高知地方裁判所 平成23年(行ウ)17号 判決 2013年2月08日
主文
1 被告は,有限会社甲に対し,940万円及びそのうち別紙1の損害額欄記載の各金員に対する支払日欄記載の各日から支払済みまでそれぞれ年5%の割合による金員の支払を請求せよ。
2 被告は,有限会社乙に対し,515万円及びそのうち別紙2の損害額欄記載の各金員に対する支払日欄記載の各日から支払済みまでそれぞれ年5%の割合による金員の支払を請求せよ。
3 原告らのそのほかの請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,7分の3を被告の負担として,そのほかを原告らの負担とする。
事 実 及び 理 由
第1原告らの請求
(主位的請求)
1 被告は,有限会社甲に対し,2241万4613円及びそのうち別紙3の損害額欄記載の各金員に対する支払日欄記載の各日から支払済みまでそれぞれ年5%の割合による金員を請求せよ。
2 被告は,有限会社乙に対し,1178万2050円及びそのうち別紙4の損害額欄記載の各金員に対する支払日欄記載の各日から支払済みまでそれぞれ年5%の割合による金員を請求せよ。
(予備的請求)
被告は,丙に対し,主位的請求第1項及び第2項記載の各金員と同額の金員の賠償の命令をせよ。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 高知県高岡郡佐川町は,佐川町生活系一般廃棄物収集運搬業務(以下「本件業務」という。)について,町内を2つの区域に分けたうえ,見積合わせの方法により各区域についてそれぞれ業務委託先業者1社を選定し,当該業者と業務委託契約を締結している。
(2) 本件は,佐川町の住民である原告らが,地方自治法242条の2第1項4号本文ないし同号ただし書に基づき,佐川町の執行機関である被告に対し,次のとおりの請求ないし賠償命令をすることを求めている住民訴訟である。
ア 主位的請求
原告らは,「平成22,23年度の本件業務に係る見積合わせにおいて,有限会社甲(以下「甲」という。),有限会社乙(以下「乙」という。)とそのほかの2社の業者が,談合を行ったうえ(乙は平成23年度のみ談合に関与した。),甲が平成22,23年度の1区域における業務を,乙が平成23年度の別の1区域における業務を,それぞれ不当に高い落札価格で落札した結果,佐川町に過去の年度における1区域分の業務委託料の最低額と平成22,23年度の各区域の業務委託料との各差額相当額の損害を生じさせたため,佐川町は甲や乙に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているが,被告が違法にその行使を怠っている。」などと主張して,甲に対し,平成22年度に甲が業務を落札した区域に関する損害額のうち平成22年7月分から平成23年3月分として支払われた業務委託料に係る部分(1063万3613円)と平成23年度に甲が業務を落札した区域に関する損害額(1178万1000円)の合計額(2241万4613円)及びそのうち別紙3の損害額欄記載の1か月あたりの損害額に対する支払日欄記載の毎月の業務委託料の支払日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払の請求をすること,乙に対し,平成23年度に乙が業務を落札した区域に関する損害額(1178万2050円)及びそのうち別紙4の損害額欄記載の1か月あたりの損害額に対する支払日欄記載の毎月の業務委託料の支払日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払の請求をすることを求めている。
イ 予備的請求
原告らは,「平成22,23年度の本件業務について,談合の疑いが濃いにもかかわらず,佐川町の副町長である丙が不当に高額な業務委託料に係る支出命令を専決により漫然と行ったことは,故意又は重過失による職務上の義務違反に当たり,これにより佐川町に過去の年度における1区域分の業務委託料の最低額と平成22,23年度の各区域(平成22年度に乙が業務を落札した区域を除く。)の業務委託料との各差額相当額の損害を生じさせた。」などと主張して,丙に対し,原告らの請求(予備的請求)に記載の金員(甲と乙に対し損害賠償請求をすることを求める合計額と同じ)の賠償命令をすることを求めている。
