高知地方裁判所 平成21年(行ウ)14号 判決 2010年9月21日
主文
1 高知県知事が平成21年5月13日付けで原告に対してした懲戒免職処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,高知県知事から平成21年5月13日付けで酒酔い運転を理由に地方公務員法29条1項1号及び3号に基づく懲戒免職処分(以下「本件処分」という。)を受けた原告が,同処分には高知県知事に与えられた裁量権の逸脱・濫用や処分手続上の違法があると主張して,被告に対し,その取消しを求めている事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに末尾かっこ内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告の採用,職歴等
原告は,平成2年*月*日に被告に技能職として採用され,平成21年4月からは,a事務所の主任技師として,b管理業務に従事していた者である。
原告は,入庁してから17年間は,eとfの自動車運転手として勤務していたが,被告が,平成18年に,自動車運転を含む現業業務を廃止あるいは民間企業へ外注する方向で見直す方針を示したことから,行政職に転職しようと考えた。そこで,原告は,技能職の身分のまま行政職の補助業務を行うジョブチャレンジ制度に応募し,平成19年4月からは,c事務所やd保健所で行政職の補助業務を行っていた。
原告は,本件処分を受けるまで,懲戒処分を受けたことはなかった。(甲4,5,22)
(2)原告の酒酔い運転
原告は,平成21年4月28日,友人と飲酒するため,通勤に使用している普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)を運転して土佐市に向かい,土佐市役所の南側にある駐車場に同車両を駐車した。
原告は,友人2人と共に,土佐市内の居酒屋で同日午後6時ころから午後8時ころまで飲酒し,生ビール3,4杯程度,焼酎の水割り4,5杯程度を飲んだ。
その後,原告は,友人1人と上記居酒屋の2件ほど隣にあったスナックに行き,2人でビール1本程度を飲酒したが,原告は,入店当時から足下がふらついており,呂律の回らない状態であった。
上記スナックを出た原告は,土佐市役所の駐車場に駐車してあった本件車両を運転して,自宅へ向かった(以下,この運転行為を「本件酒酔い運転」という。)。
原告は,上記運転中,携帯電話の操作に気を取られて前方注視を怠り,同日午後10時34分ころ,土佐市高岡町の県道と国道56号線との交差点で,本件車両を縁石に乗り上げ,信号柱に衝突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こした。本件事故により,原告は肋骨にひびが入る怪我を負い,また,本件車両は,その左前部が大破し,フロントガラスには蜘蛛の巣状のひびが入った。
近隣住民の通報により警察官が駆けつけ,原告に対し飲酒検知を行ったところ,呼気1リットル中0.7ミリグラムのアルコールが検出されたが,原告は,飲酒検知結果に署名指印することを拒否した。
原告は,同日,本件酒酔い運転の被疑事実で現行犯逮捕され,土佐警察署に留置された。その後,同月29日から取調べを受けたが,同月30日の午後7時ころに釈放され,自宅に戻った。(乙20の1ないし13,乙21)
(3)本件処分及びその前後の経緯
原告は,自宅謹慎のための年休を取得し,平成21年5月1日から同月12日まで自宅で謹慎した。その間の同月5日ころ,原告は,飲酒運転をしたことを反省し,寛大な処分を求める旨記載したa事務所長宛ての顛末書(甲6の1,以下「本件顛末書」という。)を作成し,同月6日に,同事務所の丙山次長に手渡した。
原告は,同月13日午前10時ころ,被告の指示に従って人事課に出頭したところ,本件酒酔い運転が,職員全体の名誉と信頼を損ない,県民の県政への信頼を大きく裏切るものであって,地方公務員法33条の信用失墜行為にあたるとして,地方公務員法第29条1項1号及び3号に基づき懲戒免職処分とすることを告知され,同処分についての辞令書及び処分理由書を交付された(本件処分)。(甲1,2,6の1及び2)
(4)原告に対する刑事罰等について
原告は,平成21年7月22日,酒気を帯び,アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で本件車両を運転したとして公訴提起され,同月31日,罰金80万円の略式命令を受けた。なお,同命令は確定している。
原告は,同年6月12日,高知県公安委員会より,運転免許取消処分を受けた。(甲3,調査嘱託の結果)
(5)懲戒処分の指針等について
被告は,平成9年11月12日,公務員の飲酒運転が相次いだことに対する県民や県議会の批判を踏まえ,飲酒運転の根絶を図るため,飲酒運転を行った職員については原則として免職とする(ただし,管理職員については自損事故及び単なる違反の場合,その他の職員については物損事故,自損事故及び単なる違反の場合は,事案により諭旨退職とする場合がある。)との方針で臨むこととし,「飲酒運転に対する処分基準(内規)」(乙9,以下「本件懲戒基準」という。)をそのように改訂し,同日付で,職員に対し,処分方針の内容を通知書面で周知した(甲7,乙6の1ないし31,乙9,10)。
