高知地方裁判所 平成23年(ワ)465号 判決 2012年2月26日
主文
1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,128万8305円を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成23年9月1日から本判決確定の日まで,毎月24日限り,1か月23万3861円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告は,原告に対し,平成23年12月1日から本判決確定の日まで,毎年12月10日限り,12万0744円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を,毎年6月30日限り,11万9000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を,それぞれ支払え。
5 訴訟費用は,被告の負担とする。
6 この判決は,第2項から第4項までに限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文第1項から第4項まで同旨
第2事案の概要
1 事案
本件は,原告が,被告に対し,吸収合併前の郵便事業株式会社(以下「郵便事業」という。)と原告との間の雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を更新しなかったことについて,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められず,その権利を濫用したものとして無効である旨主張し,本件雇用契約に基づき,本件雇用契約上の地位の確認と,平成23年4月1日から同年8月31日までの5か月分の給与相当額116万9305円(平成21年度の月額平均給与相当額23万3861円を基準とする。)及び同年6月分の夏期賞与相当額11万9000円(平成21年度の6月分賞与相当額を基準とする。)の合計額128万8305円,平成23年9月1日から本判決確定までの毎月24日限り,上記1か月当たり23万3861円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金並びに平成23年12月1日(年末賞与支給の基準日,なお訴状に平成23年9月からとあるが,同基準日以後の請求と解される。)から本判決確定までの毎年12月10日限り,平成21年度の12月分の年末賞与相当額12万0744円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金及び平成24年6月1日(夏期賞与支給の基準日)から本判決確定までの毎年6月30日限り,平成21年度の6月分の夏期賞与相当額11万9000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金の各支払とを求めて,提訴した事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により明白な事実)
(1) 被告等
被告は,旧商号郵便局株式会社として,郵政民営化法5条2項3号により,平成19年10月1日,日本郵政公社(以下「公社」という。)の業務のうち「郵便窓口業務及び郵便局を活用して行う地域住民の利便の増進に資する業務」を営むために設立された株式会社である。
郵便事業は,同条2項2号により,公社の業務のうち「あまねく公平に,かつ,なるべく安い料金で行う郵便の業務」を営むために設立された株式会社である。
被告は,同法6条の2により,平成24年10月1日,現在の日本郵便株式会社に商号変更するとともに,郵便事業を吸収合併した。
(以上,弁論の全趣旨)
(2) 原告と旧郵政省及び郵便事業との間の雇用契約の内容等
ア 原告は,平成10年1月28日,当時の郵政省(伊野郵便局長)との間で,以下の条件で,雇用契約を締結し,同契約に基づき,伊野郵便局において集配業務に従事していた(甲1)。
(ア) 所属 郵便課
(イ) 予定雇用期間 平成10年2月2日から同年3月31日まで
(ウ) 仕事の内容 集配業務
(エ) 賃金 時給760円
イ 原告は,平成19年10月1日,郵便事業との間で,以下の条件で,本件雇用契約を締結した(甲2の1)。
(ア) 雇用契約期間 平成19年10月1日から平成20年3月31日まで
(イ) 就業の場所及び従事すべき業務の内容 「伊野支店郵便課郵便(外務) その他これに付随,関連する業務」
(ウ) 基本賃金 1時間1300円
(エ) 雇用契約の期間の趣旨及び更新等 期間雇用社員就業規則
(以下「本件規則」という。甲7)第9条,第10条による。
ウ その後,郵便事業は,原告との間で,雇用契約を更新し,原告は,平成23年3月31日まで,同雇用契約に基づき,集配等の郵便外務事務に従事していた(甲2の2,弁論の全趣旨)。
(3) 本件雇用契約期間中の交通事故
ア 原告は,平成20年1月1日,バイクを運転して集配事務等に従事していた際,スリップして肋骨にひびが入る傷害を負う人身事故(以下「本件第1事故」という。)を起こした(乙5,弁論の全趣旨)。
