高知地方裁判所 平成15年(行ウ)22号 判決 2004年8月10日
原告 甲
被告安芸税務署長 和田信行
同指定代理人 横山和可子
同 小松一利
同 富﨑能史
同 木本裕
同 宇都宮浩
同 浜田幸秀
同 佐竹昭彦
同 中川義信
同 鈴木久市
同 友澤哲郎
同 倉本幸芳
同 吉岡義仁
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告が平成14年7月9日付けで原告の平成12年7月30日相続開始に係る相続税についてした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 当事者間に争いのない事実等
以下の各事実は、当事者間に争いのない事実、証拠(甲2、乙1)及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実である。
(1) 当事者等
乙(以下「被相続人」という。)は、平成12年7月30日に死亡し、その相続が開始した(以下「本件相続」という。)。その相続人は、長男の丙(以下「丙」という。)、次男の原告及び長女の丁(以下「丁」という。)の3名(以下「共同相続人」という。)である。丙には、妻戊(以下「戊」という。)及び3人の子(A、B、C)がおり、丁には、夫D(以下「D」という。)と子(E)がいる。
(2) 相続財産の状況等
① 被相続人の相続財産の内訳は、概ね、別表1の①ないし⑮の各相続財産欄に記載のとおりであり、その相続財産には、高知県安芸市矢ノ丸所在の土地(以下「A土地」という。)、同所所在の土地(以下「B土地」という。)、安芸市本町所在の土地(以下「G土地」という。)、同所所在の土地(以下「H土地」という。)、同所所在の土地(以下「I土地」という。)、同所所在の土地(以下「J土地」という。)、安芸市染井町所在の建物(以下「D、E及びFの建物」という。)、大阪市東住吉区住道矢田所在の土地(以下「X土地」という。)が含まれている。
② A土地及びB土地は、ほぼ長方形であり、A土地の西辺とB土地の東辺がつながっており、2筆の土地が一体として使用可能な状態であり、実際にも安芸市消防署が無償で使用し、消防自動車等が駐車されていた。A土地及びB土地の形状等が本件相続開始時以降に変更されたことはない。
③ G土地、H土地、I土地及びJ土地は隣接しており、各筆ごとに区割りはされておらず、形状等が本件相続開始時以降に変更されたことはないところ、本件相続開始時においては空閑地として放置され、未利用の状態であったが、高松国税不服審判所による調査段階では、原告がその全体を駐車場として賃貸していた。
④ D、E及びF建物には、被相続人の長男である丙及びその家族が、生前の被相続人と同居していた。
⑤ X土地上には、本件相続開始時において、丁の夫D名義の建物が存在し、D及びその家族が居住していた。
⑥ 別表1の⑨、⑩、⑫ないし⑭の相続財産及び⑮の葬式費用の各評価額は、各原告主張額欄及び各被告主張額欄に記載のとおりである。
(3) 課税処分の経緯等
① 共同相続人は、平成13年5月29日、本件相続に係る相続税の申告書を被告に提出した(以下「本件申告」という。)。本件申告における原告の納付すべき税額は、101万3300円とされていた。
② 原告は、平成14年5月23日、本件申告には相続財産の評価誤り及び債務控除の漏れがあったとして、相続税の更正の請求書を被告に提出した。
③ 被告は、上記更正の請求に対し、平成14年7月4日付けで更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行った。
④ 本件申告には相続財産の価額の算出方法に誤りがあったため、被告は、原告に対し、相続税の修正申告書の提出を促したが、原告はこれに応じなかった。そこで、被告は、原告に対し、平成14年7月9日付けで、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」といい、これと本件更正処分とを併せて「本件更正処分等」という。)を行った。
⑤ 原告は、本件通知処分及び本件更正処分等を不服として、被告に対し、平成14年8月7日付けで異議申立てを行った。
⑥ 被告は、平成14年10月31日付けで、本件通知処分及び本件更正処分等に対する異議申立てをいずれも棄却した。
⑦ 原告は、本件通知処分及び本件更正処分等に不服があるとして、平成14年11月21日付けで国税不服審判所長に対し審査請求を行った。
