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高知地方裁判所 平成2年(行ウ)1号 判決 1991年6月18日

原告

高知県観光株式会社

右代表者代表取締役

小川満

右訴訟代理人弁護士

行田博文

被告

高知県地方労働委員会

右代表者会長

小松幸雄

右指定代理人

山上賢一

萩野明

細木幸彦

山﨑猛

有光久和

野木孝幸

尾崎弘志

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和六三年(不)第一号不当労働行為救済申立事件について、平成二年一月一一日付でした不当労働行為救済命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  自交総連高知県観光労働組合(以下「申立組合」という。)は、昭和六三年三月七日、被告に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立て(以下「本件救済命令申立」という。)をしたところ(高知県地方労働委員会昭和六三年(不)第一号)、被告は、平成二年一月一一日、別紙命令書(略)記載のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、本件命令は、同月一九日、原告に交付された。なお、申立組合は、平成元年七月二五日、本件救済命令申立のうち竹田稔(以下「竹田」という。)、武内敏行(以下「武内」という。)、桑名信義(以下「桑名」という。)及び松田芳彦(以下「松田」という。)に係る部分を取り下げた。

2  しかしながら、本件命令は、事実を誤認し、かつ、判断において誤っており、違法である。

(一) 本件命令書の理由「第一 認定した事実と判断」欄記載の事実についての認否及び反論

別紙命令書理由欄記載の認定事実に対する認否は、次のとおりである。

(なお、以下高知県観光社員会を「社員会」と、平田美知一を「平田」と、伊野部建夫を「伊野部」と、松岡旦人を「松岡」と、杉村豊を「杉村」と、高橋国夫を「高橋」と、井上和夫を「井上」と、土居達郎を「土居」と、畑山康夫を「畑山」と、吉川光輝を「吉川」と、立石聡男を「立石」と、山田静二を「山田」と、昭和六一年一〇月に高知労働基準監督署が原告に対して行った是正勧告を「是正勧告」と、原告が昭和五九年に高知労働基準監督署に届け出ていた勤務シフトを「新勤務シフト」と、原告が昭和六一年一一月二八日に社員会との間で締結した時間外労働及び休日労働に関する協定を「旧三六協定」と谷敏一を「谷」と、毛利武司を「毛利」と、井上久寿義を「井上(久)」と、申立組合の組合員以外の乗務員を「非乗務員」と、原告が昭和六一年一一月二六日に作成した賃金計算方式を「新賃金計算方式」と、原告が昭和六二年一〇月三〇日に社員会と締結した新たな三六協定を「新三六協定」とそれぞれいう。)

(1) 1の事実は認める。

(2) 2、(1)のうち、ア、イ、エ、オの事実は認め、ウは争う。

(3) 3のうち、(1)、(3)の事実は認め、(2)の事実は否認する。

新勤務シフト及び三六協定が実施されたのは、昭和六一年一一月二六日からであり、申立組合の組合員は、同年二月末日まで、一五勤の場合午前八時から翌朝二時までを所定労働時間として、時間外労働を無制限に行っていたのである。なお、そのため、原告は、昭和六二年二月二七日、申立組合の組合員に対し、同年三月一日から新勤務シフトを厳守するよう指示した。

(4) 4、(1)のうち、アないしオ、キの事実は認め、カの事実は否認する。

原告は、原告のタクシー乗務員全員について勤怠表で調査したうえで新勤務シフト違反者に対する処分を行ったものである。

(5) 6、(1)の事実は認める。

(6) 7、(1)の事実は認める。

(7) 8、(1)の事実は認める。

(8) 9は争う。

(二) 原告の主張

(1) 新勤務シフト違反者に対する処分について(本件命令1項のうち、松岡に対する昭和六二年四月七日から同月一四日まで、谷に対する同月七日から同月一二日まで、同年七月八日から同月二一日まで、畑山に対する同年四月八日から同月一五日まで、同年七月九日から同月二二日までの各出勤停止処分、同4項)

(イ) 原告は、昭和六一年一〇月一七日、高知労働基準監督署から、タクシー乗務員の違法勤務状態を即時に是正することを厳しく求められ、同年一一月二〇日までに是正報告をするよう勧告(是正勧告)されたため、これを実施すべく、新勤務シフトを遵守する旨従業員に通知した。