イ 原告は,平成22年5月24日,普通貨物自動車を運転して集配事務等に従事していた際,ガードレールに衝突する物損事故(以下「本件第2事故」という。)を起こした(甲8の1,乙6,弁論の全趣旨)。
ウ 原告は,平成22年9月30日,普通貨物自動車を運転して集配事務等に従事していた際にガードレールに衝突する物損事故(以下「本件第3事故」という。)を起こした(甲8の2,乙7,乙8,弁論の全趣旨)。
(4) 本件雇用期間中の原告の給与等
ア 郵便事業は,平成21年度(同年1月から同年12月まで)において,原告に対し,総額304万6084円の給与を支給した(甲10)。
イ そのうち,賞与部分は,平成21年6月30日に支給された11万9000円と同年12月10日に支給された12万0744円である(甲11の1,2)。
(5) 郵便事業による雇止めの経緯等
ア 郵便事業は,平成23年2月22日付け雇止め予告通知書により,原告に対し,同年3月31日をもって本件雇用契約を終了させ,それ以降更新しない旨通知した(以下「本件雇止め」という。
甲3)。
その理由について,郵便事業は,同月10日付け「労働契約を更新しない理由に関する証明書」により「雇用契約期間の満了による退職」及び「業務を遂行する能力が十分でないと認められる」ことを挙げている(甲4)。
イ 原告は,平成23年3月31日,同月30日付け内容証明郵便により,郵便事業に対し,本件雇止めの撤回を求めたが,郵便事業は,これを撤回しなかった(甲5の1,2)。
ウ 原告は,郵便事業を債務者として,高知地方裁判所に地位保全及び賃金仮払仮処分命令の申立てをし(同裁判所平成23年(ヨ)第16号),同裁判所は,同年8月8日,原告の申立てを一部認め,同年7月以降本案第1審判決言渡しまで,毎月24日限り17万円の割合による金員の支払を命ずる仮処分決定をした(甲9)。
3 争点及びこれについての当事者の主張
(1) 本件雇止めに解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用されるか否か(争点1)。
(原告)
本件雇用契約は,雇用継続について合理的な期待が存在し,本件雇止めに労働契約法16条が類推適用されるべきである。
ア 本件雇用契約は,平成10年2月2日から平成23年3月31日までの約13年間,多数回の更新を経て継続され,雇用継続への合理的期待が存在する。この期間中,形式上,雇用主が,郵政省,郵政事業庁,公社,郵便事業と変わったが,郵政の分割,民営化の前後で,原告の労務内容や勤務場所等に変化はなく,郵便事業も従前の雇用を継続することを前提にそのまま原告を雇用し続けているから,本件雇用契約に係る雇用期間は,伊野郵便局長に採用された平成10年2月2日から通算すべきである。
仮に,分割,民営化の前後において,本件雇用契約の継続の合理的期待が失われるとしても,郵便事業との本件雇用契約は平成19年10月から平成23年3月31日までの3年6か月継続し,その間に6回も更新されているから,このことのみで,雇用継続に対する合理的な期待が生じていたというべきである。
イ 原告は,本件雇用契約に基づき,集配事務,速達などの対面配達事務や苦情処理事務といった専門性の高い事務を担当し,管理事務を担当しない正規の職員すなわち正社員が遂行していた事務と同等の事務を行っていたと評価できるから,正社員と同様に雇用継続について合理的な期待が存在する。特に,交通の便の悪い山間部の配達にはより多くの経験が求められるなど,集配事務を担当する正社員と変わらない専門性や経験が求められていた。
ウ 本件雇用契約に適用される本件規則においても,期間の更新が原則とされていること,実際,原告と同じ立場にある期間雇用社員が雇止めとされた事例は存在しないこと,雇用主の形式上の変更にかかわりなく,本件雇用契約を更新する際,特段の審査は実施されず,形式上,書類を交わすのみで更新がされていたことからしても,雇用継続への合理的期待が認められる。
(被告)
本件雇用契約は,雇用継続について合理的な期待が存在せず,本件雇止めに労働契約法16条が類推適用されることはない。
ア 本件雇用契約は3年6か月程度継続されているにすぎず,この程度の短期間で雇用継続への合理的期待は生じない。なお,郵政の分割・民営化以前において,原告は,法令上,非常勤の国家公務員の身分を有していたが,分割,民営化に伴い,その身分を失って退職し,これを前提に,郵便事業は原告に対し,有期の雇用契約である旨明示し,その都度雇用契約を締結していた。したがって,分割,民営化の前後で原告の雇用形態,法的性質は異なっており,分割,民営化の前後の期間を通算することは許されない。
イ 原告が従事していた郵便外務事務は,高い専門性や経験が要求されるものではない。特に,原告が担当していた管内は山間部を含む地域であり,配達箇所も少なく,都市部などと比較すると,容易に集配事務を行うことができ,対面配達や苦情処理といった事務も集配事務に伴うものであり,ある程度の経験があれば誰でも対応できるものである。それゆえ,原告の担当事務を,本来,管理事務等も担当すべき正社員の事務と同視することはできない。
ウ 本件規則は,更新しないことすなわち期間終了時に改めて雇用契約を締結することを原則とし,実際,雇止めの実施例は多数存在すること,更新の際,改めて更新を承認する雇入労働条件通知書を交付し,他方,更新を拒絶する際には雇止め予告通知書を交付するなど,勤務態度や能力等を審査し,その都度,雇用契約を締結していたことからしても,本件雇用契約の継続についての合理的期待は存在しない。