⑧ 国税不服審判所長は、平成15年7月1日付けで、本件通知処分及び本件更正処分等に係る審査請求をいずれも棄却する裁決を行った。
⑨ 本件相続に係る原告に対する課税処分の経過は別表2のとおりである。
2 争点
本件の争点は、(1) 隣接する複数筆の土地(A、B、G、H、I、Jの各土地)を1画地として評価したことの適否(争点(1))、(2) D名義の建物が存在するX土地を借地権の目的となっている宅地として評価するか否か、評価するとして、小規模宅地等についての相続税課税価格の計算の特例を適用すべきか否か(争点(2))、(3) 丙が被相続人の死亡以前に同人と同居していたD、E及びF建物について、借家権付建物として評価すべきか否か(争点(3))、(4) 被相続人には、戊らに対する贈与に係る債務があるか否か、あるとして被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきか否か(争点(4))、(5) 被相続人は、原告に対し、原告名義の土地の売却代金に係る金銭支払債務を負っているか否か、負っているとして、被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきか否か(争点(5))、(6) 本件更正処分の課税根拠(争点(6))、(7) 本件賦課決定処分の課税根拠(争点(7))である。
(1) 隣接する複数筆の土地を1画地として評価したことの適否(争点(1))について
① 原告の主張
A土地及びB土地は隣接し、安芸市消防署等が駐車場として使用していたが、使用貸借契約を締結した事実はなく、また、被相続人は、生前、宅地建物取引業を営んでおり、通常業者が土地を売却する場合には、小規模宅地等の特例が適用できるよう199平方メートルを目安として区割りをして販売するので、これら2筆の宅地を1画地として販売することは考えられない。また、G土地、H土地、I土地及びJ土地は、不動産業者なら当たり前の投資用等と考える物件である。よって、A土地及びB土地並びにG土地、H土地、I土地及びJ土地のいずれについても、各筆ごとに評価すべきであり、その評価額は、別表1の①ないし⑥の各原告主張額欄に記載のとおりである。
② 被告の主張
ア 宅地の評価方法について
宅地の価額を評価する場合の評価単位については、国税庁長官の各国税局長宛て相続税財産評価に関する基本通達(平成13年5月10日付課評2-6による改正前のもの。以下「評価通達」という。)7-2によれば、宅地の価額は、1画地、すなわち利用の単位となっている1区画の宅地ごとに評価することとし、1画地の宅地は、必ずしも1筆の宅地からなるとは限らず、2筆以上の宅地からなる場合もあり、また、1筆の宅地が2画地以上の宅地として利用されている場合もあることに留意する旨定められており、宅地は1筆単位あるいは所有者単位で評価するのではなく、利用単位ごとに評価することとされている。したがって、宅地にあっては、不動産登記簿上の単位と現実の利用形態が必ずしも一致しているとは限らないため、そのような状況のもとでは、宅地の時価、すなわち客観的な交換価値は、一筆単位ではなく、現実の利用単位すなわち画地ごとに評価すべきである。
イ A土地及びB土地について
A土地及びB土地は、東西に隣接し、2筆の土地が一体として使用可能なものであったと認められ、本件相続開始時において、A土地及びB土地を無償で使用していた安芸市消防署も一体のものとして使用していた。また、A土地及びB土地の形状等が本件相続開始時以降に変更されたこともない。そうすると、A土地及びB土地は、本件相続開始時において、2筆の土地を一体として使用することが可能な形状のものであり、かつ、実際にも一体として使用されていたものであることから、各筆ごとに評価するのではなく、現実の利用形態に即して1画地の宅地として評価すべきであり、その評価額は別表1の①及び②の被告主張額欄に記載のとおりである。
ウ G土地、H土地、I土地及びJ土地について
G土地、H土地、I土地及びJ土地は隣接し、各筆ごとに区割りはされておらず、本件相続開始時においては空閑地として未利用の状態であったから、各筆ごとに評価するのではなく、1画地の宅地として評価すべきであり、その評価額は別表1の③ないし⑥の被告主張額欄に記載のとおりである。
(2) D名義の建物が存在するX土地を借地権の目的となっている宅地として評価するか否か、評価するとして、小規模宅地等についての相続税課税価格の計算の特例を適用すべきか否か(争点(2))について
① 原告の主張
