の譲渡代金等の一部として四国地方建設局から1100万円の支払を受けた。
⑤ 原告は、同年12月10日、原告、公社及び乙の三者間において、562万6802円で代替地(高知市若松町の土地・宅地33.82平方メートル)を取得し、当該取得代金は前記②の譲渡代金等の一部を充てるとの契約を締結した。
なお、同土地は、同日、原告名義の所有権移転登記が経由された。
⑥ 原告は、平成11年10月6日、本件各物件の譲渡代金等の残金として四国地方建設局から5166万9920円の支払を受けた。
⑦ 原告は、平成12年3月1日、本件各土地の譲渡代金等の残金として公社から3672万3704円の支払を受けた。
⑧ 原告は、同年5月8日、被告に対し、平成11年3月1日から平成12年2月29日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)及び平成11年3月1日から平成12年2月29日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税の確定申告書を提出した。
⑨ 本件確定申告書に添付されている「収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書(甲20のうち、「当初提出分(平成12年5月8日提出分)」と付記されているもの)には、以下の記載がされていたが、特別勘定に経理した場合の所定欄への記載はなかった。
ア 収用換地等による譲渡年月日は平成11年9月28日
イ 譲渡資産の種類は土地及び建物
ウ 譲渡資産の収用換地等のあった部分の帳簿価額は1033万5867円
エ 取得した補償金等の額は1億9729万6722円
オ 譲渡経費の額は88万5715円
カ 代替資産の帳簿価額を減額し、若しくは引当金又は積立金に経理した金額は1億6685万4298円
キ 圧縮限度額は1億6685万4942円
また、本件確定申告書添付の損益計算書には、「特別損益の部」の「特別損失」に「圧縮損」として1億6685万4298円と記載されていた。
⑩ 被告は、平成12年10月27日付けで、本件確定申告は期限後申告であるとして、無申告加算税の額を18万7000円とする無申告加算税の賦課決定処分を行った。
また、同日付けで、本件課税期間の消費税及び地方消費税の確定申告についても期限後申告であるとして、無申告加算税の額を7万7500円とする無申告加算税の賦課決定処分を行った。
⑪ 原告は、平成13年4月23日、被告に対し、本件確定申告書添付の別表記入ミスによる所得金額の訂正を内容とする更正の請求(以下「本件更正請求」という。)を行った。
⑫ 被告は、同年7月19日付けで、本件更正請求については更正すべき理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)を行った。
⑬ 原告は、本件通知処分を不服として、同月23日、被告に対し、本件通知処分の取消しを求める異議申立てを行ったが、被告は、同年10月5日、同異議申立てを棄却する旨の決定を行った。
⑭ 原告は、上記決定を不服として、同月11日、国税不服審判所長に対し、審査請求を行ったが、同所長は、同年12月7日、同審査請求を棄却する旨の裁決を行った。
なお、本件通知処分及びその後の不服申立ての経過は、別紙課税等経過表1のとおりである。
⑮ 被告は、平成13年12月25日付けで、本件事業年度の法人税について、主として、収用による資産譲渡益の計上漏れを理由として、所得金額を5599万0956円、差引納付すべき税額を1566万2400円、無申告加算税の額を234万9000円とする法人税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)を行った(なお、本件訴訟では、本件更正処分等の違法性が審理対象となっている。)。
また、被告は、同日付けで、本件課税期間において、収用による資産譲渡益のうち、建物移転料及び工作物移転料等を課税売上に計上していたとして、課税標準額を6854万2000円、控除対象仕入税額を192万3088円、差引減少する税額(消費税及び地方消費税)を98万4200円、減少する無申告加算税の額を4万9000円とする消費税及び地方消費税の更正処分並びに無申告加算税の賦課決定処分を行った。
⑯ 原告は、平成14年1月8日、本件更正処分等を不服として、国税通則法(以下「通則法」という)75条4項1号に基づき、国税不服審判所長に対し、審査請求を行った。
