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高知地方裁判所 平成4年(行ク)2号 決定 1992年3月23日

申立人

甲野一郎

右法定代理人親権者父

甲野二郎

右法定代理人親権者母

甲野春子

右申立人代理人弁護士

松岡泰洪

被申立人

高知県立宿毛工業高等学校長

北岡健一

右被申立人代理人弁護士

氏原瑞穂

主文

一  本件申立てを却下する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被申立人が申立人に対し平成三年一一月二〇日付でした退学許可処分の効力は、本案判決確定まで停止する。

第二事案の概要

本件申立ては、行政事件訴訟法二五条に基づき、右退学許可処分の執行停止を求めるものである。

一争いのない事実

1  被申立人は、高知県が宿毛市に設置した高知県立宿毛工業高等学校(以下「本件高校」という。)の校長であって、その管理運営の任にあり、懲戒としての退学処分及び自主退学申出に基づく退学許可処分を実施する権限を有している。

2  申立人(昭和四九年八月一八日生れ)は、平成二年四月本件高校土木科に入学し、その生徒の地位にあった。なお、申立人は、父甲野二郎及び母甲野春子の親権に服している。

3  申立人の父母は、平成三年一一月一八日、申立人の担任であった教諭大西敏英から申立人の非行事実を告げられ、同人の持参した自主退学申出の書面に署名押印した。

4  被申立人は、同月二〇日、右自主退学申出に基づき、申立人に対する退学許可処分(以下「本件処分」という。)をした。

5  申立人は、平成四年三月四日、当裁判所に対し、高知県を被告として、本件処分が無効であることを理由とし、申立人が本件高校の生徒たる地位を有することの確認を求める本案訴訟を提起し(平成四年(行ウ)第二号)、これが当裁判所に係属している。

二争点

1  適法な本案訴訟が係属しているか。

2  回復困難な損害の発生のおそれがあるか。

3  本案について理由がないとみえるときに当たるか。

第三争点に対する判断

一争点1(適法な本案訴訟が係属しているか)について

本案訴訟が係属していることは前記

第二の一5のとおりである。

被申立人は、①行政処分は重大かつ明白な瑕疵がある場合に限って無効となるが、本件処分には明白な瑕疵がないので無効とはいえず、適法な本案訴訟は取消訴訟でなければならないところ、申立人は平成三年一一月二七日本件処分を知ったのであるから、平成四年三月五日に至って提起された本案訴訟は出訴期間を徒過したもので不適法である。②本案訴訟では被告を本件高校の校長とすべきであるのに高知県とし、被告を誤っている上、行政事件訴訟法一五条一項の救済を受け得ないので、本案訴訟は不適法である旨主張している。しかし、申立人は、前記第二の一3の自主退学申出の意思表示は要素の錯誤により無効であり、右自主退学申出に基づいてされた本件処分には重大かつ明白な瑕疵があるので、本件処分は無効であると主張し、これを前提として高知県を被告とする公法上の当事者訴訟を提起したものと解されるから、右訴訟は適法であり、被告を誤っているものでもない。

なお、本件事案については、本案訴訟は公法上の当事者訴訟であるが、無効確認訴訟に準じて仮の救済として執行停止が許されると解すべきである。

二争点2(回復困難な損害の発生のおそれがあるか)について

回復困難な損害とは、後に原告(申立人)が勝訴しても原状回復が不能又は困難であり、かつ、金銭による賠償では損害の回復として相当でないと考えられる損害をいうと解すべきである。

本件処分によって申立人は学校教育を受けられなくなるところ、一般に、高校生の退学処分の場合、生徒の心身の発達に応じた時期に学校教育を受ける必要があることに徴すると、学齢期にある生徒が学校教育を受ける機会を失うことによる損害は小さくないということはできる。しかしながら、本件疎明資料によって認められる、申立人の授業時間その他における暴言、他の生徒に対するいじめや暴力的行為、喫煙・パチンコ・服装その他の校則違反、教師に対する反抗的態度、父母の監護能力の欠如等の諸事情を総合すると、申立人と本件高校との間では信頼関係が失われている上、申立人の学習意欲が乏しく、生活指導について父母の協力も期待できないのであって、本件処分の執行を停止して申立人を本件高校に就学させても、効果のある学校教育が行われる可能性は極めて低いといわなければならない。

したがって、申立人に回復困難な損害が発生するおそれがあるとは認め難いというべきである。

三結諭

以上のとおりであるから、争点3(本案について理由がないとみえるときに当たるか)について判断するまでもなく、本件申立ては理由がない。

(裁判長裁判官溝淵勝 裁判官佐哲生 裁判官河田充規)

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