X土地は、被相続人が生前、共同住宅を建て生活の足しにしていたが、阪神大震災の際に被害に遭ったことから取り壊した。その後、丁の夫Dは、同人名義で新築住宅を建て、賃借権に基づいてX土地を占有し、同人の家族と共に居住していたものである。X土地の固定資産税は丁の家族が支払っており、丁の家族は使用貸借という用語すら知らないのであるから、X土地の占有権原を使用貸借とする税務署の調査は不自然である。よって、X土地は、借地権の目的となっている宅地として評価すべきである。さらに、X土地については、平成13年法律第7号附則32条1項、平成14年法律第15号附則32条1項、平成15年法律第8号附則123条3項により平成13年法律第7号による改正前の租税特別措置法69条の4(以下「措置法69条の4」といい、改正経過を省略する。)を適用し、相当の対価を得て継続的に行う不動産の貸付けを含む被相続人の事業(租税特別措置法施行令40条の2第1項)の用に供されていた宅地等で、建物の敷地の用に供されており政令(租税特別措置法施行令40条の2第2項)で定めるものであって、そのうち政令(租税特別措置法施行令40条の3第3項)で定めるところにより選択したものとして、限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」という。)について、相続税の課税価格に算入すべき価額を当該小規模宅地等の価額に小規模宅地等の区分に応じた100分の50の割合を乗じて計算するのが相当である。以上によれば、X土地の評価額は別表1の⑦の原告主張額欄に記載のとおりである。
② 被告の主張
ア 使用貸借の目的となっている宅地の評価方法について
借地権の目的となっている宅地の評価については、評価通達25(1)によれば、その宅地の価額から、その借地権の価額を控除した価額により評価することとされているが、当該借地権には使用貸借に基づく権利は含まない。したがって、使用貸借の目的となっている宅地は、自用地としての価額により評価するのが相当である。
イ X土地について
X土地には、本件相続開始時において、丁の夫Dが同人名義の建物を建て、同人の家族が居住していたが、被相続人とDとの間にはX土地の賃貸借契約の締結及び地代の授受等の事実は認められない。そうすると、Dは、被相続人との使用貸借に基づいてX土地を占有していたものと認めるのが相当であって、X土地を借地権の目的となっている宅地として評価することはできない。
ウ 小規模宅地等についての相続税課税価格の計算の特例(措置法69条の4)の適否
X土地は、Dが使用貸借に基づいて占有していたものであり、相当の対価を得て行う不動産の貸付けを含む被相続人の事業の用に供されていた宅地に該当しないから、措置法69条の4を適用することはできない。以上によれば、X土地の評価額は別表1の⑦の被告主張額欄に記載のとおりである。
(3) 丙が被相続人の死亡以前に同人と同居していたD、E及びF建物について、借家権付建物として評価すべきか否か(争点(3))について
① 原告の主張
D、E及びF建物には、本件相続開始時以前より、丙の家族が被相続人と同居しており、丁及び原告も帰郷の際には寝泊まりしていた。そして、丙は、親子とはいえ独立した社会人であり、被相続人と丙の家族との間の家族生活の中で、被相続人が負担する部分と丙の家族が負担する部分があったことから、賃貸借に基づいてD、E及びF建物を占有していたものであり、使用貸借であったとする税務署の調査は不自然である。よって、D、E及びF建物は、借家権付建物として評価すべきであり、その評価額は別表1の⑪の原告主張額欄に記載のとおりである。
② 被告の主張
ア 使用貸借の目的となっている家屋の評価方法について
貸家の評価については、評価通達93によれば評価通達89(家屋の評価)の定めにより評価したその家屋の価額から、当該価額に評価通達94(借家権の評価)に定める借家権割合及び評価通達26(貸家建付地の評価)の(2)の定めによるその家屋に係る賃貸割合を連乗した額を控除した価額により評価することとされているが、評価通達93にいう借家権とは、借地借家法の適用のある家屋賃借人の有する賃借権をいい、使用貸借による家屋の無償使用はこれに含まれない。そして、使用貸借による家屋の使用権は、借家権のように客観的な交換価値を有するものとみることが困難であるから、減額要因とすべきではない。
イ D、E及びF建物の評価について
D、E及びF建物は、丙が本件相続開始時以前から被相続人と同居していた建物であるが、被相続人と丙との間には当該建物の賃貸借契約の締結及び家賃の授受は認められない。したがって、丙は、使用貸借に基づいてD、E及びF建物を占有していたものであるから、D、E及びF建物は借家権付建物として評価すべきではなく、その評価額は別表1の⑪の被告主張額欄に記載のとおりである。