(6)被告における他の交通法規違反における懲戒処分について
被告においては,平成14年10月に時速70キロメートル超えの速度違反で10分の1の減給1か月の処分,平成15年1月に時速71キロメートル超えの速度違反で戒告処分,同年11月に時速70キロメートル超えの速度違反で戒告,同年12月に信号無視,人身事故(重傷)で10分の2の減給2か月の処分,同月無免許運転で10分の1の減給3か月の処分,平成18年3月に信号無視,人身事故で10分の2の減給4か月の処分,平成19年9月に無免許運転で10分の1の減給1か月の処分がされている。
(7)国における懲戒処分の指針について
人事院は,平成20年4月1日,懲戒処分の指針を一部改正し,国家公務員の懲戒処分の標準量定を見直し,酒酔い運転の標準量定を,従来の「免職,停職,減給」から「免職,停職」に改正した。
平成21年4月10日に人事院職員福祉局が発表した「平成20年における懲戒処分状況について」(甲12)には,交通事故・交通法規違反関係における懲戒事例69件中免職処分の事例は1件であると記載されている。
2 争点及び当事者の主張
(1)本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか否か(争点1)
(被告の主張)
ア 本件においては,以下の事情があり,これらに鑑みれば,本件処分は妥当なものであって,被告に裁量権の逸脱,濫用はない。
(ア)原告は,呼気1リットル中0.7ミリグラムという高濃度のアルコールを保有していた。
(イ)原告は,本件懲戒基準が,度重なる飲酒運転事案の発生と,それに対する社会的批判の高まりを受けて定められたことを熟知していたにもかかわらず,これを軽視して,酔いを覚ます時間をおいたり,代行運転業者を利用したりすることなく本件酒酔い運転に及んだ。
(ウ)原告は,本件酒酔い運転によって,本件事故を起こし,罰金80万円という重い刑事処分を受けている。
(エ)原告は,本件事故当初,飲酒検知結果への署名指印を拒否し,捜査に非協力的な態度を見せていた。
イ また,以下の事情に鑑みれば,本件処分は,公平性,平等性の原則に反するものではなく,この点においても,本件処分は被告の裁量権を逸脱,濫用したものではない。
(ア)本件懲戒基準は,度重なる飲酒運転事案の発生と,それに対する社会的批判の高まりを受けて定められた適正なものであり,これに基づく処分が,本件懲戒基準が定められる前の処分に比べて重いとしても,それが公平性,平等性を欠くものではない。
(イ)道路交通法違反による罰則と,公務員に対する懲戒処分とは,その目的,内容が異なるのであるから,いわゆる交通三悪にあげられる他の非違行為の場合と比べて,飲酒運転に対する懲戒処分が重いとしても,それが直ちに公平性,平等性を欠くとはいえない。
(ウ)本件処分が,国家公務員に対する懲戒処分と比べて著しく重いとはいえない。
(エ)公務員は,一般に求められる職業人としての倫理に加えて「全体の奉仕者」の立場からの倫理性が求められており,民間企業と単純に比較することはできない。
(原告の主張)
ア 本件処分は,以下のとおり,社会通念上著しく妥当性を欠き,被告の裁量権を逸脱,濫用したものであって違法である。
(ア)原告は,本件酒酔い運転以前には飲酒運転をしたことはなく,交通違反歴も3件のみで,平成14年以降に限れば無事故無違反であった。
(イ)原告は,当初から飲酒運転をするつもりで酒を飲んだわけではない。
(ウ)本件事故による人身被害は生じておらず,本件事故は刑事罰の対象とはならないものである。
(エ)原告は,公務員といっても,単純な労務に従事していたに過ぎず,通常人に比して特に高度の倫理性を求められる立場にはない。
(オ)原告は,本件処分以前に,被告から懲戒処分を受けたことがない。
(カ)原告は,逮捕当初から本件酒酔い運転の事実を認め,捜査に協力している上,自ら自宅謹慎を申し出たほか,被告の事情聴取にも素直に応じるなど,反省の情を示している。
(キ)原告は,妻と2人暮らしであるが,原告の収入なくしては水道光熱費の支払さえ満足に出来ない状態であり,原告の収入は原告及びその妻が生活する上で不可欠である上,*歳の原告にとっては,再就職も難しい。
イ また,以下の事情に鑑みれば,本件処分は,公平性,平等性の原則に反し,重きに失するものであり,被告の裁量権を逸脱,濫用したものであって違法である。
(ア)本件懲戒基準が定められる以前の,平成元年から平成9年までの飲酒運転による懲戒処分18件はすべて停職処分であるにもかかわらず,本件懲戒基準が定められてから本件処分までの間の飲酒運転による懲戒処分12件は,全て懲戒免職処分であり,これは本件懲戒基準が定められた後にされた懲戒免職処分18件のうち3分の2を占めている。
(イ)飲酒運転と共に交通三悪とされている制限速度違反や無免許運転に対して懲戒免職処分がされた事例はなく,信号無視の上重傷の人身事故を起こした事例でも懲戒免職処分とはなっていない。
