大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 平成15年(行ウ)18号 判決 2005年5月27日

原告

甲野太郎

原告

乙原次郎

原告両名訴訟代理人弁護士

清水勉

被告

高知県警察本部長

黒木慶英

同訴訟代理人弁護士

下元敏晴

同指定代理人

井上謙二

外5名

主文

1  被告が原告甲野太郎に対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜一発第480号により同原告に通知されたもの)のうち,別紙文書目録1の部分を開示しないとした処分を取り消す。

2  被告が原告甲野太郎に対して平成15年8月6日付けでした公文書部分開示処分(同日付け捜一発第488号により同原告に通知されたもの)のうち,別紙文書目録2の部分を開示しないとした処分を取り消す。

3  原告甲野太郎のその余の請求及び原告乙原次郎の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,原告甲野太郎に生じた費用の3分の1と被告に生じた費用の6分の1を被告の負担とし,原告甲野太郎に生じたその余の費用と被告に生じた費用の3分の1を原告甲野太郎の負担とし,被告に生じたその余の費用と原告乙原次郎に生じた費用を原告乙原次郎の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  原告甲野太郎(以下「原告甲野」という。)の請求

(1)  被告が原告甲野に対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜一発第480号により同原告に通知されたもの)を取り消す。

(2)  被告が原告甲野に対して平成15年8月7日付けでした公文書非開示処分(同日付け暴対発第393号により同原告に通知されたもの)を取り消す。

(3)  被告が原告甲野に対して平成15年8月6日付けでした公文書部分開示処分(同日付け捜一発第488号により同原告に通知されたもの)のうち,公文書を非開示とした部分を取り消す。

(4)  被告が原告甲野に対して平成15年8月7日付けでした公文書部分開示処分(同日付け暴対発第388号により同原告に通知されたもの)のうち,公文書を非開示とした部分を取り消す。

2  原告乙原次郎(以下「原告乙原」といい,原告甲野と併せて「原告ら」という。)の請求

(1)  被告が原告乙原に対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜二発第178号により同原告に通知されたもの)を取り消す。

(2)  被告が原告乙原に対して平成15年8月6日付けでした公文書部分開示処分(同日付け捜二発第177号により同原告に通知されたもの)のうち,公文書を非開示とした部分を取り消す。

第2  事案の概要

本件は,高知県情報公開条例(平成2年高知県条例第1号。平成14年高知県条例第6号による改正後のもの。以下,他の文書,法令等において正式名称で掲記されている場合も含めて,「本件条例」という。また,法令名を記さず単に条項のみを掲げている場合は,本件条例のそれを指す。)5条に基づき,2条所定の実施機関の一つである被告に対し,原告甲野が,高知県警察(以下「県警」という。)本部刑事部捜査第一課(以下「捜査第一課」という。)及び同部暴力団対策課(以下「暴力団対策課」という。)の,原告乙原が,同部捜査第二課(以下「捜査第二課」という。また,捜査第一課,暴力団対策課と併せて「捜査第一課等」という。)の,それぞれ平成14年度における国費及び県費による各捜査費支払証拠書の開示を請求した(以下,原告甲野又は原告乙原のいずれによるものかを問わず,併せて「本件各開示請求」という。)ところ,被告が,部分開示又は非開示とする処分をしたことから,原告らが非開示処分は本件条例の解釈運用を誤ったものとして違法である旨を主張し,その取消しを求めている事案である。

1  前提事実等(括弧内に証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

① 原告らは,行政機関による公金の不当支出等を監視し,是正することを意図して活動する「市民オンブズマン高知」と称される団体の一員である。

(弁論の全趣旨)

② 被告は,2条1項所定の実施機関たる県警本部長である。

(2)  原告らの本件各開示請求

① 原告甲野は,被告に対し,平成15年7月24日,5条に基づき,

ア 平成14年度の捜査第一課の,県費及び国費による捜査費支払証拠書

イ 平成14年度の暴力団対策課の,県費及び国費による捜査費支払証拠書

を開示するよう請求(以下,アに係る請求を「本件開示請求1」,イに係る請求を「本件開示請求2」という。)した。

② 原告乙原は,被告に対し,平成15年7月24日,5条に基づき,平成14年度の捜査第二課の,県費及び国費による捜査費支払証拠書を開示するよう請求(以下「本件開示請求3」という。)した。

(3)  被告による本件各開示請求に対する各処分

被告は,平成15年8月6日及び翌7日,別紙処分詳細記載のとおり部分開示処分又は非開示処分(以下,併せて「本件非開示処分」といい,開示の対象とならなかった文書全部を併せて「本件非開示文書」という。)を行った。

なお,本件各開示請求の対象となった捜査費支払証拠書は,捜査第一課等のすべてに共通して,国費捜査費については,各月ごとに「表紙(その様式は,別紙様式1のとおり。以下同じ。)」,「捜査費総括表(その様式は,別紙様式2のとおり。以下同じ。)」「捜査費支出伺(その様式は,別紙様式3のとおり。以下同じ。)」,「支払精算書(その様式は,別紙様式4のとおり。以下同じ。)」,「捜査費交付書兼支払精算書(その様式は,別紙様式5のとおり。以下同じ。)」,「支払伝票(その様式は,別紙様式6のとおり。以下同じ。)」,「返納決議書(その様式は,別紙様式7のとおり。以下同じ。)」及び「領収書(その様式は,別紙様式8のとおり。以下同じ。)」がこれらに添付された領収書等を含めて一綴りとなっており,県費捜査費についても,各月ごとに「表紙」,「捜査費受払表(その様式は,別紙様式9のとおり。以下同じ。)」,「捜査費支出伺」,「支払精算書」,「捜査費交付書兼支払精算書」及び「支払伝票」がこれらに添付された領収書等を含めて一綴りとなっている。そして,被告は,本件非開示処分をなす際,これら捜査費支払証拠書を一体的に捉えてその一部を非開示とするという部分開示の方式は採らず,書面一枚毎に,全部非開示とする書面,部分開示とする書面,全部開示とする書面に分類し,全部非開示とする書面が対象となる全部非開示決定と,部分開示とする書面及び全部開示とする書面が対象となる部分開示決定に分けて処分を行う方式を採用している(これにより,各種書面の枚数を含め,各捜査費支払証拠書全体の丁数は不明となる。)。

また,本件非開示処分における非開示とする理由に着目して,本件非開示文書の記載のうち,非開示とされた記載に係る情報をまとめると,次の①及び②のとおりとなる(以下,特に部署の明示のないものは,捜査第一課等のすべてに共通する文書を示す。)。

① 6条1項2号に該当するとして非開示とした情報(以下,併せて「本件非開示情報1」という。)

ア 「捜査費支出伺」,「支払精算書」,「捜査費交付書兼支払精算書」,「支払伝票」及びこれらに添付された領収書等並びに捜査第二課の激励慰労費執行にかかる支払精算書に添付された積算内訳書に記載された,警部補以下の階級にある警察官の氏名及び印影(以下「本件非開示情報1―1」という。)

イ 「支払精算書」及び「支払伝票」に記載された,捜査協力者ないし情報提供者(以下,併せて「捜査協力者等」という。)の住所及び氏名,捜査協力者等に対する謝礼としての物品購入先及び捜査協力者等との接触場所の名称並びに秘匿追尾の際に入場した施設及び利用した道路等の名称

ウ 領収書に記載された捜査協力者等の住所,氏名及び印影(以下,前期イの情報と併せて「本件非開示情報1―2」という。)

エ 捜査第二課の激励慰労費執行に係る「捜査費支出伺」に記載された当該事件関係者に関する情報(以下「本件非開示情報1―3」という。)

② 6条1項4号に該当するとして非開示とした情報(以下,併せて「本件非開示情報2」という。)

ア 「捜査費支出伺」,「支払精算書」,「捜査費交付書兼支払精算書」,「支払伝票」及びこれらに添付された領収書等に記載された,警察官の氏名及び印影,捜査協力者等の住所及び氏名,捜査協力者等に対する謝礼としての物品購入先及び捜査協力者等との接触場所の名称,秘匿追尾の際に入場した施設及び利用した道路等の名称,事件名,日付並びに金額等,全部の情報(以下「本件非開示情報2―1」という。)

イ 各月分の「捜査費総括表」中の,

(ア) 前月より繰越額(ただし4月分を除く。)

(イ) 本月受入額

(ウ) 本月支払額

(エ) 残額(ただし,3月分を除く。)

(オ) 前月末未精算を本月精算した結果の返納額又は追給額(△)(ただし,4月分を除く。)

(カ) 本月概算交付し翌月に精算した結果の返納額(△)又は追給額(以下「本件非開示情報2―2」という。)

ウ 各月分の「捜査費受払表」中の

ⅰ 受入額

ⅱ 支払額

ⅲ 残額(返納額)(以下「本件非開示情報2―3」という。)

(4)  本件条例の規定

本件条例のうち,本件に関する規定は,別紙「本件条例・抜粋」のとおりである(以下,6条1項2号の規定を単に「2号」と,6条1項4号の規定を単に「4号」と,6条1項2号ただし書ウ括弧書き所定の「当該公務員の氏名を公にすることにより,当該公務員の個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるものとして実施機関が定める公務員」を「非開示対象公務員」という。)。

(5)  高知県公安委員会が管理する公文書の開示等に関する規則(平成14年高知県公安委員会規則第3号。以下,他の文書,法令等において正式名称で掲記されている場合も含めて,「本件規則」という。)の規定

本件条例上の実施機関の一つである高知県公安委員会が定めた本件規則のうち,本件に関連するものは,別紙「本件規則・抜粋」のとおりである(以下,本件規則第2条(1)及び(2)所定の公務員を併せて「警部補以下の警察官等」という。)。

(6)  県警本部長が管理する公文書の開示等に関する規程(平成14年高知県警察本部告示第1号。以下,「本件規程」という。)の規定

本件規程は,「本件条例の規定に基づく高知県警察本部長が管理する公文書の開示等については,本件規則の規定の例による。」と規定して本件規則を準備し,高知県公安委員会と同様,非開示対象公務員として,警部補以下の警察官等を定めている。

(7)  高知県作成に係る「情報公開事務の手引」の内容

高知県は,平成14年7月,本件条例の解釈運用基準をまとめた「情報公開事務の手引」と題する冊子(以下「本件手引」という。)を発行しており,そのうち,6条1項2号,4号及び6条2項に関する記載の一部を抜粋すると,別紙「本件手引・抜粋」のとおりである。

(8)  捜査第一課等の所掌事務

高知県警察組織規則により,捜査第一課等の所掌事務は,別紙「捜査第一課等の所掌事務」のとおり定められている。また,捜査第一課等それぞれにつき,専門的に捜査活動に従事する捜査員により構成された特別捜査班が設置されているほか,捜査第一課には機動捜査隊が設置されている(弁論の全趣旨)。

(9)  捜査費制度の概要

会計制度が予定する,都道府県警察における捜査費に関する基本的事項は次のとおりである。

① 捜査費の性格

捜査費は,犯罪の捜査等に従事する職員の活動のための諸経費及び捜査等に関する情報提供者,捜査協力者等に対する諸経費であり,特に緊急を要し,正規の支出手続を経ていては事務に支障を来し,または,秘密を要するため,通常の支出手続を経ることができない場合に使用できる経費であって,多くの場合,債主(支払先)に対する現金払いが必要となるため,資金前渡による現金経理で執行されている(甲32,乙15)。

なお,都道府県警察に要する経費については,原則として,当該都道府県費で支弁されることとされているが,警察法37条1項8号により「国の公安に係る犯罪その他特殊の犯罪の捜査に要する経費」については国庫により支弁されることとされ,具体的には,警察法施行令2条8号所定の犯罪に関するものについて,国費から支弁されることとされている(乙6,15)。

② 捜査費の使途

捜査費の具体的な使途は多岐多様にわたるが,捜査本部等に要する経費(捜査本部等又は被害者対策班を設置したことによってそれ自体に必要となる経費)と捜査活動に要する経費(捜査員が活動するのに伴って必要となる経費)に大別され,後者の例としては,

・ 捜査協力者等に対する謝礼

・ 聞き込み,張り込み,追尾等の際に必要となる諸経費

・ 捜査協力者等との接触の際に必要となる経費

・ 被害者等の対策に要する経費

・ 長期にわたる重要事件及び困難な重要事件の捜査等に従事する捜査員等に対する簡素な激励慰労費

等が挙げられる。

③ 捜査費が支出されるまでの手続概要等(甲23,32,乙15,弁論の全趣旨)

ア 国費捜査費

(ア) 国庫支弁の対象となる捜査費の経理については,取扱責任者である都道府県警本部長等(以下「取扱責任者」という。)が,資金前途官吏(官職指定により都道府県警本部の会計課長等)から資金の交付を受け,これを交付申請に応じて,取扱者である警察本部の各課等又は各警察署の長(以下「取扱者」という。)に交付し,取扱者は,交付された現金の出納保管,捜査員への交付,これに係る会計書類等の作成,保管を行うこととなっている。

(イ) そして,国費捜査費にあっては,当該月分の残額は,翌月分に繰り越され,年度末に精算後の残額が,取扱者から取扱責任者を通じて資金前途官吏に返納される。

(ウ) 前記の取扱者から捜査員への現金の交付は,一般の捜査費においては,事前に一件ごとに使途を特定して捜査員が取扱者に交付の申請を行う必要があるのに対し,平成13年度に捜査諸雑費制度が導入されたところ,この制度においては,毎月当初にあらかじめ少額の捜査費を使途を特定せずに捜査員に交付し,一定期間内に使用実績により精算する方法をとることとなっている。

(エ) なお,計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)によれば,謝礼等の支払を受けた捜査協力者等の領収書等は,証拠書類として会計検査院に提出することとなっているが,このうち使途を明示して多数の者を介して行われる一般的な証明方法によることが適当でないと認められるものについては,同規則の規定に基づいて,会計検査院から要求があったときに提出することとし,通常は手許に保管することとする証明方法が特に認められている。

イ 県費捜査費

(ア) 県警本部長が,関係取扱者の要求に基づいて,県費捜査費を4半期ごとに配分し,取扱者は,その配分額の範囲で毎月の所要額を決定して,指定金融機関で現金化する。そして,国費捜査費と同様,各取扱者が,交付された現金の出納保管,捜査員への交付,これに係る会計書類等の作成,保管を行う。

(イ) ただ,県費捜査費は,国費捜査費とは異なり,毎月末に精算を行い,毎月分ごとの残額は,当該月分の支払終了後に戻入し,これを毎月繰り返す扱いとなっているため,年度としての残額は発生しない。

(10)  本件非開示文書の会計手続上の記載事項

① 捜査費支出伺(甲12の1,弁論の全趣旨)

捜査費支出伺は,捜査員から捜査費の請求を受けた県警本部の総括補佐,警察署の副署長又は次長(以下「補助者」という。)が,具体的事件名や支出金額,被交付者の階級,氏名等を記載して,支出の要否,妥当性等について,取扱者の決裁を受けるために作成する文書であり,記載事項は次のとおりである。

ア 決裁欄

具体的な事件捜査に関し,捜査員から捜査費の要求を受けた取扱者及び補助者が,その支出の要否,妥当性,支出金額等を判断し,決裁欄に押印するほか,当該支出に関する情報を現金出納簿に記載した者が押印する。したがって,同欄には,取扱者,補助者及び現金出納簿登記者の印影が記載される。

イ 作成年月日(「平成 年 月 日」欄)

原則として,捜査員が当該捜査費を執行する日が記載される。

ウ 支出金額(「¥   」欄)

捜査費支出伺事項が一つであれば,当該伺に係る金額が記載され,捜査費支出伺事項が複数の場合には,その支出伺事項の各金額の合計額が記載される。

エ 被交付者(「         渡」欄)

捜査費支出伺により捜査費の交付を受けた捜査員の官職及び氏名が記載され,複数の捜査員に交付する場合は,うち1名の捜査員の官職及び氏名の記載に付加して「外○名」と記載される。

オ 「官職」欄,「氏名」欄

内訳欄の「官職」欄及び「氏名」欄には,個別事件の捜査を担当する警部以下の捜査員の官職及び氏名がそれぞれ記載される。

カ 「金額」欄

内訳欄の「金額」欄には,個別の捜査費支出伺に係る金額がそれぞれ記載される。

キ 「支出事由」欄

内訳欄の「支出事由」欄には,一例を挙げると「○○会○○組○○による○○違反事件捜査費」,「○○市○○における○○事件捜査費」のように,支出の要否を判断するために必要な限りで具体的な事件名等がそれぞれ記載される。

ク 「交付年月日」欄

捜査員に捜査費が交付された年月日が記載される。

② 捜査費交付書兼支払精算書(甲12の3,弁論の全趣旨)

同書面は,捜査費のうちから,取扱者が月初めに,あらかじめ県警本部の特別捜査班長及び警察署の課長(以下「中間交付者」という。)を経て個々の捜査員に交付した捜査費の交付額等が記載されているものであり,後記③の支払伝票の捜査員毎の捜査費の交付額,支払額及び返納額が記載されている。

同書面が利用される当該捜査費は,平成13年度から運用されるようになった捜査諸雑費と称されるもので,捜査員が聞き込みや張り込み等の捜査活動において必要とする,少額多頻度かつ軽微な経費に使用するためのものである。

ア 決裁欄

中間交付者が取扱者から交付を受けた捜査諸雑費を精算及び報告した際に,取扱者,補助者が決裁印を押印するほか,当該支出に関する情報を現金出納簿に記載した者が押印する。したがって,同欄には,取扱者,補助者及び現金出納簿登記者の印影が記載される。

イ 精算・報告年月日(「平成 年 月 日」欄)

中間交付者が当該月当初に各捜査員に交付した捜査諸雑費を精算し,取扱者に報告した年月日が記載される。

ウ 取扱者あて名(「    課(署)長殿」欄)

報告あて名が記載される。

エ 中間交付者の氏名等(「      印」欄)

捜査諸雑費を当該月当初に各捜査員に交付し,当該月末にこれを精算した中間交付者の官職,氏名及び印影が記載される。

オ 概算金額受領年月日(「平成 年 月 日概算金額で〜」欄)

中間交付者が取扱者から各捜査員に交付する捜査諸雑費を概算で交付された年月日が記載される。通常は,当該月当初の年月日が記載されるが,その後捜査諸雑費に不足が生じた場合は,その都度中間交付者が取扱者から追加交付を受け,その年月日がそれぞれ追加的に記載される。

カ 「既受領額」,「交付額」,「支払額」及び「返納額」各欄

中間交付者が当該月に取扱者から交付された合計金額(既受領額),各捜査員に当該月に交付された合計金額(交付額),各捜査員が執行した合計金額(支払額)及び当該月に取扱者から交付された合計金額の残額(返納額)が記載される。

ただし,既受領額については,各月一定額が記載されるわけではなく,当該月に活発な捜査が予想される場合は,あらかじめ追加交付ができる金額を加えた額を保留分として中間交付者に交付され,また,当該月半ばにおいて個別の捜査員に不足が生じた場合には,その都度取扱者から中間交付者が追加交付を受け,それを捜査員に交付することから,その合計金額が記載される。