(4) 被相続人には、戊らに対する贈与に係る債務があるか否か、あるとして被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきか否か(争点(4))について
① 原告の主張
被相続人は、農業や、後に宅地建物取引業を業としていたが、金銭的には苦しい生活をしており、不動産による収入を頼りにしていたところ、その子及び孫の将来のために生前贈与を考え、言い渡す者を選択した模様である。したがって、以下の金額を被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきである(別表1の⑯の原告主張額欄に記載のとおり)。
丙の妻(戊) 450,000×21年=9,450,000円
丙の子(A) 450,000×19年=8,550,000円
丙の子(B) 450,000×18年=8,100,000円
丙の子(C) 450,000×14年=6,300,000円
丁の夫(D) 450,000×19年=8,550,000円
丁の子(E) 450,000×18年=8,100,000円
合計 49,050,000円
② 被告の主張
原告は、被相続人が、生前、戊ほか5名に対して金員の贈与を約したことにより債務を負っていたと主張し、生前贈与証明書(甲1)を提出するが、同証明書は、被相続人が作成したものとは認められず、同人の死亡後に原告自らが作成したものであり、信用できない。また、当該贈与に係る債務は、遺産分割協議書にも何ら記載されておらず、さらに、国税不服審判所の調査によっても、被相続人が戊ほか5名に対して、原告が主張するような贈与を行う旨の意思を明らかにしていた事実を認めるに足りる証拠は存在しなかった。したがって、戊らに対する贈与に係る債務の存在を認めることはできない。
(5) 被相続人は、原告に対し、原告名義の土地の売却代金に係る金銭支払債務を負っているか否か、負っているとして、被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきか否か(争点(5))について
① 原告の主張
原告が、Fより相続し、安芸市に譲渡した安芸市染井町の土地の譲渡代金700万円を被相続人が収受したまま、原告に対し支払っていないので、被相続人は原告に対し金銭支払債務を負っており、当該金額を被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきである。
② 被告の主張
原告は、安芸市役所に譲渡した原告名義の土地の譲渡代金は被相続人が受領し、原告に支払われていないと主張するが、原告が主張するような土地譲渡代金に係る債務は遺産分割協議書に何ら記載されていない。そもそも、原告名義の土地を売却したのであれば、その事実を証する証拠を具体的に示すべきであるにもかかわらず、原告は、その売却時期及び土地の所在地を特定することすらしていない上、売買契約書等の客観的証拠も提出されていないのであって、到底、原告が主張するような土地の売却が行われた事実を認めることはできない。さらに、仮に、原告名義の土地が売却されていた事実が認められたとしても、原告が受け取るべき譲渡代金を被相続人が受領した事実及び同人がその代金を原告に対して支払っていない事実を具体的に証明する証拠も示されていない。よって、原告の主張する土地譲渡代金に係る債務の存在は認められない。
(6) 本件更正処分の課税根拠(争点(6))について
① 被告の主張
ア 総遺産価額の計算
(ア) 本件申告における総遺産価額
原告は、被告に対し、被相続人の総遺産価額を1億5584万6816円とする相続税の申告書を提出した。
(イ) 計算誤りによる過少計上
本件申告における評価額算出過程の計算の誤りを改め、別表1の③ないし⑥、⑧、⑪、⑫の各被告主張額欄に記載のとおり、G土地、H土地、I土地及びJ土地の価額を1231万9138円、安芸市染井町所在の宅地の価額を942万6282円、D、E及びF建物の価額を468万5963円、安芸市染井町所在の建物の価額を2665万3230円とし、本件申告額との差額1592万5676円を総遺産価額に加算すべきものと認めた。
(ウ) 計算誤りによる過大計上
本件申告における評価額算出過程の計算の誤りを改め、別表1の⑬の被告主張額欄に記載のとおり、立木の価額を5万5192円とし、本件申告額との差額9739円を総遺産価額から減算すべきものと認めた。