(ウ)地方公務員よりも高い倫理性が求められる国家公務員の場合でも,平成20年の交通事故,交通法規違反関係による懲戒事例69件のうち,懲戒免職となった事例は1件しかなく,飲酒運転で免職となる例はほとんどないと考えられる。
(エ)民間企業についてみると,平成18年の調査では,全国の主要企業89社のうち,飲酒運転をした従業員を原則として解雇するという企業は,ビール製造の大手4社を含めた6社に過ぎなかった。
(2)本件処分に手続的違法があるか否か(争点2)
(被告の主張)
被告の懲戒手続条例には,弁明の機会についての定めはないから,弁明の機会を与えなかったとしても,条例に反するものではなく,本件処分が違法となるものではない。
仮に,懲戒処分の際に弁明の機会を付与することが必要だとしても,弁明の機会の付与を欠くだけで当該懲戒処分が違法となるものではなく,弁明の機会が与えられれば,処分の内容に影響を及ぼす相当程度の可能性があるにもかかわらず,弁明の機会を与えなかった場合に,初めて当該懲戒免職処分が違法となる。
本件においては,原告は本件顛末書の提出及び被告による事情聴取の際に,自己の言い分を述べることが可能だったのであるから,被告は原告に十分な弁明の機会を与えていた。
仮にそうでなかったとしても,原告が本件酒酔い運転及び本件事故の事実を争っていなかったことは明らかであるから,十分な弁明の機会を付与することにより,本件処分の内容に影響を及ぼす相当程度の可能性があったとはいえない。
(原告の主張)
懲戒免職処分は不利益処分であるから,適正手続の保障を全うするため,行政庁は十分な弁明の機会を与えるべきであり,これを欠く場合には,当該懲戒処分自体が違法となる。
本件においては,被告は,原告に対して事情聴取を一度行っているが,これは処分をする側からの事実調査・確認の域を出ないものである。また,本件懲戒基準は十分に周知されておらず,そのために,原告は,飲酒運転の事実があれば必ず懲戒免職処分を受けると誤信し,十分な弁明ができなかったのであるから,原告に十分な弁明の機会は与えられていない。
したがって,本件処分は違法であり,取り消されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか否か)について
(1)地方公務員法29条1項は,地方公務員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨規定するが,同法は,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかについて,すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」(同法27条1項),すべての国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならない(同法13条)と規定するほかは具体的な基準の定めはない。
したがって,懲戒権者は,非違行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の当該行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量に基づき決定することができると解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
もっとも,その裁量も全くの自由裁量ではなく,裁量権の行使に基づく懲戒処分が社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合には,その懲戒処分は違法であると解するのが相当である。
そして,本件酒酔い運転については,上記地方公務員法29条1項1号及び3号の非違行為に該当し,懲戒事由が認められる(前記前提事実)ところ,以下においては,上記判断枠組みにより,本件処分が適法といえるか検討する。
(2)まず,本件処分は,本件懲戒基準を基準として行われたものであるから,本件懲戒基準が基準として合理的なものか否かについて検討する。
本件懲戒基準の内容,改訂の経過は前記前提事実のとおりであるところ,証拠(甲10,乙9)によれば,同基準においては,飲酒運転の非違行為を,人身事故を伴う場合,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合,事故を伴わない交通法規違反のみの場合に区分し,これらいずれについても原則は免職処分とし,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合及び交通法規違反の場合のうち,情状酌量の余地のあるものについては諭旨退職処分とすることができる取扱いとなっており,停職の余地が残されているのは,いわゆる二日酔いの状況にあり,特に情状酌量の余地のあるもののうち死亡事故の場合を除くもののみであること,上記改訂後の飲酒運転を内容とする非違行為に対しては,本件懲戒基準に基づく処分がされていることが認められる。
確かに,悪質な飲酒運転が社会問題化し,被告においても,本件懲戒基準を改訂し,飲酒運転の撲滅に向けた種々の取組みを行ってきたことを考慮すると,被告において綱紀粛正を徹底する見地から,職員の飲酒運転に対し厳正な処分をもって臨むとすることは相応に合理性があるものと解される。