(ロ) しかし、申立組合の組合員全員がこれを遵守せず、原告が更に二度にわたって文書でも新勤務シフトを遵守することを求めたにもかかわらず、申立組合の組合員はこれを遵守しないことを明言したうえ、組織的・恒常的に違法勤務を継続し、そのため、原告の運行管理体制に支障が生じた。

原告は、このような状況下で、昭和六二年四月二日及び同年七月三日、申立組合の松岡、谷、畑山等を、別紙命令書記載の各出勤停止処分とした。

(ハ) 以上、右各処分は、申立組合の組合員の組合結成、組合加入、組合活動を理由とするものではないし、また、原告が高知労働基準監督署の是正勧告と申立組合の是正拒否という切迫した板挾みの状態に陥って正当防衛的に発したものであり、申立組合に対する支配介入に該当しないか、少なくとも支配介入の成立阻却事由が認められるというべきである。

(ニ) また、原告が非組合員の新勤務シフトの遵守の有無を十分に調査しなかったというのであれば、それは、非組合員は、原告が指示した新勤務シフトを遵守する旨表明し、事実、非組合員が行っていた違法勤務状態が大幅に是正されたため、右乗務員らについては調査の必要性を認めなかったからにすぎない。

(ホ) なお、昭和六二年一一月から昭和六三年一月までの間に行われていた違法勤務は、年末年始の最も多忙な時期であったために行われたのであり、このことから、処分対象となった期間中に新勤務シフトに違反した非組合員がいたと推認するのは早計である。

(2) 就業時間内組合活動に対する処分について(本件命令1項のうち、松岡に対する昭和六三年三月二六日から同年四月二四日までの出勤停止処分、本件命令4項)

(イ) 原告は、昭和六二年一〇月六日、申立組合に対し、就業時間内の組合活動のための休務を認めない旨通知していたところ、松岡は、原告が、これを年次有給休暇届に提出し直すことを打診したにもかかわらず、これを無視して各届出日に休務した。

(ロ) そこで、原告は、昭和六三年三月二四日、松岡を、別紙命令書記載のとおり、出勤停止処分とした。

(ハ) すなわち、原告は、タクシー従業員の勤務秩序確保だけを目的にして同人に対する前記処分を行ったものであって、同人の組合活動を嫌悪したものではない。

(3) 新勤務シフト及び旧三六協定の変更と時間外労働を理由とする処分について(本件命令1項のうち、杉村に対する昭和六三年五月二日から同月一一日まで、谷に対する同年四月二三日から同年五月二日まで、畑山に対する昭和六二年一二月一八日から同月二七日までの各出勤停止処分、同項の松岡、杉村、谷に対する各昭和六三年一月分、二月分、三月分、畑山に対する同年一月分、二月分の賃金の各減給処分、同2ないし4項)

(イ) 原告は、昭和六二年一一月二六日以降申立組合との間で三六協定を締結せず、組合員からの時間外労働を拒否しているが、これは、申立組合が社員会とは異なり、基礎給を四二パーセント、四五パーセントまたは四六パーセントと主張し、このうえに時間外割増賃金、深夜割増賃金の支払を要求しているもので、申立組合の要求する賃金計算方式によると、原告の経営に支障が生ずるばかりでなく、その存立をも危うくするからである。申立組合が締結を要求する三六協定は、賃金の点で社員会と締結した旧三六協定における条件をはるかに上回るものであり、原告はこのような内容の三六協定を締結すべき義務はなく、申立組合の組合員の時間外労働の受領を拒否することができるというべきである。

(ロ) しかるに、松岡、杉村、谷、畑山は、昭和六二年一一月二六日以降も時間外労働を強行した。

(ハ) そこで、原告は、松岡、杉村、谷、畑山を、別紙命令書記載の各出勤停止処分ないし減給処分とした。

(ニ) 仮に、昭和六二年一一月二六日以後の時間外労働受領拒否が不当労働行為に該当するとしても、同日以後の松岡、杉村、畑山、谷に支払われるべき賃金相当額は、タクシー乗務の職業が請負的性格の強いもので個人差が大きいため、原告の全乗務員の一人当たりの平均賃金月額を基礎とするのは不公平である。右松岡ら四名は、原告が時間外労働を理由とした処分をすることを止めた昭和六三年三月以後は事実上の残業をしているのであるから、右期間の各人の平均賃金月額を基礎に賃金相当額を算出するのが公平かつ相当である。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1項の事実は認める。