(2) 本件雇止めが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められず,無効であるか否か(争点2)。
(被告)
本件雇止めには,以下のとおり,合理的な理由が認められる。
ア 原告は,短期間のうちに自らの過失により本件第2事故及び本件第3事故を起こしており,その運転技能の欠如は明白である。特に,原告は,本件第2事故を起こし,戒告処分を受けたにもかかわらず,またも本件第3事故を起こし,停職2日の処分を受けたこと,本件第2事故の以前にも本件第1事故を起こしていることからして,反省や改善の態度は全くみられず,原告の運転技能の欠如は明白である。このような運転技能を欠如した原告が集配事務を行うことは,将来的に重大な人身事故を引き起こす可能性があり,本件雇止めはやむを得ないものというべきである。
イ このような交通事故が他に起きた例も少ない。例えば,平成22年に被告の伊野支店において起きた交通事故は7件であるが,そのうち2件が原告によるものであり,2件の交通事故が異例の事態であることは明白である。なお,郵便事業は,交通事故を起こした職員に対し,その都度適正な処分を行っている。
ウ しかも,原告は,勤務時間中に郵便事業が認めていない,業者の勧誘ビラを配るなど,その勤務態度も不良な点がみられた。
(原告)
本件雇止めは,合理的な理由を欠くものであって無効である。
ア 被告が主張する交通事故は,いずれも軽微な事故であり,原告の運転技能の欠如を示すものではない。本件第1事故は,バイクで雪道を走る際のスリップによる自損事故であり,それ自体軽微なものである。本件第2事故は,原告が突然むせたためにハンドル操作を誤り,ガードレールに衝突した偶発的な物損事故であり,本件第3事故も,同様に普通貨物自動車を運転して雨の山道を走行していた際にスリップしてガードレールに衝突した偶発的な物損事故にすぎない。これらの事故を除き,13年間,原告が無事故であった事実に照らし,原告の運転技能を疑わせたり,交通法規を遵守しない性格をうかがわせたりするようなことはない。
また,原告は,郵便事業から,本件第2事故により戒告処分を,本件第3事故により2日間の停職処分を,それぞれ受け,処分はすんでおり,十分に反省もしている。
イ 原告が起こした軽微な交通事故の事案は,被告の他の職員にもみられるが,これらの事故について,職員が処分されたことはなく,原告のみが処分を受けていることにかんがみても,本件雇止めを合理化することはできない。
ウ 被告が主張するような原告の勤務態度に問題があった事実は存在しない。
(3) 原告が,被告に対し,給与及び賞与の請求権を有するかどうか(争点3)。
(原告)
ア 前記前提事実(4)アのとおり,原告は,平成21年度,給与分として年間280万6340円を受給し,これを月額にすると,毎月23万3861円となる。原告の給与は,毎月末日締めの翌月24日払いであるから,月額23万3861円の給与の支給請求権を有する。
また,賞与は,前記前提事実(4)イのとおり,平成21年6月30日に11万9000円が,同年12月10日に12万0744円が,それぞれ支給されているから,同額の請求権を有している。
イ 原告は,平成22年度において,本件第2事故により右膝を骨折し,同年10月1日から同年12月23日までの休業を余儀なくされており,本来より低い額の給与・賞与を支給されているから,本来得られるべき平成21年度分の給与・賞与額を基礎に算定した。
(被告)
原告の主張は争う。
第3当裁判所の判断
1 本件の事実関係
前記前提事実と証拠(各項末尾に摘示)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 本件雇用契約前の原告の雇用形態及び稼働状況等
ア 原告は,平成10年1月28日,当時の郵政省(伊野郵便局長)に非常勤職員として採用され,その後の上部組織の変更に伴い,総務省郵政事業庁伊野郵便局に採用期間の満了ごとに外務職員として採用された(原告本人1頁(頁数は,原告の本人調書の頁数である。以下同じ),甲20の1頁)。
イ 平成15年4月1日,日本郵政公社法(平成14年法律第97号,平成19年10月1日廃止)により,上記事業庁の所掌事務を遂行するため,公社が設立された(同法1条,中央省庁等改革基本法33条1項)。
公社は,非常勤職員(なお,日本郵政公社法50条により,同職員は国家公務員とされる。)の任用について,「日本郵政公社非常勤職員任用規程」(乙1,平成15年4月1日郵総総第3011号の40)第3条1項において「非常勤の職員の任期は,1日とする。この場合において,発令日の属する会計年度の範囲内において任命権者が定める期間(以下「予定雇用期間」という。)内においては,任命権者が任期を更新しない旨の意思表示を行わない限り,その任期は更新されるものとする。」と定め,同条2項柱書において「予定雇用期間が満了した場合」(同項1号)及び「予定雇用期間内において,任命権者が任期(1日単位)を更新しない旨の意思表示を行った場合」(同項2号)に,非常勤の職員は「当然退職するものとする。」と定めていた。