しかしながら,本件懲戒基準は,飲酒運転の場合には,いわゆる二日酔いの状況でなければ,人身事故を伴う場合,物損事故を伴う場合,自損事故を伴う場合,交通法規違反の場合のいずれを問わず,免職処分又は諭旨退職処分となるというものであり,一律に公務員としての身分を失わせる厳しい基準である。
飲酒運転といっても,上記のように,事故(人身,物損,自損)を伴う場合,事故自体発生しなかった場合があり,事案によりその悪質性に差があることも否定できないことからすると,これらの要素を個々に勘案し,処分の軽減等を図る余地を残さずに,いわゆる二日酔いの状況以外の場合は全て身分を喪失させるとすることは,他方で,飲酒運転以外の交通法規違反については,時速70キロメートル超えの速度違反や,人身事故(重傷)であっても,減給ないし戒告処分にとどめていること,国家公務員の場合,酒酔い運転の標準量定は「免職,停職」であり,停職の余地を残していることなどと比較しても,処分内容として重きに失するといわざるを得ない。
以上のとおり,本件懲戒基準は,今日における飲酒運転に対する社会的非難の強さを考慮しても,なお合理性を欠く部分があるというべきであるが,本件処分が本件懲戒基準により行われたからといって,当該処分が直ちに違法となるものではなく,結局のところ,本件で問題とされている原告の非違行為に対し懲戒免職処分をもって臨むことが社会通念上著しく妥当性を欠き,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるかどうかが検討されねばならない。
(3)本件処分の理由とされる非違行為は,酒酔い運転であるところ,前記前提事実のとおり,原告からは,道路交通法違反として処罰される下限である呼気1リットルあたり0.15ミリグラムを大幅に超える呼気1リットルあたり0.7ミリグラムもの高濃度のアルコールが検出されていること,しかも,原告は,本件車両を運転し,本件事故(自損事故)を起こしていることからすれば,本件酒酔い運転は非違行為としての性質,態様及び結果において,悪質さの程度が低いとはいえない。そして,原告が飲酒運転に及んだ動機に酌量の余地はないし,本件事故が発覚して警察官が駆けつけた際,飲酒検知結果への署名指印を拒否するなど,飲酒運転後の情状も芳しくない。
他方,前記前提事実のとおり,原告は,現業業務や行政職の補助業務に携わっていた公務員であるが,管理職の地位にあったわけではなく,本件酒酔い運転自体も職務外で私的に行われたものであるから,職務の信用を害する程度は小さいといえる。実際にも,本件酒酔い運転によって自損事故を惹起しているものの,直接原告が従事していた業務等に支障が生じたものではない。また,原告は,本件処分までに被告から懲戒処分を受けたことはなく,証拠(甲22)及び弁論の全趣旨によれば,交通違反歴についても,一旦停止義務違反,シートベルト着用義務違反及びスピード違反が各1件あるだけで,平成14年以降は無事故無違反であることが認められる。そして,本件事故後,前記のとおり非協力的な態度を示したものの,証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,その後は,捜査機関の取調べに素直に応じていたこと,被告に対し,自ら自宅謹慎を申し出たこと,釈放された日の翌日である平成21年5月1日には,被告の事情聴取に応じて,事情を説明し,本件顛末書を提出したことなどが認められ,自己の行為の危険性や,悪質性を理解し,反省している様子も窺えるところである。さらに,証拠(甲15,16の1ないし4,甲17,18及び19の各1及び2,甲20,22)によれば,原告の家庭においては,原告の給与は重要な収入源であったこと,原告の再就職が困難な状況で,原告及びその妻は生活に困窮していることが認められる。
(4)飲酒運転に対する批判が高まり,危険運転致死傷罪の新設や道路交通法改正による飲酒運転に対する厳罰化が進められるなど,飲酒運転に対する規範意識が高まっている社会情勢に鑑みれば,公務員である原告の本件酒酔い運転は,社会的にも強く非難されるべきであって,これに対し,厳罰により対処しようとした被告の姿勢は十分に理解できるところである。
しかしながら,上記認定の本件酒酔い運転の経緯,態様や結果,原告のこれまでの処分歴や交通違反歴,本件酒酔い運転後の態度など諸般の事情を総合考慮すると,被告が本件酒酔い運転に対する懲戒処分として,公務員の地位を剥奪し,職員としての身分を喪失させる本件処分を選択したことは,上記の社会情勢や本件懲戒基準が改定された経緯などを勘案したとしても,なお社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を付与した目的を逸脱し,あるいはこれを濫用したものであるといわざるを得ない。
2 結論
以上によれば,本件処分は違法であり,その他の点について検討するまでもなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用について民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。