2 前提となる事実
(1) 当事者等(争いがない。)
ア 原告らは,佐川町の住民である。
イ 被告は,佐川町の町長であり,佐川町の執行機関である。
丙は,佐川町の副町長であり,平成22,23年度の本件業務の業務委託料に係る支出命令を専決により行う権限を有していた。
ウ 甲は,汚物処理,ごみ収集運搬等を業務とする会社である。
乙は,土木,水道設備,ごみ収集運搬等を業務とする会社である。
(2) 本件業務の内容等(乙2~5,9,丁証人,弁論の全趣旨)
本件業務の内容は,佐川町内の家庭から排出される生活系一般廃棄物(生活ごみ)を,町内に約270か所設けられているごみステーションにおいて収集し,中間処理施設まで運搬するというものである。
佐川町は,町内をA区域とB区域の二つに分け(なお,平成19年以降現在に至るまで,A区域とB区域の範囲に変更はない。),各区域における1年間の生活ごみの収集運搬業務(本件業務)について,毎年,一定の基準に基づき必要となる費用を算出したうえで,予定価格を設定している。
佐川町は,平成19年度から平成23年度までは,両区域における業務量(生活ごみの運搬量や収集時間等)が同じになるように調整したという前提の下に,各年度ごとに両区域について同額の予定価格を設定していたが,平成24年度は,両区域における生活ごみの運搬量の相違を考慮して,両区域について異なる額の予定価格を設定した。
(3) 業務委託先業者の選定方法(甲16,乙6,丙証人,弁論の全趣旨)
ア 佐川町は,平成19年度までは,本件業務に係る業務委託を,従来から業務委託をしていた甲と有限会社戊(以下「戊」という。)との間で随意契約の締結を繰り返すことにより行っていた。
イ 佐川町は,平成20年度以降,一定の競争原理も導入すべきとの判断の下に,本件業務に係る業務委託先業者の選定を,指名競争入札に準じる形で,見積合わせの方法により行うようになった。
平成20年度から平成23年度までの本件業務に係る見積合わせ(以下,本件業務に係る見積合わせを「本件見積合わせ」という。)の手順は,次のとおりである。
佐川町が,予め選定した4業者に対し,委託業務の概要,見積合わせの実施日時・場所,最低制限価格を設定しないこと,予定価格(年額,消費税別),見積書の提出方法などを記載した通知書を交付する。
業務の受託を希望する業者は,指定の見積書に業者名と見積金額(年額,消費税別)を記載し(見積金額の内訳や単価等は記載しない。),指定の日時・場所に参集のうえ,見積書を入札箱に投函する(会場への立入りは,各業者1名のみ)。なお,業者は,A区域,B区域ともに見積書の提出をすることができる(この場合,第1に選択を希望する区域,第2に選択を希望する区域を明示する。)。
見積書の投函直後,その場で見積書の開封(開札)を行い,各区域ごとに,予定価格の範囲内で一番低い見積金額を提示した業者が同区域における業務を落札する。ただし,両区域を同一の業者が落札することはできない(一番低い見積金額を提示した業者が両区域で同一となった場合は,その業者が提示した第1に選択を希望する区域の見積書のみを有効とし,他方の区域の見積書は無効としたうえで,同区域については,次に低い見積金額を提示した業者が業務を落札する。)。
佐川町は,各区域における業務を落札した業者との間で,見積金額に5%を加算した業務委託料で業務委託契約を締結する。
ウ 佐川町は,平成24年度の本件見積合わせにおいては,予定価格の事前通知を廃止するとともに,最低制限価格を定める方式を導入した。
(4) 平成19年度以降の業務委託先業者の選定(甲3〔枝番も含む。以下同じ。〕,甲4,乙7,弁論の全趣旨)
ア 佐川町は,平成19年度のA,B各区域における本件業務について,甲と戊との随意契約により,それぞれ業務委託料2349万9000円(消費税別か否かは不明)で業務委託契約を締結した。
イ 平成20年度から平成24年度までの本件見積合わせについて,開札日,予定価格(消費税別。以下同じ),最低制限価格(消費税別。以下同じ),落札業者,落札価格(消費税別。以下同じ),落札業者以外の業者の見積金額,落札率(落札価格÷予定価格)は,別紙5「見積合わせ結果一覧表」のとおりである。
(5) 平成22年度の本件業務に係る業務委託契約の締結等(甲3,弁論の全趣旨)