⑰ 被告は、同年3月26日付けで、本件更正処分等について所得金額の計算に誤りがあったため、所得金額を5353万0487円、差引減少する税額を90万6200円、減少する無申告加算税の額を13万6500円とする法人税の再更正処分及び無申告加算税の再賦課決定処分(以下「本件減額再更正処分等」という。)を行った。
⑱ 国税不服審判所長は、同年8月30日付けで、本件更正処分等(本件減額再更正処分等後のもの)につき、前記⑯に係る原告の審査請求を棄却するとの裁決を行った。
なお、本件更正処分等及びその不服申立ての経過は、別紙課税等経過表2のとおりである。
(2) 本件物件の所有権移転状況等
① 所有権移転状況
ア 高知市高須新町Dの土地
ⅰ 同土地Dは、同所D1及び同所D2の各土地に分筆された。
ⅱ 同所D1の土地は、平成10年10月20日売買を原因として同年11月11日に建設省へ所有権移転登記がされた。
ⅲ 同所D2の土地は、同年10月13日売買を原因として同年11月6日に公社へ所有権移転登記がされた。
イ 同所Eの土地
ⅰ 同土地は、同所E1及び同所E2の各土地に分筆された。
ⅱ 同所E1の土地は、平成10年10月20日売買を原因として同年11月11日に建設省へ所有権移転登記がされた。
ⅲ 同所E2の土地は、同年10月13日売買を原因として同年11月6日に公社へ所有権移転登記がされた。
ウ 同所Fの土地
ⅰ 同土地は、同所F1及び同所F3の各土地に分筆された。
ⅱ 同所F3の土地は、平成10年10月13日売買を原因として同年11月6日に公社へ所有権移転登記がされた。
② 本件物件の買取り、契約成立日
高知市高須新町D1及びE1の各土地については、建設省から平成10年9月10日に買取等の申出がされ、同年10月20日に買取り及び土地売買契約の締結が行われ、同所Eの土地上の建物についても移転料等が支払われた。
また、高知市高須新町D2、同所E2及び同所F3の各土地については、公社から平成10年9月10日に買取等の申出がされ、同年10月13日に買取り及び土地売買契約の締結が行われ、併せて動産移転料及び残地補償が支払われた。
(3) 被告の本件更正処分等の根拠
① 所得金額の計算について
ア 本件確定申告における所得金額
原告は、被告に対し、平成12年5月8日、所得金額を1551万7993円とする本件確定申告書を提出した。
イ 資産譲渡益計上漏れとして収益に計上すべき金額
ⅰ 本件物件の譲渡に係る収益に計上すべき金額
被告は、本件物件が本件事業年度中に引渡が行われているため、平成12年3月1日に公社から支払を受けた本件各土地の譲渡代金等の残金3672万3704円(以下「本件留保金」という。)は、本件事業年度の収益に計上すべき金額であると認定した(なお、原告は、後記争点(1)のとおり、この点を争っている。法令の適用について後記争点(2)参照。)。
また、原告は、平成11年10月6日に四国地方建設局から支払を受けた本件各物件の譲渡代金等の残金5166万9920円は消費税の課税取引であるとして、上記金額のうち4920万9448円を収益に計上し、差額の246万0472円を仮受消費税として経理処理していたが、被告は、以下のような根拠に基づいて、原告が仮受消費税として経理処理していた246万0472円については、本件事業年度における原告の収益に計上すべき金額であると認定した。
すなわち、消費税法基本通達5-2-10は、「令(注:消費税法施行令)第2条第2項《資産の譲渡等の範囲》に規定する「補償金」とは、同項の規定により譲渡があったものとみなされる収用の目的となった所有権その他の権利の対価たる補償金(中略)をいうのであり、当該補償金の収受により権利者の権利が消滅し、かつ、当該権利を取得する者から支払われるものに限られるから、次に掲げる補償金は、対価補償金に該当しないことに留意する。」と規定し、対価補償金に該当しないものとして、いわゆる収益補償金、経費補償金、移転補償金及びその他対価補償金たる実質を有しない補償金を掲げている。消費税の課税対象は、主として、事業者が国内において行う資産の譲渡等であり(消費税法4条1項)、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供をいうから(同法2条1項8号、同条2項、4条1項)、「補償金」が消費税の課税の対象となるのは、それが資産の譲渡等に関し対価としての性格を帯びる場合のみである。それゆえ、上記通達は、対価としての性格を有する補償金のみを課税の対象とするとの理を確認的に規定したものにすぎない。