2(一)  本件命令は、適法に発せられた行政処分であって、処分の理由は、次に付加するほか、別紙命令書理由欄記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

(二)  被告の主張

(1) 勤務時間に伴う処分について

原告は、昭和六一年九月八日、申立組合の結成を嫌悪して組合員を無期限乗務停止処分にしており、その後間もなく、申立組合は高知労働基準監督署に申告し、その結果、是正勧告がなされ、これを契機として原告が遵守を求める新勤務シフトが実施されたこと、同年一一月二四日には原告の関与の下に社員会が結成されていることなどを考慮すると、原告が他の乗務員の新勤務シフト遵守の調査を行わなかったことに正当な理由は見出し難く、むしろ、そこには、申立組合の組織の弱体化を図る意図があったと考えるのが自然である。また、処分が高知労働基準監督署からの是正勧告に基づいて違法状態の是正を目的とするものであったとするなら、処分権者としては、まず原告の全乗務員の勤務状態を把握したうえで処分の必要性を判断した後、適正な処分基準を設け、その下で処分を実施するべきであるにもかかわらず、事実は全乗務員に対する十分な調査をせずに処分が行われていること等諸般の事情を併せ考えると、原告に差別待遇の意思がなかったとは到底認め難く、まして支配介入の成立阻却事由を認める余地はない。

(2) 就業時間内組合活動に伴う処分について

松岡は、原告に無断で休務したものではなく、受理されなかったとはいえ、休務届を事前に提出した後、約一か月間に三度休務したのであり、これに対し、三〇日間の出勤停止処分を行わなければ、勤務秩序が確保できなかったとまでは認められず、しかも、社員会結成に際しては、原告が、同時に一〇数人の休務を認めていたことなどを併せ考えると、右処分は、勤務秩序の確保だけを目的にしたものにすぎないとはいい難い。

(3) 新勤務シフト及び旧三六協定の変更と時間外労働を理由とする処分について

(イ) 原告は、昭和六二年一〇月には従業員の過半数で組織する労働組合である社員会と新三六協定を締結しているのであるから、本来、組合員に時間外労働をさせるについて、申立組合との間で別に三六協定を締結していなくてはならないものでもないことなどを考えると、原告の主張に合理性を見出し難く、組合員の時間外労働を禁止することにも合理的理由はない。

すなわち、原告は、組合員に対しても自らが決定した賃金計算方式による賃金を支払っており、かつ、組合員の時間外労働を禁止すれば、組合員と非組合員との間には時間外労働に係る割増給相当額の経済的格差が生じることを認識していたのであり、このような場合、時間外労働の対価に関する合意がないからといって組合員の時間外労働を禁止せず、その対価の取扱いを右賃金の支払いと同様としながら時間外労働を認める余地は十分にあったのである。それにもかかわらず、原告は、あえて法的に支障のない時間外労働を拒み、組合員の時間外労働を禁止したのであり、原告と申立組合ないしその組合員との間の労使関係の経緯等を併せ考えると、原告の主張に合理性を見い出すことはできない。

なお、原告は、組合員の時間外労働を認めると、原告の存立を危うくし、非組合員との関係で逆に不利益な取扱いを招く結果となりかねない旨主張するが、これは申立組合の主張する賃金計算方式を前提としたものであり、会社の決定した賃金計算方式を前提とすると、直ちに右のような結果を生じるわけではない。

(ロ) 昭和六二年一一月二六日以後、非組合員と組合員とでは、勤務シフト及びそれに伴う時間外労働の時間数が異なり、組合員にとって不利な状況にあり、この状況が平成二年三月二六日まで改善されていなかったことなどを考えると、組合員各人の平均賃金月額を基礎に賃料相当額を算出することに合理性は認められない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する(略)。