キ 「交付年月日」欄

内訳欄の「交付年月日」欄には,中間交付者が個々の捜査員に捜査諸雑費を交付した年月日がそれぞれ記載され,追加交付があった場合には,当初記載分に書き加えられるかたちで,年月日が順次記載される。

ク 「官職」欄

内訳欄の「官職」欄には,中間交付者から捜査諸雑費を交付された捜査員(中間交付者自身を含む。)の官職がそれぞれ記載される。

ケ 「交付者名」欄及び「確認印」欄

内訳欄の「交付者名」欄には,中間交付者自身を含め,中間交付者から捜査諸雑費を交付された捜査員の氏名が記載され,「確認印」欄には,中間交付者が精算した結果を確認した個々の捜査員の印影が記載される。

コ 内訳欄中の「交付額」欄,「支払額」欄及び「返納額」欄

内訳欄の捜査員が当該月に中間交付者から交付された当初被交付金額及び不足が生じた場合の追加被交付金額(交付額),各捜査員ごとの当該交付金額についてのそれぞれの執行額(支払額)及び残額(返納額)が記載される。

③ 支払伝票(甲12の4,弁論の全趣旨)

支払伝票は,捜査諸雑費の交付を受けた捜査員が,聞き込みや張り込みなどの捜査活動の過程で当該捜査費を執行した場合,執行日ごとに支払年月日,支払先及び支払事由を記載して作成し,執行に伴い徴取した領収書等が添付される。

ア 作成年月日(「平成 年 月 日」欄)

原則として,捜査員が捜査諸雑費を執行した年月日が記載される。

イ 捜査員の氏名等(「        印」欄)

捜査諸雑費を執行した当該捜査員が自ら記入,押印した官職,氏名及び印影が記載される。

ウ 「支払年月日」欄及び「金額」欄

当該捜査員が捜査諸雑費を執行した年月日及びその執行額がそれぞれ記載される。

エ 「支払先」欄

当該捜査諸雑費を支払った相手方(捜査協力者等,捜査協力者等に対する謝礼としての物品購入先,捜査協力者等との接触場所,秘匿追尾の際に入場した施設,利用した道路等)の氏名,名称等が記載される。

オ 「支払事由」欄

捜査協力者等の氏名,当該捜査費を執行した目的,方法等が記載される。

④ 支払精算書(甲12の2,弁論の全趣旨)

支払精算書は,捜査協力者等の氏名等を明らかにした上で,支払事由として支払目的や支払金額を記載して,領収書等を添付の上,捜査費の執行後に取扱者の決裁を受けるために作成され,捜査員が捜査費支出伺記載の捜査活動において捜査費の執行を要する場合に,捜査費支出伺により取扱者から交付を受けて執行した捜査費の精算,報告の結果が記載される。

ア 精算年月日(「平成 年 月 日」欄)

原則として,捜査員が交付を受けた捜査費を執行した日が記載される。

イ 取扱者あて名(「   課(署)長殿」欄)

報告あて名が記載される。

ウ 精算者の氏名等(「       印」欄)

捜査費を執行及び精算した捜査員が自ら記入,押印した官職,氏名及び印影が記載される。

エ 「既受領額」,「支払額」及び「差引過不足(△)額」各欄

捜査員が当該捜査活動について取扱者から交付された金額(既受領額),捜査員が当該捜査活動において執行した額(支払額),取扱者から交付を受けた捜査費を執行した結果の残額又は不足額(差引過不足(△)額)が記載される。

オ 「支払年月日」欄及び「金額」欄

当該捜査員が捜査費を執行した年月日及びその執行額がそれぞれ記載される。

カ 「支払事由」欄

捜査協力者等の氏名,当該捜査費を執行した目的,方法等が記載される。

キ 決裁欄

捜査費執行の結果について決裁する取扱者及び補助者並びに当該支出に関する情報を現金出納簿に記載した者の印影が記載される。

ク 精算結果伺

捜査費執行の結果生じた返納又は追給について,「上記の返納額について返納してよろしいか。」,「上記の不足額について支出してよろしいか。」との伺い及び精算の結果に係る,返納額を返納した年月日又は不足額についての追給を領収した年月日が記載され,さらに,不足額に対する追給を受けた際の当該捜査員が押印した印影が記載される。

ケ 取扱者名等

「領収書を徴することができなかった理由は,支払事由欄記載のとおり相違ないことを確認する。」との定型文言に続き,捜査費を執行したが領収書を徴求することができなかった場合(少額の執行に係る場合を除く。)に,その理由が記載されるとともに,その理由を確認した取扱者の氏名及び印影が記載される。

⑤ 領収書,レシート等の添付書類(弁論の全趣旨)

捜査費の現実の授受を裏付けるため,領収書やレシート等,一定の現金の受領を証明する性質の文書(以下「領収書等」という。)が,支払精算書に添えられたり,支払伝票に貼付されたりすることがある。

領収書等が添付される場合を大別すると,情報提供又は捜査協力の謝礼として捜査協力者等に現金が交付された際に,受領者本人が作成した領収書が貼付される場合と,捜査協力者等に対する謝礼として物品が交付された際の,当該物品の仕入先である業者の領収書及び捜査協力者等と接触し飲食した際の業者の領収書等が貼付される場合がある。

捜査協力者等が作成した領収書には,捜査協力者等本人が記入した,現実の受領年月日,住所,氏名及び受領金額が記載されるとともに,捜査協力者等の印影が記載される。

業者が作成又は発行した領収書等には,現実の受領年月日,受領金額,業者の名称,住所等が記載されるほか,余白に,捜査費を執行した捜査員により,関係者の氏名等支払事由が記載される。

⑥ 月分捜査費総括表(甲11の2,弁論の全趣旨)

月分捜査費総括表には,各課における国費捜査費の月ごとの繰越額,受入額,支払額,残額が記載されるとともに,返納又は追給が生じたときには,その総額も記載され,さらに,取扱者の官職,氏名及び印影が記載される。

⑦ 月分捜査費受払表(甲11の4,弁論の全趣旨)

月分捜査費受払表には,各課における県費捜査費の月ごとの受入額,支払額,残額(返納額)が記載されるとともに,取扱者の官職,氏名及び印影が記載される。

(11)  本件各開示請求及び本件非開示処分に至る経緯等

① 高知新聞による報道(以下「第1報道」という。)

ア 高知新聞は,本件各開示請求の前日である平成15年7月23日,朝刊トップ記事として,「県警捜査費を虚偽請求」,「架空「協力者」仕立てる」,「国費分7か月で196万円」,「組織的に裏金づくり」との見出しを掲げ,捜査第一課が,実在しない人物を捜査協力者等として仕立てて,警察庁に対し虚偽の捜査費請求を繰り返しており,判明しただけで,平成14年4月から同年10月までの7か月間に約196万円を請求した,金額は1回1万円から7万円と幅があり,最も多い人は4回にわたって計18万円を受け取ったことになっているなどとする記事を掲載した。同記事では,捜査第一課が用いた手法として,架空の協力者を仕立てたとするほか,接触場所とされる飲食店の領収書は,事前に金額や日付が書かれていないものを用意し,つじつま合わせに金額を記入する,協力者の氏名は電話帳から引用した人物の住所を変えるなどして偽装するといった手法が挙げられ,捜査費を使ったとされる捜査員らも上司の求めに応じて請求書類に署名していたなどと書かれている。また,裏金の使途として,数年前までは警部以上の階級にある警察官に毎月数万円の現金を支給したり,幹部の冠婚葬祭費用,部内の飲食代金等に流用され,現在でも請求とは別事件の捜査費に充てたり,捜査員が県外出張した際,捜査に協力してもらう地元警察に渡す土産代などに流用されていると書かれている(甲15の1)。

イ 高知新聞は,翌24日朝刊に,「監査逃れ 巧妙に工作」,「上司指示で捜査員協力」,「印鑑 幹部が保管,押印」との見出しで,前日同様,組織的に不正経理が行われているとする記事を掲載した(甲16)。

② 平成15年8月4日に開催された高知県議会総務委員会における答弁概略(乙13)

平成15年8月4日,高知県議会(以下,「県議会」という。)総務委員会が開催され,被告(当時は丙山三郎本部長)ほか県警本部の幹部が出席の上,捜査費の執行等に関し,出席した県議員の質問に対し答弁したが,その概要は概ね次のとおりである。

ア 被告(当時の丙山三郎本部長)

・ 調査の結果,捜査費をはじめとする予算が適切に執行されている。

・ 執行内容については,捜査活動の内容そのものであり,これを明らかにすることによって今後の捜査活動に重大な支障を及ぼすことになるため,明らかにできない。

・ 県知事に対しては,第1報道当日の7月23日,捜査費は適正に執行しており,従来から内部監査を実施したり,警察庁の監査を受けている旨報告した。

・ 虚偽請求ということ自体,システムとして存在しない。第1報道にあるような事実の摘示について,調査の結果によればそのような事実は全くない。

イ 総務参事官

・ 従来から,会計経理の適正を図るように指導を徹底している。

・ 内部監査,警察庁による実地監査,会計検査院による監査,県監査委員による監査を受け,特に指摘を受けたことはない。

ウ 刑事部長

・ 自分の経験でも,報道されたような事実はない。

・ 捜査費が適正に処理されていることを確認した。

エ 警務部長

・ 現実に捜査協力者等に捜査費が渡っており,虚偽請求ということはあり得ない。

・ 威信ないし名誉の回復については,報道されたことが事実ではないことを最も公的な場である議会で発言しており,それ以上の対処は考えていない。

③ 「捜査費執行状況等一覧表」と題する書面(甲17。以下「本件一覧表」という。)の流通等

ア 本件一覧表の外観等(甲17,58,乙14,弁論の全趣旨)

本件一覧表は,全3枚から成り,記載内容は,概ね次のとおりである。

(ア) 左から順に,「捜査員名」,「支出年月日」,「用務名」,「交付金額」,「内訳」,「出張」,「精算年月日」,「過不足額」,「備考(事件経過等)」と記載された各欄があり,「内訳」欄は,さらに「年月日」,「債主」,「金額」,「交付場所」,「領収の有無等」と記載された各欄に区分されている。

(イ) 空白なのは「出張」欄のみであるが,特に,「捜査員名」欄には,順次,延べ42名(9種類)の氏名が記載されており,当該9種類の氏名は,平成14年当時,捜査第一課に所属していた捜査員のうち9名の氏名と同一である。また,「支出年月日」欄には,平成14年のものと考えて矛盾しない月日,曜日が記載されており,「交付金額」欄には,最も小さいもので「11,000」,最も大きいもので「601,000」と記載されており,突出している「601,000」の記載を仮に「61,000」と修正すると,最も大きいものは「80,000」となり,当該欄の数字の合計は「1,961,000」となる。さらに,「内訳」欄の「債主」欄には,順次,延べ42名(27種類)の氏名が記載されており,住所としては,いずれも「高知市○○」まで記載されており,番地や号の記載はなく,「内訳」欄の「金額」欄には,最も小さいもので「10,000」,最も大きいもので「70,000」と記載されているなど,第1報道及び後記の第2報道が,本件一覧表を基になされていることが窺われる。

イ 市民オンブズマン高知の構成員戊谷五郎は,平成15年8月6日,本件一覧表を入手し,県総務委員会に所属する県議員らに対し,同月20日の総務委員会開催までの間に,本件一覧表を交付した(弁論の全趣旨)。

(12)  本件非開示処分後の経緯等

① 高知地方検察庁(以下「高知地検」という。)に対する告発(甲88の1)

原告ら外2名は,平成15年8月12日,高知地検に対し,本件一覧表を主たる根拠として,同表の「捜査員名」欄に記載された氏名と同一氏名の9名のほか,捜査第一課長,氏名不詳の会計事務職員を,共謀の上,平成14年4月4日から同年10月28日までの間,前後42回にわたって,捜査協力や情報提供がなされていないのに,これらが存在したかのごとく装って,内容虚偽の会計書類を作成して行使し,捜査費計196万円を詐取したとして,虚偽公文書作成罪,同行使罪,詐欺罪により告発した。

② 平成15年8月20日に開催された県議会総務委員会における被告らの答弁概要(乙14)

平成15年8月20日,県議会総務委員会が開催され,被告(当時は丙山三郎本部長)ほか県警本部の幹部が出席の上,捜査費の執行等に関し,出席した県議員の質問に対し答弁したが,その概要は概ね次のとおりである。

ア 被告(当時の丙山三郎本部長)

・ 捜査費は適正に執行している。

・ 与えられた情報の範囲内で内部の資料を調査し,それが実際と合っているかどうかということも具体的に調査し,マスコミが指摘する事項が捜査員の執行状況とは異なっていることも確認済みである。

・ 具体的な執行内容については,今後の捜査上極めて大きな支障があるので明らかにできない。

・ 本件一覧表については,出所が明らかでなく,作成の意図も不明である。協力者の人数も異なっており,捜査費の執行額も異なっている。保管している書類等と照合しても異なっており,これ以上の調査をする必要はないと考える。

イ 総務参事官

・ 本件一覧表のような資料は会計経理の過程で作成しない。捜査協力者等に危害が及ばないように配慮しその保護に万全を期すことは,捜査員としては最も注意を払うところであり,捜査協力者の氏名がどのような形であれ公になるということがあれば捜査に重大な支障を来すので,そのような資料を個人的にも作成することはあり得ないと考える。

・ 捜査第一課の補助者である総括補佐に確認し,そのような事実はないとの確証を得ている。

ウ 警務部長

・ 本件一覧表は出所が全く明らかでない。

・ 資料の内容等を精査し,あえて踏み込んで述べると,捜査費の執行額や協力者の数等において,実際とは異なっていることを確認している。現在捜査第一課に保管されている会計書類を確認し,取扱者である捜査第一課長,取扱補助者である捜査第一課の総括補佐にも確認した上,捜査費が適正に執行されていることを確認している。これ以上の調査は考えていない。

エ 会計課長

・ 今後は,総務委員会での議論を踏まえ,透明性を高めるため,捜査上支障を来さない範囲で,監査委員の求めに応じて会計書類を提出し,県の会計課の検査についても,監査委員と同様の範囲で求められれば提示する。

③ 高知県監査委員(以下「監査委員」という。)による事前監査における会計課長等の答弁概要(甲23,弁論の全趣旨)

監査委員は,平成15年8月21日から同年9月2日までの間,県警本部に対する事前監査(監査対象期間:平成14年7月1日から平成15年6月30日まで)を実施し,その間,平成15年8月29日には,県警本部の会計課長等に対し,捜査費の執行等に関して質問した。これに対する会計課長等の答弁の概要は概ね次のとおりである。

ア 会計課長

・ 新聞記事の内容については,当方の関知するところではなく,コメントする立場にない。

・ 本件一覧表は出所が明らかでなく,作成の意図も不明であり,答えを差し控える。

・ 捜査協力者に危害が及ばないように配慮しその保護に万全を期すことは,捜査員としては最も注意を払うところであり,捜査協力者の氏名がどのような形であれ公になるということがあれば捜査に重大な支障を来すので,そのような資料を個人的にも作成することはあり得ないと考える。

イ 総務参事官

・ 本件一覧表は会計経理の過程で作成されるものではなく,そのような資料を県警では作成していない。

・ 本件一覧表の内容については,捜査費の執行額や捜査協力者数等が実際とは異なっているが,相違の内容を明らかにすることは,結果的に捜査活動の具体的内容を明らかにすることにつながり,捜査に支障を来すおそれがあるので,説明は差し控える。

・ 既に関係者及び関係書類等による確認を行った結果,捜査費は適正に処理されていることが明らかとなっているので,現時点では再調査の必要はないと考えている。

④ 原告らは,平成15年9月5日,本訴を提起した(当裁判所に顕著な事実)。

⑤ 監査委員による監査(乙8,弁論の全趣旨)

監査委員は,前記③のとおり事前監査を実施し,県警本部による捜査費の執行状況等に関する監査を行い,平成15年9月9日,同事前監査を踏まえ定期監査を実施した。

同監査結果(以下「本件監査結果」という。)においては,県警本部における,捜査員に対する激励慰労費としての報償費の支出について自主的な返還を求める旨の意見が付されているほかは,格別,公金支出に関する意見は述べられていない。

⑥ 高知新聞の報道(以下「第2報道」という。)(甲34の1及び2,弁論の全趣旨)

高知新聞は,平成16年3月10日,朝刊トップ記事として,「県警捜査員虚偽請求認める」,「捜査費はうそ」,「地検の聴取前 幹部が口封じ」との見出しを掲げ,本件一覧表の「捜査員」欄に記載されている9人の捜査員のうち数人が取材に応じ,捜査費は交付されておらず,虚偽請求は日常茶飯事だった,高知地検から容疑者として聴取されたが,本当のことを言えるわけがない,聴取に際し,県警幹部から嘘をつくように言われたことを明らかにした旨報道した。また,社会面においては,記者との一問一答形式で,捜査員が,本件一覧表に掲げられた捜査費の執行は全てでっち上げである,領収書や精算書が入った茶封筒を渡されて,別の紙に書いてある架空の捜査協力者の氏名や金を使った場所をそのとおりに書く,書かずに放っておくと「早く書け」と催促される,捜査費を受け取ったことは一度もない,高知新聞が不正を指摘して以降も県警はまるで反省がない,高知地検の聴取に先立って,捜査第一課の総括補佐から,細かいことは言えないが要するに「嘘をついてこい」と指示されたなどと発言した旨報道されている。

⑦ 会計検査院による平成15年度決算検査報告(乙15,弁論の全趣旨)

会計検査院は,平成16年5月24日から同月26日までの間,高知県に対する実地検査(対象期間平成14年度及び平成15年度)を実施し,その過程で,県警本部における国費による捜査費の個別具体的な執行状況等についての検査を実施した。捜査第一課の捜査費の執行に係る検査においては,本件非開示文書である捜査費支払証拠書等を対象とする,マスキングのない状態における書面検査が行われたほか,会計検査院が指定した,実際に捜査費を執行した捜査第一課の捜査員3名を対象とする聞取り調査が,捜査第一課の所属長等,受検側の立会がない状況の下で行われた。

同検査結果として平成16年11月に報告された「平成15年度決算検査報告」(以下「本件検査結果」という。)においては,激励慰労費として執行された捜査費について,県警を特定することなく,警察庁の指導に必ずしも適合しない形態で執行された例が見受けられたとの指摘はなされているものの,その点を除き,県の捜査費の執行に関して特段の記載はない。

2  争点

本件の争点は,本件非開示情報1が,2号所定の非開示情報に該当するか(争点1),本件非開示情報2が,4号所定の非開示情報に該当するか(争点2),本件非開示情報1及び2が2号又は4号所定の非開示情報に該当するとして,6条2項所定の,当該公文書の開示をしないことにより保護される利益に明らかに優越する公益上の理由があるか(争点3),である。

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1―本件非開示情報1の2号該当性

(被告の主張)