ウ 公社は,平成15年4月1日,同伊野郵便局において,原告を非常勤職員として採用し,平成19年9月30日まで,6か月の各予定雇用期間の満了ごとに原告を採用した(原告本人1頁,甲12の1から6まで,甲20の1頁)。
エ なお,平成10年1月28日から平成19年9月30日までの間,すなわち当時の郵政省,上記事業庁及び公社(以下「公社等」という。)に採用されている間の原告の具体的な担当職務は,管轄内を区域ごとに,通常郵便物を郵便受箱などに配達する通集配業務と,特殊取扱いや対面配達を必要とする速達,書留,小包などを配達する混合業務とであった(原告本人1,2頁,証人A)1,2頁(頁数は,同証人の証人調書の頁数である。以下同じ),甲20の1頁)。
また,その期間中の人事評価について,原告は,平成16年8月31日付け「非常勤職員のスキル認定書(給与額決定通知書兼勤務条件変更等通知書)」(甲12の1)において,「基礎評価給の評価」について10の評価項目の全てが「○」(できている)であり,「資格給の評価」についてAランクに達しないが,B,Cランクのスキル基準を満たしているとして,時給を「1000円」(地域別基準額660円及び職務加算額80円,基礎評価給10円,スキルランク「B」140円,習熟度「有」110円)とされ,平成17年8月31日付け「非常勤職員のスキル認定書(給与額決定通知書兼勤務条件変更等通知書)」(甲12の2)においても,ほぼ同様の評価を受け,時給を「1100円」(地域別基準額660円及び職務加算額80円,基礎評価給10円,スキルランク「A」350円,習熟度「無」)とされた。
原告は,平成18年2月27日付け「非常勤職員のスキル認定書(給与額決定通知書兼勤務条件変更等通知書)」(甲12の3)及び同年9月30日までに原告に交付された「非常勤職員のスキル認定書(給与額決定通知書兼勤務条件変更等通知書)」(甲12の4)において,いずれも「基礎評価給の評価」について10の評価項目の全てが「○」(できている)であり,「資格給の評価」についてAランクに達するとして,時給を「1300円」(地域別基準額660円及び職務加算額80円,基礎評価給10円,スキルランク「A」350円,習熟度「有」200円)とされ,平成19年2月22日付け「非常勤職員のスキル認定書(給与額決定通知書)」(甲12の5)において,「基礎評価給の評価」について10の評価項目の全てが「○」(できている)であり,「資格給の評価」についてAランクのスキル基準を満たしているとして,時給を「1100円」(地域別基準額660円及び職務加算額80円,基礎評価給10円,スキルランク「A」350円,習熟度「無」)とされた。
原告は,同年8月17日付け「非常勤職員のスキル認定書(給与額決定通知書)」(甲12の6)において,「基礎評価給の評価」について10の評価項目の全てが「○」(できている)であり,「資格給の評価」についてAランクに達し,時給を「1300円」(地域別基準額660円及び職務加算額80円,基礎評価給10円,スキルランク「A」350円,習熟度「有」200円)とされた。
(2) 民営化後の原告の雇用状況等
ア 郵政民営化法5条1項は,平成19年10月1日,公社を解散する旨規定し,同条2項2号は,公社の機能のうち,「あまねく公平に,かつ,なるべく安い料金で行う郵便の業務」について,郵便事業がこれを承継する旨規定する。
また,同法6条4項は「公社の職員の雇用は,承継会社において確保するものとする。」と規定し,同法167条は「公社の解散の際現に公社の職員である者は,別に辞令を発せられない限り,この法律の施行の時において,承継計画において定めるところに従い,承継会社のいずれかの職員となるものとする。」と規定する。
イ 公社は,平成17年11月11日発行の「民営化週報」において,同社職員に対し雇用を確保する旨,特に非常勤職員たる「ゆうメイト」に対し新会社が改めて労働契約を締結し,採用することとなる旨周知し(甲14),平成18年3月3日発行の「民営化週報」においても,非常勤職員との間で,改めて労働契約を締結し採用することとなり,労働条件について日本郵政株式会社と労働組合との交渉等により決定されるが,「引き続き新会社で同じ仕事をして働いていただくゆうメイトの皆さんにつきましては,公社でのスキルレベルを新会社に引き継ぎたいと考えています。新会社における具体的な労働条件や雇用手続などについては,平成19年4月のゆうメイト募集の際にあわせて説明したいと考えています。」と説明し(甲15),平成18年の「長期ゆうメイト講習会資料」でも,同様の説明をした(甲16)。
また,公社は,同年8月,「日本郵政公社の民営・分社化に伴う非常勤職員の雇用に関する資料」(乙3)を作成し,その中で,公社の非常勤職員に対し,民営・分社化により公社が郵便局株式会社,郵便事業などの5社となり,公社職員の有する公務員としての身分は失われ,各5社の従業員となる旨,平成19年10月以降,非常勤職員と各5社との間で改めて労働契約を締結することとなる旨(同資料1頁),非常勤職員の就労の期間について「任期と予定雇用期間により設定していましたが,民営・分社化後は,契約期間により設定すること」となる旨(同資料2頁)及び労働条件について「日本郵政株式会社(準備企画会社)と労働組合との交渉等により決定されますが,これまで一つの郵便局の中で行われていた仕事が,民営・分社化後に,それぞれの新会社に分かれて引き継がれることとなりますので,新会社の労働条件については,公社の労働条件に配慮していきたいと考えています。」旨(同資料7頁,例えば,給与などについて,「公社でのスキルレベルを引き継げるよう検討していきます。」とある。)説明していた。