ア 佐川町は,平成22年4月1日,平成22年度のA区域における本件業務について,乙との間で,業務委託料(落札価格×1.05。以下同じ)1743万円で業務委託契約を締結した。
イ 佐川町は,平成22年4月1日,平成22年度のB区域における本件業務について,甲との間で,業務委託料2310万2100円で業務委託契約を締結した。
佐川町は,丙が専決により行った支出命令に基づき,甲に対し,平成22年4月15日,同年5月28日,同年6月15日,及び別紙1の支払日欄記載の各支払日(平成22年7月分から平成23年3月分まで)に,毎月の業務委託料として192万5175円ずつを支払った。
(6) 平成23年度の本件業務に係る業務委託契約の締結等(甲3,弁論の全趣旨)
ア 佐川町は,平成23年4月1日,平成23年度のA区域における本件業務について,乙との間で,業務委託料2070万6000円で業務委託契約を締結した。
佐川町は,丙が専決により行った支出命令に基づき,乙に対し,別紙2の支払日欄記載の各支払日に,毎月の業務委託料として172万5500円ずつを支払った。
イ 佐川町は,平成23年4月1日,平成23年度のB区域における本件業務について,甲との間で,業務委託料2070万4950円で業務委託契約を締結した。
佐川町は,丙が専決により行った支出命令に基づき,甲に対し,平成23年4月15日,4月分の業務委託料として172万5418円,そのほかの月について,別紙1の支払日欄記載の各支払日(平成23年5月分から平成24年3月分まで)に,毎月の業務委託料として172万5412円ずつを支払った。
(7) 住民監査請求及び本件訴えの提起(争いがないか,顕著な事実)
ア 原告らは,平成23年6月27日,佐川町監査委員に対して,平成22,23年度の本件業務について,各年度の本件見積合わせにおける談合の疑いが非常に濃く,また,仮に談合がなかったとしても業務委託料が不当に高額であることなどから,佐川町に損害が生じているなどと主張して,被告に,甲と乙に対する損害賠償請求,平成23年7月分以降の業務委託料の支出の差止め,業務委託料の支出命令の決裁者に対する賠償命令をせよとの勧告をすることを求めて住民監査請求を行ったが,佐川町監査委員は,同年8月22日,この住民監査請求を棄却した。
イ 原告らは,平成23年9月21日,本件訴えを提起した。
ウ 乙と甲,丙は,それぞれ,平成24年1月6日ないし7日,本件訴訟の告知を受けたが,いずれも補助参加の申出をしなかった。
3 主な争点
(1) 平成22,23年度の本件見積合わせにおける談合の有無
(2) 損害額
(3) 丙の職務上の義務違反の有無
4 主な争点についての当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)(平成22,23年度の本件見積合わせにおける談合の有無)について
【原告らの主張の要旨】
一般に,落札率が90%以上であると談合の疑いがある,95%以上であると談合の疑いが濃いといわれているが,本件で問題としている平成22年度のB区域,平成23年度のA区域,B区域に関する本件見積合わせの落札率は,それぞれ,99.51%,99.98%,99.97%と異常な高さである。
原告己は,平成22年4月か5月ころ,乙の代表取締役である庚から,甲,辛,戊の関係者が平成22年度の本件見積合わせにおいて談合を行ったなどと聞いた。
以上によれば,平成22,23年度の本件見積合わせにおいて談合が行われたというべきである。
【被告の主張の要旨】
平成24年度の本件見積合わせにおいては,予定価格の事前通知が廃止されており,そこで談合が行われた疑いはないと考えられるが,同年度の場合も予定価格と落札価格は極めて近接している。そうすると,平成22,23年度の本件見積合わせについて,これらの価格が近接しているというのみで談合が行われたとはいえない。
(2) 争点(2)(損害額)について
【原告らの主張の要旨】
談合によって佐川町が被った損害額は,過去の年度における1区域分の業務委託料の最低額(平成21年度のB区域892万3950円)と談合が行われた平成22年度のB区域,平成23年度のA区域,B区域の業務委託料(平成22年度のB区域2310万2100円,平成23年度のA区域2070万6000円,同B区域2070万4950円)との各差額相当額(それぞれ,1417万8150円,1178万2050円,1178万1000円)である。