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件命令の基礎となった事実関係について検討する。

別紙命令書の理由欄記載の認定事実のうち第1、1、2(1)のうちア、イ、エ、オ、3のうち(1)、(3)、4(1)のうちアないしオ、キ、6(1)、7(1)、8(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない(証拠・人証略)の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  当事者等

(一)  原告は、一般乗用旅客自動車運送等を目的とする会社で、その従業員は、昭和六三年三月七日の本件救済命令申立当時、約四三名であり、保有する車両台数は、二〇台であった。

(二)  申立組合は、昭和六一年九月五日、原告に勤務する乗務員をもって結成された労働組合で、その組合員は、本件救済命令申立当時、八名であった。

(三)  原告には、申立組合のほか、社員会があり、その組合員は、本件救済命令申立当時、二九名であった。

2  労使関係

(一)  申立組合結成当時の状況

(1) 原告のタクシー乗務員平田、伊野部、竹田、松岡、杉村は、労働条件改善のために昭和六一年九月五日に申立組合を結成し、同月八日に自交総連高知地連に加盟した。そして、当時申立組合の書記長であった竹田は、同日午後、会社に対し、申立組合結成届を提出した。

(2) 同日当時の組合員は、右五名に桑名、高橋、松田、井上、竹内、土居、畑山、吉川の八名を加えた合計一三名であった。

(3) 原告の常務取締役で運行管理者であった立石は、同日午後、畑山を除く申立組合の組合員一二名を無期限乗務停止処分にした。

原告は、その処分理由を、申立組合の組合員の一部の者が、就業時間中であるにもかかわらず、原告の事務所において、立石に対し、申立組合結成の承認を求めるなどの組合活動を行い、立石から職務に専念するように注意されると激昂して粗暴な言動に及び、他の組合員らもこれに同調し、立石の指揮命令の下で労務を提供することを拒否する状態となったため、右組合員らは乗務員としての労務の提供が不可能と判断されたからとしている。

(4) 無期限乗務停止処分を受けた右組合員一二名は、同月一七日、高知地方裁判所に対し、タクシー乗務員としての就労拒否禁止仮処分(高知地方裁判所昭和六二年(不)第二二六号)を申請した。その後、井上は、同年一一月八日に申立組合を脱退し、同月一〇日には原告を退職するとともに右仮処分の申請を取り下げたが、残る一一名については、同月一二日に裁判外の和解が成立し、従前どおりの労働条件で同月二九日に職場復帰した。

なお、申立組合は、同年九月九日には乗務停止処分の撤回及び賃金補償を、同月二四日には団体交渉の応諾を求めて、高知県地方労働委員会に対し、原告を相手方とする斡旋申請を行ったところ、前者については、原告側の出席がえられず、不調となり、後者については、斡旋員の説得により、原告は、同年一〇月二三日に申立組合との団体交渉に応じた。

(二)  社員会の結成

(1) 昭和六一年一一月一七日午後及び二〇日午後に、申立組合に対抗する労働組合である社員会設立準備会が、原告本店事務所二階で各二時間程度開かれ、二〇日には、会長小嶋通明、副会長吉村光平、同西村節雄及び書記長山田が選出された。

(2) 原告は、同月一七日及び二〇日の社員会設立準備会のために乗務員が休務することを認めていた。

(3) また、同月一七日の社員会設立準備会における趣旨説明に際し、山田又は非組合員曽我は、会社側の指示で申立組合に対抗する労働組合を結成することになった旨出席者に説明した。

(4) 社員会は、同月二四日、その結成届を原告に提出し、原告は、同月二五日に社員会を労働組合と認めた。

3  労働時間等

(一)  原告は、昭和五九年に高知労働基準監督署に新勤務シフトを届出ていたが、新勤務シフトは実際には履行されておらず、時間外労働も無制限に行われていたところ、申立組合の申告により、昭和六一年一〇月一七日、高知労働基準監督署から、労働時間、休日等について労働基準法、労務改善基準を遵守していないこと、三六協定を締結しないで時間外労働を行わせていることなどに対する是正勧告、有給休暇の確保、賃金計算方法の整理、勤務シフトの明確化等の指導を受けた。その後、原告は、事務所内に新勤務シフトを掲示し、同年一一月二八日、社員会との間で旧三六協定を締結し、高知労働基準監督署に届け出た。