ところで、「公共事業用資産の買取り等の証明書」(乙19)によれば、原告が四国地方建設局から支払を受けた補償金等の内訳は、土地代金とその他の建物移転料等に大別できるところ、土地代金は、消費税法6条1項、同法別表第1の1号所定の非課税取引に該当し、その他の建物移転料等は、消費税の課税対象となる対価補償金ではないから、不課税取引に該当するのであって、いずれにせよ消費税法4条1項所定の課税の対象にはならない。
よって、原告が仮受消費税として経理処理していた246万0472円は、本件事業年度における原告の収益に計上すべき金額となる。
そして、その結果、被告は、本件物件の譲渡に係る収益として計上すべき金額は、四国地方建設局及び公社から受領した譲渡代金等の総額である2億4502万0426円となると認定した。
ⅱ 本件物件の帳簿価額の合計額
原告の平成10年3月1日から平成11年2月28日までの事業年度(以下「平成11年2月期の事業年度」という。)の法人税の確定申告書に添付されていた「固定資産(土地、土地の上に存する権利及び建物に限る。)の内訳書」(乙28)及び「定率法による減価償却資産の償却額の計算に関する明細書」(乙29)によれば、国及び公社に譲渡された本件物件の収用等の直前の帳簿価額は、高知市高須新町E及びDの土地は537万5500円、同所に存する建物は162万8852円、同所に存する構築物は37万6555円である。
これに対し、同町F1の土地は、収用の対象となったのがその一部(F3に分筆された。)であることから、収用された土地部分に対応する収用の直前の帳簿価額が算定されなければならないところ、このような場合の帳簿価額の算定方法について、租税特別措置法関係通達64(2)-10は、「法人の有する土地等の一部について収用等があった場合において、土地収用法第74条の規定によりその残地の損失について補償金の交付を受けたときは、当該補償金を当該収用等のあった日を含む事業年度の当該収用等をされた部分の土地等の対価補償金とみなして取り扱うことができる。この場合において、当該収用等をされた部分の土地等の収用等の直前の帳簿価額は、次の算式により計算した金額による。file_2.jpgKUASOEAID IAS sae RAFORMO AERO | Beto ma ROR Cais WLR OD LAT OD 4K HO」と規定している。
そうすると、上記高知市高須新町F1の土地の収用等の直前の帳簿価額は623万円、当該土地の面積は80.99平方メートル、買取面積は30.83平方メートル、残地面積は50.16平方メートル(80.99㎡-30.83㎡)当該土地の1平方メートル当たりの買取価額は23万8500円(735万2955円<買取価額>÷30.83㎡<買取面積>)、残地補償金は225万6750円であるから、収用等の直前の当該土地の価額は、file_3.jpgCh) OFM CHRO mB) 2358500AM x 80. 99m=1931561154となり、収用等された後の残地価額は、file_4.jpg(Lak OFA = (BEAD TRIB) ste a tae) 2358500K X 50. 16n—-22556750M =97056410Mとなる。
したがって、前記租税特別措置法関係通達64(2)-10所定の計算式により、当該土地のうち収用された土地部分に対応する収用の直前の帳簿価額を算出すると、file_5.jpg6235Ax 193156115A—- (97056410) =30959405 193146115 oD: Aとなる。
そして、同金額と他の譲渡資産の帳簿価額を合計すると、1048万0312円となる。
ⅲ 資産譲渡益の額
前記ⅰの本件物件の譲渡に係る収益に計上すべき金額から、前記ⅱの本件物件の帳簿価額の合計額を控除すると、資産譲渡益の額は2億3454万0114円となる。
ⅳ 資産譲渡益の計上漏れ額
被告は、上記ⅲの金額と、原告が本件確定申告において計上していた資産譲渡益の額1億9512万3828円との差額3941万6286円が資産譲渡益の計上漏れ額となると判断した。
ウ 仮払税金認容額計上漏れ額
原告は、平成11年2月期の事業年度において仮払経理した県民税の中間納付額9100円を本件事業年度において損金経理していたが、県民税は損金の額に参入することはできない。
エ 未収還付消費税等の額