【被告の主張の要旨】
佐川町は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令4条5号所定の「委託業務を遂行するに足りる額」として予定価格を設定しているが,この価格より低い落札価格に基づいて定められた業務委託料で業務委託契約を締結しているのであるから,佐川町に損害は発生していない。
(3) 争点(3)(丙の職務上の義務違反の有無)について
【原告らの主張の要旨】
丙が,平成22,23年度の本件業務について,各年度の本件見積合わせに談合の疑いが濃いにもかかわらず,不当に高額な業務委託料に係る支出命令を専決により漫然と行ったことは,故意又は重過失による職務上の義務違反に当たる。
【被告の主張の要旨】
本件において,談合が行われたことを証明するに足りる物的証拠等はないし,高知県談合情報対応マニュアルに従えば,平成22,23年度の本件見積合わせにおける談合の有無の調査をする必要もない。また,談合以外の理由により業務委託料が不当に高額であるともいえない。
以上によれば,丙に原告らの主張する故意又は重過失による職務上の義務違反はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(平成22,23年度の本件見積合わせにおける談合の有無)について
(1) 前提となる事実を踏まえて,平成22,23年度の本件見積合わせにおける談合の有無を検討する。
(2) まず,その前提として,これらの年度より前である平成20,21年度の本件見積合わせの結果を見ると,これら両年度のA,B各区域の落札率は,それぞれ38.08%から65.52%までの範囲内であり,いずれも比較的低率であるといえる。また,見積合わせに参加した各業者が提示した見積金額の点でも,各業者間で相当程度のばらつきが見られるうえ,そのいずれもが,佐川町から事前に通知されていた予定価格を大幅に下回っている。これらの事情のほか,平成20,21年度の各落札価格が,随意契約の方法によっていた平成19年度の業務委託料を大幅に下回るものであることも考慮すると,これら両年度には,談合を疑わせるような事情は全く見当たらず,見積合わせの方法の採用で期待されたとおり,業者間の競争原理が正常に機能していたと評価することができる。
(3) これに対し,平成22,23年度の本件見積合わせの結果を見ると,その落札率は,平成22年度がB区域で99.51%,平成23年度がA区域で99.98%,B区域で99.97%となっており,いずれも極めて高率であって,業者間の競争原理が正常に機能していたとは到底評価できない結果となっている。
そして,このような結果となったのは,平成22,23年度の本件見積合わせに参加した各業者(ただし,平成22年度の乙を除く。)が,いずれも予定価格(それぞれ,2211万円ないし1972万4000円)と同額か又はそれと極めて近接した見積金額を提示したからであるが(平成22年度のB区域,平成23年度のA,B各区域の予定価格と各業者の見積金額との差は,それぞれ,わずか10万8000円,4000円,5000円であった。なお,平成22年度のA区域についても,乙が予定価格〔2211万円〕の75.08%に相当する見積金額で落札したものを除くと,各業者は,いずれも予定価格と極めて近接した見積金額〔予定価格の99.51%以上に相当し,差はわずか10万8000円以内〕を提示している。),各業者のこのような行動は,他の業者よりも低い見積金額を提示して本件業務を落札するために本件見積合わせに参加した者の行動として不合理であるというべきである。また,平成19年から現在まで,A,B各区域の範囲に変更はなく,本件業務の業務内容の変更があったというべき事情もないのであるから,平成21年度までの落札率も踏まえれば,これに続く平成22年度以降の本件見積合わせにおいて,落札価格が平成20,21年度のそれを大きく上回るようなことは通常想定できないはずである。ところが,平成22,23年度の予定価格は平成20,21年度の予定価格より下がっていたにもかかわらず,各業者(平成22年度の乙を除く。)は,平成22年度以降の本件見積合わせにおいて,平成20,21年の落札価格を大きく上回る見積金額を提示しているのであって,これらの各業者の行動の不合理さは,この点を考慮するといっそう明らかである。