① 2号の解釈基準等

2号は,3条において,原則公開とされる公文書開示制度の下においても,個人に関する情報の保護については,最大限の配慮が求められ,正当な理由なく公にされることがあってはならない旨規定されているとおり,情報開示の一方で個人のプライバシーの保護を図る必要があることを前提として,プライバシーの概念が十分に確立しておらず,また,個人のプライバシーは主観的要素が占める比重が大きく,その具体的な内容や範囲が人それぞれによって異なり,類型化することが困難であることに照らし,プライバシーに当たるか否か不明確な個人に関する情報をも含めて,特定の個人を識別することができる情報(以下「個人識別情報」という。)を非開示とする旨規定している。

したがって,たとえプライバシーに当たるか否か不明確な個人に関する情報であっても,それが個人識別情報に該当する限りは,実施機関としては本件条例上非開示とする義務がある。

② 本件非開示情報1―1の2号該当性

ア 本件規程による非開示

2号ただし書ウは,公的責任を明らかにする見地から,職務の遂行に係る情報に含まれる地方公務員の職名及び氏名については,例外的に開示する旨規定している。

もっとも,本件条例は,職務の執行に係る情報に含まれる当該公務員の氏名を開示することにより,当該公務員の個人の権利利益が侵害されることを防止するため,さらに例外として,2号ただし書ウ括弧書きにおいて,非開示対象公務員の氏名を非開示とする旨を規定しており,これを受けた本件規程は,本件規則を準用して,警部補以下の警察官等を非開示対象公務員として規定し,特に警部補以下の階級にある警察官(以下「警部補以下の警察官」という。)の氏名については,一義的に非開示とする旨を定めている。

そして,本件非開示情報1―1は,捜査費の執行に係る,警部補以下の警察官の氏名及び印影であるから,2号ただし書ウにいう「地方公務員の職務の遂行に係る情報」に該当するが,本件規程により,非開示対象公務員の氏名に該当するから,結局,2号ただし書ウの括弧書きに該当することとなる。

イ 本件規程の本件条例適合性(職務の遂行に係る警部補以下の警察官の氏名を一律に非開示とすることの条例適合性)

原告らは,本件規程が本件条例に違反して無効である旨主張するが,警部補以下の警察官等を非開示対象公務員とすることについては,平成13年3月23日の高知県議会における,高知県公安委員会及び被告が本件条例2条所定の実施機関に加わること等を内容とする本件条例の一部改正案の審議に際し,非開示対象公務員の範囲に関して,「全国的には警部補以下の者の氏名は非開示となっているが,本県は捜査に当たる者以外の中で一部の者は開示(する)」との執行部の答弁が報告され,特に異論もなく,同案が全会一致で可決されているとおり,県議会において,警部補(同相当職を含む。)以下の者で捜査に当たる者については,非開示とされることが前提として審議されており,本件規則及びこれを準用する本件規程は,そのような県議会における審議結果を踏まえて制定されている。また,次に述べるところによっても,非開示対象公務員として一律に警部補以下の警察官を定めることについて本件条例に違反するとの批判は妥当しないものであって,本件規則及び本件規程が本件条例に違反し無効であるとの原告らの主張は争う。

(ア) 警察の保有する情報の特殊性

警察の保有する情報については,次のとおり特殊性があり,2号の解釈,運用に際してもかかる特殊性が考慮されるべきである。

ⅰ 警察業務の特殊性

警察は,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕等,警察法2条に規定された責務を達成するため,刑事訴訟法,警察官職務執行法,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律等,諸々の法令に規定された権限を行使して業務を遂行しており,その対象には,暴力団,窃盗等常習犯,極左・極右暴力集団,暴走族等,犯罪を繰り返し敢行している個人や団体,私利私欲や主義主張のためには社会秩序を無視するといった反社会的な個人や団体等が含まれる。

警察職員の業務は,犯行現場や警察の責務遂行を目的とした規制活動の現場で直接,かかる個人や団体等と対峙し,行政目的を直接かつ強制的に実現するといった特質を有し,その性質上,相手方個人や団体等から反発,反感を招きやすいものであって,この点において,一般的に善良な市民や団体等を対象とする国,県,市町村等の行政機関の業務とその性格を大きく異にしている。

ⅱ 警察の保有する情報の秘匿性

警察は,その業務の性質上,犯罪の予防,鎮圧,捜査等公共の安全と秩序の維持に関する情報,個人のプライバシーに関する情報を多数保有しており,これらを公にすれば,個人の基本的人権を侵害したりするおそれが極めて強く,公文書は原則として公開すべしとする情報公開制度の下においても,これらの情報には高い秘匿性が求められる。

ⅲ また,警察活動の対象に含まれる極左・極右暴力集団,暴力団,暴走族,その他犯罪を繰り返し敢行している団体等は,自己の犯罪の発覚をおそれ,又は取締りから逃れるため,更には捜査の妨害を図るため,警察の組織,活動等警察に関する情報に強い関心を持って情報を収集しており,その対象は,警察官の氏名を含む警察の組織体制にも及んでおり,極左暴力集団が,公安担当の警察官に関する家族構成を含めた情報を収集してデータベース化した事例等も明らかになっている。

(イ) 警部補以下の警察官を非開示対象公務員とした趣旨

原告らは,非開示対象公務員の範囲を画するに際して警部以上と警部補以下とを一律に区別する客観的根拠がない旨主張するが,警察職員の氏名のうち,ⅰ 警視(同相当職を含む。)以上の階級にある職員の氏名については,もともと県発行の高知県職員録に所属,階級,職名及び氏名を登載しており,2号ただし書イに該当する,いわゆる慣行として公にされている情報に該当すると判断し,ⅱ 警部(同相当職を含む。)の階級にある職員の氏名については,警察署であれば課長又は次長,警察本部であれば総括補佐,課長補佐の職に就き,主として所属の部下職員の指揮,指導等管理的な職務に従事していることから,これら警部以上の階級にある警察官(同相当職を含む。)については,非開示対象公務員とはせず,その氏名を開示して責任の所在を可及的に明らかにする運用としている(もっとも,その氏名を開示することによって,捜査活動等に支障が生じるおそれがある場合には,6条1項4号の規定により氏名を非開示とすることはあり得る。)。

一方,警部補以下の警察官は,第一線の警察活動の現場等において,直接被疑者等と接触しながら業務に従事しており,前記(ア)の警察業務の特殊性に照らし,相手方である個人や団体等から反発及び反感を招きやすいもので,それだけに,警部以上の階級にある警察官(以下「警部以上の警察官」という。)にも増して脅迫や仕返しなど,本人やその家族に危害が加えられるおそれが高く,開示により当該警察官の個人の権利利益が侵害されるおそれがある。

(ウ) 報道機関に対する人事異動に係る情報提供との相違

原告らは,警察職員の所属,階級及び氏名については,人事異動に際して公表されており,2号ただし書イ所定の「公表を目的として作成し,又は取得した情報」に該当する情報であり,何ら個人のプライバシーを侵害しない旨主張する。

確かに,被告は,平成15年度以前において(現在は警部<同相当職を含む。>以上の職員に限定する扱いに変更した。),警部補(同相当職を含む。)以下の職員を含む警察職員の人事異動に関する情報を報道機関に提供してきたところである。

しかしながら,職員の人事異動に関する報道機関への情報提供は,春の定期異動に限定して実施していたに過ぎず,その中にあっても,その時々の治安情勢等を考慮して,特定の犯罪捜査に従事する職員については情報を提供しない措置を講じ,捜査活動の応援等の必要性から随時行われている人事異動等に関する情報は提供しない扱いとするなど,慎重に判断して行っていたほか,警部(同相当職を含む。)以上の職員については,所属,階級のほか職名をも提供していたのに対し,警部補(同相当職を含む。)以下の職員については,所属,階級のみを提供するにとどめ,異動先における業務内容が明らかとならない措置を講じていたのであって,報道機関への情報提供においても,従前から両者の取扱いに差異を設けていた。

また,警部補(同相当職を含む。)以下の警察職員の人事異動に関する報道機関への情報提供によっても,職員全体のうち一部の限られた人事異動者の所属,階級及び氏名が一時的に明らかとされるに過ぎないのに対し,本件非開示文書における捜査員の氏名が開示されることとなれば,その者が何らかの捜査に従事しているという事実のほか,他の情報ともあいまって,どの捜査員が,どのような事件捜査を担当し,どのような事件捜査で捜査費を執行しているのか,さらには,捜査員のうち誰が捜査協力者を運用しているのかなど,犯罪捜査の状況等までもが明らかとなるものであり,一部の限られた職員の人事異動を報道機関に情報提供することとは,質的に全く異なっている。

本件手引によれば,2号ただし書イの「公表を目的として作成し,又は取得した情報」には,「慣行として公にされ又は公にされることが予定されており,公表しても社会通念上個人の権利利益を侵害するおそれがないと認められる情報」も該当するとされているが,本件非開示情報1―1は,捜査費の執行に係る文書における警部補以下の警察官の氏名及び印影であって,これが公表を目的として作成されるものではないことは明らかであり,また,これを開示することにより公にされる情報が「慣行として公にされ又は公にされることが予定されており,公表しても社会通念上個人の権利利益を侵害するおそれがないと認められる情報」でないことも明らかである。

(エ) 警察手帳の提示等による氏名開示との相違

原告らは,警察職員が警察手帳を提示するなどして,氏名を明らかにしながら日常の業務を遂行しているなどとして,前記(ウ)同様,警察官の氏名は2号ただし書イ所定の情報に該当する旨主張するが,警察官がその職務執行の過程において氏名を明らかにすることと,条例に基づく開示請求を受けて当然に開示が義務づけられることとは全く性質が異なる。

例えば,警察手帳は,警察手帳規則(昭和29年国家公安委員会規則第4号)に基づき,原則として常時携帯が義務付けられており,職務の遂行に当たり警察官であることを示す必要がある場合(法令により身分を示すことが義務づけられている場合や,相手方から提示を求められた場合等)に,相手方に提示して当該警察官の身分を明らかにすることはあるが,一律に提示が義務づけられているわけではなく,騒然とした犯罪現場における職務執行中や,提示することにより警察官等に嫌がらせや脅迫など危害が加えられるおそれがある場合においては,提示しないこともあり,その他,氏名の開示が一律に義務づけられるわけではないから,警察官のその職務執行の過程において氏名を明らかにすることがあるからといって,警察官の氏名が2号ただし書イ所定の情報に当たることにはならない。

③ 本件非開示情報1―2の2号該当性

ア 捜査協力者等の住所,氏名,印影等が,2号所定の個人識別情報であり,かつ,同号ただし書のいずれにも該当しないことは明らかである。

イ 原告らは,偽名や偽りの住所の記載であれば開示することに問題はない旨主張するが,警察の捜査には,暴力団による犯罪や贈収賄事件の捜査など秘匿を前提とした捜査が多く,これらの捜査に関する捜査協力者等については,氏名等はもとより,存在すること自体を完全に秘匿する必要がある。なぜならば,仮にペンネーム等の本名以外の氏名を記載したとしても,当該情報が公になれば,当該事件捜査に捜査協力者等が存在することが明らかになることから,例えば,組織的に犯罪を繰り返している暴力団等は,当該情報を基に,組織内やその周辺者からあらゆる手段を利用して捜査協力者等を割り出し,危害を加えるおそれがあり,したがって,偽名や偽住所も個人識別情報に当たるものというべきである。

また,原告らは,捜査諸雑費の支出の関係で作成される支払伝票にも記載される金銭を受け取った者の氏名及び住所のうちには,駐車場や高速道路の料金所,コンビニ,スーパーマーケット及び飲食店などの名称が記載されているものがあり,その場合,個人の氏名及び住所が記載されることは原則としてないはずであるし,仮に記載されることがあったとしても,当該記載は2号所定の「個人に関する情報」から除外される「事業を営む個人の当該事業に係る情報」に関連することとなるから,いずれにしても2号所定の非開示情報には該当しないと主張するが,争う。

④ 本件非開示情報1―3の2号該当性

捜査第二課が取り扱った加重収賄事件の関係者に関する情報は,既に開示している捜査費支払証拠書の表紙に記載された年月や報道等,他の情報と結びつけることにより,特定の個人を識別することができる情報であり,2号にいう他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができる情報に該当し,かつ,同号ただし書のいずれにも該当しないことは明らかである。

(原告らの主張)

① 2号の解釈

本件手引によれば,2号は個人のプライバシー保護の観点から規定されたものであるから,形式的に個人識別情報に該当するものであったとしても,それが個人のプライバシーとは関係のない事項にわたるものである場合には,2号を根拠として非開示とすることは許されないというべきである。

② 本件非開示情報1―1の2号該当性

ア 被告は,本件規程及び本件規程が準用する本件規則2条を根拠として警部補以下の警察官の氏名をすべて非開示としているが,次に述べるところにより,本件規則2条の規定は本件条例の趣旨に反し無効であり,これを準用する本件規程も無効であって,結局,本件条例において警部補以下の警察官の氏名及び印影を非開示とする旨の規定は存在しないのと同様であるから,警部補以下の警察官の氏名及び印影は,2号ただし書ウにより開示されるべき情報に該当する。

(ア) 2号ただし書ウ括弧書きは,実施機関が定める非開示対象公務員について,その氏名の非開示を規定しているが,どの範囲の職員の氏名を非開示とするかについては,単に実施機関が定めるとされているに過ぎないため,議会において個別具体的に検討することが全く予定されていない。

しかし,このような立法手法は議会の条例制定権を空洞化させるおそれがあるから,本件条例の委任を受けて実施機関において非開示対象公務員の範囲を定めるに際しては,当該公務員の氏名を開示することと,それにより生じる当該公務員の権利利益の侵害の有無及び内容を慎重に判断しなければならないのであって,実施機関による非開示対象公務員の画定が「当該公務員の氏名を公にすることにより,当該公務員の個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある」という立法事実を欠き,合理性を持たないものである場合には,当該画定は2号但書ウ括弧書きの委任の範囲を逸脱したものとして無効というべきである。

なお,そのような厳格な解釈をしても,6条1項5号の「人」には,2号ただし書ウ(ア)(イ)(ウ)に該当する者も含まれる以上,開示することによって当該人の生命,身体,財産の保護に支障を生ずるおそれのある情報は非開示となるから,実際上の不都合は生じない。

(イ) 本件規程は,警部補以下の警察官の氏名を一律に非開示とするものであるが,何故,警部補以下の警察官の氏名を開示することが,一律に「当該公務員の個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある」ことになるのか,そのような「おそれ」の根拠となる事態は全く明らかにされておらず,反面,かつて警察庁長官が狙撃されたように,上位者が攻撃の対象となることもあるのであって,警部以上についてはそのような「おそれ」がないと決め付けるのも不可解であり,どこかの階級で一律に区分して網羅的に規定しておけば足りるというだけでは,「おそれ」の類型化にはならない。このような網羅的な非開示には何らの合理的根拠がないというべきである。

また,平成14年当時にあっては,報道機関に対し,警部補以下の警察官の人事異動について公表されていたことからしても,本件条例の運用に際して,警部補以下の警察官の氏名を一律に非開示とすべき合理的根拠はない。

さらに,現場において日常的な警察業務に従事する,圧倒的多数の警部補以下の警察官は,これらの基準によらずに,地域生活者との信頼関係に基づく意思疎通を可能ならしめる必要からも,警察手帳を提示するなどして,あるいは求めに応じて氏名を名乗るなどして,現に氏名を明らかにして業務に従事している。また,氏名を出さずに職務を遂行する必要がある警察職員が存在するにしても,そのような職員はごく一部に過ぎず,大部分の警察職員は,氏名を明らかにして業務に従事すべきが原則なのであって,警部補以下の警察官の氏名を一律に非開示とすべき合理的根拠はない。

イ また,警部補以下の警察官の氏名は,前記のとおり,人事異動の際に報道されたり,あるいは,日常の業務において警察手帳を提示するなどして明らかになる情報であって,2号ただし書イの「公表を目的として作成し,又は取得した情報」に該当するものであり,何ら個人のプライバシーを侵害するものではないから,かかる観点からも,警部補以下の警察官の氏名を一律に非開示とする本件規則及び本件規程は本件条例に違反するというべきである。

③ 本件非開示情報1―2の2号該当性

ア 本件非開示文書中に,捜査協力者等の実名や実際の住所が記載されている場合に,それらが個人識別情報に当たることは認めるが,被告が主張する平成14年当時における運用によれば,捜査協力者等が実名や実際の住所を記載することを望まない場合には,偽名(ペンネーム等を含む)の記載をもって代替することもあるとのことであり,その場合,当該偽名から特定の個人を識別することはできないから,偽名の記載は2号本文所定の個人識別情報には該当しないというべきである。

イ また,捜査諸雑費の支出の関係で作成される支払伝票にも金銭を受け取った者の氏名及び住所が書かれるのが通例であるが,この場合の「金銭を受け取った者」には,被告の主張によれば,駐車場や高速道路の料金所,コンビニ,スーパーマーケット及び飲食店などの名称が記載されるものがあり,その場合,個人の氏名及び住所が記載されることは原則としてないと解され,仮に記載されることがあったとしても,当該記載は2号所定の個人識別情報から除外される「事業を営む個人の当該事業に係る情報」に関連することとなるから,いずれにしても2号本文所定の個人識別情報には該当しないというべきである。

④ 本件非開示情報1―3の2号該当性

部分開示の対象となった,捜査第二課の激励捜査費に関する捜査費支出伺の支出事由欄の墨塗り部分には,それに続けて「による公文書偽造に絡む加重収賄事件捜査激励慰労費」と記載されていることに照らし,当該事件に係る被疑者の氏名が記載されているものと解される。

この点について,被告は,「他の情報と結びつけることにより,特定の個人を識別することができる情報が記載されており,かつ,2号ただし書のいずれにも該当しない」と主張するが,当該墨塗り部分に記載されているのは氏名だけであり,「個人に関する情報」は何も記載されていないから,そもそも2号本文に該当しないというべきである。

また,2号本文に該当するとしても,「公文書偽造に絡む加重収賄事件」という事件名からして,事件は公共に関わるものであり,かつ,捜査激励をするほどの重大な事件であると解され,そうだとすれば,当該事件の被疑者については,すでに実名で逮捕報道などがなされているはずであり,社会的に公知となっているものと解される上,逮捕時に氏名を公表することも当初から予定されていたはずであるから,当該事件の被疑者の氏名は,2号ただし書イの「公表を目的として取得した情報」に該当するから,非開示とすることは許されないというべきである。

(2)  争点2―本件非開示情報2の4号該当性

(被告の主張)

① 4号の解釈等

ア 実施機関の第1次判断権

4号でいう,開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがある情報(以下「公共安全情報」という。)については,6条1項所定の他の号におけるのと異なり,その性質上,開示,非開示の判断に,犯罪等に関する将来予測としての専門的,技術的な判断を要することなどの特殊性が認められることから,条例の文言上,「〜支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定されている。これは,本件手引にも示されているとおり,当該非開示情報が公共安全情報に該当するか否かについて実施機関の第1次判断権が尊重され,裁判所は,その判断が合理性を有する判断として許容される限度内のものであるか(相当な理由があるか)否かについて審理,判断すべきことを趣旨とするものである。