前記イⅰのとおり、原告が平成11年10月6日に四国地方建設局から支払を受けた5166万9920円は消費税法4条1項所定の課税の対象に該当しないことから、改めて消費税等の額を再計算すると、98万4200円の還付税額が生じることになる。当該金額は未収還付消費税等として益金の額に算入されることとなる。
オ 繰越欠損金の当期控除額の過大額
原告は、平成11年2月期の事業年度の法人税について更正処分を受けているところ、同処分により、本件事業年度に繰り越される欠損金が7万2480円減少することになったため、当該金額を所得金額に加算した。
カ 法人税等の中間納付額の還付額の減算
原告は、平成11年2月期の事業年度に仮払経理により納付した県民税9100円を本件事業年度において還付され、雑収入として計上していたので、所得金額から減算した。
キ 仮受消費税の過大計上
原告は、前記イⅰのとおり、平成11年10月6日に、本件各物件の譲渡代金等の残金として四国地方建設局から支払を受けた5166万9920円を、消費税法上の課税取引であるとして、上記金額のうち246万0472円を仮受消費税として経理処理していたが、当該取引は課税取引に該当せず、それゆえ、仮受消費税が過大に計上されていたことになるから、当該金額は所得金額から減算する必要がある。
なお、平成13年12月25日付けの法人税の更正処分においては、上記仮受消費税の過大計上分が減算されていなかったため、当該金額を減算した上で、本件減額再更正処分等が行われた。
ク 所得金額
被告は、前記アの金額に、イのⅳ、ウないしオの各金額を加算し、そこから前記カ及びキの金額を減算した5353万0487円が原告の本件事業年度における所得金額になるものと認定した(なお、この金額は、本件減額再更正処分等において、被告が認定した所得金額である。)。
② 法人税額の計算について
被告は、以下のような根拠に基づいて、法人税額を算定した。
すなわち、前記①クの所得金額5353万0487円について、通則法118条1項に従い1000円未満の端数金額を切り捨てると5353万円となり、その金額をもとに法人税法66条1項の規定に従い、法人税額を算定すると1770万7850円となる。
原告は、法人税法67条1項の「内国法人である同族会社」に該当するところ、同項の規定に従えば、当該事業年度の留保金額が留保控除金額を超える場合には、その超える金額について同項に規定された税率を乗じて計算した金額(同族会社の留保金額に対する税額)を法人税額に加算した金額が、当該事業年度の所得に対する法人税の額となるから、原告の本件事業年度における留保金額は、同条2項により3905万3089円と算定され、留保控除額は、同条3項により2126万6459円と算定される。
そこで、同条1項に規定された税率を乗じる金額は、留保金額3905万3089円から留保控除額2126万6459円を差し引き、通則法118条1項の規定に従い、1000円未満の端数金額を切り捨てた1778万6000円となる。同金額は、同条1項1号所定の「年三千万円以下の金額」に該当するから、当該金額に乗ずる割合は「百分の十」となるので留保金額に対する税額は、177万8600円となる。
そして、上記の法人税額1770万7850円に留保金額に対する税額177万8600円を加算すると1948万6450円となるところ、この金額から、確定申告における控除所得税額等98万6714円を差し引き、通則法119条1項に従い100円未満の端数を切り捨てると、法人税額は1849万9700円となる。
③ 法人税に係る無申告加算税の計算について
通則法66条1項2号は、期限後申告書の提出があった後に更正があった場合には、当該納税者に対し、その納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すると規定している。
そのため、被告は、原告が納付すべき税額は、前記②の税額1849万9700円から本件確定申告書において納付した税額374万3500円を控除した1475万6200円が原告の納付すべき税額となり、同法118条3項の規定に従い1万円未満の端数金額を切り捨てた後の金額は1475万円となるから、同法66条1項所定の割合による無申告加算税は221万2500円となるものとした(なお、この金額は、本件減額再更正処分等において、被告が認定した無申告加算税の額と同額である。)。
2 争点
(1) 本件留保金は、本件事業年度の収益に計上すべきものであるかどうか。
(原告の主張)