さらに,平成20,21年度の見積合わせにおける各業者の見積金額の提示状況と比較すると,平成21年度までは,いずれも予定価格を大きく下回り,相互に相当程度のばらつきのある見積金額を提示していた各業者が,平成22年度になって,突如,乙を除く3業者までが,予定価格と同額か又はそれと極めて近接し(したがって,各業者間でも極めて近接している。),かつ前年度までの見積金額を大きく上回る見積金額を提示するようになり,平成23年度には,乙を加えた全業者が,前年度における他の3業者と同様の見積金額の提示をしている。このことは,これらの業者間で,本件見積合わせについて,落札価格を不正に操作するための何らかの情報交換等が行われたことを強くうかがわせる事情といえる。
(4) 以上のとおり,平成22,23年度の本件見積合わせについては,落札率がいずれも極めて高率であって,業者間の競争原理が正常に機能していたとは到底評価できない結果となっているだけでなく,各業者の見積金額の提示状況の観点から検討しても,見積合わせに参加する者の行動として明らかに不合理であり,かつ,業者間で不正な目的の何らかの情報交換等が行われたことを強くうかがわせるものである。そうすると,これらの年度の本件見積合わせについては,参加した各業者が談合を行ったことが認められるというべきである(このことは,原告己が,平成22年4月ないし5月ころ,乙の代表取締役である庚から,甲,辛,戊の関係者が平成22年度の本件見積合わせにおいて談合を行ったなどと聞いたなどと供述していることともよく整合するものである。他方で,乙と甲は,本件訴訟において,被告がすることを求められている損害賠償請求の相手方として位置づけられ,訴訟の告知を受けたにもかかわらず,補助参加の申出をすることもなく,談合の不存在ないし自らは談合に参加していないことについて何ら説明をしない。また,乙の代表取締役である庚は,証人として説明の機会があったが,裁判所からの質問に対しても,見積金額の算定について,「適当にやりました」,「忘れた」などと不真面目な供述等を重ね,その機会を放棄する態度である。)。
したがって,平成22年度の本件見積合わせにおいて,甲,戊,辛が,甲を落札業者とするための談合を行ったこと,平成23年度の本件見積合わせにおいて,乙,甲,戊,壬(辛)が,乙と甲を落札業者とするための談合を行ったことが認められる(談合の性質上,佐川町が,平成22,23年度の本件見積合わせの結果が異常であったにもかかわらず,その原因等について何ら踏み込んだ調査等をしていない現状において,その具体的な日時,場所,方法等を特定できなくてもやむを得ない。)。
(5) 被告は,平成24年度の本件見積合わせにおいては,予定価格の事前通知が廃止されており,そこで談合が行われた疑いはないと考えられるが,同年度の場合も予定価格と落札価格は極めて近接している,そうすると,平成22,23年度の本件見積合わせについて,これらの価格が近接しているというのみで談合が行われたとはいえないなどと主張する。
しかし,予定価格の事前通知を廃止したとしても,業者らは過去の予定価格を参考にするなどして,これをある程度予想することが可能であるし,そもそも平成24年度の本件見積合わせにおいて談合が行われた疑いが小さいと評価する根拠も乏しいから(同年度の落札率は,A区域,B区域について,それぞれ96.51%,99.89%である。),被告の主張は前記認定を覆すに足りるものとはいえない。
2 争点(2)(損害額)について
(1) 談合は,業者らが,本来であれば公正な自由競争によって形成されるべき落札価格を,業者らの合意によりつり上げたうえ,落札業者となることが合意された業者が,つり上げられた落札価格に基づいて定められた業務委託料で業務を受注するというものであるから,佐川町は,談合によって,「談合がなければ公正な自由競争によって形成されたであろう落札価格(以下「想定落札価格」という。)に基づいて定められるべき業務委託料」と「談合によってつり上げられた現実の落札価格に基づいて定められた業務委託料」との差額相当額の損害を被ったということになる。
(2) もっとも,この想定落札価格は,見積合わせ当時の経済状況や業者の受注意欲・財政状況等を含む他種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであるため,これを証拠に基づいて具体的に認定することは極めて困難である。