ウ 平成19年10月1日,郵政民営化法5条に基づき,公社は,同日解散し,その事業のうち,郵便の業務については郵便事業が承継し,郵便窓口業務及び郵便局の活用業務等については被告が承継した(弁論の全趣旨)。
郵中で便事,①業は同,日同から日,平成原告2と0の年間3で月,3本1件日雇ま用で契の約6をか締月結間しを,雇用そ契約期間とし,②伊野支店郵便課郵便(外務)その他これに付随,関連する業務を原告の担当とし,③基本賃金は,時間給1300円(基本給740円及び加算給560円)とすることを合意した(甲2の1)。
上記時間給のうち,基本給は「事業所が存在する地域ごとにあらかじめ定められた金額(地域別基準額)と職務の困難度合い及び募集環境に応じて所属長が設定した金額(職務加算額)の合計額」とされ,加算給は「一定の勤務期間(評価実施月まで2月以上)を有する者に対し,次により,社員としての基本的事項についての評価(基礎評価)と職務の広さとその習熟度についての評価(スキル評価)を実施し,評価結果に応じて加算される金額」であるとされ,また,諸手当のうち,臨時手当(賞与)について,60日以上勤務した契約社員が基準日に在職していた場合,一定の基準の下に支給されることとなっていた(甲2の1「別添4-2時給制契約社員及びパートタイマーの場合(郵便事業会社)」)。
また,雇用契約の期間の趣旨及び更新について,本件規則9条,10条により,その区分に応じて雇用契約期間(時給制契約社員である原告について6か月)が定められるとともに,その更新について,原告が希望する場合は,雇用契約を更新することがあるが,「雇用契約期間が満了した際に,業務の性質,業務量の変動,経営上の事由等並びに社員の勤務成績,勤務態度,業務遂行能力,健康状態等を勘案して検討し,更新が不適当と認めたときには,雇用契約を更新しない。」と定められていた(甲7,乙11)。
エ 郵便事業採用後の原告に対する人事評価について,「契約社員Ⅱ・パートタイマーのスキル認定書(給与額決定通知書)」(甲12の7及び8)において,原告は,「基礎評価給の評価」について10の評価項目の全てが「○」(できている)であり,「資格給の評価」についてAランクに達し,時給を「1300円」(地域別基準額660円及び職務加算額80円,基礎評価給10円,スキルランク「A」及び習熟度「有」550円)とされた。
オ 郵便事業は,平成20年4月1日以降も,原告との間で,それぞれ6か月ごとに本件雇用契約を更新し,平成22年10月1日も,期間雇用社員雇入労働条件通知書(甲2の2)において,原告に対し,雇用を継続する旨通知した。その際,①平成22年10月1日から平成23年3月31日までの6か月間を雇用契約期間とし,②伊野支店郵便課郵便における集配等の郵便外務事務及びその他これに付随,関連する業務を原告が担当し,③基本賃金を時間給1300円(基本給750円及び加算給550円)とする旨合意された。なお,郵便事業採用後も,原告は,前記1(1)エと同様に,その担当職務として,通集配業務及び混合業務を行っていたが,主に混合業務を行っていた(証人A1,2頁,原告本人1,2頁,甲20の1頁)。
(3) 本件第1事故から本件第3事故までの各事故の詳細等
ア 原告は,平成20年1月1日午前10時25分ころ,バイクを運転し年賀状配達業務に従事していたが,登坂時にスリップして転倒し,肋骨にひびが入る傷害を負う本件第1事故を起こした(原告本人7頁,乙5の5頁,甲20の3頁)。
イ 原告は,平成22年5月24日午後7時46分ころ(天候晴れ),高知県吾川郡a町b番地南方約30メートル先路上(甲トンネル北口)において,普通貨物自動車(軽四)を運転し,夜勤混合勤務に従事していたが,トンネルの手前で急にむせこみ,ハンドル操作を誤り,同車の左前部を左側ガードレールに接触させて本件第2事故を起こした(原告本人8,13,14頁,証人A9,10頁,甲8の1,甲20の4頁,乙6)。
本件第2事故後の同年6月8日,「事故事例研究会」(事故状況の資料を参考にして,事故の経緯,原因,防止策などを協議する会合,証人A10頁)において,原告は,せきこんだためにハンドル操作を誤ったと説明した(証人A10頁,原告本人15頁,甲20の4頁,乙5の2頁)。
なお,郵便事業の本件第2事故に係る損害額は,車両自体の修理費用23万3761円及びガードレールの修理費用7万0334円の合計30万4095円であった(証人A9頁,乙6)。
原告は,本件第2事故について,同年9月28日付けで,戒告の処分を受けた(原告本人10頁,甲20の5頁,乙5の2頁)。
ウ 原告は,平成22年9月30日午後7時50分ころ(天候雨),高知県高岡郡cd番e先路上において,普通貨物自動車(軽四)を運転し,夜勤混合勤務に従事していたが,下り坂のカーブに進入した際にスリップし,山側の溝に落ちそうになったため,ハンドルを切ったところ,進行方向側のガードレールに同車の左前部を接触させて,右膝蓋骨折の傷害を負う本件第3事故を起こした(証人A11から13頁まで,原告本人10,15,16頁,甲8の2,甲20の4頁,乙7,乙5の3頁,乙8)。郵便事業の本件第3事故に係る損害額は,車両の修理費用20万5000円であり(乙7),上記受傷の結果,原告は2か月の休暇をとった(証人A13,15頁)。