① 商品取引においては収入すべきことが確定した時期にその金額で収益計上するという「発生主義」の概念は当然であるが、不動産取引においては金銭収受をもって収益を計上する方法が社会通念であるので、あえて弾力的に権利確定時(売買契約時)を選択すれば収益計上を可として収用等のあった日と解釈することを認めたものである。
② 本件各土地の引渡は平成10年10月13日であり、原告は、本件留保金を平成12年3月1日に受け取ってその金員で移転(買替)事業を続行し、平成13年8月31日にこれを完了した。したがって、収益を計上すべき時期の基準は、平成10年10月13日又は移転事業の完了した平成13年8月31日であり、その選択権は納税者にある。原告は、後者を選択した。
③ しかるに、被告は原告に上記のいずれかの時期に収益を計上する選択権があることを無視しているのであり、本件更正処分等は違法である。
(被告の主張)
① 法人の収益及び費用等の計上時期については、実現主義にいう収益が実現したときに収入すべき権利が確定したとみられるとの理解に立って、権利確定主義の原則に従って収益を計上することが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合する。
② 「収用等のあった日」(平成13年法律第7号による改正前の租税特別措置法64条の2第1項。以下、同法を「措置法」という。)とは、収用等により譲渡した資産に係る収益の計上時期を意味するものであり、固定資産の譲渡による収益の帰属時期については、法人税基本通達2-1-14によって引渡基準又は契約基準のいずれによることも認められているところ、原告は、本件物件について、本件物件の代金及び補償金のうち仮受消費税として経理処理していた246万0472円及び平成12年3月1日に公社から受領した3672万3704円を除く部分を、契約の効力発生日を含む平成11年2月期の事業年度ではなく、譲渡資産の引渡日(本件各物件の引渡日は平成11年9月24日であり、本件各土地の引渡日は平成12年2月22日である。)を含む本件事業年度において資産譲渡益を計上している。
そうすると、原告は、収益の計上時期について、引渡基準を採っているものと認められるから、本件物件の「収用等のあった日」は、本件物件の上記引渡日となり、いずれも本件事業年度中に収用等があったとされることから、本件物件の譲渡に係る収益は、本件事業年度において計上すべきものである。
(2) 原告の本件事業年度の所得金額算定において措置法64条の2の適用があるかどうか。
(原告の主張)
① 本件物件の「収用等のあった日」は平成12年3月1日であり、代替資産の買替猶予期間の終期はその2年後の平成14年2月28日となるところ、原告は、買替猶予期間内の平成13年3月1日から平成14年2月28日までの事業年度(以下「平成14年2月期の事業年度」という。)において代替地を取得し、移転事業を完了したのであるから、その譲渡益は、平成14年2月期の事業年度において税金の計算がなされるべきである。
② 原告は、道路用地として公社及び国に資産を売却し、本件事業年度における代替資産の取得分については、各物件毎に記帳し、法の定めるとおり、各物件毎に圧縮記帳を行った。本件事業年度に受け取った補償金に残金が生じ、そのうちの収益補償金分については、本件事業年度に計上しなければならないと考えていたが、誤って経費を計上できないまま残金全部を益金に計上してしまった。
③ 原告が措置法64条の2に規定された経理をしていなかったのは事実であるが、これは、収用法に日常性がなく、不慣れによる単純な間違いから、受け取った金の一部を「特別勘定」と記帳すべきところを日常的な科目の「前受金」と記帳したことによるものである。しかし、その意図するところが2年間の猶予期間内での原価記帳による経理であることは本件確定申告書自体から明らかであり、本件の本質は原告の善意の過納税である。被告は、仮に原告が過少申告した場合には修正申告を指導するのに、原告が誤って過大申告した場合にはその修正を許さないとするのは納税者に対して公平でない。
④ 原告は、留保金契約によりその都度補償金を受け取っていた。原告は、圧縮記帳における代替地取得の有効期間である土地の引渡日から2年以内の平成13年6月5日に代替地を購入し、圧縮記帳の処理を有効期間に終了して法の趣旨は遵守したが、初めてのことでもあって特別勘定が理解できずに間違って前受金勘定としたものであり、定められたとおり圧縮記帳の計算は行い、事実上の特別勘定の経理をしていた。公共事業の促進の趣旨から、公社と留保金契約を結び公社を通じ代替資産を所得すると、税金が軽減される特典があるので、原告はその制度を利用したものであり、原告の意図は被告にとっても明白であって、事実上の特別勘定の経理が行われている以上、被告は、原告の経理を特別勘定の経理として扱うべきである。