(エ) 総遺産価額
上記(ア)の総遺産価額に、上記(イ)を加算し、上記(ウ)を減算すると、被相続人の総遺産価額は1億7176万2753円となる。
イ 債務及び葬式費用の金額
債務及び葬式費用の金額は、本件申告に係る相続税の申告書に記載された341万6117円と同額である。そうすると、本件相続により財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額は1億6834万5000円となる。
ウ 相続税の総額
平成15年法律第8号附則15条により同法による改正前の相続税法16条(以下「相続税法16条」といい、改正経過を省略する。)に従って相続税の総額を算出すると、別表1の被告主張額欄に記載のとおり1406万8800円となる。
エ 農地等についての相続税の納税猶予の特例
平成13年法律第7号附則32条8項、平成14年法律第15号附則32条4項、平成15年法律第8号附則123条11項により平成13年法律第7号による改正前の租税特別措置法70条の6(以下「措置法70条の6」といい、改正経過を省略する。)に従って納税猶予額を算出すると75万2400円となり、これを上記ウの相続税の総額から控除した額は1331万6400円となる。
オ 原告の納付すべき税額
原告の本件相続による取得財産の価額は1496万1347円であり、控除すべき債務等はないから、原告についての課税価格は1496万1000円となる。
そうすると、原告の納付すべき税額を算出するための按分割合は、原告についての課税価格1496万1000円を上記イの課税価格の合計額1億6834万5000円で除した上、小数点以下2位未満の端数を調整した0.09が相当である。したがって、原告の納付すべき税額は、上記ウの相続税の総額から上記エのとおり納税猶予額を控除した1331万6400円に0.09を乗じた上、100円未満の端数を切り捨てた119万8400円となる。
カ 本件更正処分の適法性
以上によれば、別表2のとおり、納付すべき税額を119万8400円とした本件更正処分は適法である。
② 原告の主張
争点(1)ないし(5)についての原告の主張に基づき課税価格を算定すると、総遺産価格が、別表1の原告主張額欄に記載のとおり1億3174万1125円、債務控除の合計額が5946万6117円、課税価格が7227万5000円(千円未満切捨て)となり、遺産に係る基礎控除額8000万円を下回るので、相続税の総額は0円である。したがって、原告の納付すべき税額は0円である。
(7) 本件賦課決定処分の課税根拠(争点(7))について
① 被告の主張
国税通則法65条1項は、更正があった場合、当該納税者に対し、更正に基づき同法35条2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨を定めている。これを本件についてみると、上記(6)①オの原告の納付すべき税額119万8400円と本件申告における原告の納付すべき税額101万3300円との差額18万5100円から同法118条3項により1万円未満の端数を切り捨てた18万円に100分の10を乗じて計算した。1万8000円が過少申告加算税の額となる。以上によれば、別表2のとおり、過少申告加算税を1万8000円とした本件賦課決定処分は適法である。
② 原告の主張
上記(6)②のとおり、原告の納付すべき税額は0円であるので、過少申告加算税の額は0円である。
第3 当裁判所の判断
1 評価通達及び評価基準による評価方法の妥当性について
平成15年法律第8号附則15条により同法による改正前の相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めのある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定している。ところで、同条にいう時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額をいうものと解するのが相当であるが、対象財産の客観的交換価格は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価するとすれば、評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあるため、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達及び毎年各国税局長が定める相続財産評価基準(以下「評価基準」という。)