大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 平成17年(ワ)55号 判決 2005年10月13日

主文

1  原告らと被告らとの間で,別紙預貯金目録記載の預貯金は,亡甲野太郎の相続開始(平成7年1月1日)と同時に,当然分割により分割は終了しているから,遺産分割の対象とはならないことを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨

主文同旨

2 請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

(1) 原告らの請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第2 当事者の主張

1 請求原因

(1) 原告ら,被告甲野一郎(以下「被告一郎」という。)及び被告甲野二郎(以下「被告二郎」という。)は,いずれも亡甲野太郎(以下「亡太郎」という。)の子(法定相続人)であり,その法定相続分は各6分の1である。亡太郎は,平成7年1月1日に死亡した。相続関係は別紙相続関係説明図のとおりである。

(2) 亡太郎は,別紙預貯金目録記載の預貯金(以下「本件預貯金」という。)を有していた。

(3) 原告らは,最高裁判決(昭和29年4月8日第1小法廷判決・民集8巻4号819頁)に基づき,金銭その他の可分債権を,相続開始とともに法律上当然に分割されると主張して,各金融機関を被告として,本件預貯金につき,法定相続分による各6分の1の請求をなし,これを取得した。

(4) 原告ら及び被告らの間において,亡太郎の遺産分割の事件が,高知家庭裁判所に係属している(事件番号・平成12年(家)第108号,109号,110号)。同事件において,原告らは,本件預貯金が遺産分割の対象とならない旨の主張をしており,被告らはこれに反し,遺産分割の対象となる旨を主張している。

(5) よって,原告らは,本件預貯金が遺産分割の対象とならないことの確認を求める。

2 請求原因に対する認否

(1) 被告一郎

① 請求原因(1)ないし(3)は認める。

② 同(4)のうち,被告らが現在高知家庭裁判所に係属中の事件において,本件預貯金が遺産分割の対象となる旨を主張していることは認めるが,その余は否認する。原告らも本件預貯金を遺産分割の対象とすることに合意していた。

原告らは,本件預貯金の支払いを求める訴訟を各金融機関に対し提起し,被告一郎もこれに訴訟参加していたが,遺産分割として家庭裁判所で解決するのが本筋ではないかとの金融機関の代理人からの意見があり,原告らと被告一郎との間で亡太郎の預貯金を遺産分割の対象とすることに合意し,訴訟を取り下げ,平成8年10月30日高知家庭裁判所に亡太郎の遺産分割を申し立てた。平成11年1月28日に第1次の審判がなされたが,この間,原告らからは遺産分割の対象とすることに何の異議も出されていない。ところが,原告らはその後代理人弁護士が変わった機会に,合意を乱暴に破った。

③ 本件預貯金は亡太郎が独力で作ったものではなく,被告らの協力と犠牲のうえに形成されたものである。被告らの寄与貢献の程度について,高知家庭裁判所の審判では,被告一郎は3割,被告二郎は2割と定められた。預貯金といえども亡太郎の遺産であり,相続人間の実質的公平を図るのが寄与分の定めであるが,預貯金は可分債権であるから相続開始とともに当然分割され遺産分割の対象とならないとの最高裁判決は寄与分の制度の趣旨を没却しており,現実に家庭裁判所でなされている遺産分割の実情にも反している。各金融機関と個別の相続人との間では最高裁判決が妥当するとしても,相続人間での具体的遺産分割に関しては寄与貢献を配慮した分割がなされるべきである。亡太郎の遺産のほとんどは預貯金であり,預貯金の形成に協力しなかった原告らが遺産分割対象としないという主張をすれば法定相続分割合で取得しうるというのは,遺産分配における実質的公平を著しく欠くことになる。本件相続人間での調整は遺産分割でするほかない。

(2) 被告二郎

① 請求原因(1),(2)及び(4)は認める。

② 同(3)のうち,原告らが本件預貯金につき,法定相続分による各6分の1を取得したことは認めるが,判決の内容は知らない。本件預貯金が可分債権であることは否認する。

③ 遺産の金銭は自分達が作り上げたもので預金名義は借名に等しい。預金債権は家事審判で遺産分割対象とされてきた。原告らは金融機関のみと争い,全相続人と裁判をしていない。平成15年11月の高松高等裁判所の判決も同様の意味合いの解釈をされている。

理由

1  請求原因(1)及び(2)の各事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第1ないし第9号証によれば,同(3)の事実が認められる。

3  そこで,同(4)(本件の争点である,本件預貯金が遺産分割の対象となるか否か)について判断する。

相続人が数人ある場合において,相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは,その債権は法律上当然に分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するのが相当であるが(最高裁判所昭和29年4月8日判決・民集8巻4号819頁),相続人全員で可分債権を遺産分割の対象に含める合意をした場合には遺産分割の対象とすることも可能であると解される。

そして,被告らは,原告らが本件預貯金を遺産分割の対象とすることに合意し,家事審判でも遺産分割の対象とされてきた旨主張し,成立に争いのない乙第1号証の1及び2によれば,原告らは平成10年6月2日付けの高知家庭裁判所の処理方針案に対し,代理人弁護士を通じて,亡太郎個人名義の預貯金を遺産分割の対象にすることを認める旨の回答をしたことが認められる。

しかし,甲第5号証及び弁論の全趣旨によれば,亡太郎の遺産に係る遺産分割について平成11年1月28日に高知家庭裁判所がなした審判では,本件預貯金について,相続人間で遺産分割対象とする旨の合意があったことの明確な認定はないこと,上記審判は当事者双方から即時抗告された後,高松高等裁判所で取り消され,高知家庭裁判所に差戻しとなり,現在も高知家庭裁判所に係属中であること,その間に,原告らは亡太郎名義の貯蓄共済や預貯金について法定相続分各6分の1の割合に応じた払戻しを求める訴訟を各金融機関を被告として提起し(なお,被告一郎は株式会社四国銀行等を被告とする訴訟に補助参加した。),各訴訟の確定判決により,原告らは本件預貯金の各6分の1を取得したことが認められ,これらの事実に照らすと,現時点において,共同相続人である原告ら及び被告らの間で本件預貯金を遺産分割の対象とする旨の合意が成立することを期待することはできず,かえって,本件預貯金を遺産分割の対象とした場合,上記各確定判決の判断と抵触する結果を招くことが予想されるのであるから,これを遺産分割の対象とすることは相当でないと考えられる。

なお,仮に,亡太郎の財産の形成に対する被告らの寄与分が認められ,亡太郎の遺産のほとんどが預貯金であったとしても,本件預貯金が可分債権であり,共同相続人間の合意がない以上,これを遺産分割の対象とすることはなしえないことは前記説示のとおりである。

4  以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

別紙

1 預貯金目録<省略>

2 相続関係説明図<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例