高知地方裁判所 平成5年(ワ)332号 判決 1994年11月28日
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
理由
第一 請求
一 原告らと被告との間で、原告甲野一郎が土佐高等学校の生徒たる地位を有することを確認する。
二 被告は、
1 原告甲野一郎に対し、金三〇〇万円
2 原告甲野太郎に対し、金三八七万四一六〇円
3 原告甲野花子に対し、金三〇〇万円
及び右各金員に対する平成五年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実
1 被告は、土佐高等学校(以下「土佐高校」という。)及び土佐中学校(以下「土佐中学」という。)を設置する学校法人である。
2 原告甲野一郎(以下「原告一郎」という。)は、平成二年四月、土佐中学に入学し、平成五年三月、同校を卒業したものであり、原告甲野太郎、同甲野花子は、その両親である。
3 原告らは、原告一郎の土佐高校進学を希望していたが、平成五年一月一四日、土佐中学校長から、土佐高校への進学は受入れられない旨告知された。
4 原告らは、その後も、土佐高校への進学を希望したが、受入れられなかつたため、同年三月、大阪市阿倍野区所在の乙山高等学校を受験し、同年四月から同校に在学している。
二 原告らの主張
1 被告は、その募集要項等において、中高一貫教育を標榜しているものであり、平成二年四月、原告一郎が土佐中学に入学した際、土佐中学及び土佐高校の両過程について入学許可を与え、原告らとの間で、六年間の在学契約を締結したものである。
2 したがつて、被告が土佐高校進学を拒否できるのは、学習到達度や行動態様を、厳正に、かつ教育的配慮に基づいて審査判定し、在学契約の解除事由が存在すると認められる場合に限られる。
3 本件では、在学契約についての解除事由は存在せず、原告一郎は、土佐高校の生徒たる地位を有している。
4 そして、被告が、これを認めないことは、在学契約の債務不履行であり、これにより、原告らは左記の損害を被つた。
(一) 進学拒否及びそれにより名誉を傷つけられたことによる原告らの精神的損害についての慰謝料、各原告につきそれぞれ三〇〇万円
(二) 原告一郎が大阪で進学するために原告甲野太郎が支出した住居費 八七万四一六〇円
5 よつて、原告らは被告に対して、土佐高校の生徒たる地位の確認を求め、また、債務不履行責任に基づく損害賠償として前記損害額及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払いを求める。
三 被告の主張
1 本件の在学契約は、被告と、原告甲野太郎及び同甲野花子との間で、原告一郎が土佐中学に三年間在学する契約として締結されたものであり、土佐高校に在学することは契約の対象ではない。したがつて、土佐高校への進学を許可しないことは、契約の解除ではない。
2 なお、被告が原告一郎の土佐高校への進学を認めなかつたことについては、教育的に十分な理由がある。
四 当事者の合意した争点は、在学契約が土佐高校を含めた六年間の契約として締結されたか、土佐中学三年間の契約として締結されたかである。
第三 争点についての判断
一 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
1 被告の学則においては、土佐高校は学校教育法第四章による高等普通教育を施し、土佐中学は同法第三章による中等普通教育を施すこと(学則一条)、入学については、土佐中学は入学考査により入学者を決定し、土佐高校には、土佐中学三年間の学業と行動を審査して学校長が適当と認めた者に入学を許可するとともに、別に入学考査により入学者を決定すること(学則一〇条)が定められており、右学則は生徒手帳にも記載されている。
2 被告は、入学希望者等に対して、学校案内、生徒募集要項を交付しており、原告らも、これらの資料に基づき、土佐中学を受験したものである。
そして、学校案内には、土佐中学を卒業するものは、中学校三年間の状況を審査したうえ、原則として土佐高等学校に入学させ、中高一貫教育のメリットを最大限に生かせる旨記載されている。
また、土佐中学の生徒募集要項には、高等学校併設の中学校とし、中高一貫の教育効果に着眼し、中学三年を終えた大部分の生徒は土佐高校に入学させる旨記載されているが、他方、土佐中学を卒業して土佐高校に入学する場合には、中学三カ年間の学習と行動の状況を審査した上で入学を許可し、入学に当たつては改めて入学金を徴収する旨記載されている。
3 土佐中学の入学時には、土佐中学校長名で、本校第一学年入学考査に合格したことを証明する旨の合格証明書が交付されている。
4 土佐高校へ入学するには、土佐中学以外の中学から進学する場合には、入学志願表を提出した上、入学考査が行われるが、土佐中学から進学する場合は、考査はなく、毎年一月ころに土佐中学・土佐高校の全教職員で組織する判定会議によつて判定されており、例年ほとんどの生徒は進学を認められているが、昭和六三年度に三名、平成元年度に六名、平成三年度に二名、平成四年度に八名(原告一郎を含む。)が入学資格なしと判定されている。
また、土佐中学の三年生に対しては、右判定会議以前から、土佐高校での授業選択に対する調査等も行われている。
5 土佐中学と土佐高校は、学校案内、生徒手帳も中高一体のものとして作成されており、また、学校長も同一で、教員の配置も相互に流動的であり、父兄で組織される「振興会」も中高の明瞭な区分はなく、さらに、グラウンド、体育館等の学校設備も中高共用のものが大部分である。
二 そこで、右事実をもとに検討する。
1 原告一郎は、土佐中学の入学考査を受け、土佐中学の入学許可を受けたものであるから、その際の在学契約は、第一次的には土佐中学について締結されたものと考えられる。
2 そして、中高一貫教育を標榜している学校においても、それは主として教育内容に関するものであつて、中学校、高等学校は、学校教育法上別個のものであるから、一貫教育体制を取ることから直ちに一貫教育期間全体についての在学契約が締結されると考えることはできず、土佐高校についても在学契約が締結されたといえるためには、在学契約時において、その旨明示するか、あるいは土佐高校についても併せて契約を締結したと評価すべき特段の事情があることが必要である。
3 そして、本件では、土佐高校を含む明示の在学契約が行われたことを窺わせる証拠はないから、右特段の事情の有無について考察すると、土佐中学と土佐高校の間で施設利用や人事等において共通性があることは、生徒の法的な地位と直接関係するものとはいえず、他方、本件においては、土佐中学の募集要項や学則等において、土佐高校進学に際して進学判定をすることを明記していること、入学金も高校進学時に新たに徴収するものとされていること、進学を認められない生徒も毎年数名程度存在していること、その他本件の諸事情を総合的に考慮すると、原告一郎の土佐中学入学時の在学契約において、土佐高校についても併せて契約を締結したと評価すべき特段の事情があつたものとは認められない。
4 したがつて、本件の在学契約は、土佐中学三年間のものであり、土佐高校を含めた六年間の契約であつたとは認められないから、これを前提とする原告らの請求は、本件の進学拒否の理由等を検討するまでもなく理由がない。
(裁判長裁判官 溝淵 勝 裁判官 楠井敏郎 裁判官 斉木稔久)