イ 警察が保有する情報の特質と4号該当性

(ア) 前記(1)(被告の主張)②イ(ア)のとおり,警察は,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕等,警察法2条に規定された責務を達成するため,刑事訴訟法,警察官職務執行法,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律等,諸々の法令に規定された権限を行使して業務を遂行しており,その業務の性質上,犯罪の予防,鎮圧,捜査等,公共の安全と秩序の維持に関する情報を多数保有しているところ,これらを公にすれば,事後の捜査が困難又は不能となるおそれが極めて強いのであって,これらの情報には高い秘匿性が求められる。例えば,捜査方針や取調べの手法等に関する情報が開示されれば,犯罪を企図する者に対抗措置をとられ,ひいては警察責務の達成に支障が生じることとなるほか,その存在自体の秘匿が要求される内偵捜査に関する情報が開示されれば,内偵捜査による捜査目的の達成は不能となる。さらに,情報提供の秘匿を前提として入手した情報や情報提供者に関する情報が開示されれば,捜査の目的が達成することができないばかりか,場合によっては情報提供者に危害が及ぶおそれすらある。

また,警察業務の対象には,その業務の性質上,暴力団,窃盗等常習犯,極左・極右暴力集団,暴走族等犯罪を繰り返し敢行している個人や団体,あるいは,私利私欲や主義主張のためには社会秩序を無視するといった反社会的な個人や団体等が含まれるところであるが,これらの個人や団体等は,自己の犯罪の発覚を防止するため,あるいは取締りを免れるため,更には捜査の妨害を図るなどの目的で,警察の組織や活動等,警察に関する情報に強い関心を持ち,日常的に情報を収集している。その情報収集の対象は,警察施設の位置・規模,警察車両の性能・台数,装備品の種別・性能・数量,警察官の人員・氏名等警察の組織体制はもとより,前記の捜査の手段,方法等を含む捜査活動の全般にわたっており,極左暴力集団が警察無線を傍受したり,公安担当の警察官について,家族構成を含めた情報を収集してデータベース化した事例等が明らかになっているところでもある。

警察としては,これらの団体等が,どのような情報を,どのような犯罪の,どのような場面で,どのように利用しようとしているのか,これらを全てにわたって具体的に予測することは困難であるとはいえ,仮に管理する公共安全情報がそのような反社会的な個人や団体等によって利用され,犯罪の予防や捜査活動等に支障が生じた場合には,高知県民の生命,身体,財産等の安全に対する脅威をもたらす結果を招くことになる以上,そのような情報が犯罪組織等に入手されることを防止すべき責務がある。

(イ) 前記(ア)によれば,4号に規定する「支障を生じるおそれ」の解釈に当たっては,これらの反社会的な個人や団体等が公開される情報を利用し,それにより公共の安全と秩序の維持等に支障が生じることにつき,ある程度,抽象的,類型的なおそれが認められることをもって足りると解するべきであって,そうでなければ,重要な法益の保護に欠けることとなる。

② 本件非開示情報2―1の4号該当性

ア 個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報について

(ア) 個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報は,犯罪捜査活動の実態を費用面から表すものであり,一つの執行に関する情報それ自体が捜査に関する情報であるばかりか,これを事件ごとに一連のものとして精査した場合,事件ごとの捜査体制,捜査方針,捜査手法及び捜査の進展状況といった各種捜査情報を反映する情報である。

本件非開示情報2―1には,本件非開示処分の時点において現に捜査継続中の事件等の個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報が含まれており,これらの情報を公にすれば,当該事件捜査に係る前記の各種捜査情報の判明につながり,被疑者等の事件関係者が逃走や証拠隠滅を図るおそれがあるほか,更なる犯罪等を敢行するおそれがある。

また,捜査が終結した事件についても,個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報は,事件ごとの捜査体制,捜査方針,捜査手法及び捜査の進展状況といった各種捜査情報を反映する性質を有することから,事件ごとに一連のものとして精査した場合,どのような事件に対して警察がどのような方針をとり,どのような捜査を進めていったのかという分析が可能となる。また,個別執行に係る金額が明らかになることにより,端的に,捜査協力者等において,開示された金額と自己が受領した金額を対比することによって,自己の協力を低く評価されたとして今後の協力を拒む等の事態に至ることも懸念される。

このような個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報と,当該事件について新聞,雑誌等から得られる情報や事件関係者等から得られる情報等とを照合すれば,捜査活動状況が推察される可能性は格段に高まることとなる。

以上の理由から,個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報が開示されれば,公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると判断し,非開示とした。

(イ) 原告らは,日付や金額は具体的事実とは無関係である,開示しても捜査費の支出(金額)自体から捜査協力者等の具体的特定はできず,特定事件の進行を知ることは不可能であるなどと主張する。

しかしながら,犯罪者集団などにあっては,集団内部に捜査協力者等が存在するのではないかと常に神経を尖らせており,また,警察の捜査の進展状況に重大な関心を寄せているものであって,過去においても,極左暴力集団が警察無線を傍受するなどして警察の捜査情報等を集めていた事例が明らかとなっている。

このように,被疑者等の事件関係者や捜査手法等の分析を意図する者は,様々な方法で当該事件に関する独自の情報を収集し,保有しているものであって,日付等の,それ自体としては開示しても直ちに格別問題を生じないと思われるような断片的な情報であっても,そのような断片的情報と,独自に有する情報とを照合・分析することにより,捜査協力者等を特定したり,捜査の進展状況等を察知するなどして,逃走や証拠隠滅,更には捜査手法等に応じた対抗措置を講じられるおそれがある。

さらに,これらの断片的情報を公にすると,部分開示によっても,文書の枚数は明らかになるから,個別の執行件数を推認され,月毎の枚数や執行件数の変動状況と事件発生や事件の伏在している可能性のある事案の報道等の情報及び被疑者等の事件関係者自らが知り得る情報とを照合,分析することにより,捜査の進展状況等を推察して,被疑者等の事件関係者が逃走や罪証隠滅を図ったり,犯罪を企図する者が捜査の網をかいくぐって犯罪を敢行するおそれがある。

したがって,日付や金額は開示しても支障は生じないなどとの原告らの主張は失当である。

イ 個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報のうち,捜査協力者等に係る情報について

(ア) 捜査に関する重要かつ決定的な情報を得るため,警察では,周辺協力者のみならず,被疑者の直近者又は犯罪集団等の内部中枢にも協力者を確保し,運用しているところであるが,それだけに,捜査協力者等は,被疑者や事件関係者等に,警察に対する協力が発覚した場合には,自己のみならず,その家族等の生命,身体等にまで危害が及びかねないという大きな危険にさらされている。にもかかわらず,捜査協力者等が捜査に協力するのは,自己が捜査協力者等であること自体が警察によって完全に秘匿されるものであるという信頼が大前提として存在するからである。

このように,捜査協力者等の氏名等が推し測られる事項が,完全に秘匿されることが捜査協力を得るための絶対条件の一つであり,かつ,たとえ捜査協力者等の氏名を伏せたとしても,組織内部あるいは身近に警察の捜査協力者等がいると察知されるだけで,犯罪集団等が内部の捜査協力者等の割り出しを行ったり,更には捜査協力者等に偽りの情報を流して捜査を攪乱するなどの行動が可能となるのであって,捜査協力者等が存在すること自体を知られることは,その後の捜査が攪乱されるのみならず,捜査協力者等自身に不安を生じさせ,結果的には接触や協力そのものの拒絶を余儀なくさせ,あるいは以後警察に協力しようとする者にまで萎縮効果を及ぼすおそれがあり,当該事件のその後の捜査あるいは警察の捜査全般に重大な支障を来すこととなり,ひいては県民の生命,身体,財産等の安全に対する脅威をもたらすなど治安の著しい悪化を招き,県民に対して回復し難い不利益をもたらすものである。

以上のとおり,捜査協力者等に係る情報については公にされれば犯罪の予防,捜査等に支障を生ずるおそれがある。

(イ) なお,捜査協力者等からの領収書は,原則として本名による徴取を行っているものであるが,暴力団犯罪や外国人グループの犯罪等の組織的な犯罪においては,警察に協力したことが発覚した場合,本人のみならず家族等に危害が及ぶおそれが極めて高く,これを危惧する捜査協力者等がペンネーム等の本名以外の名前を領収書に記載した場合には,やむを得ずこれを受領してきたところである(平成16年4月以降は本名による領収書しか徴取しない扱いに改めた。)。

そして,原告らは,ペンネーム等であれば開示しても実害は生じない,架空の氏名が明らかにされたことにより特定の者が攻撃されることはあり得ないなどと主張する。

しかしながら,犯罪者集団などにあっては,内部に捜査協力者等が存在しているのではないかとの疑いを持ち,その割り出しに神経を尖らせているのが常であるから,たとえ領収書の氏名がペンネーム等の本名以外の名前であったとしても,そのペンネーム等の本名以外の名前自体や筆跡,日付等の情報と組織内での者の動きや独自に収集した情報とを比較検討することなどにより捜査協力者等を割り出すことは可能であり,また,捜査協力者等が使っているペンネーム等の本名以外の名前が組織に露見あるいは推測され,捜査協力者等と特定される可能性も否定できない。

以上のとおり,ペンネーム等の本名以外の名前であれば開示しても実害はないとの原告らの主張は失当である。

③ 本件非開示情報2―2及び2―3の4号該当性

ア 各月分の捜査費総括表の「本月受入額」及び「本月支払額」並びに各月分の捜査費受払表の「受入額」及び「支払額」

捜査費は,捜査の進展状況や今後予想される事案等を勘案するなどして,各月分の所要額が,取扱者に現金交付され,更に取扱者から個々の捜査員に交付され,個々の捜査員が捜査活動の過程で執行しているものであることから,各月分の捜査費に関する情報は捜査活動に密接に関連したものであり,各月分の捜査費総括表の「本月受入額」及び「本月支払額」並びに各月分の捜査費受払表の「受入額」及び「支払額」として記載された金額は,当該所属における当該月の捜査活動等の実態そのものを反映し,数値的に表しているものである。

したがって,特定の所属の捜査費月額(受入額,支払額)を開示して公にすると,毎月額の変動状況と,犯罪に関する報道等の情報,被疑者等事件関係者自身が持つ犯行の具体的内容等の情報とを比較・分析することにより,当該所属の捜査活動等の活発さや進展状況等の動向を推察することが可能となって,被疑者等の事件関係者による逃走,罪証隠滅等の対抗措置を講じられるおそれがある。

また,犯罪捜査は警察本部単独で行うことは少なく,警察署と一体となって行うことが通常であるが,警察本部の事件主管課と各警察署の捜査費の変動状況を比較・分析すれば,どのような犯罪をどこの警察署が捜査中なのか,どこの地域で捜査が進展しているのかといったことまで推察することも可能となり,捜査活動の状況が推察される可能性は格段に高まることとなる。例えば,ある警察署と警察本部のある所属の捜査費の執行額が同じ月に急に増加したことが分かると,どの地域のどのような事件を捜査しているのかという具体的なことまで推察することができる。このような情報が,その実施自体を完全に秘匿する必要がある内偵捜査を実施している段階で開示されるようなことになれば,事件関係者が警戒するばかりでなく,逃走や証拠隠滅等の対抗措置を講じ,以後の捜査に重大な支障が生じることとなる。他方,ある警察署や警察本部のある所属の執行が少ない場合には,捜査が進展していないということが推測され,犯罪を助長するなどのおそれがある。このような事態が発生すれば,警察に対する県民の信頼は揺るぎ,結果として県民の安全に対する脅威が増大することとなる。

以上のとおり,各月分の捜査費総括表の「本月受入額」及び「本月支払額」並びに各月分の捜査費受払表の「受入額」及び「支払額」を開示すれば,犯罪の予防,鎮圧又は捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあるため非開示とした。

イ 各月分の捜査費総括表の「前月からの繰越額」及び「残額」並びに各月分の捜査費受払表の「残額(返納額)」

これらの情報は,それぞれ,前月又は当月に執行されなかった捜査費の金額を示しており,これらの情報を開示することにより,捜査活動が当初の見込みどおりに進展し,又は進展しなかった事実が明らかになることから,前記アと同様の理由により非開示とした。

ウ 各月分の捜査費総括表の「前月末未精算を本月精算した結果の返納額又は追給額(△)」及び「本月概算交付し翌月に精算した結果の返納額(△)又は追給額」

当該欄に記載された金額は,捜査活動が深夜に及んだ場合や遠方で行われた場合など,精算が翌月になったときに精算した金額の情報であることから,これらの情報を開示することにより,月末から翌月当初にわたる捜査員の活動状況が明らかとなることから,前記アと同様の理由により非開示とした。

エ 事件捜査終結後の情報について

原告らは,事件捜査が終結すれば犯罪捜査等に支障を来すおそれがないと主張するが,事件捜査の期間は,個々の事件によって異なるものであって,外国人等のグループによる大がかりな窃盗事件や暴力団等の組織を背景にした事件,あるいは贈収賄事件の捜査等においては,捜査の端緒を入手してから最終的な検挙に至るまでに,相当長期の内偵捜査を要するものがある。

したがって,過去の犯罪捜査の実態から少なくとも3年が経過するまでは非開示とする必要がある。

(原告らの主張)

① 会計文書と4号該当性

ア 4号が掲げる「犯罪の予防」,「犯罪の鎮圧」,「犯罪の捜査」,「公訴の維持」,「刑の執行」及び「その他の公共の安全と秩序の維持」という概念自体,極めて広範に及び,かつ,漠然としている上,「支障を生ずるおそれがある」という条件も,「支障」の内容及び「おそれ」の捉え方によってはかなり広範に及ぶことになり,加えて「おそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある」という規定振りとなっていることに照らすと,さらに漠然とした広範囲の情報が,4号該当を理由として非開示とされるおそれがある。

しかし,このような文言から,漠然とした広範囲の情報が非開示とされるとなると,原則公開とした本件条例の制度趣旨(1条)及び規定(6条1項本文)に反することになりかねないのであって,4号の解釈運用における実施機関の非開示決定の濫用を抑制するためには,その解釈運用を厳格に行う必要がある。

イ ところで,本件手引には,公共安全情報の具体例として,ア 犯罪の捜査の事実又は内容に関する情報,イ 犯罪捜査等の手法,技術,体制等に関する情報,ウ 情報提供者,被疑者,捜査員等関係者に関する情報,エ 犯罪の予防,鎮圧に関する手法,技術,体制等に関する情報,オ 犯罪を誘発し,又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報等が掲げられてはいるが,本件非開示文書のような会計文書は一つも示されていない。もっとも,ウにおいて「情報提供者,被疑者,捜査員等関係者に関する情報」が例として挙げられているが,前後のア,イ,エ,オと比較すると,ここで問題にしている「情報」は,具体的な犯罪捜査の内容に関するものであって,情報提供者,被疑者,捜査員等関係者への費用支出の日付や金額などではない。

また,本件手引は,平成14年7月に発行されているところ,この時期には,既に全国的に自治体の会計文書の公開が進んでおり,警察本部長が管理する会計文書についても,当然,公開の要請が強まることがわかっていながら,この点に関する指摘が何もなされていないのは,会計文書が開示されることによって4号に掲げるような事項に関して実務上支障が生じることを被告において予想しておらず,他の実施機関と同様に,会計文書が公開されることを想定していたからだと考えるのが合理的であり,会計文書ないしそれに記載された情報は,全て開示すべきである。

ウ 本件非開示情報2は,いずれも会計文書ないし会計文書に属する情報であり,本件手引によっても,これらは基本的には公共安全情報に該当することが想定されていないのであるから,4号該当を理由として非開示とすることは許されないというべきである。

② 本件非開示情報2の4号該当性

仮に,会計文書に記載されている情報が公共安全情報に該当する場合があり得るとしても,本件非開示情報2は,次のとおり,いずれも公共安全情報には該当しない。

ア 本件非開示情報2―1の4号該当性

(ア) 被告は,個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報を開示すると,捜査の動向が明らかとなり,被疑者等の事件関係者において逃亡,証拠隠滅等の対抗措置を講じられるおそれがある,捜査協力者等が特定され,被疑者等により危害を加えられるおそれがあるなどと主張する。

ところで,「捜査の動向が明らかとなり」という以上,現に進行中の犯罪捜査を念頭に置くべきであり,現に捜査を行っていないか,捜査が終了している事件については,情報開示によって捜査の動向が明らかになるといった事態を観念することはできない。

そして,「捜査の動向」は文字通り動きであり,時々刻々と変わる情勢であるから,捜査の動き,会計文書の作成及び当該文書の開示がほとんど同時に並行する場合でなければ,開示された会計文書を通じて「捜査の動向」を把握することは不可能である。そのような場合は,あるいは「犯罪の捜査」に支障を生じるおそれが否定できないかもしれないが,本件についてみると,本件各開示請求は平成15年7月24日に行われ,対象文書は平成14年度のものであるのに対し,本件非開示処分は平成15年8月6日又は翌7日に行われており,文書作成時期と開示時期とは,最も短いものでも4か月以上,長いものでは1年4か月も経過しており,およそ同時並行といえるものではなく,そのような古い会計文書だけを見て,捜査の動向を把握することは不可能である。ましてや,前記のとおり,すでに捜査が終了しているか捜査をしていない事件については,捜査の動向を把握するという状況があり得ないものであって,本件各開示請求により捜査の動向を把握することが不可能な状況にある以上,犯罪の捜査に支障が生じるおそれがあるとして古い会計文書を非開示とすることは許されないというべきである。

(イ) 被告は,個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報の収集により,どのような事件に対して警察がどのような方針をとり,どのように捜査を進めていったのかといった事項について分析が可能になる旨主張するが,このような不可解にして奇想天外な創作話に基づいて,4号該当性を肯定することは許されないというべきである。

捜査費の支出金額自体が明らかにされたとしても,捜査協力者の具体的特定はもとより,対象すら判明するものではない。また,支払事由欄の記載が明らかにされたとしても,捜査活動の個別具体的な内容が判明するわけではない。さらに,たとえ具体的事件名が判明したとしても,被疑事実の詳細までもが判明するわけではない。支出日や精算日も,これが明らかになったからといって,それらの情報を,具体的な犯罪及びそれに対する捜査状況と関連づけることは,警察関係者以外にはおよそ不可能である。また,決裁欄の担当者の職名及び印影は警部以上のものであって,従来から開示されているものである。

(ウ) 被告は,捜査協力者等が特定され,被疑者等により危害を加えられるおそれがあると主張するが,そのような「おそれ」が,情報開示によって,すべての捜査協力者等に一律に生じるわけではない。事件の内容,捜査協力者等と被疑者等の関係,協力の内容,協力の内容に関する被疑者等の受け止め方によっては,そのような「おそれ」がない場合もあり得るし,被疑者等が,特定の人物が捜査に協力していることを既に知っている場合には,被疑者等がわざわざ情報公開を請求することはあり得ず,むしろ情報公開とは無関係に,捜査協力者等が危害を加えられるおそれが存在している。また,捜査協力者等の氏名については,県議会総務委員会における被告側の説明によれば,必要に応じて会計書類に偽名(ペンネーム等)を記載させて処理しているとのことでもあって,捜査協力者等の全てに危害が及ぶおそれがあるなどというのは,極めて抽象的,観念的な危惧に過ぎない。