旧三六協定においては、原告は、乗務員に対し一日二時間、二週九時間、一か月二〇時間を限度に時間外労働を行わせることができることとされていた。そして、その有効期間は、昭和六一年一一月二六日から昭和六二年一一月二五日までであった。

しかしながら、その実態は、昭和六二年二月末日までは、おおむね、全乗務員につき、一五勤の場合午前八時から翌朝二時まで(休憩時間を除く。)を所定労働時間としつつ、時間外労働は無制限に行われているという状況であった。

(二)  原告は、昭和六二年二月二七日、申立組合の組合員を含む全乗務員に対し、同年三月一日から右新勤務シフトを遵守すべき旨指示した。

(三)  そして、同年三月一日から新勤務シフト及び三六協定が実際に実施され、そのため従前と比較すると、原告の乗務員らの労働時間、水揚高は減少することとなった。

4  新勤務シフト違反者に対する処分

(一)  しかし、申立組合の組合員らは、一方的な勤務シフトの変更であるとして新勤務シフトに従わず、従前どおり勤務を続けた。

(二)  これに対して、原告は、昭和六二年三月七日及び同月二〇日に、申立組合に対し、新勤務シフトに従うべき旨の文書を送付した。

(三)  しかし、申立組合の組合員がこれに従わなかったため、原告は、昭和六二年四月二日、労務改善基準の拘束時間を超過する労働時間に相当する時間を出勤停止にするものとして、谷及び松田に対し同月七日から同月一二日までの六日間(三労働日)、武内及び伊野部に対し同月八日から同月一三日までの六日間(三労働日)、松岡に対し同月七日から同月一四日までの八日間(四労働日)、畑山及び吉川に対し同月八日から同月一五日までの八日間(四労働日)の各出勤停止処分を行った。

(四)  原告は、昭和六二年六月四日、申立組合の組合員毛利を、同年七月一日、井上(久)及び杉村をいずれも解雇した。

解雇理由は、無線配車に非協力及び新勤務シフトの不遵守ということであり、毛利にあっては、加えて、同期の試採用者と比較して水揚高が低いということであった。

毛利ら三名は、高知地方裁判所に地位保全仮処分申請を行い、同年一〇月三一日、毛利については、却下の決定がなされ、井上(久)及び杉村については、賃金仮払の決定がなされ、同年一二月二五日、右二名の解雇は撤回された。

(五)  原告は、その後、再三の指導にもかかわらず新勤務シフトに従わないとの理由で、昭和六二年七月三日、高橋に対し同月八日から同月一九日までの一二日間(六労働日)、谷及び松田に対し同月八日から同月二一日までの一四日間(七労働日)、吉川に対し同月九日から同月一八日までの一〇日間(五労働日)、伊野部、武内及び畑山に対し同月九日から同月二二日までの一四日間(七労働日)、竹田に対し同月二一日から同月二八日までの八日間(四労働日)、平田及び桑名に対し同月二三日から同月二八日までの六日間(三労働日)の各出勤停止処分を行った。

(六)  右(三)ないし(五)の各処分がなされた当時、非組合員で新勤務シフトの不遵守を理由として原告から懲戒処分を受けた者はいなかった。

(七)  原告は、昭和六二年四月二日の各乗務停止処分を行うに際し、タコグラフの記録紙ないしそれに基づき作成された勤怠表により、乗務員が新勤務シフトに従って乗務しているかを調査したが、同年四月二日には同年三月分のタコグラフの記録紙の調査は全員については終えていなかった。また、非組合員のうちで同年三月分、四月分のタイムカードに記録された各終業時刻とタコグラフの記録紙から推測される各終業時刻との間にかなりの食い違いがある者もいた。

(八)  申立組合の組合員らは、原告による処分を避けるため、昭和六二年七月六日からは新勤務シフトにより乗務した。

(九)  昭和六二年一一月から昭和六三年一月までの間に、非組合員のうち、少なくとも一七名の者がタコグラフの記録紙を取り外した状態で乗務したことがあった。

原告は、本件救済命令申立後に、申立組合から右事実が存在する旨の指摘を受け、原告もこれを認めて、平成元年五月二五日、右一七名の組合員以外の乗務員らに対しても、その不正の程度に応じて、譴責、減給三〇分の一又は減給二〇分の一の懲戒処分を行った。