(被告の主張)
措置法64条の2第1項は、法人の有する資産が収用等に伴い消滅した場合における収用等に係る資産の譲渡所得の認定に関して課税の特例を認めるものであり、同条の規定の適用を受けるためには、当該収用等のあった事業年度の確定した決算において、補償金等のうち代替資産の取得に充てようとするものの額に差益割合を乗じて計算した金額を特別勘定として経理することが要件となっている。
このように、措置法64条の2は、当該特例措置の適用を受けるか否かを納税者に委ねているが、原告は、本件事業年度の確定した決算において所定の経理をしていないのであるから、本件事業年度において同条の規定により特別勘定で経理できる金員があったとしても、同条に規定する適用要件を具備していない以上、当該特例措置の適用を受けることはできない。
なお、原告は、本件各土地の「収用等のあった日」は平成12年3月1日であり、代替資産の買替猶予期間の終期は平成14年2月28日であると主張するが、争点(1)の(被告の主張)②のとおり、本件各土地の「収用等のあった日」は平成12年2月22日であり、措置法64条の2に規定するいわゆる代替資産の買替猶予期間は、同年3月1日から平成14年2月21日までとなる。
よって、措置法64条の2に係る原告の主張は失当である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
原告は、本件物件の譲渡益の計上時期について、譲渡資産の引渡日(原告の主張によれば平成10年10月13日。ただし、被告の主張によれば本件各物件については平成11年9月24日、本件各土地については平成12年2月22日である。)を基準とせず、本件留保金(最終残金)を受け取り、移転事業を完了した平成13年8月31日を基準とすべきであると主張する。
しかし、法人に係る収益及び費用等の帰属時期について、法人税法22条4項は、「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定しているところ、最高裁判所平成5年11月25日第1小法廷判決・民集47巻9号5278頁は、法人税における収益の帰属時期について、「ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる。」と判示しており、実現主義にいう収益が実現した時に収入すべき権利が確定したとみられるとの理解に立って、権利確定主義の原則に従って収益を計上することが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものであることを明らかにしている。なお、権利確定主義とは、一般に、収益の計上時期について、現実に金員の収入のあった時期に収益計上するという会計学上の「現金主義」の考え方によるのではなく、収入すべきことが確定した時期にその金額で収益計上するという「発生主義」の意味であり、収益発生の認識基準としての「実現主義」の概念に対応するものと理解されている。
この点、原告の収益の計上時期に関する主張は、現金主義の考え方によるものと解されるのであって、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合したものとは認められない。
また、原告は、本件各土地の「収用等のあった日」は本件留保金を受け取った平成12年3月1日であり、買替猶予期間内である平成14年2月28日までに代替地を取得し、移転事業を完了したのであるから、その譲渡益は、平成14年2月期の事業年度において税金の計算がなされるべきであると主張する。