そもそも,捜査協力者等の保護のために本当に非開示にしなければならない氏名等が記載された文書が存在するのであれば,被告側は,本件各開示請求に対して,個々の文書について非開示事由への該当性を真摯に検討したはずであり,そのことが非開示決定理由欄への記載や本件訴訟における主張に反映されているはずであるが,本件非開示理由は,公共安全情報に該当するおそれがある旨抽象的に記載されているに過ぎず,4号のいかなる事由に該当するのかすら判然とせず,被告が真摯に検討した形跡は全く見られない。

イ 本件非開示情報2―2及び2―3の4号該当性

被告は,本件非開示情報2―2及び2―3を開示すると,金額の変動状況と他の情報との比較・分析により,捜査の動向が推測され,被疑者等の事件関係者において,逃亡や証拠隠滅等の対抗措置を講じられるおそれがある旨主張するが,詭弁である。そもそも,各月の予算消化状況を総括した一覧表を事後的に入手しただけでは,いかなる犯罪に係る捜査がどの程度進展しているのかを把握することなど不可能であり,まして,被疑者等が現在又は将来の捜査状況を推察したり,逃亡や罪証隠滅を講じることは不可能というべきである。

特に本件においては,前記ア(ア)と同様,会計文書作成から開示請求までの間に4か月乃至1年4か月も経過しているのであって,これらの会計文書に対応する犯罪捜査が一つも解決せず,被疑者等の事件関係者が逃亡や証拠隠滅等の対抗措置を講じる状況が続いているなどという説明を被告が行うことは,自ら捜査無能力を公言しているのと同じである。また,「おそれ」というものは個別の事件ごとに異なるし,時間の経過や状況の変化によって変わってくる。そのような説明を一切しないで,すべての事件について「おそれがある」などということはあり得ないのであって,被告の主張は実態を無視したものである。

(3)  争点3―6条2項の明らかに優越する公益上の理由の有無

(原告らの主張)

① 6条2項の解釈

本件手引によれば,6条2項は,公文書の開示の請求に対して,非開示情報であっても,開示することに優越的な公益があると認められる場合には,開示することを定めたものとされ,そのような場合の一例として,条例の目的を達成する上で当該情報の開示が不可欠であると認められる場合が挙げられている。

ここにいう「公益」の概念は必ずしも一義的に明らかではないが,だからといって,この規定の適用を控えるということになるならば,この規定の存在意義は失われてしまうのであって,個別具体的な事案ごとに,「公益」の具体的な内容とその「優越」性を検討する必要がある。

また,被告は,6条2項が実施機関に裁量権を付与した規定である旨主張するが,非開示によって保護される利益よりも明らかに優越する公益がある場合には,当該情報の開示が義務づけられるものと解するべきである。

② 組織的不正経理の実在

警察の組織的不正経理をなくすことが「公益」に合致することは自明である。もちろん,この場合においても,プライバシー等との比較考量は必要であるが,組織的不正経理の一環として作成された内容虚偽の捜査費支出伺,支払精算書,領収書等が開示されたとしても,実際の捜査に支障を生じることはないし,知らないうちに捜査協力者等(債主)に仕立て上げられて氏名を利用された者は,怒りから氏名権の侵害を理由に損害賠償請求をすることはあっても,隠しておいてもらわないと被疑者に生命を狙われるから困るというような関係もあり得ないのであるから,警察の組織的不正経理を温存しても保護しなければならない利益の有無・範囲については,慎重に検討すべきである。

ア 日本警察における組織的不正経理の実態

警視庁,北海道警察本部,静岡県警察本部,福岡県警察本部,愛媛県警察本部などで不正経理が問題となったことなどから明らかなように,警察の不正経理は,警察庁(警察法16条2項,17条,5条2項参照)の許容の下,組織的に行われているものであって,偶発的なものでも,個人的なものでもない。

イ 県警本部における組織的不正経理の存在

しかるに,被告は,警察の不正経理が組織的に行われているという前記アの事実を認めようとしない。しかし,以下に述べるところを併せれば,県警本部においても長年にわたって組織的不正経理が行われ今日に至っていることは明らかである。

(ア) 本件一覧表の内容と,これに対する被告らの対応等

ⅰ 本件一覧表の内容

本件一覧表の「捜査員名」欄に記載されている捜査員9名全員が,当該文書の作成年度である平成14年度に捜査第一課に在籍していた。

他方,「債主」欄に記載されている者については,住所が「高知市○○町」などのように番地の記載はないものの,当該町内において該当する氏名はそれぞれ一人しかいなかったので特定して調査することが可能であった。しかし,その「債主」欄に記載されている者のうち,捜査に協力したことがある者は一人もなく,捜査協力費を受け取ったこともないとのことであり,本件一覧表が仮に,捜査協力者等(債主)に対する捜査協力費の交付状況をまとめたものだとすると,この内容は「捜査員名」を除き,すべて実態を伴わない,虚偽のものだということになる。

そして,捜査費支出伺,支払精算書及び領収書に記載した内容を基にして本件一覧表が作成されるという関係にあるから,本件一覧表の内容が「捜査員名」以外虚偽であるとすると,捜査費支出伺,支払精算書及び領収書の記載内容も,「捜査員名」欄の記載あるいは記載に係る県警本部関係者の氏名等を除き,全て虚偽ということになる。

ⅱ 本件一覧表の作成者

そして,ある一時期における捜査第一課所属の捜査員全員の氏名を正確に知っているのは,同課の職員と会計責任者だけである上,本件一覧表においては,「債主」等の,警察会計上の専門用語が用いられている。また,同表中の「捜査員名」に記載されている捜査員が本件一覧表を作成する必要性は全くないから,捜査員が作成したものとは考えられない。

そうすると,本件一覧表の作成者は,平成14年3月25日から平成16年3月23日まで捜査第一課総括補佐(兼広域捜査官兼監察補佐官)の地位にあった丁川四郎(現在は警務部留置管理官兼監察官。以下「丁川警視」という。)の他には考えられない。

ⅲ 本件一覧表に記載された「支出金額」の使途

そうすると,本件一覧表の内容は「捜査員名」以外は実態を伴わないから,丁川警視は,実態を伴わない架空のものであると知りながら,同表を作成したものである。

そして,同表に記載された公金は,そこに書かれているように,あたかも捜査費の執行に伴い支出されたかのごとく会計処理されていることに照らすと,これらの公金はすべて裏金に回されているとみるべきである。

ⅳ 本件一覧表に対する被告の対応

被告にとって,本件一覧表の出所等に関する内部調査は極めて簡単であるはずなのに,これを行った形跡さえないのは,内部的には,丁川警視が本件一覧表を作成したことが明らかであったからである。

ところで,これらが丁川警視の個人的な行為であれば,直ちに逮捕,起訴されるところであるが,実際には,丁川警視は逮捕も起訴もされておらず,監察を受けていないどころか,監察官の任を解かれてすらいない。これは,丁川警視の行為が,県警本部内において許容されていたからに他ならない。

ⅴ 本件一覧表に対する被告の認否の姿勢

本件一覧表は,市民オンブズマン高知が県警内部の者から入手した文書であるが,被告はこの文書について「否認」ではなく,「不知」という認否をしている。自分の組織で作成した文書なら「認める」,そうでないなら「否認」となるはずである。本件一覧表に記載された「捜査員名」は,被告側も県議会に対してそのような氏名の捜査員の実在性を認めており,支出年月日,用務名,交付金額,交付相手(債主),交付金額,交付場所及び領収書の有無は,すべて被告が管理する捜査費支出伺,支払精算書及び領収書によって確認できることなどに照らし,このような被告の認否は不可解である。

ⅵ 本件一覧表に関する証言の徹底した回避

被告は,本件一覧表に関する尋問について,捜査員名の実在性,債主の実在性,支出年月日,交付金額,精算年月日及び過不足額の各真実性を始め,捜査費の個別具体的な執行状況に関するもの全般にわたり,民事訴訟法191条を根拠として,捜査上の秘密に該当することを理由として証言することを承認しないとし,本件一覧表に対する原告側の尋問を徹底的に拒否した。

しかし,本件一覧表について「不知」という認否をしていながら,なぜそこに記載された内容が職務上の秘密に該当するという認識を持つことができるのか疑問であり,さらに,その認否の不合理性を証人尋問によって立証する途をも閉ざそうとするのは,「尋問されたくないことは尋問するな」と言うのに等しい。

(イ) 高知新聞の記事及びこれに対する県警本部の対応

高知新聞では,平成15年7月23日以降,紙面上からも明らかな取材源として,「複数の高知県警関係者」,「本件一覧表に捜査員として記載されている捜査官複数」,「署長や本部の所属長を歴任したあるOB」から,裏金作りの具体的な手法や,その裏金を幹部の冠婚葬祭費や部内の飲食代金へ供用したといった裏金の使途,その過程において,架空の協力者を仕立てたり,電話帳から引用した人物名を利用するなどした内容虚偽の会計文書の作成が組織的に行われていることが明らかになったなどとして,被告の組織的不正経理問題を頻繁に報道するようになった。

このような記事の内容からすれば,記事を信じた一般読者から被告に対して,あるいは現場の警察官に対して強い非難の声が出る可能性が高いにもかかわらず,被告側は,捜査費をはじめとする予算は適正に処理されている,捜査担当者に事実関係の確認をしたが問題はなかった,取材の根拠が明らかでないなどと述べるのみで,これらの記事が掲載された後に,その内容が虚偽であると高知新聞に対して抗議した経緯はなく,県民を納得させるに足りる説明もなされていない。とりわけ,第2報道をみる限り,本件一覧表に捜査員として記載されている捜査官複数が取材源となっていることは明らかであるから,この記事の内容が虚偽であるならば,被告としては当然,虚偽の情報を提供した捜査員を至急探し出し,高知新聞に訂正の申入れをするよう指示するはずであるのに,そのような指示に及んだ形跡すらない。

このような被告の対応からすると,被告は,説明をすることで,より不利な事態に追い込まれることを懸念して説明をしないという姿勢に終始していると考えるほかないが,このような対応振りを社会的にみれば,実質的には組織的不正経理を認めているのに等しい状況にある。

(ウ) 犯罪認知件数と捜査費支出の相関関係

県警の各年度における重要犯罪の認知件数と捜査費支出総額を比較すると,次のとおり,捜査費の支出が重要犯罪の認知件数と相関していないことが判明する。

県警における平成11年度から平成15年度にかけての重要窃盗犯の認知件数は1500件台でほとんど固定しているが,このうち重要犯罪は,85件(平成11年度),104件(平成12年度),116件(平成13年度),113件(平成14年度),155件(平成15年度)と増加の傾向にある。

ところが,平成14年度と平成15年度の捜査費支出を比較すると,5996万円から4122万円と,約3分の2に激減しており,特に,平成14年9月まではそれまでとほぼ同じ金額で,高知新聞が裏金報道を始めた後の時期から,月別支出が激減している。平成16年度4月分は平成14年度4月分並に復活しているが,平成16年度5月分以降は,どの月もそれまでの年度と比較して激減し,同年度9月にはついに月額94万円とそれまでの年度の同時期と比較して5分の1にまで激減している。

事件によって捜査費の要否や多寡が異なり得ることを考慮しても,捜査費が基準に従って適正に支出されているなら,重要事犯が増加する傾向にある以上,捜査費支出は,増えることはあっても,かくも激減するはずがない。認知件数が増えているのに捜査費が激減しているのは,裏金を偽装するための会計文書を警察職員に書かせることが困難になったからに他ならず,反面,従前は裏金を偽装する会計文書が頻繁に作成されていたことを物語る。

ウ 本件非開示文書の虚偽性

このように県警本部で組織的に不正経理が行われているとすると,本件非開示文書に記載されている情報は,全て実際の捜査内容とは異なる虚偽のものとみるほかない。もし仮に被告が虚偽の記載と真実の記載を同一文書の中に書き込むとすると,被告自身でも虚偽と実際の区別が記録上できなくなり,実際の支出状況が全くわからなくなってしまう。そのような混乱を回避するには,虚偽は虚偽で徹底して数字上の辻褄合わせをした文書を作成せざるを得ないのである。

激励慰労会のようなものであっても,一般の県職員は自費で行っており,県警職員においても実は同様であるかもしれない。あるいは,墨塗りになっている警部補以下の警察職員の全員又は一部は,出席していないかもしれない。部分開示された積算内訳書に書かれている氏名は「慰労会参加予定者名簿」であって,「慰労会参加者名簿」ではない。請求書には参加人数が書かれるべき欄がなく,それらしき欄である「個数」欄には「1」としか書いてないので,実際の参加人数はわからない。しかも,激励慰労会の会場は警察共済組合福祉施設であり,いわば県警関連団体である。前記のような県警本部の組織的不正経理の実態からすれば,県警本部の要請に応じて架空ないし過大な金額の領収書を作成した可能性もなくはない。

③ 「公共の利益」の優越

ア 平成16年12月22日,高知市議会が「警察不正経理疑惑の徹底解明と信頼回復を求める意見書」を全会一致で採択しているとおり,組織的不正経理の解明,是正に対する高知県民の要望は強い。このような要望に応え,県警の組織的不正経理を根本的に解決し,(ア) 不正文書の作成を強要されている第一線の捜査員の精神的,肉体的負担を解消し,県民生活の安全のための警察業務に専念させ,(イ) 県警への住民の不信感を払拭し,警察と住民の相互信頼を回復させ,(ウ) 税金の無駄遣いを解消して財政負担を軽減させ,(エ) 警察のみを聖域化して情報を遮断することを改め,県監査委員の機能が不当に制限される状況を解消させるためにも,本件非開示文書の開示は不可欠であり,捜査費の不正支出を指示し温存してきた一部の幹部職員の保身のために非開示とすることは許されないというべきである。

イ もっとも,開示により,現場の警察官の氏名や,捜査協力者等に仕立て上げられた人々の氏名,住所が現れることは避けられない。しかし,現場の警察官の氏名は,本来公にされるべきものであるし,自分の知らない間に捜査協力者等に仕立て上げられた人々は,その氏名・住所を隠しておいてもらうことよりも,公にしてもらうことで,今後の不正利用を防止することを望むはずである。

このようにしてみると,本件文書の非開示部分を公開することによって得られる公益は,当該文書を開示しないことによって保護される利益に比して明らかに優越するというべきである。

(被告の主張)

原告らは,捜査費が不正に執行されていることを根拠として,6条2項に規定する公益上の理由による開示を主張するが,次のとおり失当であり,本件非開示処分において,これを開示することにより得られる公益が,非開示とすることによって保護される利益に明らかに優越するとみるべき事情はない。

① 6条2項の解釈

本件手引に示されているとおり,6条2項は,6条1項各号に該当する非開示情報であっても,個別具体的な事例において,優越的な公益が認められる場合は,実施機関の判断により開示することを可能とする規定であって,開示請求のあった公文書に6条1項2号各号に該当する情報が記録されている場合は,あくまで非開示を原則とした上で,同条各号の規定により保護される利益を不当に侵害せず,かつ,人の生命,身体,健康,財産又は生活を保護するため,開示することがより必要であると認められる場合や条例の目的を達成するために当該情報の開示が不可欠である場合において,実施機関の判断により開示することを可能とするという裁量権を実施機関に与えた規定である。

原告らは,実施機関に裁量権を与えたとする解釈は誤りであると主張するが,それが本件手引の解釈を否定する主張だとすれば,原告らの主張には何ら根拠がなく,原告らが6条2項による開示を請求するならば,原告らにおいて,本件公文書を開示することにより得られる利益が,開示しないことにより保護される利益に明らかに優越することを立証すべきであるが,本件訴訟においてそのような立証はない。

② 捜査費虚偽請求の主張の不当性

原告らが,被告が捜査費を不正に執行しているとする根拠は,次に述べるとおりいずれも理由がない。

ア 本件一覧表について

原告らは,本件一覧表を根拠として,県警において捜査費が不正に執行されていると主張しているが,捜査費の執行過程において,一覧表のようなものは作成しておらず,警察の会計経理の過程において作成する必要もない類の書面であって,本件一覧表は,警察内部において作成されたものではなく,出所不明のものである。

加えて,原告らは一覧表について,「債主」などの警察会計での特別な用語や関係者以外に知る術のない事項が列記されていることから,文書は警察内部の者の作成以外に考えられず,それが外部に流出したことは重大な内部告発に他ならないなどと主張するが,「債主」という用語は,警察の会計経理の専門用語ではなく,一般的に用いられる用語として「広辞苑」にも掲載されているほか,国の行政機関の会計経理において広く使用されている用語であって,一覧表そのものが警察でないと作成し得ないものではなく,原告らの主張は当たらない。

なお,原告らは,本件一覧表をチェックして,電話帳の氏名を勝手に用いて「債主」として書類が作成された実例が判明しているなどと主張するが,本件一覧表の記載内容は別として,一般的に,捜査協力者は,実際に捜査費を受領していても,後難を恐れてそのような真実を言わない可能性もあるし,当時においては,捜査協力者等を保護するため,捜査費の支払証拠書類に捜査協力者等が本名以外の名前を記載することもあったので,会計文書に記載されている名前の者が謝礼を受け取ってないこともあり得ることを付言する。

イ 高知新聞の捜査費に関する一連の記事について

原告らは,高知新聞の捜査費に関する一連の記事を,県警本部が捜査費を不正に執行している根拠としているが,高知新聞の一連の記事も,原告らの主張と同様,一覧表が警察内部で作成されたことを前提としていることなどから,原告らの主張を支える根拠とはなり得ない。

現に捜査費は適正に執行されており,被告は,平成15年8月4日及び同月20日,県議会総務委員会において,捜査費を適正に執行している旨を説明している上,捜査第一課の幹部を通じて,同課において捜査費が適正に執行されていたことを確認済みである。また,新聞報道にあるような,捜査第一課の総括補佐が捜査員に対して口封じをすることもあり得ないし,捜査員が捜査費を一切受け取っていないということもあり得ない。職員の印鑑を幹部が保管し,押印していることもあり得ない。

ウ 高知新聞への対応について

原告らは,これら高知新聞の記事に対し,被告が訂正要求や抗議もせず,調査もしないことを根拠として,報道された事実が確かな根拠がある旨主張する。

しかしながら,被告は,前記のとおり,捜査第一課において捜査費が適正に執行されていたということについては確認しており,被告が,高知新聞社に記事の訂正を申し入れたり,抗議をするといった行動に出ていないのは,当時,捜査第一課において捜査費が適正に執行されていたことを,個々の捜査費の執行状況を具体的に明らかにして説明することは,捜査協力者等の保護,捜査の秘密等の制約から行うことができず,他方,捜査費が適正に執行されているという主張は,県民を代表する県議会の場において説明し,その内容が高知新聞に掲載されていることなどに基づくものである。