そうすると,本件においては,佐川町に損害が生じたことが認められるものの,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに該当するといえるから,民事訴訟法248条を適用して,弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定するのが相当である。
(3) 原告らは,過去の年度における1区域分の落札価格の最低額(平成21年度のB区域849万9000円)が想定落札価格であることを前提に,これに基づいて定められた業務委託料(849万9000円×1.05=892万3950円)と談合が行われた平成22年度のB区域,平成23年度のA区域,B区域の業務委託料との各差額相当額が本件における損害額であると主張するものと解される。
しかし,前記のとおり,想定落札価格は,見積合わせ当時の経済状況や業者の受注意欲・財政状況等を含む他種多様な要因が複雑に絡み合って形成される根も拠にのしでてある,た談め合,が過行わ去のれな年け度れにばお同け程る1度区の金域額分ので落落札札さ価れ格たの最は低ず額であのるみとはいえない(なお,平成21年度のA区域における本件業務を落札価格948万円で落札した乙は,その翌年の平成22年度のA区域における本件業務を落札価格1660万円で落札しているが,乙が平成22年度に談合に関与したとは認められないのは前記のとおりである。このように,談合への関与の有無にかかわらず,年度によって業者の提示する見積金額は大きく変わり得る。)。したがって,原告らの上記主張に基づき算定された損害額は過大であるといわざるを得ず,これを採用することはできない。
(4) 以上を踏まえ,まず,平成22年度の本件見積合わせにおいて談合が行われたことによる損害額を検討する。
談合に関与したとは認められない乙が,平成22年度のA区域における本件業務を落札価格1660万円で落札していることや,同年度において仮に談合がなかった場合において他の業者らが同額を下回る見積金額を提示したと認めるに足りる証拠ないし事情が見あたらないことなどを考慮すると,同年度のB区域についての想定落札価格は1660万円を目安として考えるのが相当である。
そうすると,平成22年度の本件見積合わせにおいて談合が行われたことによる損害額は,この想定落札価格に基づいて定められるべき業務委託料(1660万円×1.05=1743万円)と,談合によってつり上げられた同年度のB区域についての現実の落札価格(2200万2000円)に基づいて定められた業務委託料(2310万2100円)の差額相当額である567万2100円を目安として認定するのが相当である。もっとも,本件において,原告らは,このうち,平成22年7月分から平成23年3月分として支払われた業務委託料に係る部分(9か月分。567万2100円÷12×9=425万4075円)についてのみ損害賠償請求をすることを求めている。これらを踏まえ,本件の損害賠償請求の基礎となる損害額は425万円であると認めるのが相当である(厳密な損害額の認定は困難であるから,1万円未満は切り捨てることとする。以下,最終的な損害額の認定について同じ)。
(5) 次に,平成23年度の本件見積合わせにおいて談合が行われたことによる損害額を検討する。
平成23年度の前年である平成22年度の想定落札価格が1660万円であり,その落札率が75.08%であることなどを考慮すると,平成23年度の想定落札価格は,A,B区域ともに,同年度の予定価格(1972万4000円)に上記75.08%を乗じた額(1972万4000円×75.08%=1480万8779円)を目安として考えるのが相当である。
そうすると,平成23年度の本件見積合わせにおいて談合が行われたことによるA,B各区域に関する損害額は,この想定落札価格に基づいて定められるべき業務委託料(1480万8779円×1.05=1554万9218円)と,談合によってつり上げられた同年度のA,B各区域についての現実の落札価格(1972万円,1971万9000円)に基づいて定められた業務委託料(2070万6000円,2070万4950円)の差額相当額である515万6782円,515万5732円を目安として,それぞれ515万円であると認めるのが相当である。