しかしながら、「収用等のあった日」とは、収用等により譲渡した資産に係る収益の計上時期を意味するものであり、固定資産の譲渡による収益の帰属時期については、法人税基本通達2-1-14によって、引渡基準又は契約基準のいずれによることも認められているところ、証拠(乙20、21)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件物件の代金及び補償金(ただし、仮受消費税として経理処理していた246万0472円及び平成12年3月1日に公社から受領した3672万3704円を除いたもの。)を、原告が譲渡資産の引渡日(契約の効力発生日)と主張する平成10年10月13日に対応する平成11年2月期の事業年度にはこれを計上しておらず、本件各物件の引渡日と認められる平成11年9月24日及び本件各土地の引渡日と認められる平成12年2月22日を含む本件事業年度において資産譲渡益を計上していることが認められる。そうすると、原告は、収益の計上時期について引渡基準を採っているものといわざるを得ないから、本件物件の「収用等のあった日」は、本件物件の引渡日(本件各物件の引渡日が平成11年9月24日、本件各土地の引渡日が平成12年2月22日であることは前記のとおりである。)となり、いずれも本件事業年度中に収用等があったとされることから、本件物件の譲渡に係る収益は、本件事業年度において計上すべきものといわざるを得ない。
よって、本件物件の譲渡に係る収益の一部である本件留保金は、本件事業年度において計上すべき金額になるというべきである。
2 争点(2)について
(1) 措置法64条の2第1項は、法人の有する資産が収用等に伴い消滅した場合において、法人が収用等のあった日を含む事業年度終了の日の翌日から収用等のあった日以後2年を経過する日までの期間内に補償金、対価又は清算金の額の全部又は一部に相当する金額をもって代替資産の取得をする見込みであるときは、当該収用等のあった日を含む事業年度の確定した決算において当該補償金、対価又は清算金の額で当該代替資産の取得に充てようとするものの額に差益割合を乗じて計算した金額を特別勘定として経理したときに限り、その経理した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨定めており、同条9項は、同条7、8項の規定によりその後に代替資産を取得した場合についても、代替資産を取得した日を含む事業年度の所得の計算上、その代替資産の取得に充てた補償金等の額に差益割合を乗じて計算した金額を取り崩して益金の額に算入する旨を定めている。
すなわち、代替資産の取得に係る代替資産の譲渡益に関するこれらの規定の趣旨は、法人税法上、法人の有する資産の取得が土地収用法その他の法律の規定に基づいて買い取られた場合は、それが強制的なものであるとはいえ、資産の譲渡に変わりはなく、収用等により譲渡した資産に係る補償金等と帳簿価額の差額は、資産損益として課税の対象となるところ、このような強制的な譲渡に伴って生じた譲渡益の額に対し、常に課税することになれば、その譲渡が法人の自由な意思に反するものであることに加え、課税により企業経営維持のための再投資(代替資産の取得)が阻害される結果をもたらす場合があるとの見地から、その譲渡益に対する課税の延期のための例外的措置をもうけたものであって、これらの特例措置を利用して申告するか否かの選択は、その事業年度の決算を確定させる当該法人の自由な意思に委ねられている。したがって、当該法人が同条に係る特例措置の適用を受けるためには、当該収用等のあった事業年度の確定した決算において、補償金等のうち代替資産の取得に充てようとするものの額に差益割合を乗じて計算した金額を特別勘定として経理処理した上、確定申告上、その特例措置の利用を明らかにすることを要するものというべきである。
本件確定申告についてみるに、原告は、本件事業年度の確定した決算において、前記の措置法64条の2の規定により特別勘定で経理できる金員を特別勘定として経理処理していないから、本件事業年度において特別勘定で経理できる金員があったとしても、上記の規定の要件を具備していないことになり、同項に係る特例措置の適用を受けることはできないというべきである。
(2) ところで、原告が公社と留保金契約を結び公社を通じて代替資産を取得した場合の税金軽減措置を利用するために特別勘定の経理を行う意図であることは被告にとっても明白であったから、被告は、本件確定申告において特別勘定の経理が行われたものとして取り扱うべきであると主張する。
① しかしながら、租税法律関係においては、確定申告によって客観的に表示されたところに基づいてその後の法律関係が画一的に形成されることが要請されているところ、本件確定申告書の客観的な記載自体から、原告が措置法64条の2第1項を利用することを明らかにしていたとみることはできない。