5  就業時間内組合活動に伴う処分

(一)  原告は、昭和六二年一〇月六日、組合に対し、就業時間内の組合活動のための休務を認めない旨通知していた。

(二)  ところが、当時の申立組合の執行委員長松岡が、昭和六三年二月一二日に同月一五日の、同年三月九日に同月一八日及び同月二〇日の各休務届を、原告に提出した。原告は、その休務理由がいずれも時間内組合活動のためであったので、右休務を認めることはできない旨通告したが、同人は、これを無視し各届出日に休務した。

(三)  そこで、原告は、昭和六三年三月二四日、松岡に対し、右休務を職場放棄として、同月二六日から同年四月二四日までの三〇日間(一五労働日)の出勤停止の処分をした。

(四)  その処分理由は、原告は従業員の就業時間内の組合活動を認めていないにもかかわらず、松岡は、度々就業時間中に組合活動を強行したのみならず、昭和六三年二月一五日、三月一八日及び同月二〇日には原告の指示を無視して職場放棄に及んだということであった。

6  新たな三六協定の締結拒否及び時間外労働を理由とする処分

(一)  原告は、是正勧告に適合するように、昭和六一年一一月二六日に、乗務員の水揚高の三九パーセント、四〇パーセントまたは四一パーセントに当たる額を基礎給とし、これに各種割増給及び年休保障額給を加算することを内容とする賃金計算方式(新賃金計算方式)を作成したが、それまでは、水揚高の四二パーセント、四五パーセントまたは四六パーセントを基礎給(但し、原告は、このうち時間外割増賃金、深夜割増賃金が含まれていると主張している。)とする賃金計算方式によっていた。

(二)  原告は、昭和六二年四月六日から、申立組合の組合員を含む原告の全乗務員に対し、同年三月分以後の賃金を新賃金計算方式により支払った。

(三)  原告は、申立組合とは三六協定を締結していなかったが、申立組合の組合員が新勤務シフトにより勤務して時間外労働を行うことは認めていた。

(四)  原告と社員会(当時従業員の過半数で組織されていた。)は、昭和六二年一〇月三〇日、新勤務シフトを変更し、新たな勤務シフト(新々勤務シフト)によることを合意するとともに、三六協定を変更し、新たな協定(新三六協定)を締結し、また、これらと同時に基礎給を乗務員の水揚高の三八・五パーセント、三九・五パーセントまたは四〇・五パーセントに当たる額に引き下げることに合意した。

(五)  新々勤務シフト及び新三六協定により変更された主な内容は次のとおりである。

(1) 休憩時間は三時間を二時間三〇分に短縮した。

(2) 拘束時間は一日一六時間に統一した。

(3) 四週間当りの時間外労働許容時間数は、一八時間を二八時間に、一勤務当たりの当該時間数は、一時間又は二時間を五時間にそれぞれ増加した。

(六)(1)  申立組合は、新三六協定と同一内容の三六協定を原告と締結することについては異論がなく、原告に対し、賃金計算方式については社員会と異なり、基礎給を水揚高の四二パーセント、四五パーセントまたは四六パーセントに当たる額であるとし、この上に時間外割増賃金、深夜割増賃金の支払いを要求して三六協定の締結を目的とする団体交渉を申し入れ、昭和六二年一二月一日、昭和六三年二月二三日と団体交渉を重ねた。

(2)  しかし、原告は、申立組合の賃金計算方式の改訂に固執して誠実な団体交渉を行わず、申立組合との三六協定の締結を拒否した。

(3)  原告は、申立組合とは三六協定を締結していないということを理由として、昭和六二年一一月二六日以後申立組合の組合員が時間外労働を行うことを禁止し、新々勤務シフトも申立組合の組合員には適用していない。