また,原告は,郵便事業伊野支店支店長に対し,同年10月1日付けで始末書(乙8)を提出し,本件第3事故を発生させた点について,「日頃から交通事故防止について指導され,前日には事故による訓戒処分もあり十分に注意していたところですが,このような事故を発生させ,郵便事業会社伊野支店に多大なご迷惑をおかけしたことを深く反省しております。今後このような事故を発生しないよう,より一層注意します。寛大なご処置をお願いします。」としていた(乙8)。
本件第3事故に係る事故事例研究会において,原告不在のまま,原因等について協議され,その際,夜間部の下り坂で雨が降っており,滑りやすい状況にあったのであるから,より一層注意すべきであったなどの指摘がされた(証人A13頁)。
原告は,本件第3事故について,平成23年2月3日,停職2日の懲戒処分を受けた(甲20の5頁,乙5の3頁)。
(4) 本件雇止め
郵便事業の伊野支店のA郵便課長(以下「A課長」という。)は,平成23年2月22日,原告を呼び出し,雇止め予告通知書を原告に交付し,原告に対し,原告との雇用契約を同年3月31日により終了させ,それ以降更新しない旨の本件雇止めを通知した(甲3,甲20の3頁,乙5の4,5頁)。
その理由について,郵便事業は,同月10日付け「労働契約を更新しない理由に関する証明書」(甲4)により「雇用契約期間の満了による退職」及び「業務を遂行する能力が十分でないと認められる」ことを挙げているが,具体的には,原告が本件第2事故及び本件第3事故を起こしていることやこの点についての原告の反省が十分ではないなどということであった(証人A14,24頁,甲20の3頁,乙5の5頁)。
原告は,平成23年3月31日,同月30日付け内容証明郵便により,被告に対し,本件雇止めの撤回を求めたが,被告は,これを撤回しなかった(甲5の1,2)。
2 争点1
(1) 本件雇用契約の更新期間,回数等
まず,前記1(2)ウ及びオ,同(4)のとおり,被告は,平成19年10月1日,6か月間の雇用期間を定めて,原告を時給制契約社員として採用し,その後の平成23年3月31日の本件雇止めまでの間,3年6か月の間に6回,本件雇用契約を繰り返して更新しており,その期間や回数を考慮すると,原告の被告に対する雇用継続の期待は,相当程度高まっており,かつ,そのような期待をすることも不合理であるとはいえない。
(2) 原告の具体的職務内容及び人事評価等
前記1(2)オのとおり,原告の具体的な担当職務は,通常郵便物を郵便受箱などに配達する通集配業務と特殊取扱いや対面配達を必要とする速達,書留,小包などを配達する混合業務であり,本件雇用契約の存続期間中,原告は主として混合業務に従事していたところ,通集配業務と比較し,混合業務は時間や配達先をすべて記憶する必要がないといった点で経験や専門性がやや低いことは否定できないものの,これらの通集配及び混合業務を行う上で,契約社員ではない,正規の従業員すなわち正社員と契約社員との間に区別はなく,担当者の習熟度や能力などをみて担当を決めていたこと(証人A2,3,20,21,25頁,原告本人2,3頁),しかも,例えば,平成19年9月16日から同年10月13日までの郵便事業伊野局の勤務指定表(甲19)をみても,担当者29名中15名が契約社員であって(原告本人5,6頁),正社員のみで通集配業務及び混合業務を行うことができない状況にあったこと(原告本人5頁,甲19),このような状況をみる限り,郵便事業伊野支店における郵便外務事務(通集配業務及び混合業務)において,原告を始めとする契約社員などの非正社員であっても,正社員と同等の事務を行うことが求められており,それに伴い,原告を含む契約社員が,正社員に準じて雇用継続を期待する状況にあったというべきである。特に,前記1(2)エのとおり,原告は,いわゆるスキル認定書において相応の評価を得ており,それ自体一定期間勤務すれば習得できる上限の評価であったものの(証人A22頁,乙5の4頁),少なくとも,原告が大過なく,担当職務を遂行していたと認められることからしても,原告が,本件雇用契約の継続を期待すべき状況にあったことは明らかである。
(3) 公社等における採用の期待等
公社等における採用期間中において,もとより,原告は国家公務員に該当し,その任用について,国家公務員法や平成21年3月18日号外人事院規則8-12-7による改正前の人事院規則8-12(昭和27年5月23日)などの適用を受けたこと,これをふまえ,前記1(1)イのとおり,公社が「日本郵政公社非常勤職員任用規程」(乙1)において,非常勤職員の任期を1日と定めるとともに,予定雇用期間が満了した場合に非常勤の職員は当然退職する旨定めていたことに照らし,この期間中,原告が雇用の継続を期待したとしてもこれを合理的なものと解する余地はなく,本件雇用契約との連続性を認める余地がないことはいうまでもない。