以上のとおり,被告が記事の訂正を求めるなどしないこととしたのは,諸般の状況を踏まえた合理的な判断であって,原告らの主張には全く根拠がない。

エ 捜査費の減少について

高知県においても,捜査を取り巻く環境の変化などを要因として,国費及び県費の捜査費が減少傾向にあるが,その傾向は,一連の高知新聞社の報道や本件訴訟が提起される以前から続いているものであって,本件訴訟等とは全く関係がない。

③ 本件監査結果及び本件検査結果等

ア 本件監査結果について

本件監査結果においては,激励慰労費として執行された捜査費に関して意見が付されたものの,その他の捜査費の執行に関しては特段の指摘は受けていない。

イ 本件検査結果等について

検査対象期間を平成14年度とする,県警本部に対する会計検査院による実地検査においては,国費捜査費の個別具体的な執行状況等について検査が実施され,特に,捜査第一課の捜査費の執行については,マスキングのない状態で本件非開示文書である捜査費支払証拠書等の書面検査に加え,実際に捜査費を執行した捜査第一課の捜査員3名からの聞き取り調査も行われ,その聞き取り調査も会計検査院側が自ら指定した捜査員に対し,捜査第一課の所属長等,受検側の立会のない状態で,個別具体的な捜査費の執行状況について調査が行われるなど,従来にも増してより厳格な検査が行われている。

その結果,本件検査結果においては,激励慰労費として執行された捜査費について,県警を特定することなく,警察庁の指導に必ずしも適合しない形態で執行された例が見受けられたとの指摘はなされているものの,その点を除き,本県の捜査費の執行に関して特段の記載はない。

第3  争点に対する当裁判所の判断

1 争点1について

(1) 2号の解釈

2号本文が,その文言上特定の個人を識別できる情報を無限定で非開示とする旨規定しているところ,このように規定した趣旨は,情報開示による知る権利の充足と個人のプライバシーの保護を調整する必要性があることを前提として,プライバシーの概念が未だ十分には確立していないことにあると認められることからすれば(3条,本文手引),ある情報が2号に該当するか否かは,それが個人識別情報に当たるか否かによって決するのが相当であって,それを超えて,当該情報の開示によって実質的に個人のプライバシーが侵害されるか否かを判断要素に含めることは,本件条例が予定しないところというべきである。

(2) 本件非開示情報1―1(警部補以下の警察官の氏名及び印影)について

①  本件非開示情報1―1は,捜査費の執行に係る,警部補以下の警察官の氏名及び印影であるから,これらが2号本文所定の個人識別情報に該当し,かつ,2号ただし書ウ所定の「地方公務員の職務の遂行に係る情報」に該当することは明らかである。

②  本件規則及び本件規程の本件条例適合性について

ア  2号ただし書ウは,職務遂行に係る地方公務員の氏名については開示することを原則としつつ,実施機関に対し,非開示対象公務員を設けてその氏名を非開示とすることを許容する旨規定しているところ,これは,実施機関の専門性に配慮し,非開示対象公務員の範囲の画定を実施機関に委ねることを相当とする趣旨に基づくものと解されるから,本件規則及び本件規程が本件条例に違背するか否かは,そのような趣旨に反するか否かによりこれを決するのが相当である。

イ(ア)  警察業務は,警察法2条が「警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防,鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。」と規定しているとおり,犯罪捜査をはじめ,広く公共の安全と秩序の維持を図ることを責務としている。また,同法63条が「警察官は,上官の指揮監督を受け,警察の事務を執行する。」と規定し,刑事訴訟法189条が,「警察官は,それぞれ,他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより,司法警察職員として職務を行う。」(1項),「司法警察職員は,犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとする。」(2項)と規定していることなどに照らし,その責務を全うするための活動は,主として警察官によって行われることが予定されている。

(イ)  そして,前記(ア)のとおりの,警察の前記責務や,警察官に与えられた司法警察職員としての権限等によれば,警察官の職務内容は,犯罪を企図し,あるいは敢行した個人や団体等からの反発,反感を招きやすい性格を有するものであると考えられるところ,弁論の全趣旨によれば,県警において,警視長,警視正,警視の階級にある警察官は管理的な職務に従事し,警部の階級にある警察官にあっても,警察署であれば課長又は次長,県警本部であれば総括補佐,課長補佐の職に就き,主として所属の部下職員の指揮,指導等の管理的な職務に従事しており,反面,警部補以下の警察官は,犯罪現場や警察の責務遂行を目的とした規制活動の第一線において,より直接的に,被疑者や被規制者と相対しながら日常の職務を遂行していることが認められ,これによれば,特に警部補以下の警察官は,警部以上の警察官にも増して,犯罪を企図し,あるいは敢行した個人や団体等からの反発,反感を招きやすい地位にあるものというべきである。

(ウ)  現に,極左暴力集団が,公安担当の警察官の氏名を,その家族の情報を含めて収集し,データベースを作成した例もある(乙5)。

(エ)  前記(ア)ないし(ウ)に認定説示したところによれば,警部補以下の警察官の氏名を開示することによって,その個人の権利利益が不当に侵害される事態が発生する蓋然性は,軽視することができないものというべきであって,原告らが主張するように,本件規則2条及びこれを準用する本件規程に,「当該公務員の氏名を公にすることにより,当該公務員の個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある」という立法事実が欠けるとはいえない。

これに,県議会において,本件条例の実施機関に高知県公安委員会及び県警本部が加わる旨の,本件条例の一部を改正する条例議案の審議が行われた際,総務委員長が,「全国的には警部補以下の者の氏名は非開示となっているが,本県は捜査に当たる者以外の中で一部の者は開示」する旨の執行部の答弁を報告し,警部補以下の警察官の氏名が一律に非開示とされることが予定されている旨を示唆したが,これにつき格別の論議がなされていないこと(乙16)を併せ考慮すれば,少なくとも,実施機関の判断を尊重して,「個人の権利利益を不当に侵害するおそれがあるものとして実施機関が定める」公務員の氏名を非開示とした,本件条例の規定の下においては,警部補以下の警察官を一律に非開示対象公務員とすることが,本件条例の趣旨に反するものであるとは解されず,本件規則及び本件規程が,条例の委任を逸脱した無効なものであるとはいえない。

ウ 原告らは,非開示対象公務員となる警察官の範囲を,警部以上と警部補以下で区分することに合理性がないと主張するが,前記イに認定説示したところに加え,弁論の全趣旨によれば,被告は,警部以上の警察官の氏名を開示することによる,その個人の権利利益に対する不当な侵害が生じるおそれを否定しているわけではなく,(ア) 警視以上の階級にある警察官の氏名については,もともと県発行の高知県職員録に所属,階級,職名及び氏名を登載しており,2号ただし書イ所定の,慣行として公にされている情報に該当すると考えられることや,(イ) 警部の階級にある警察官は,警察署であれば課長又は次長,警察本部であれば総括補佐,課長補佐の職に就き,主として所属の部下職員の指揮,指導等管理的な職務に従事していることなどを考慮した上で,警部以上の警察官を非開示対象公務員に含めず,むしろ,その氏名を開示して責任の所在を可及的に明らかにする扱いとしたことが認められることを併せ考慮すれば,警部補以下と警部以上に区分する扱いに合理性がないとはいえない。原告らの前記主張は採用することができない。

エ また,原告らは,平成14年当時においては,新聞報道によっても警部補以下の警察官の人事異動の情報が公開されていたことや,大多数の警部補以下の警察官が,日常の業務遂行の過程で警察手帳等により氏名を公にして活動していることなどを根拠として,警部補以下の警察官の氏名は2号ただし書イ所定の「公表を目的として作成し,又は取得した情報」に該当し,また,これを開示したからといって何ら個人のプライバシーは侵害されない旨を主張する。

しかし,開示に伴って実質的に個人のプライバシーが侵害されるか否かという観点を2号該当性の判断に含ませることが相当でないことは前記(1)のとおりである上,(ア) 弁論の全趣旨によれば,平成14年当時においても,新聞報道のために公表されていた警部補以下の警察官の人事に関する情報は,春の定期異動に関するものにして,その時々の治安情勢等に応じ,特定の犯罪捜査に従事する職員に関するものを除いたものに限定されており,捜査活動の応援等の必要性から随時行われている人事異動等に関する情報は提供されていなかったことが認められるほか,(イ) 警察官による日々の職務遂行の過程で,状況により,警察手帳の提示等による身分の証明が義務づけられ,あるいは必要になるにしても,その氏名の開示は,警察官の身分自体から一般的に義務づけられているわけではなく,個別具体的な職務遂行の状況に応じ,特定人を相手方として必要になる場合があるというに過ぎないことからすれば,警部補以下の警察官の氏名が,開示請求がある都度開示されることが前提となる,2号ただし書イ所定の「公表を目的として作成し,又は取得した情報」には該当しないというべきである。原告らの前記主張は採用することができない。

③ 前記①及び②に認定説示したところによれば,本件非開示情報1―1が2号本文所定の個人識別情報に該当し,かつ,2号ただし書ウ所定の「地方公務員の職務の遂行に係る情報」に該当するが,本件規程により,2号ただし書ウの括弧書き所定の非開示対象公務員の氏名に該当する旨の被告の主張は理由がある。

(3) 本件非開示情報1―2(捜査協力者等の個人識別情報)について

①  弁論の全趣旨によれば,本件非開示情報1―2のうち,具体的には特定されていないものの,捜査協力者等の氏名には,実名であるものばかりではなく,偽名であるものも含まれていることが認められる。

②  そして,2号本文の文言によれば,捜査費が支払われる過程において作成される会計文書に記載された捜査協力者等の実名に係る住所,氏名及び印影が,同号所定の個人識別情報に該当することは明らかであるから,本件非開示情報1―2のうち,この限りにおいては,2号本文に該当する旨の被告の主張は理由がある。

しかし,原告らは,偽名であれば個人識別情報に該当しない旨主張するところ,偽名は特定の個人が識別されないように用いられることからすれば,偽名をもって直ちに個人識別情報に当たるとは解されない上,2号本文の文言によれば,「特定の個人を識別することができると認められるもの」とは,「氏名,生年月日」が例示として列挙されていることからすると,これに類する情報を指すのであって,被告が主張するように,偽名を開示することにより,捜査協力者等の存在が明らかになり,そのことが契機となって捜査協力者等が割り出される可能性があるとしても,かかる情報が2号が想定する個人識別情報に当たるとは認められないといわざるを得ず,原告ら主張のとおり,本件非開示情報1―2のうち,捜査協力者等が偽名である「氏名」については,その具体的特定の点は別として,2号本文該当性はこれを否定するのが相当である(ただし,後記2(3)①アで説示のとおり,これらの情報についても,4号該当性が認められることから,本件においては,本件非開示文書のうち,どの文書のどの記載がこの情報に該当するかを更に具体的に特定する意味がない。)。

また,本件非開示情報1―2のうち,秘匿追尾の際に入場した施設及び利用した道路等の名称である,駐車場,料金所の名称などは,およそ個人識別情報には当たらないものと解され,また,捜査協力者等に対する謝礼としての物品購入先及び捜査協力者等との接触場所の名称である,コンビニエンスストア,スーパーマーケット,飲食店等の名称も,一般的には,2号本文所定の特定の個人を識別するに足りる情報には当たらないものと解するのが相当である(ただし,後記2(3)①アで説示のとおり,これらの情報についても,4号該当性が認められることから,本件においては,本件非開示文書のうち,どの文書のどの記載がこの情報に該当するのかを更に具体的に特定する意味がない。)。

(4) 本件非開示情報1―3について

①  当該墨塗りの部分には,続いて「による公文書偽造に絡む加重収賄事件捜査激励慰労費」と記載されていることからすれば(甲14の1),被疑者ないし事件関係者の氏名,あるいは被疑者を含む事件関係者の肩書等が記載されているものと推認されるところ,2号本文の文言によれば,氏名がそれ自体として個人識別情報に該当することは明らかであるから,この点で,氏名だけであれば個人に関する情報が何も記載されておらず,そもそも2号本文に該当しないとの原告らの主張は採用することができない。また,氏名以外の肩書等が記載されていたとしても,それらは他の情報と相まって,特定の個人を識別するに足りる情報であるというべきである。

② また,原告らは,当該墨塗り部分には被疑者の氏名が記載されているとしても,当該情報は公表を目的として取得した情報に当たるとも主張するところ,確かに,激励慰労費が支出される類の事件であれば,刑事手続に関する報道の便宜を考慮して,捜査機関の判断において,報道機関に対して被疑者名等の情報を発表することが一般であると推察されるところではあるが,だからといって,捜査機関が,被疑者の氏名等の情報を取得する目的が,公表することにあるといえないことはもとより,当該発表は,時宜に応じた一時的なものに過ぎないものであって,その発表された被疑者名等の情報が,常時何人も知りうる状態におかれているわけでも,求めがあれば何人にも提供することを予定しているというわけでもなく,さらに,犯罪の被疑者であったという情報は,公表されれば,社会通念上,個人の権利利益を侵害することは明らかであることから,本件非開示情報1―3が,開示請求に応じ常時開示することとなる2号ただし書イ所定の「公表を目的として取得した情報」になるものとは解し難い。原告らの前記主張は採用することができない。

③ よって,本件非開示情報1―3が2号本文所定の個人識別情報に該当する旨の被告の主張は理由がある。

2 争点2について

(1) 4号の解釈について

①  4号は,「開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」について非開示とする旨を規定しているところ,ア ある情報が,公共安全情報に当たるか否かの判断,換言すれば,ある情報を開示することによって,公共の安全と秩序を維持するための警察活動等が阻害される可能性があるか否かの判断に際しては,その性質上,犯罪等の将来予測に関する専門的,技術的判断が不可避であるといった特殊性が認められること,イ 6条1項の他の号においては,「〜その他正当な理由を害すると認められるもの」(3号),「〜の保護に支障を生ずるおそれのある情報」(5号),「〜いずれかに該当することが明らかなもの」(6号),「〜著しく損なわれることが明らかなもの。」(7号)などと規定されているのに対し,4号は「〜支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定していること,ウ 本件手引によれば,「支障を生ずるおそれがある」とは,公共の安全と秩序を維持するための警察活動等が阻害され,又は適正に執行できなくなる可能性がある場合をいうものとされ,「おそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある」とは,4号に規定する情報については,その性質上,開示・非開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要するなどの特殊性が認められることから,司法審査の場においては,裁判所は実施機関の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される範囲内のものであるか(相当の理由があるか)否かについて審理・判断するのが適当であることから,このような規定振りとした旨の説明がなされていること,などに照らし,4号は,当該情報が公共安全情報に該当するか否かの判断につき,実施機関の第1次判断権を尊重するとの立法政策を採用したものと解される。

②  前記①によれば,4号該当性の有無を判断するに際しては,実施機関による,当該情報が公共安全情報に該当するとの判断に,明らかに理由がないと認められる場合を除き,当該情報を開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由があるものとして,4号該当性を肯定するのが相当である。

③ なお,原告らは,本件手引において,公共安全情報の具体例として会計文書が挙げられていないところ,本件手引が発行された平成14年7月当時には,全国的に自治体の会計文書の公開が進んでおり,警察本部長が管理する会計文書についても,当然に公開の要請が強まることがわかっていながら,あえて具体例に掲げられていないのは,被告も他の実施機関同様,会計文書が開示されることを想定していたなどとして,そもそも会計文書を4号該当として非開示とすることは許されない旨主張するが,本件手引は,文書それ自体の一般的,抽象的性質によって4号に該当する情報の具体例を列挙しているわけではなく,「ア 犯罪の捜査の事実又は内容に関する情報 イ 犯罪捜査等の手法,技術,体制等に関する情報 ウ 情報提供者,被疑者,捜査員等関係者に関する情報 エ 犯罪の予防,鎮圧に関する手法,技術,体制等に関する情報(犯罪目標となることが予想される個人の行動予定,施設の所在や警備の状況に関する情報を含む。) オ 犯罪を誘発し,又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報」と,情報それ自体の性質を基準として具体例を列挙しているのであって,平成14年7月に発行された本件手引が,公共安全情報の具体例として会計文書を格別挙げていないからといって,本件手引が会計文書の4号該当性を直ちに否定する趣旨であるとか,被告が会計文書を開示することを想定していたなどとはいえない。原告らの前記主張は採用することができない。

(2) 警察が保有する情報の特殊性について

ところで,前記(1)①のとおり,本件条例が,公共安全情報該当性の判断に際し,実施機関に第1次的判断権を付与していることからすれば,実施機関は,自己が保有する情報の性質を考慮して,4号にいう,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれの有無ないし程度を判断すべきであるから,実施機関が警察本部長である本件の場合には,警察が保有する情報の性質について検討する必要がある。

①  警察は,前記1(2)②イのとおり,広く公共の安全と秩序の維持を図るという責務を達成するため,組織的に捜査等の活動を行っているところ,犯罪の捜査は,後に連なる公訴の提起,遂行,刑の執行を目的として,組織的に継続して,必要に応じて密行的に行われるものであるほか,それ自体が,犯罪の予防にも繋がる活動であると解される。また,犯罪の予防や鎮圧のためには,秘匿性の確保が前提となる内偵調査を含め,事前の継続的な情報収集も必要不可欠であると解されるのであって,警察が行う活動は,単発的な活動もあるとはいえ,少なからず組織性,継続性,密行性を伴うものであり,警察業務が所期の目的を達成するためには,これらが保たれることが必要不可欠であると解される。

また,警察業務の目的からすると,警察が行う活動の対象には,暴力団,窃盗等の常習犯,極左・極右暴力集団,暴走族等の,反社会的傾向が強い個人や団体が不可避的に含まれるところ,現に一部の過激派組織にあっては,警察無線の傍受,公安担当の警察官に関する家族構成を含めたデータベース化,少年事件の供述調書の奪取,民間人宅の盗聴等,一見政治的活動とは直接の関連を有しないように思われる事項を含め,広く情報収集活動に及んでいることが認められ(乙4,5),これに弁論の全趣旨を併せ考慮すれば,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等が,これから行おうとする犯罪の実現を容易にする,あるいは既に実行した犯罪について,その発覚を防ぎ,取締りを免れるといった不当な意図の下に,警察が保有している,警察施設の位置・規模,警察車両の性能・台数,装備品の種別・性能・数量,警察官の人員・氏名等の警察の組織体制に止まらず,捜査方針や取調べの手法,内偵捜査の状況等,捜査活動の全般にわたって関心を寄せ,これを収集の対象としている蓋然性を軽視することができないというべきである。

②  また,警察業務に関する情報は,一般人にとっては些細な情報であり,それ自体を個別に取り上げて観察する限りにおいては,格別意味を有するものではなかったとしても,前記①の犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等にとっては,既に収集してある他の情報と比較対照し,あるいは同種情報の継続的収集を行うことによって,有機的な情報に転化させることが可能であると解され,他方,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体にあっては,自己が保有している情報や,その情報の入手方法については徹底的に秘匿するのが通例であると考えられるから,これを警察の側からみれば,そのような犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体が,どのような種類の情報を,どの程度保有しているかが判然としないことも併せ考慮すると,警察業務に関する情報については,それ自体としては断片的なものに過ぎなかったとしても,これを明らかにすることによって,他の情報と相まって,警察の業務に支障を生ずる蓋然性があることも軽視することができないというべきである。