(七)  しかし、松田を除く申立組合の組合員は、同日以後も時間外労働をした。

そこで、原告は、時間外労働をしたことを理由に、次のとおりの処分を行った。

(1) 昭和六二年一二月一五日、畑山に対し同月一八日から同月二七日までの一〇日間(五労働日)を出勤停止とする処分。

(2) 昭和六三年二月五日、同年一月分の賃金について、松岡、竹田、谷、杉村に対し減給額二〇分の一か月の、武内、畑山、桑名に対し減給額四〇分の一か月の各減給処分。

(3) 同年二月二九日、右の七名に対し、同月分の賃金について、減給額一〇分の一か月の各減給処分。

(4) 同年四月四日、松岡、武内、竹田、桑名、谷、杉村に対し、同年三月分の賃金について、減給額一〇分の一か月の各減給処分。

(5) 同年四月二〇日、武内及び竹田に対し同月二二日から同年五月一日までの一〇日間(五労働日)、谷に対し同年四月二三日から同年五月二日までの一〇日間(五労働日)、桑名及び杉村に対し同月二日から同月一一日までの一〇日間(五労働日)の各出勤停止処分。

(八)  時間外労働を禁止されたため、申立組合の組合員の賃金額は、従前より減少することとなり、非組合員と比較しても時間外労働による賃金を得られなくなった分少なくなった。

7  本件救済命令申立前後の申立組合の組合員の変動等

(一)  申立組合の組合員は、当初一三名であったが、前記井上の脱退、退職、昭和六二年五月三〇日の土居、同年七月八日の吉川の各脱退等により、本件救済命令申立以前に五名が申立組合から離脱した。

(二)  本件救済命令申立後、次のとおり、申立組合の組合員のうち五名が原告を退職し、一名が原告から解雇され、平成元年八月三日の本件救済命令申立事件の結審時には、申立組合の組合員は、松岡、杉村の二名となった。

(1) 畑山 昭和六三年一〇月一九日 依願退職

(2) 谷 平成元年一月一三日 諭旨解雇

(3) 竹田 同年七月一〇日 依願退職

(4) 武内 同日 依願退職

(5) 桑名 同日 依願退職

(6) 松田 同日 依願退職

(三)  申立組合は、平成元年七月二五日、本件救済命令申立のうち竹田、武内、桑名、松田に係る部分を取り下げた。

8  原告は、昭和六一年一〇月一七日、高知労働基準監督署から是正勧告がなされ、これに従った結果、主として、労働時間が減少して運賃収入が減り、損益計算書上、昭和六一年度六九万八五三一円、昭和六二年度二六九万一二八二円、昭和六三年度八七一万四九三六円の欠損を出したと捉えている。

三  二で認定の事実関係に基づき、原告の行った二、4ないし6の各処分が不当労働行為に該当するか否かを検討する。

1  新勤務シフト違反者に対する処分について

二、4の昭和六二年四月二日の処分は、同日までに乗務員全員について、タコグラフの記録紙の調査を終えていなかったにもかかわらず行われたものであること、同年七月三日の処分も、同年一一月から昭和六三年一月までの間に非組合員のうち少なくとも一七名の者がタコグラフの記録紙を取り外した状態で乗務したことがあったにもかかわらず、申立組合から指摘を受けたのち、はじめて右事実を認めてこれらに対する処分が行われていることなどからすれば、全乗務員の勤務状況を把握していない状態で行われたものと推認されること、右両日の処分とも申立組合の組合員だけが処分される結果となっていること、その他二で認定した申立組合結成から社員会結成に至る原告における労使関係の経緯等を併せ考えると、昭和六二年四月二日及び七月三日の各処分はいずれも、是正勧告に基づき違法状態の是正を意図したものというより、申立組合を嫌悪し、申立組合の組合員に経済的不利益を与え、もって組合組織の弱体化を図る意図で行ったものと推認され、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であるといわざるをえない。

2  就業時間内組合活動に対する処分について

右処分の対象となった松岡は、当時申立組合の執行委員長であったこと、松岡は、一か月余りの間に三日休務したのみであり、しかも事前に休務届を原告に提出していたこと、原告は、労働組合として認めている社員会の設立準備会のために乗務員が休務することを認めていたこと、その他二で認定の組合結成から社員会結成に至る原告における労使関係の経緯等を併せ考えると、松岡に対する三〇日間の出勤停止処分は、松岡の組合活動を嫌悪して行われたものと推認され、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であるといわざるをえない。