(6) なお,原告らは,平成21年度のB区域について落札価格が849万9000円まで下がっていたにもかかわらず,佐川町が予定価格の見直しをしなかったためにその後の年度の業務委託料が不当に高額なものとなったなどとも主張する。しかし,佐川町が落札価格の変動に応じて直ちに予定価格の見直しをすべきであったとはいえず,また,仮に予定価格の見直しをするとしても,その価格がその後の年度の想定落札価格を下回るほどのものになるともいえない。したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(7) また,被告は,佐川町は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令4条5号所定の「委託業務を遂行するに足りる額」として予定価格を設定しているが,この価格より低い落札価格を基に業務委託契約を締結しているのであるから,佐川町に損害は発生していないなどと主張する。
しかし,被告の主張を前提にすれば,本件業務について一定の競争原理を導入するために本件見積合わせの方法を取り入れたことの意味がほぼなくなることになるから,被告の上記主張は失当である。
3 主位的請求について
(1) 以上によれば,佐川町は,甲に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として940万円(平成22,23年度のB地域に関する損害の合計。ただし,平成22年度については,平成22年7月分から平成23年3月分として支払われた業務委託料に係る部分に限る。)及びそのうち別紙1の損害額欄記載の1か月あたりの損害額に対する支払日欄記載の毎月の業務委託料の支払日(毎月の損害の発生日)から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。
また,佐川町は,乙に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として,515万円(平成23年度のA区域に係る損害)及びそのうち別紙2の損害額欄記載の1か月あたりの損害額に対する支払日欄記載の毎月の業務委託料の支払日(毎月の損害の発生日)から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。
(2) そして,地方公共団体の執行機関には原則として債権を行使するか否かの裁量はないところ,被告は,甲や乙による談合の事実を認定するのに十分な証拠資料ないし事情を入手ないし認識し得たにもかかわらず,本件口頭弁論終結時まで上記損害賠償請求権を行使していないのであって,本件において,同請求権を行使しないことを正当化するに足りる事情も認められないから,被告は違法にその行使(財産の管理)を怠っているといえる。
(3) したがって,原告らの主位的請求のうち,被告に対し,甲と乙に,それぞれ上記(1)のとおりの金員及び遅延損害金の支払を請求することを求める部分は理由があるから認容すべきであるが,そのほかの部分は理由がないから棄却すべきである。
4 予備的請求について
原告らが,業者らに対し損害賠償請求をすることを求める請求を主位的請求とし,丙に対し損害賠償命令をすることを求める請求を予備的請求とした趣旨について,原告らの意思を合理的に解釈すると,原告らは,佐川町に生じた損害について,第一次的には,不法行為をした者である業者らにその賠償を求めるべきであるが,この請求が全く認められない場合や,この請求の認容額より丙個人に賠償を求める請求の認容額の方が大きくなる場合に限り,丙個人にその賠償を求めるべきと考えていると解される。そして,本件においては,前記のとおり,主位的請求が一部認められるうえ,佐川町が被った損害額は前記認定のとおりであって,事案の性質上,その責任主体によってこの額が変化することはあり得ず,主位的請求の認容額より予備的請求の認容額の方が大きくなることもないから,予備的請求について判断しなくても,上記原告らの合理的意思に反するものではないと考えられる。
第4 本件の結論
したがって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田典浩 裁判官 小畑和彦 裁判官 塩田良介)
(別紙1~5)
添付省略