(3) 本件非開示情報2の4号該当性について

そこで,前記(2)で検討した警察が保有する情報の特殊性を前提に,以下本件非開示情報2が公共安全情報に該当するとの被告の判断の相当性を検討する。

①  本件非開示情報2―1の4号該当性について

ア  前記第2の1の(9)及び(10)に認定したところによれば,本件非開示情報2―1は,捜査員による捜査費の執行の過程で作成される「捜査費支出伺」,「支払精算書」,「捜査費交付書兼支払精算書」,「支払伝票」及びこれらに添付された領収書等の全部の情報であるところ,うち,捜査員の氏名及び印影,捜査協力者等の住所及び氏名,捜査協力者等に対する謝礼としての物品購入先及び捜査協力者等との接触場所の名称,秘匿追尾の際に入場した施設及び利用した道路等の名称並びに交付年月日といった情報は,捜査員が,具体的事件の捜査の過程において,いかなる理由で,誰に対し,どこで,何を渡したか,あるいは,どのような秘匿追尾の捜査を行ったかといった,捜査費の具体的使途と密接に関連する個別具体的な情報であるから,これが一回分だけでも明らかになれば,そこから,具体的事件を現に担当し,あるいは担当していた捜査員の氏名や行動状況,受領者の氏名,住所,接触場所,個別の執行金額,執行理由等が明らかになるほか,このような個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報を継続的に収集するだけで,前記に加えて,(ア) 受領者が捜査協力者等であることの確度が高まる,(イ) 事件ごとにおける,担当捜査員の氏名及び人数,捜査の進展状況等を把握することが可能となる,(ウ) 捜査員ごとの,個別の執行金額の推移状況,運用している捜査協力者等の氏名を把握することが可能となる,(エ) 捜査協力者等に対する一般的な執行金額や,それを基準とした,捜査協力者等ごとの受領額の大小を把握することが可能となることなどが想定されるところ,特に(ア)ないし(ウ)の点は,具体的な捜査の深部にわたる情報が明らかとなることに他ならず,これに,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体が,これらの情報と,既に持ち合わせている情報と比較対照することによって,ますます具体的な捜査状況が明らかにされる危険性を考慮すると,これら個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報を開示することにより,現在及び将来の捜査に支障を来すおそれがあると認められるというべきである。

なお,仮に捜査協力者等の氏名や住所のみを非開示とする扱いとするなど,個別の捜査活動に伴う捜査費の執行に係る情報を細分化して,部分開示の手法を用いるにしても,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等が,既に持ち合わせている情報と総合することにより,捜査協力者等が存在すること自体が明らかになる可能性は否定することができず,結果として,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等による捜査協力者等の割り出しを助長し,捜査協力者等が報復されたり,あるいは捜査協力者等に対して虚偽の情報が提供されて捜査が混乱するなどの弊害を招く危険性がある。そして,そのような制度運用となった場合には,捜査協力者等が,将来における情報開示に伴って自己に生じかねない報復や制裁等の不利益を懸念して,県警に対して,従前どおりの協力をすることを拒絶するおそれもある。

また,捜査協力者等が偽名を用いて会計書類を作成した場合であっても,その偽名を開示することにより,場合によっては直ちに捜査協力者等の存在が明らかになり得る上,偽名それ自体や筆跡は直ちに把握されるから,これに,捜査協力者等の存在を疑い,その割り出しに意を用いている者が既に収集している情報とを併せて検討することによって,捜査協力者等が判明する可能性も否定できない。さらに,コンビニエンスストア,スーパーマーケット,飲食店等の名称などの捜査協力者等に係る場所の名称などについても,これらが明らかになることによって,捜査協力者等の存在を疑い,その割り出しに意を用いている者が,既に収集している情報と併せて検討することで,捜査協力者等が判明する可能性も否定できない。

そうすると,本件非開示情報2―1のうち,捜査費の個別具体的な執行に関連する情報である,警察官の氏名及び印影,捜査協力者等の住所及び氏名,捜査協力者等に対する謝礼としての物品購入先及び捜査協力者等との接触場所の名称,秘匿追尾の際に入場した施設及び利用した道路等の名称並びに交付年月日については,前期1(3)②の説示のとおり,2号該当性を否定されるものがあるが,それも含めて,これを開示することによって,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれがあるというべきであり,これを4号所定の公共安全情報に該当するとした被告の判断には理由があり,その判断は相当であるというべきである。

イ  これに対し,本件非開示情報2―1のうち,前記アで検討した以外の情報,すなわち,「捜査費支出伺」,「支払精算書」,「捜査費交付書兼支払精算書」及び「支払伝票」の決裁欄の印影(弁論の全趣旨によれば,当該印影は警部以上の警察官のものであるから,2号該当性は問題とならない。),取扱者あて名,捜査員の官職,取扱者名,各金額欄の金額及び「支払精算書」中の精算結果伺の返納又は追給を受けた年月日等は,捜査費支出伺,支払精算書等の書面ごとに,当該一枚限りにおいて,当該情報のみがごく部分的に開示されることを前提として観察する限りにおいては,極めて断片的な情報に過ぎず,4号にいう犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれとの関連性が希薄であるともいい得るが,そのような情報であっても,部分的に開示することが義務づけられることにより,部分開示された会計書類の枚数を通じて,部署ごとの一日一日の捜査費の執行状況が明らかとなり,個別の執行件数を推知する手がかりとなることは否定できない。そして,これを一般的な観点からみる限りは,警察会計の透明化に資することこそあれ,捜査に格別の支障を来さないかのようではあるが,警察情報の収集に努め,独自に情報を収集している可能性がある,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等が,手持ちの情報と対照し分析することを通じて,より具体的に,捜査体制や捜査の進展等に関する情報を推知することが可能となるおそれをいっさい否定することは相当でないというべきであって,実施機関の第1次判断権を認めた本件条例の規定の下では,これらの断片的情報をも4号所定の公共安全情報に該当するとした被告の判断が,明らかに理由がないものとまではいえないから,その判断は相当であるというほかない。

ウ 以上によれば,本件非開示情報2―1は4号に該当するものというべきであって,被告の主張は理由がある。

エ 原告らは,捜査が終結すれば,捜査に支障を生ずるおそれはあり得ないとして,本件非開示情報2―1が作成されてから本件各開示請求までの間に4か月ないし1年4か月が経過していることから,本件非開示情報2―1を開示しても,もはや捜査の動向を把握することは不可能である旨主張するところ,確かに,ある特定の捜査が終結すれば,当該捜査に関する情報を開示することによって当該捜査について支障が生じるおそれは観念し難いが,捜査の手法を考えたときに,個々の犯罪は,ある団体の構成員毎に個別に実行されたものであるとしても,その背後に同一組織がある場合や,捜査協力者を運用して,一定の捜査目的を継続的に実現している場合等を想定すれば,当該捜査について終結したことを理由として当該捜査に関する捜査情報をその都度開示することとなれば,過去の捜査の傾向を把握することによって,犯罪を繰り返している個人や団体,あるいはこれから犯罪を企図している個人や団体にとって,捜査体制や捜査手法等に関する貴重な先例を提供するにも等しいことを考慮すると,時の経過によって当然に公共安全情報該当性が否定される旨の原告らの主張は採用することができない。

また,原告らは,捜査費の支出金額や,支払事由欄,支出日,精算日等の記載それぞれを取り上げて,それ自体が明らかになったからといって,具体的な犯罪及びそれに対する捜査状況と関連づけることは,警察関係者以外にはおよそ不可能である旨主張するが,警察が保有する情報の特殊性として前記(2)②に認定説示したところにより,採用することができない。

さらに,原告らは,捜査協力者等に危害が加えられるおそれが一律に生じるわけではない,捜査協力者等が既に判明している場合には,情報公開とは無関係に捜査協力者等に危害が加えられるおそれはある,などと主張するが,かかる主張もまた,前記(2)②に認定説示したところにより,採用することができない。

②  本件非開示情報2―2及び2―3の4号該当性について

ア  本件非開示情報2―2及び2―3は,捜査第一課等それぞれにおける,月毎の,捜査費の収支の状況を明らかにする情報であり,当該課における,当該月における捜査活動の実態を金員の出入の観点から明らかにするものであるから,これを継続的に収集することにより,当該課における捜査活動の繁閑の推移を推知する資料となることは否定できず,また,これに犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等が既に収集している情報を併せることによって,一定程度具体的に,当該課における捜査活動の繁閑の推移を把握することが可能となるとみる余地は残る。

以上によれば,実施機関の第1次判断権を認めた本件条例の下では,本件非開示情報2―2及び2―3を4号所定の公共安全情報に該当するとした被告の判断が,明らかに理由がないものとまではいい難く,その判断は相当であるというほかないから,本件非開示情報2―2及び2―3が4号に該当するとの被告の主張は理由がある。

イ 原告らは,各月の予算消化状況を総括した一覧表を入手しただけでは,具体的な捜査の進展状況を把握することは不可能である,本件非開示情報2―2及び2―3が作成されてから本件各開示請求までの間に4か月ないし1年4か月以上が経過しており,本件非開示情報2―2及び2―3を開示したからといって,逃亡や罪証隠滅を図ることは不可能であるなどと主張するが,犯罪を企て,あるいは犯罪を敢行した個人や団体等が,どの程度の情報を収集し把握しているかが判然としないことに照らせば,具体的な捜査の進展状況を把握することが不可能であるとは一概には断じ難く,また,時日が経過している点をもって,直ちに捜査に支障が生じるおそれが一切ないものともいい難く,原告らの前記主張を考慮しても,前期アの認定を左右するものではないといわざるを得ない。

3  争点3について

(1) 6条2項の解釈について

①  本件条例は,地方自治の本旨に基づく県民の知る権利にのっとり,公文書の開示に関し必要な事項を定めるとともに情報提供の充実を図ることにより,県民の県政に対する理解と信頼を深め,もって県民参加による公正で開かれた県政を一層推進することを目的としており(1条),6条2項は,同条1項所定の非開示情報に類型的に該当する情報であっても,「当該公文書の開示をしないことにより保護される利益に明らかに優越する公益上の理由があると認められるとき」は,なお開示される場合があり得ることを規定している。

そして,本件手引においては,6条2項の趣旨は,「非開示情報であっても,開示することに優越的な公益があると認められる場合には,開示することを定めたもの」であって,解釈及び運用について,「非開示情報であっても,個別具体的な事例において,優越的な公益が認められる場合は,実施機関の判断により開示することを可能とする規定を設けたもの」であり,「公益性の判断に当たっては,この条の第1項第2号から第7号の規定により保護される利益の性質及び内容を考慮し,これを不当に侵害することがないように」,特に,「個人の人格的な利益その他憲法上保障されている権利利益については慎重に判断することが必要」である旨記載された上,適用例として,「条例の目的を達成する上で当該情報の開示が不可欠であると認められる場合」が掲げられている。

②  ところで,被告は,6条2項について,非開示情報を開示することに優越的な公益があると認められる場合に,当該非開示情報を開示するか否かについて,実施機関の裁量を認めたものと主張する。確かに,6条2項が適用される場面は,もともと条例上非開示とされている情報を公益との比較の下に開示するという場合であり,それに際して利益考量が必要不可欠な場面であるから,実施機関の側において,対立する諸利益を考量して,優越性の有無を実質的に判断する必要があることは否定できないところであって,本件手引においても,前記(ア)のとおり,実施機関の判断により開示を可能とする趣旨である旨が記載されているところではある。しかし,本件条例の文言上,「開示することができる」という表現が用いられておらず,「〜開示するものとする。」と規定されていることに照らせば,非開示情報を開示することに明らかに優越的な公益があると認められる場合についてまで,当該非開示情報を開示するか否かの裁量権を実施機関に許容したものであるとは解し難い。むしろ,前記①のとおり,本件条例が,地方自治の本旨に基づく県民の知る権利を背景として,情報提供の充実を図ることを目的としていることからすれば,6条2項は,非開示とすることによって保護される利益よりも,開示することによって得られる公益が明らかに優越する場合には,実施機関に当該情報を開示すべき義務を定めたものと解するべきである。ただし,6条2項は,同条1項で原則非開示情報とされたものについて,同情報を開示することに明らかに優越的な公益があると認められることを要件として,同情報を開示するとの例外を定めている規定であるから,訴訟手続において,非開示情報について,6条2項に基づく開示義務があるか否かを判断するに際しては,非開示情報を開示することに優越的な公益がある旨主張して,6条2項の適用を求める者に,当該非開示情報を開示することによって得られる公益が,6条1項2号から7号で同非開示情報を非開示とすることによって保護しようとした利益と比較して,優越することが明白であることについて,立証する必要があるものと解するのが相当である。

(2) 県警本部における組織的不正経理の存否について

①  原告らは,北海道警察本部を始めとする他の都道府県における不正経理の実態から,それが警察庁の許容の下,組織的に行われていると主張し,さらに,本件一覧表の存在及びこれに対する被告の認否態度,あるいは高知新聞の県警本部の不正経理疑惑に関わる報道及びこれに対する被告の対応姿勢等を根拠として,県警本部においても,組織的に不正経理が行われており,本件非開示文書は全て虚偽文書であると主張する。

仮に,原告らの主張のとおり,本件非開示文書が,組織的不正経理の一環として作成された,虚偽公文書ないし偽造文書であり,そこに記載されている情報が全て実態のない虚構であることが判明したとなれば,6条2項の適用を問題とするまでもなく,本件非開示情報2が公共安全情報に該当するとの被告の判断の相当性が否定され,4号該当性が否定されることはもとより,いかに本件非開示情報1が外形的,類型的には2号に該当するものであったとしても,実質的には非開示とすべき利益が失われているともいえ,他方,これらの文書の存在及び内容を明らかにすることによって,組織的不正経理の全貌解明に資するものといえるから,当該公文書の開示をしないことにより保護される利益に明らかに優越する公益上の理由があると認められることになる。

②  この点,警視庁,北海道警察本部,静岡県警察本部,福岡県警察本部,愛媛県警察本部等において,捜査費の支出過程に非難されるべき点があったとしても,そのような捜査費の支出が全国的・組織的に行われていたことを推認するに足りる証拠はなく,この事実から,直ちに県警本部において組織的な不正経理が行われていたものと推測させるものでもない。

また,高知新聞は,第1報道や第2報道において,少なくとも捜査第一課において組織的に不正経理が行われている旨報道しているが,その報道内容の取材源は必ずしも明らかではなく,その真実性を裏付ける証拠もない以上,これらの報道から,直ちに捜査第一課における組織的不正経理を認めることは相当でない。

原告らは,本件一覧表は丁川警視が作成したもので,かつ,捜査員名の記載以外は,全て虚偽の会計書類に基づく実態のないものである旨主張する。確かに,本件一覧表の体裁・内容からすれば,捜査第一課の捜査費の執行状況を一元管理している立場の警察職員が,捜査費の個別具体的な執行状況を表形式でまとめていたかのような事実を推測させるものではあるが,平成14年当時捜査第一課総括補佐として捜査費の支出や精算に関与していた丁川警視は,そのような一覧表は作成していなかった旨を供述し(証人丁川四郎),本件一覧表が丁川警視の作成に係ることを認め得る証拠はない。また,本件一覧表に,債主,用務先等といった,一般的に馴染みのない専門用語が用いられているとはいえ,このような用語は,公の会計文書においては一般的に用いられていることに照らし,これらが捜査第一課をはじめ警察の内部関係者によって作成されたことの裏付けとなるともいい難く,結局,本件一覧表の作成者は,証拠上不明であるというほかない。したがって,その形式的証拠力が認められない以上,本件一覧表から,その記載内容のとおりに,平成14年4月4日から同年10月28日まで,捜査第一課において,捜査費が執行されたと認めることはできない。また,本件全証拠によっても,本件一覧表が,平成14年4月4日から同年10月28日までの捜査第一課における捜査費の執行状況に合致しているとも認められない。してみると,本件一覧表の記載内容の真偽を検討するまでもなく,本件一覧表を根拠として,県警本部において捜査費の執行に関し,組織的に不正経理が行われているとも認められない。

また,原告らは,被告の,本件一覧表に対する認否の姿勢や,県警本部幹部の県議会等における答弁等の姿勢からして,被告が実質的には組織的不正経理を認めているに等しいとも主張するところ,確かに,被告が本件一覧表の作成の真正について「不知」と陳述しているが,原告らは,書証の申出に際しては,本件一覧表を,作成者「不明」としており,これを受けて「不知」と認否するのは,民事訴訟における対応として必ずしも不合理ではないし,被告が,原告らの,丁川警視が本件一覧表の作成者であるとする主張を否認していることは,弁論の全趣旨により明らかであることからすれば,本件一覧表の成立真正につき,被告が「不知」と陳述したことをもって組織的に不正経理を行っていることの証左であるとはいい難い。さらに,県議会等における県警本部幹部の答弁の内容は,後記のとおり,第1報道やそれに引き続く本件一覧表の流出,さらに第2報道がなされるに至ったという経緯に照らし,説明責任の見地から不十分であり,県民ひいては国民の,特に捜査第一課における捜査費の執行に係る組織的不正経理に対する疑惑を払拭するには至らない内容のものであるとはいえ,これらの対応から,直ちに県警本部において組織的に捜査費の流用等の不正経理が行われているものとも認め難い。

その他,原告らが主張する,犯罪認知件数の増大と捜査費の減少との関連性についても,弁論の全趣旨によればそのような傾向が認められるところではあるが,捜査費の執行は,犯罪の具体的性質や捜査協力者の態度によっても左右されるものと解され,犯罪認知件数が増大すれば,直ちにこれに比例して増大する性質のものでもないことに照らせば,犯罪認知件数の増大にもかかわらず,捜査費が減少しているとの一事をもって,従前頻繁に行われていた組織的な不正経理が減少したためであるとまでは認められない。

③  以上によれば,原告らが主張する諸事情は,もともと認められないか,あるいは多義的な評価を容れる余地があり,これらを併せ考慮してもなお,県警本部において,組織的に不正経理が行われていると推認するには足りず,したがって,県警本部における組織的不正経理を根拠として本件非開示文書は全て開示されるべきであるとする原告らの主張は,採用することができないというべきである。

(3) 組織的不正経理に対する疑惑の有無とその程度について

①  ただ,前記(2)に認定説示したとおり,県警本部において,組織的に不正経理が行われているものとは証拠上認められないとはいえ,仮に,捜査費がすべて適正に執行されていると積極的に認めるには足りず,逆に,捜査費の執行に関して,それが違法,不当な目的のために流用されているのではないかなどといった疑惑があり,それに相応の根拠が伴っている場合には,捜査費が,警察法に規定された警察の重要な責務を達成するために公金から支出されるものであることや,平成12年3月に設けられた,有権者から構成される警察刷新会議が,警察組織における会計支出の透明性確保の重要性を指摘し,これを受けた警察庁が,会計適正化を求める通達を都道府県警察に発出していること(弁論の全趣旨)などに鑑みれば,情報公開制度を利用して捜査費の執行状況を事後的に検証し,当該疑惑の解明を図り,もって警察会計の透明化を促進することに,充分な公益上の理由があるものというべきであり,疑惑の濃淡及び当該情報を非開示とすることにより保護される利益の大小に応じ,その公益が,当該情報を非開示とすることにより得られる利益に明らかに優越すると認められるのであれば,6条2項により,被告が当該情報の開示を義務づけられる場合があるというべきである。