により定められ、これらによって定められた評価方法に従って画一的に財産の評価が行われている(弁論の全趣旨)。このように評価通達等によってあらかじめ定められた評価方法に従って、画一的な評価を行う課税実務上の取扱いは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の見地からみて合理的であり、これを形式的にすべての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平の実現につながり、租税平等主義にかなうものというべきである。
2 隣接する複数筆の土地を1画地として評価したことの適否(争点(1))について
証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、評価通達7-2は、宅地について、1画地の宅地を評価単位とする旨を定めている事実が認められるところ、その趣旨は、土地の現実の利用形態に即して土地の評価を行うとするものであって、土地の時価の評価方法として適正妥当なものといえる。
そして、前記第2の1(2)②のとおり、A土地及びB土地は、ほぼ長方形であり、A土地の西辺とB土地の東辺がつながっており、2筆の土地が一体として使用可能な状態で、安芸市消防署が無償で使用し、消防自動車等が駐車され、A土地及びB土地の形状等が本件相続開始時以降に変更されたことはないとの事実が認められる。そうすると、A土地及びB土地は、本件相続開始時において、一体として使用することが可能な形状であり、かつ、実際にも一体として使用されていたから、各筆ごとに評価するのではなく、現実の利用形態に即して1画地の宅地として評価すべきである。
また、前記第2の1(2)③のとおり、G土地、H土地、I土地及びJ土地は隣接しており、各筆ごとに区割りはされておらず、形状等が相続開始時以降に変更されたことはなく、本件相続開始時においては空閑地として放置され、未利用の状況であったが、高松国税不服審判所の調査段階では、原告が全体を駐車場として賃貸していた事実が認められる。そうすると、G土地、H土地、I土地及びJ土地は、本件相続開始時において、一体として使用することが可能な形状であり、かつ、実際にも個別に使用されてはいなかったから、各筆ごとに評価するのではなく、現実の利用形態に即して1画地の宅地として評価すべきである。
さらに、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件更正処分に際して、A土地及びB土地並びにG土地、H土地、I土地及びJ土地について、いずれも1画地であることを前提として、評価通達及び評価基準に従って評価額を算出したものと推認される。
よって、原告の主張には理由がなく、A土地及びB土地の評価額は別表1の①及び②の被告主張額欄に記載のとおり、4488万4040円、G土地、H土地、I土地及びJ土地の評価額は、別表1の③ないし⑥の被告主張額欄に記載のとおり、1231万9138円であると認められる。
3 D名義の建物が存在するX土地を借地権の目的となっている宅地として評価するか否か、評価するとして、小規模宅地等についての相続税課税価格の計算の特例を適用すべきか否か(争点(2))について
証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、借地権の目的となっている宅地の評価については、評価通達25(1)は、その宅地の価額から、その借地権の価額を控除した価額により評価する旨を定めている事実が認められるが、使用借権は、借主と貸主の間の好意・信頼関係などの人的つながりを基盤とする利用権にすぎず、借主が使用継続を要求する権利は極めて弱いものであって客観的な交換価値を有するものとみることは困難であることにかんがみると、当該借地権には使用貸借に基づく権利は含まれないと解される。したがって、使用貸借の目的となっている宅地は、自用地としての価額により評価するのが相当である。
そして、前記第2の1(2)⑤のとおり、X土地上には、本件相続開始時において、丁の夫D名義の建物が存在し、D及びその家族が居住していた事実が認められるところ、原告は、Dは、賃借権に基づいてX土地を占有していたものである旨主張するが、本件全証拠によっても、被相続人とDとの間に賃貸借契約が締結されていた事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、証拠(乙3)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被相続人とDとの間にはX土地の賃貸借契約の締結及び地代の授受等はなかったものと推認される。そうすると、Dは、使用貸借に基づいてX土地を占有していたものというべきであるから、X土地は借地権の目的となる宅地とは認められず、評価通達25(1)による控除は認められない。
