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高知地方裁判所 平成20年(ワ)290号 判決 2009年2月10日

主文

1  被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載の建物につき、高知地方法務局いの支局平成19年3月28日受付第2350号の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告が、別紙株券目録記載の株券及び別紙配当金目録記載の配当金に対する権利を有しないことを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  C(以下「C」という。)は、平成3年4月5日、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

(2)  Cは、同日、別紙株券目録記載の株券(以下「本件株券」という。)を所有していた。また、別紙配当金目録記載の配当金(以下「本件配当金」という。)は、本件株券についてなされた配当である。

(3)  Cは、同日、死亡した。

(4)  B(以下「B」という。)と被告は、Cの子であるところ、Bと被告との間で、平成9年ころ、Cの相続について、Cの相続財産の全てをBが取得する旨の遺産分割協議が成立した。

(5)  Bは、平成9年6月14日死亡した。

(6)  原告X1はBの妻であり、原告X2はBの子である。なお、相続分は、原告X1が2分の1、原告X2が4分の1である。

(7)  本件建物につき、別紙登記目録記載の登記(以下「本件登記」という。)が存在する。

(8)  よって、原告らは、被告に対し、原告らに対して本件建物について本件登記抹消登記手続をなすことを求めるとともに、本件株券及び本件配当金が被告に属しないことの確認を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)ないし(3)及び(5)ないし(7)は認める。

(2)  請求原因(4)は、Bと被告がCの子であることは認めるが、Cの相続財産の全てをBが取得する旨の遺産分割協議が成立したことは否認する。Cの相続財産は、法定相続分どおり、Bと被告が2分の1ずつ相続した。

なお、乙第5号証の証明書の署名部分は、被告が署名したものではないし、印鑑も被告の印鑑ではない。同証明書は、原告X1が勝手に作成したものである。乙第6号証の証明書(以下「本件証明書」という。)の署名部分は、被告の字であると思われるが、被告が同証明書に署名したことはなく、印鑑も被告の印鑑ではない。同証明書は、D司法書士(以下「D司法書士」という。)が勝手に作成したものである。

理由

1  本件証明書の成立について

(1)  原告らは、Cの相続について、Bと被告との間で、BがCの全財産を相続する旨の遺産分割協議が成立したとして、その証拠として、被告がBの求めに応じて作成したとする本件証明書(甲9の2。乙6も同じ。)を提出する。これに対し、被告は、本件証明書に署名したことはなく、印影も被告の実印とは異なる旨主張し、本件証明書はD司法書士が勝手に作成したものであると主張する。

(2)  そこで検討するに、本件証明書の署名の文字が被告の字であることは被告自身が認めるところであり、本件証明書の作成日と同日に取得された印鑑登録証明書(甲9の3)についても、被告が取得した上でBへ送付したものであることは被告自身が認めるところである。そして、本件証明書に押印された印鑑の印影と前記印鑑登録証明書の印影とを比較対照すれば、両者は同一のものであると認めるのが相当である。原告によると本件証明書の原本は紛失したとのことであるから原本は確認できず、証拠として提出されている甲第9号証の2は印影が不鮮明であることは否めないところではあるけれども、本件証明書に押印された印鑑の印影と前記印鑑登録証明書の印影とが同一のものであることは明らかである。

そして、本件証明書の被告の署名部分の文字は被告の字であること、及び、被告の実印が捺印されていることに照らせば、本件証明書は、被告自身が作成したものにほかならないというべきである。

さらに、証拠(甲11、12の1及び2)によれば、被告は、平成12年6月16日、原告ら及びAを被告として合計1500万円を支払うよう求める裁判を高知地方裁判所に起こしたこと(甲11。以下「平成12年の裁判」という。)、同裁判に関して平成12年10月31日に開かれた第2回弁論準備手続において、原告ら及びAから本件証明書が書証として提出され、被告は、本件証明書の成立を認めるとの認否をしたこと(甲12の1及び2)が認められる。

かかる事実に照らしても、本件証明書は、被告が、平成9年3月14日ころ、Bの求めに応じて署名押印して作成し、印鑑登録証明書を添えて、Bへ交付したものであると認めるのが相当である。

(3)  なお、被告は、本件証明書はD司法書士が勝手に作成したものであると主張するけれども、証拠(甲10)によれば、D司法書士が、Bに対し、本件証明書のひな形を渡し、被告に署名捺印をしてもらい、印鑑登録証明書1通とともに持参するよう指示したこと、Bは被告の署名捺印を得てD司法書士のもとへ持参したが、押印が不鮮明であったことから、D司法書士は、再度被告に鮮明な捺印をしてもらうよう指示して返却したこと、その後、被告自身がD司法書士の事務所へ本件証明書を持参したこと、その際、D司法書士が本件証明書の内容に間違いがないか被告に確認したところ、被告は間違いないと答えたことが認められ、他方で、関係各証拠を精査するも、本件証明書をD司法書士が被告に無断で作成したことを認めるに足りる証拠はない。

よって、被告の主張は理由がない。

(4)  以上のとおりであるから、本件証明書は被告が署名押印して作成したものであり、真正に成立したものであると認められる。

2  遺産分割協議について

先に説示したとおり、真正に成立したと認められる本件証明書(甲9の2、乙6)及び弁論の全趣旨からすれば、被告は、Cの生前に相続分に相当する財産の贈与を受けていたことから、平成9年ころ、Bと被告との間で、Cの相続財産についてはBが全て相続する旨の遺産分割協議が成立したとの事実が認められ、請求原因(4)の事実が認められる。

3  以上によれば、請求原因事実は全て認められ、被告は何らの抗弁を主張しない。よって、原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安田仁美)

(別紙)物件目録<省略>

登記目録<省略>

株券目録<省略>

一覧表<省略>

配当金目録<省略>

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