②  そこで検討するに,前記(2)②で説示したとおり,本件一覧表は,その形式的証拠力が認められず,また,本件全証拠によっても,本件一覧表が,平成14年4月4日から同年10月28日までの捜査第一課における捜査費の執行状況に合致しているとも認めるに足りないが,前記第2の1(11)③のとおり,本件一覧表の記載内容には,平成14年当時,捜査第一課に所属していた捜査員9名の氏名と同一の氏名が「捜査員名」欄に記載されているなど,事実に合致することが確認できる記載が含まれている上,「債主」といった,必ずしも警察内部においてのみ使用されているものではないにしても,一般になじみがないと解される用語が用いられていること,本件一覧表の入手経路に関して,市民オンブズマン高知のメンバーである戊谷五郎は,陳述書(甲58)において,それなりに具体的な内容を陳述していることなどからすると,本件一覧表の記載内容が,平成14年4月4日から同年10月28日までの,捜査第一課における捜査費の執行状況に合致しているのではないかとの疑いを必ずしも払拭できない。

そして,第1報道や第2報道の内容が,本件一覧表の記載を基にしつつ,捜査第一課における捜査費の執行に係る不正経理が存在する旨の指摘を行っていること,弁論の全趣旨によれば,この一覧表に債主と記載されている者の中で,捜査費を受領したと述べている者がいないことが認められることなどを考慮すると,仮に本件一覧表の記載内容が,平成14年4月4日から同年10月28日までの,捜査第一課における捜査費の執行状況に合致しているとすれば,その捜査費の執行内容は虚偽であり,捜査第一課における捜査費の執行に係る組織的不正経理が強く推認されることになる。

してみると,前記本件一覧表の記載内容が,平成14年4月4日から同年10月28日までの,捜査第一課における捜査費の執行状況に合致しているのではないかとの疑いがあるということは,そのまま,捜査第一課における捜査費の執行にかかる組織的不正経理が存在するのではないかとの疑いがあるということに他ならない。

③ア  また,前記第2の1(11)①のとおり,平成15年7月23日及び同月24日に第1報道がなされたことにより,捜査第一課における捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑が,多数の高知県民に認識されるに至ったが,この疑惑は,虚偽公文書作成罪や有印私文書偽造罪,それらの行使罪,ひいては公金の詐取罪といった刑法犯を構成する蓋然性が高い事項を対象とするものである。しかるに,当時,平成14年度の捜査第一課の総括補佐として,会計経理に深く関与する立場にあった丁川警視は,第1報道の後に,捜査費が適正に執行されていることを確認した旨供述するものの(証人丁川四郎,弁論の全趣旨),その具体的方法は明らかでなく,他方,当時捜査第一課捜査員であった己岡六郎及び庚本七郎は,いずれも,前記の点につき格別の調査を受けたことはない旨供述しており(証人己岡六郎及び庚本七郎),これら供述を総合すると,県警においては,第1報道後,仮に内部調査を行っていたとしても,虚偽公文書作成等の犯罪に関わる疑惑を前提として,その解明を図るための関係者に対する詳細な聞き取りなどの内部調査を行ったとまでは認められない。

イ  そして,第2報道は,前記第2の1(12)⑥のとおり,紙面上,一見して,実在する捜査員であり,かつ,本件一覧表に記載された捜査員を取材源としたと解される記述となっているばかりか,その捜査員が,いわば,内容が虚偽の,実体を伴わない会計書類を作成して行使していること,それが組織的に,上司の指示に基づいて行われていること,高知地検の取調べに先立ち,総括補佐(これは報道上,丁川警視を指すものと推測される。)から口止めされたなどといった,組織的に不正経理が行われ,また,組織的にその発覚を防ぐ措置が講じられていることなどを暴露するといった内容が,相当に具体的に盛り込まれており,これを目にした多数の高知県民にとっては,捜査第一課における捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑が,より強まったものと容易に推認される。

また,前記第2の1(11)②,(12)②及び③のとおり,この第2報道に先だって,平成15年8月に,被告ら県警本部の幹部が,高知県民を代表する県議会の総務委員会において,県議会議員に対し,捜査費が適正に執行されている旨を確認済みである,本件一覧表の内容と実際の会計書類を対比して,実際の会計書類と本件一覧表の内容と齟齬がある旨も確認した旨を答弁したばかりか,監査委員に対しても会計課長らが,捜査費が適正に執行されている旨の答弁を行っていたのであるから,本件一覧表において捜査員として記載されている捜査員複数が,実際に,第2報道の内容どおりの供述を,高知新聞の記者に対してしたということになれば,従前の被告ら県警幹部の県議会ひいては県民に対する説明と,真っ向から矛盾する見解が,県警本部内部から報道機関に提供されたことに他ならず,被告ら県警幹部の説明と,本件一覧表において捜査員として記載されている捜査員複数のそれと,いずれの説明内容が真実であるかにかかわらず,双方の説明に齟齬をきたしているということ自体,由々しき問題である。

そして,弁論の全趣旨によれば,高知新聞は,高知県下において広く購読されている普通紙であり,発行部数こそ全国紙に比して遥かに少なく,また,全国的に報道されるわけではないとしても,そこで報道された内容が高知県民に与える影響は大きいというべきであるから,県警としても,第2報道がされたということは,たやすく看過しうる事態ではないといわざるを得ない。

しかも,仮にその報道内容が真実であれば,単に警察官としての倫理違背が甚だしいというのに止まらず,行為自体が,捜査費の支出を虚偽の会計文書により仮装して,国費又は県費を詐取しているという点において,虚偽公文書作成罪や有印私文書偽造罪,それらの行使罪,ひいては公金の詐取罪といった刑法犯を構成する蓋然性が高いものであって,この第2報道は,第1報道と同様,見方によっては,捜査の端緒にも充分なり得るものである。他方,仮に報道内容が虚偽であるとすれば,高知新聞の記者が,実在しない捜査員から話を聞いた旨の記事をねつ造したか,実在する捜査員が,事実無根の虚偽情報を新聞記者に提供したということになるところ,それによって,高知新聞紙上に虚構の不正経理の事実を摘示させることによって,県警の名誉や威信を不当に侵害し,警察組織全体の士気にも由々しき影響を及ぼしたものと考えられるのであって,実在する捜査員が虚偽情報を提供したということであれば,少なくとも,警察職員の職務倫理及び服務に関する規則(平成12年1月25日付け国家公安委員会規則第1号。)5条が「警察職員は,国民の信頼及び協力が警察の任務を遂行する上で不可欠であることを自覚し,その職の信用を傷つけ,又は警察の不名誉となるような行為をしてはならない。」と定めていること(甲61)に違背するものに他ならず,これらを考慮しても,第2報道は,県警にとって,たやすく無視したり,黙殺することを相当とする内容のものとは考え難い。

しかるに,県警は,第2報道後に,高知新聞に情報を提供したとされる,本件一覧表において捜査員として記載されている捜査員複数が誰であるのか,という点については全く調査をしていないなど(証人丁川四郎),その対応は不自然といわざるを得ない。

なお,被告は,高知新聞の第1報道及び第2報道について,高知新聞に対する格別の対応をしていないことの理由として,最も公である県議会で説明済みであるとも主張するが,第2報道は,まさに,その県議会での説明後に,捜査員複数が,その説明内容と矛盾する説明をしたことを内容とするもので,それによって,県議会での説明そのものの真実性に,重大な疑惑が提起されているのであるから,それにもかかわらず,その捜査員複数が存在するのか否か,存在するとして誰なのかという点について,県警が全く調査をしていないことの理由として,県議会で説明済みであるからとの前記被告の主張は,合理的な説明となっていないことはもとより,被告の県議会での説明自体,その内容は,捜査費に関しては適正に執行されているとの概括的抽象的な内容に終始し,第1報道に基づく疑惑について,どのような調査を講じたかといったことすら明らかにしておらず,被告自らが捜査費が適正に執行されている旨を答弁していることをもって,説明責任が完遂されたとも,疑惑が払拭されたともいい難い。

そうすると,県警の第1報道及び第2報道に対する対応が,不自然であるといわざるを得ず,そのような対応をとることについて合理的理由も認められない以上,県警がそのような対応をするのは,第1報道及び第2報道が指摘する,平成14年度における捜査第一課の捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑が真実であるからではないかとの疑惑は,相当程度強いものといわざるを得ない。

④  以上のような疑惑に対して,被告は,本件監査結果や本件検査結果において,捜査第一課はもとより県警本部における会計処理に,組織的不正経理を窺わせるような格別の問題点の指摘はなされておらず,特に,本件検査結果の基となった会計検査院の検査が,会計検査院側が選定した,捜査第一課の捜査員3名を対象とする聞き取り調査や,マスキングを除いた捜査費に関する会計書類を対象として行われるなど,厳格な検査が行われたことから,県警本部における捜査費の執行がすべて適正に行われたことが明らかである旨主張する。しかしながら,本件監査結果の基となった監査委員の監査に対しては,捜査に支障をきたすおそれなどを理由に,領収書などの関係書類は提出されておらず(乙14),本件検査結果の基となった会計検査院の検査にしても,会計実地検査を行う調査官が,外部に公開できない捜査上等の秘密を含むとする情報の提供を受ける必要が生じても,受検側から捜査上の秘密を理由として情報の提供を拒絶されたり,領収書の名義人本人に対する事情聴取を控えざるを得ないといった場合があるなど(乙15),一般的な経費と比較して,警察の捜査費等の経理に関しては,捜査上の秘密等による制約が相当に大きく,監査委員の監査や会計検査院の検査にも限界があり,これらに対して,必ずしも万全の信頼を置き難いといわざるを得ない。したがって,本件監査結果及び本件検査結果において,県警本部における会計処理に,組織的不正経理を窺わせるような格別の問題点の指摘がなされていないとの事実をもって,前記疑惑が払拭され,県警本部において,捜査費がすべて適正に執行されていると積極的に認めるには足りない。

また,被告ほか県警本部の幹部による県議会での,捜査第一課における捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑に対する答弁が,前記③で説示のとおり,概括的抽象的であることから,それによって,前記疑惑が払拭したとも認められない。

⑤  そうすると,平成14年度における捜査第一課の捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑は相当に具体的であり,これを解明することには相当に高度の公益性があるというべきである。

(4) 本件非開示処分に対する6条2項の適用について

①  そこで,当該公益性と,本件非開示情報1及び2のうち,捜査第一課の捜査費に係る文書で,前記1及び2で認定説示したとおり,2号ないし4号該当性が認められるものについて,それを非開示とすることによって保護される利益との比較について検討する。

ア  まず,前記1(2)及び(3)で説示した,本件非開示情報1―1及び1―2のうち,2号該当性が認められる捜査第一課の捜査費に係る「捜査費支出伺」,「支払精算書」,「捜査費交付書兼支払精算書」,「支払伝票」及びこれらに添付された領収書等に記載された警部補以下の階級にある警察官の氏名及び印影,「支払精算書」及び「支払伝票」に記載された捜査協力者等の実名に係る住所及び氏名並びに領収書に記載された捜査協力者等の実名に係る住所,氏名及び印影については,その非開示によって保護されるべき利益が,個人のプライバシーを中核とする個人情報の秘匿という,相当具体的な権利利益であるのに対し,捜査第一課における捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑は,相当に具体的であるとはいえ,それが未だ疑惑の域にとどまっていることからすれば,この個人情報の秘匿という重要な利益の保護よりも,明らかに優越する公益があるとまでは認められない。

イ  次に,本件非開示情報2―2及び2―3(別紙文書目録2)は,いずれも捜査第一課の県費及び国費の捜査費の月別の収支を明らかにするもので,前記2(3)②のとおり,捜査の繁閑は明らかになるものではあるが,これによって,捜査協力者等の氏名や個別具体的な捜査の状況までもが明らかになるわけではなく,その情報量に照らし,捜査に影響を及ぼすおそれは抽象的であり,仮にそのおそれが顕在化したとしても,捜査に対して直ちに深刻な影響を与えるとまでは,容易には想定し難いことに加えて,本件各開示請求までの間に,この本件非開示情報2―2及び2―3によって収支が明らかになる捜査費が執行されてから,数か月以上が経過していることなども考慮すると,平成14年度における捜査第一課の捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑を解明するという公益性は,本件非開示情報2―2及び2―3を非開示とすることによって保護されるべき利益に明らかに優越するものと認められるというべきである。

ウ  また,本件非開示情報2―1のうち,別紙文書目録1記載の部分については,前記2(3)①イで説示したとおり,これらが必ずしも個別具体的な捜査費の執行を直接明らかにする情報ではなく,この情報を非開示とすることによって回避しようとしている,公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれは,相当抽象的なものにとどまっていることに加えて,本件各開示請求時までの間に,この本件非開示情報2―1のうち,別紙文書目録1記載の部分が関わる捜査費が執行されてから数か月以上が経過していることなども考慮すると,当該部分を開示することによって得られる公益性は,これらを非開示とすることによって保護される利益よりも明らかに優越するものと認められるというべきである。

エ  これに対して,本件非開示情報2―1のその余の部分については,前記2(3)①アで説示したとおり,その情報を非開示とすることによって回避しようとしている,公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれは,相当具体的であって,平成14年度における捜査第一課の捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑が,相当に具体的であるとはいえ,未だ疑惑の域にとどまっていることと比較すると,この公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれを回避するという利益の保護よりも,明らかに優越する公益があるとまでは認められない。

②  他方,捜査第二課及び暴力団対策課の各捜査費支払証拠書について検討するに,前記(2)②のとおり,警視庁,北海道警察本部,静岡県警察本部,福岡県警察本部,愛媛県警察本部等,全国広域にわたって,捜査費の支出過程に非難されるべき点が認められ,新聞報道や雑誌,書籍等において警察の組織的不正経理が取りざたされ(甲19,22,24,25,38,40,41,42,47,51,67,72,80,84,85,96。枝番のあるものは枝番を含む。),また,前記(3)のとおり,平成14年度における捜査第一課の捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑があることを考慮すれば,広く警察組織における組織的不正経理に対する疑惑が存在していると指摘できるにしても,これらの疑惑は,前記捜査第一課に対する疑惑とは異なり,未だ抽象的なものに止まっており,本件各開示請求との関係でいえば捜査第二課,暴力団対策課においてまで,捜査第一課に対するのと同水準の疑惑が存在するものとはいえないから,捜査第二課及び暴力団対策課の各捜査費支払証拠書に係る本件非開示情報1及び2を非開示とすることにより保護される利益に明らかに優越する公益上の理由があるとまでは認め難い。

第4  結論

以上によれば,本件非開示文書のうち,別紙文書目録1及び2記載の各文書について,非開示とした部分は,6条2項の解釈適用を誤った違法があるから,これを取り消すのが相当であるが,その余の部分については適法と認められるので,①原告甲野の請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,②原告乙原の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について,原告甲野と被告との間においては行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文を,原告乙原と被告との間においては行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・新谷晋司,裁判官・坂本好司裁判官・井野憲司は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官・新谷晋司)

別紙

処分詳細<省略>

様式1 捜査費支払証拠書<省略>

様式2 月分捜査費総括表<省略>

様式3 捜査費支出伺<省略>

様式4 支払精算書<省略>

様式5 捜査費交付書兼支払精算書<省略>

様式6 支払伝票<省略>

様式7 返納決議書<省略>

様式8 領収書<省略>

様式9 月分捜査費受払表<省略>

本件条例・抜粋<省略>

本件規則・抜粋<省略>

本件手引・抜粋<省略>

捜査第一課等の所掌事務<省略>

別紙文書目録1

平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課の国費及び県費の各捜査費支払証拠書のうち,

1 各「捜査費支出伺(別紙要式3)」中の,

(1) 「課(署)長」,「総括補佐(副署長・次長)」,「出納簿登記」欄にある各印影

(2) 「¥  」欄に記載された金額及び「金額」欄に記載された金額

(3) 被交付者欄(「            渡」欄)に記載された捜査員の官職

(4) 内訳欄中の「官職」欄に記載された捜査員の官職

2 各「支払精算書(別紙要式4)」中の,

(1) 取扱者あて名(「    課(署)長殿」欄)

(2) 精算者の氏名等欄(「           印」欄)に記載された捜査員の官職

(3) 「既受領額」欄,「支払額」欄,「差引過不足(△)額」欄,支払額内訳の「金額」欄に記載された各金額

(4) 「課(署)長」,「総括補佐(副署長・次長)」,「出納簿登記」欄にある各印影

(5) 精算結果伺(捜査費執行の結果生じた返納又は追給について,「上記の返納額について返納してよろしいか。」,「上記の不足額について支出してよろしいか。」との伺い,及び,精算の結果に係る,返納額の年月日又は不足額の領収年月日の記載。)

(6) 取扱者名(「領収書を徴することができなかった理由は,支払事由欄記載のとおり相違ないことを確認する。」との定型文言の後にある取扱者の氏名及び印影)

3 各「捜査費交付書兼支払精算書(別紙要式5)」中の,

(1) 「課(署)長」,「総括補佐(副署長・次長)」,「出納簿登記」欄にある各印影

(2) 取扱者あて名(「    課(署)長殿」欄)

(3) 中間交付者の氏名等欄(「           印」欄)に記載された中間交付者の官職

(4) 「既受領額」欄,「交付額」欄,「支払額」欄,「返納額」欄に記載された各金額

(5) 内訳の,「交付額」欄,「支払額」欄,「返納額」欄に記載された各金額

(6) 内訳の「官職」欄に記載された捜査員の官職

4 各「支払伝票(別紙様式6)」中の,

(1) 捜査員の氏名等欄(「           印」欄)に記載された捜査員の官職

(2) 「金額」欄に記載された金額

5 各支払精算書又は各支払伝票に添付(別紙添付,貼付等の形式の別を問わない。)された資料中に記載(筆記,印字の別を問わない。)された金額

別紙文書目録2

1 平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課の国費の捜査費支払証拠書のうち,各「月分捜査費総括表(別紙様式2)」中の,以下の各欄に記載された各金額

(1) 前月より繰越額(ただし,4月分を除く。)

(2) 本月受入額

(3) 本月支払額

(4) 残額(ただし,3月分を除く。)

(5) 前月末未精算を本月精算した結果の返納額又は追給額(△)(ただし,4月分を除く。)

(6) 本月概算交付し翌月に精算した結果の返納額(△)又は追給額

2 平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課の県費の捜査費支払証拠書のうち,各「月分捜査費受払表(別紙様式9)」中の,以下の各欄に記載された各金額

(1) 受入額

(2) 支払額

(3) 残額(返納額)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例