② また、例えば、銀行等から融資を受ける必要がある場合に、法人税の課税所得をマイナスにしないため、資産譲渡益をそのまま計上して圧縮記帳を行わないこともあり得るし(納税者による経営判断)、資産譲渡益の生じた当該事業年度における法人の課税所得が資産譲渡益を含めてもマイナスとなる場合又は納税額が少額となるような場合に、取得する代替資産を将来的に第三者に売却することを予定しているときには、当該事業年度の利益を圧縮することなく、将来売却した場合の当該代替資産の資産価額(原価)を圧縮記帳を行わない購入価額としておくことによって、売却が行われた当該事業年度における利益金額を少なく計上することもないわけではない(納税額の多寡の見積もりによる納税者の選択)。すなわち、納税者が、その経営判断や納税額の多寡の見積もりによって、代替資産を取得した場合であっても、圧縮記帳をすることなく購入額(収用額)をもって資産勘定を構成したり、あるいは、資産譲渡益の圧縮限度内の一部のみを圧縮記帳して申告することもある。
そうすると、原告が、被告の職員に対し、措置法64条の2第1項の適用のためにはどのように確定申告をすればよいかを明確に尋ねるなど、措置法64条の2第1項の適用を意図していることを明らかにしていたなどの特別な事情がない限り、原告の内心の意図が被告に明らかであるとまではいえない。
しかし、本件については、原告が、本件確定申告に当たり、措置法64条の2第1項の適用を意図していることを明らかにしていたとはうかがえない。
③ よって、原告の主張は理由がない。
(3) 原告は、被告が原告に対して特別勘定の経理を行うよう指導すべきであったとも主張するようであるが、すでに説示したとおり、措置法64条の2第1項の適用を選択するかどうかは、経営判断や納税額の多寡の見積もりを踏まえた当該法人の自由な意思に委ねられているのであるから、被告が、原告に対し、特別勘定の経理をするよう指導すべきであったとまではいえない。
3 さらに、原告は、本件確定申告書の客観的な記載において、原告が措置法64条1項の適用を受ける旨選択したことを前提とする確定申告をしているから、念のため同条同項の適用の範囲についても検討する。
措置法64条1項は、法人の有する資産が収用等に伴い消滅した場合において、法人がその補償金、対価等の一部又は全部をもって、当該収用等のあった日を含む事業年度において、代替資産を取得し、当該代替資産につき圧縮限度額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額し、又はその帳簿価額を減額することにかえてその圧縮限度額以下の金額を損金経理により引当金勘定に繰り入れる方法により経理したときはその減額し又は経理した金額に相当する金額を当該事業年度の損金の額に算入する旨定めた規定であり、所得の認定に関して課税の特例を認めたものである。
そうだとすると、同条の適用を受けるためには、上記のとおり、収用等のあった日を含む事業年度において代替資産を取得し、かつ、圧縮限度の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するか又は圧縮限度額以下の金額を損金経理により引当金勘定に繰り入れる経理処理をすることを要するものというべきである。
しかし、原告は、本件確定申告書において、圧縮限度額を1億6685万4942円と算出し、圧縮損として1億6685万4298円を損金処理しているにとどまるから、その範囲で措置法64条1項の適用を受けることはできるものの、本件事業年度において損金経理した上記金額を超える部分については、同条同項の要件を具備しておらず、同条同項に係る特例措置の適用を受けることはできないというべきである。
もっとも、上記のとおり、原告は、圧縮損を損金経理している限度で法人税を免れたのであるから、収用等に伴う代替資産の取得に関し、損金算入を定める措置法の適用が一切なかったわけではない。
第4 結論
以上によれば、本件更正処分等の根拠となった所得の算定等及び措置法の適用に誤りはなく、原告の本件事業年度の法人税額及び無申告加算税の額は前記第2の1(争いのない事実)(3)のとおりとなるから、本件更正処分等は適法である。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 亀田廣美 裁判官 三上乃理子 裁判官 寺垣孝彦)
別紙
課税等経過表1
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別紙
課税等経過表2
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