3  新勤務シフト及び旧三六協定の変更と時間外労働を理由とする処分について

(一)  一般的、抽象的に論ずるかぎり、団体交渉において、労働組合が使用者の呈示した労働条件のもとで残業することに反対の態度をとり、より有利な労働条件を主張したため、使用者と労働組合との間において、残業に関して協定締結に至らず、その結果、労働組合の組合員が残業を命ぜられないこととなっても、それは使用者と労働組合との間の自由な取引の場において、労働組合が選択した結果であり、使用者の行為につき、不当労働行為の問題は生じないということができる。しかしながら、本件の場合には、原告と申立組合との間には、次のような特段の事情が認められるから、右の一般論を考慮してもなお、原告の行為は、労働組合法七条一号及び三号に該当すると言わざるをえないものである。

すなわち、原告は、昭和六二年一一月二六日に新三六協定が締結されるまでは、申立組合とは三六協定を締結していなかったにもかかわらず、申立組合が新勤務シフトにより乗務して時間外労働を行うことを認めていたこと、申立組合が、新三六協定と同様の三六協定の締結を希望していたのであり、そうすると、原告は、従業員の過半数で組織する労働組合である社員会と新三六協定を締結しているのであるから、労働基準法上は、申立組合の組合員が時間外労働を行うことを認めてもさしつかえがなかったこと、原告が、賃金計算方式が異なるとはいうものの、昭和六二年一一月二六日以後、非組合員が時間外労働を行うことを認め、これに対し割増賃金を支払いながら、申立組合の組合員が時間外労働を行うことを禁止し、その結果、申立組合の組合員の賃金額は従前と比較して減少することとなり、非組合員と比較しても少なくなったこと、また、申立組合の主張するとおり、時間外労働を認めることとなると、原告において経営上の不利益を受けるおそれがあることは一応考えられなくないが、原告が誠実な団体交渉を行わず、申立組合の賃金計算方式の改訂に固執し、申立組合が新賃金計算方式に同意しない限り、申立組合の組合員が時間外労働を行うことを認めないという態度をとったこと、その他二で認定の組合結成から社員会結成に至る原告における労使関係の経緯、原告の労務対策、申立組合の組合員の減少等を併せ考えると、同年一一月二六日以後申立組合の組合員が時間外労働を行うことを禁止し、これに反した場合に出勤停止処分や減給処分に付した原告の行為は、申立組合の組合員に経済的不利益を与え、もって組合組織の動揺や弱体化を生じさせるとの意図に基づいて行ったものと推認され、労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であるといわざるをえない。

なお、原告は、申立組合の要求する賃金計算方式によると原告の経営に支障が生じ、その存立をも危うくさせる旨主張するが、本件命令は、原告と申立組合間でいかなる賃金方式をとるべきかという点につき命令するものではなく、原告としては、申立組合の組合員に時間外労働を認めたうえで、賃金計算方式については、さらに申立組合と誠実に交渉して、法令に従った合理的な内容の合意を形成することも可能であるから、原告の右主張は理由がない。

(二)  原告は、原告の全乗務員の一人あたりの平均賃金月額を基礎として、原告が支払うべき賃金相当額を算出するのは不公平であると主張するが、原告が、松岡、杉村に対しては、平成二年三月二六日より以前に、また、それぞれ原告の従業員としての地位を失った日である畑山については昭和六三年一〇月一九日、谷については平成元年一月一三日までに、同人らに対し、時間外労働を伴い非組合員と同一条件の勤務シフトによる乗務を行うよう指示したことは認められず、実際にも、同人らが社員会の組合員とは異なる勤務シフトにより勤務し、時間外労働等の勤務時間にも相違があることを考えると、被告が、本件命令において、右四名に支払われるべき賃金相当額を原告の全乗務員(但し、懲戒等により、当該賃金月額が通常の額に満たない者は除く。)の一人あたりの平均賃金月額を基礎として算出すべきものとしたことをもって、原告が本件命令の内容を決するにあったって有する裁量権の範囲を逸脱し、または、裁量権を濫用した違法なものであるということはできない。

四  以上のとおりであるから、本件命令に原告の主張するような違法はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊永多門 裁判官 酒井康夫 裁判官宮本由美子は、転補につき署名、捺印できない。裁判長裁判官 豊永多門)

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