しかしながら,前記1(2)ア及びイのとおり,郵政民営化法において,公社の機能の一部を承継する郵便事業に対し,公社職員の雇用を継続すべき努力義務が認められ,かつ,これを前提に,公社は,原告を始めとする非常勤職員に対し,改めて雇用契約を締結することとなる旨再三説明するとともに,雇用継続について努力を払う旨や公社での経験や給与などの評価(スキルレベル)を新会社にも引き継ぐ旨説明するなど,事実上,公社での雇用関係をそのままの評価で各承継会社に継続させる旨表明していたこと,現に,前記1(1)エ,同(2)ウ及びエのとおり,原告の評価をみても,おおむね公社当時の評価を引き継いでその評価がされていること,以上の点を考慮すると,前記1(1)ア及びウのとおり,公社又はそれ以前から非常勤職員として,9年以上継続的に採用されてきた原告が,本件雇用契約の更新の際,公社勤務当時の経験や評価をふまえて,郵便事業において,今後も雇用を継続される旨期待することは当然というべきであり,それ自体は,公社等における採用の性格によって左右されるものではない。
(4) 小活
以上のとおり,本件雇用契約締結前から9年以上採用され続けていた原告が,公社当時の評価を継続されて,その後3年6か月の間6回も本件雇用契約の更新を受けてきたこと,原告の担当職務においては,正社員との明確な区別がなく,正社員に準じた雇用の期待が存在していたと認められることに加えて,平成24年法律第56号による改正後の労働契約法18条2号の法意を考慮すると,本件雇用契約が無期の契約に転化したとまで認められないにせよ,少なくとも,原告が,有期の本件雇用契約において,契約期間の満了時に本件雇用契約が更新されるものと期待することについては,相当程度強い合理性があるものというべきであり,前記1(2)ウのとおり,本件規則の「雇用契約期間が満了した際に,業務の性質,業務量の変動,経営上の事由等並びに社員の勤務成績,勤務態度,業務遂行能力,健康状態等を勘案して検討し,更新が不適当と認めたときには,雇用契約を更新しない。」との解釈に当たっても,上記の点をふまえ,このような不適当と認めるべき合理的な理由が認められない限り,雇止めをすることができないものと制限的に解すべきである。
3 争点2
そこで,以下,本件雇止めに関して,雇用契約の更新を不適当と認めるべき合理的な理由があるかどうかを検討する。
(1) 原告が起こした交通事故の態様,原告の運転能力等
前記1(3)アからウまでのとおり,原告は,数年の間に本件第1事故から本件第3事故までの3件の交通事故(以下「本件各事故」という。)を起こしたものであり,その期間,事故の回数や態様等に照らし,配達先に郵便物を届ける通集配及び混合業務を行う上で,必要不可欠というべき車両の運転技能に疑義を抱かせるものであるし,いずれも相応の損害を使用者たる郵便事業に与えたものであって,本件雇用契約をそのまま更新し続けることについて相当の問題があることは否定できない。
しかしながら,前記1(3)アのとおり,本件第1事故の原因が原告の不注意にあるものの,当時,路面に凍結や積雪があり(甲20の3頁),その結果,スリップした可能性も考えられること,同ウのとおり,本件第3事故の原因も同様に,夜間部の下り坂で雨が降っており,滑りやすい状況にあったことも挙げられること,A課長が,本件第2事故の後,原告運転の車両に同乗し指導しているが,その際に原告の運転技能や安全姿勢などについて具体的な問題点を把握した形跡がなく,また,原告の運転技能や安全姿勢の問題点を発見するための調査をした事実も認められないこと(証人A18,19,24頁)に加えて,原告が公社等に採用されていた約9年間の間,原告が勤務中に交通事故を起こした形跡がないこと,以上の点を考慮すると,原告に交通法規を遵守しないなどの悪質な傾向や矯正不能な運転技能上の問題点があったと考えることはできず,例えば,複数回の添乗指導(A課長は,計画的に運転状況を確認したい人を見て回ったりすることもある旨(証人A18頁)供述している。)等を行うなどにより,改善,向上の余地があったと考えられるから,原告の運転に関する基本的能力が欠如しているとまで直ちに判断することはできない。
なお,被告は,原告が本件各事故を起こした経緯や回数などに照らし,将来的に重大な人身事故を引き起こす可能性も否定できず,本件雇止めはやむを得ない旨主張するが,上記のとおり,原告の運転能力に改善不能な欠陥があったとまで断定できないし,後記(2)のとおり,本件各事故後の職務復帰から本件雇止めまでの間,郵便事業において,原告を混合業務に従事させ,車両を運転させていた経緯もふまえると,より慎重に原告の運転技能の問題点を判断すべきであって,本件各事故を起こしたことのみから本件雇止めがやむを得ないものであったと考えることはできず,この点に関する被告の主張は採用できない。
(2) 本件雇止めに至る経過,手続等
前記1(3)イのとおり,原告は,本件第2事故について,戒告処分を受け,同ウのとおり,本件第3事故について,停職2日の処分を受けている。これに対し,証拠(証人A15から18頁まで,甲23)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年中に郵便事業伊野支店において,いわゆる正社員又は契約社員が7件の交通事故を起こしているが,当該交通事故を起こした者が処分を受けた形跡はなく,例えば,同年8月15日午後3時55分ころ,契約社員が運転する車両が,停止中の車両に追突し,その弾みで,当該車両が更に前の車両に追突した交通事故において,人身被害を生じさせていないこと,損害額が少ないこと(証人A16頁)などから,具体的な処分がされていないことが認められる。もとより,原告が本件各事故を起こしていることをふまえると,懲戒処分を受けること自体は当然であるとしても,他の交通事故を起こした従業員と比して重い懲戒処分を受けていることは否定できないし,このような懲戒処分の結果をもふまえ,一定期間の猶予を与えて,原告に改善の余地があるかどうかを調査,検討すべきであったというべきである。