また、X土地は、Dが使用貸借に基づいて占有していたものであり、相当の対価を得て行う不動産の貸付けを含む被相続人の事業の用に供されていた宅地に該当しないから、措置法69条の4を適用することはできない。
さらに、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件更正処分に際して、X土地について、自用地であることを前提として、評価通達及び評価基準に従って評価額を算出したものと推認される。
よって、原告の主張には理由がなく、X土地の評価額は、別表1の⑦の被告主張額欄に記載のとおり、4313万4218円であると認められる。
4 丙が被相続人の死亡以前に同人と同居していたD、E及びF建物について、借家権付建物として評価すべきか否か(争点(3))について
証拠(乙2)及び弁論の全趣旨によれば、貸家の評価については、評価通達93は、評価通達89(家屋の評価)の定めにより評価したその家屋の価額から、当該価額に評価通達94(借家権の評価)に定める借家権割合及び評価通達26(貸家建付地の評価)の(2)の定めによるその家屋に係る賃貸割合を連乗した額を控除した価額により評価する旨定めている事実が認められるところ、前記3に説示のような使用貸借の性質にかんがみると、使用貸借による建物の使用権は、評価通達93にいう借家権には含まれないものと解される。
そして、前記第2の1(2)④のとおり、D、E及びF建物には、被相続人の長男である丙及びその家族が、生前の被相続人と同居していたところ、原告は、丙が、親子とはいえ独立した社会人であり、被相続人と丙の家族との間の家族生活の中で、被相続人が負担する部分と丙の家族が負担する部分があったことから、賃貸借に基づいてD、E及びF建物を占有していた旨主張するが、本件全証拠によっても、被相続人とDとの間にD、E及びF建物につき賃貸借契約が締結されたことを認めることはできない。むしろ、証拠(乙5の1、5の2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被相続人と丙との間にはD、E及びF建物についての賃貸借契約の締結及び家賃の授受等はなかったものと推認される。そうすると、丙は、使用貸借に基づいてD、E及びF建物を占有していたものというべきであるから、D、E及びF建物は借家権付建物とは認められず、評価通達93による控除は認められない。
さらに、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件更正処分に際して、D、E及びF建物について、自家用であることを前提として、評価通達及び評価基準に従って評価額を算出したものと推認される。
よって、原告の主張には理由がなく、D、E及びF建物の評価額は、別表1の⑪の被告主張額欄に記載のとおり、468万5963円であると認められる。
5 被相続人には、戊らに対する贈与に係る債務があるか否か、あるとして被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきか否か(争点(4))について
原告は、証拠(生前贈与証明書。甲1)を根拠として、被相続人がその子及び孫の将来のために生前贈与を考え、言い渡す者を選択した模様である旨主張するが、上記生前贈与証明書は、原告が作成したものであり、他の証拠(乙3、4)に合致せず信用できないし、本件全証拠によっても、被相続人が戊ほか5名に対して生前贈与をしたと認めることはできない。むしろ、証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被相続人が生前中に、Dと契約等を締結したこともなく、Dとの間には債権債務がないこと、本件相続開始時において、遺言書は存在せず、戊とその子は、被相続人から生前中に財産の分配等を約束されたことがないこと、などの事実が認められ、これらの事実等も併せ考慮すれば被相続人には、戊らに対する贈与に係る債務があったとは認められない。
原告の主張には理由がない。