しかも,原告は,本件第3事故による傷病が治ゆした後,職場に復帰し,郵便事業伊野支店において混合業務を命じられ,これに従事していた(証人A15頁)が,その時点から本件雇止めまでの間,原告の運転状況等も含め,原告の職務遂行状況に問題があったとは認められず,その間に2日の停職処分に原告を課したこともふまえると,本件雇止めは,性急かつ不相当な処分であったといわざるを得ない。
なお,被告は,本件各事故後の事例研究会や上記懲戒処分後の原告の状況などを考慮しても,十分な反省の態度や改善の可能性がみられなかった旨主張し,A課長は,その旨供述している(証人A11,14頁,乙5の2から5頁まで)。しかしながら,このように,原告の態度に問題があったにせよ,上記のとおり,本件各事故後の職務復帰から本件雇止めまでの間,郵便事業伊野支店は,原告に対して混合業務を命じ,これに従事させていた以上,原告の運転状況や職務遂行の状況を客観的かつ具体的に観察,把握した上で,その適否を判断すべきであるし,特に,上記のとおり,原告に対して必要な懲戒処分を課したことからすれば,原告の運転状況などをより具体的に調査,検討し,本件雇用契約の更新の際に原告に対する評価を見直した上で,雇用継続の機会を与えるべきであって,この点に関する被告の主張も採用できない。
(3) その他の原告の職務態度等
前記1(2)エのとおり,原告は,いわゆるスキル認定書において相応の評価を得ており,それ自体一定期間勤務すれば習得できる上限の評価であったものの(証人A22頁,乙5の4頁),少なくとも,原告が大過なく,担当職務を遂行していたと認められるのであり,現に本件各事故を除き,原告の評価を下がる要素があったとは認められないこと(証人A22,23頁)から,原告の職務態度からしても,本件雇止めの合理性を根拠付けることはできない。
なお,被告は,原告の職務態度に問題がみられ,A課長は,原告が,職務時間中に他の業者の商品の販売勧誘をしており,注意しても反省の態度がみられない旨述べている(証人A8頁,乙5の4頁)が,他方,このような原告の職務態度等について口頭注意以外の処分をした形跡はなく,本件規則50条及び「社員就業規則」(乙12)76条,77条により,戒告,減給,停職などの必要な懲戒処分を経て,なお改善がみられない場合に,雇止めを考慮すべきであるから,そのような手続,段階をふまえないまま,本件雇止めを行うことについて合理的な理由があるとはいえず,この点に関する被告の主張も採用できない。
(4) 小括
以上のとおり,本件雇止めに関して,本件雇用契約の更新を不適当と認めるべき合理的な理由があるとは認められず,客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当であると認められないから,無効というべきである。
4 争点3
前記前提事実(4)のとおり,原告は,平成21年度(同年1月から同年12月まで)において,総額304万6084円の給与の支給を受け,そのうち,賞与として,平成21年6月30日に11万9000円の支給を受け,同年12月10日に12万0744円の支給を受けていることが認められる(甲10,甲11の1,2)。なお,弁論の全趣旨に照らし,上記給与・賞与に通勤手当などの実費相当分が含まれていたと認めることはできない。
また,本件雇用契約に係る給与については,毎月末日締めで翌月24日の支払とされており,賞与のうち,夏期賞与について,その年の12月1日からその翌年の5月31日までを対象期間(基準日をその翌年の6月1日)とし,年末賞与について,その年の6月1日から同年11月30日までを対象期間(基準日を同年12月1日)とし,夏期賞与を基準日と同じ月すなわち6月30日に,年末賞与を基準日と同じ月すなわち12月10日に,それぞれ支払がされていたことが認められる(甲2の1の別添4-2,弁論の全趣旨)。そうすると,本件雇止めが無効とされ,原告と郵便事業すなわち被告との本件雇用契約の存在が確認される以上,原告は,被告に対し,直近の時給1300円(なお,証人A22,23頁にあるとおり,当該時給が見直される可能性はあるが,見直しはされずに,本件雇止めがされた。)を前提に,欠勤等がない限り,平成23年4月以降も,上記給与分として,月額23万3861円を,賞与として,6月期に11万9000円を,12月期に12万0744円の支払を受けられたと認められ,かつ,本件の事実関係等にかんがみると,支払期日の到来している部分(ただし,原告は,未払給与及び賞与に係る商事法定利率による遅延損害金について,平成23年9月分以降のみを求めている。)はもとより,未到来の部分のうち本判決確定の日までの分については,あらかじめ支払を求める必要性を肯定することができる。
5 結論
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条により,仮執行の宣言につき同法259条1項を適用し,主文のとおり判決する。
(裁判官 名島亨卓)