6 相続人は、原告に対し、原告名義の土地の売却代金に係る金銭支払債務を負っているか否か、負っているとして、被相続人の債務として総遺産価額から控除すべきか否か(争点(5))について
原告は、被相続人は、原告が安芸市に譲渡した安芸市染井町の土地の譲渡代金700万円を収受したまま、原告に支払っていないので、原告に対し金銭支払債務を負っており、当該金額を被相続人の債務として控除すべきである旨主張するが、本件全証拠によっても、原告が安芸市に土地を譲渡した事実、被相続人が原告に対しその土地譲渡代金に係る金銭支払債務を負っている事実は、いずれも認めることができない。原告の主張には理由がない。
7 本件更正処分の課税根拠(争点(6))について
(1) 前記第2の1(2)に認定の各事実、上記1ないし4に認定の各事実に、証拠(甲2、乙1)及び弁論の全趣旨を総合考慮すれば、被相続人の相続財産の価額は、別表1の被告主張額欄に記載のとおり、A土地及びB土地の価額が4488万4040円(別表1の①及び②)、G土地、H土地、I土地及びJ土地の価額が1231万9138円(別表1の③ないし⑥)、X土地の価額が4313万4218円(別表1の⑦)、安芸市染井町所在の宅地の価額が942万6282円(別表1の⑧)、その他の宅地の価額が2091万1470円(別表1の⑨)、その他の土地等の価額が891万2900円(別表1の⑩)、D、E及びF建物の価額が468万5963円(別表1の⑪)、安芸市染井町所在の建物の価額が2665万3230円(別表1の⑫)、立木の価額が5万5192円(別表1の⑬)、上記以外の財産の価額が78万0320円(別表1の⑭)となり、総遺産価額は1億7176万2753円となる。
(2) 一方、前記第2の1(2)に認定の各事実に、上記5及び6の認定説示を併せ考慮すれば、債務及び葬式費用の金額は341万6117円(別表1の⑮)であり、そのほかに控除すべき債務及び葬式費用の金額は存しないことが認められる。そうすると、本件相続により財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額は1億6834万5000円となる。
(3) そこで、相続税法16条に従って相続税の総額を算出すると、別表1の被告主張額欄に記載のとおり1406万8800円となる。
(4) 次に、措置法70条の6に従って納税猶予額を算出すると75万2400円となり、これを上記(3)の相続税の総額から控除した額は1331万6400円となる。
(5) 証拠(甲2、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件相続による取得財産の価額は1496万1347円であり、控除すべき債務等は存しないものと認められるから、原告についての課税価格は1496万1000円となる。そうすると、原告の納付すべき税額を算出するための按分割合は、原告についての課税価格1496万1000円を上記(2)の課税価格の合計額1億6834万5000円で除した上、小数点以下2位未満の端数を調整した0.09が相当である。したがって、原告の納付すべき税額は、上記(3)の相続税の総額から上記(4)のとおり納税猶予額を控除した1331万6400円に0.09を乗じた上、100円未満の端数を切り捨てた119万8400円であると認められる。
(6) 以上によれば、別表2のとおり、納付すべき税額を119万8400円とした本件更正処分は適法であるといえる。
8 本件賦課決定処分の課税根拠(争点(7))について
上記7に説示のような原告の納付すべき税額119万8400円と、前記第2の1(3)①に認定のような本件申告における原告の納付すべき税額101万3300円との差額は18万5100円と認められるから、国税通則法118条3項によりその1万円未満の端数を切り捨てた18万円に、同法65条1項、35条2項に従って、100分の10を乗じて計算した1万8000円が過少申告加算税の額と認められる。
以上によれば、別表2のとおり、過少申告加算税を1万8000円とした本件賦課決定処分は適法であるといえる。
9 結論
よって、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新谷晋司 裁判官 德増誠一 裁判官 野中高広)
別表 1
相続財産の内訳(申告額、原告主張額及び被告主張額)
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別表 2
本件課税処分の経緯
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