高知地方裁判所 平成5年(ヲ)1056号 決定 1993年11月05日
申立人
ひめぎん総合ファイナンス株式会社
右代表者代表取締役
高重正敏
右代理人弁護士
横田聰
相手方
永野美恵子
相手方
田村實
相手方
中西正男
相手方
皇道學舎志道塾
右代表者
中西将夫こと中西正男
相手方
全日本愛国者団体会議
右代表者
大藤弘樹
相手方
長木偆
主文
一、相手方永野美恵子は、
(1) 本決定送達後五日以内に、別紙物件目録一ないし五記載の土地(以下、「本件土地」という。)及び同目録六記載の建物(以下、「本件建物」という。)から相手方田村實を、本件土地から相手方中西正男をそれぞれ退去させよ。
(2) 買受人が代金を納付するまでの間、本件土地及び本件建物の占有を第三者に移転し、または占有名義を変更してはならない。
二、相手方田村實及び相手方中西正男は、
(1) 同人らに対する本決定送達後五日以内に本件土地中の別紙収去物件目録記載のプレハブ小屋(以下、「本件収去物件」という。)より相手方皇道學舎志道塾及び相手方全日本愛国者団体会議を退去させ、本件収去物件を収去し、本件土地より退去せよ。
(2) 相手方永野美恵子以外の者に、本件土地の占有を移転し、または占有名義を変更してはならない。
三、相手方田村實は、
(1) 本決定送達後五日以内に本件建物より退去せよ。
(2) 相手方永野美恵子以外の者に、本件建物の占有を移転し、または占有名義を変更してはならない。
四、相手方皇道學舎志道塾及び相手方全日本愛国者団体会議は、本決定送達後五日以内に本件収去物件より退去せよ。
五、相手方長木偆は、本件土地に自動車を駐車してはならない。
六、買受人が代金を納付するまでの間、執行官は、本件土地及び本件建物につき相手方らが第1項から第5項までの命令を受けていることを公示しなければならない。
理由
一、申立て
本件は、売却のための保全処分として、主文記載の命令を求める事件である。
二、当裁判所の認定した事実
本件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 当事者
<1> 申立人は、平成二年六月七日相手方永野美恵子(以下、「相手方永野」という。)及び申立外有限会社ダイワガスを連帯債務者として金一億六七〇〇万円を貸付け、相手方永野所有の本件土地及び本件建物及び右債務者両名所有の不動産について抵当権の設定を受けた者である。
その後、申立人は、相手方永野らは平成四年一一月六日期限の利益を失ったので、本件土地及び本件建物を含む全担保物件について高知地方裁判所に競売の申立てをなし、同裁判所は、平成四年一二月八日競売開始決定をなし、同日差押登記がなされた。
<2> 相手方永野は、本件土地及び建物の所有者であり、本件競売事件の債務者である。
相手方田村實(以下、「相手方田村」という。)は、暴力団豪友会の理事長補佐の地位にあり、本件土地及び本件建物につき平成四年一〇月九日設定の賃借権設定仮登記を有している者である。
相手方中西正男は、政治団体である相手方皇道學舎志道塾の代表者である。
相手方皇道學舎志道塾は、高知市に主たる事務所を置く政治団体であり、相手方全日本愛国者団体会議は東京都に主たる事務所を置く政治団体である。
(2) 本件土地及び建物の占有状況
<1> 執行官が平成五年二月三日及び同年八月二六日本件土地に臨場して現況調査したところ、本件土地は、申立外高知エネルギー株式会社が六台分、同有限会社ダイワ住宅設備が二台分、いずれも自動車駐車場として平成三年九月一日以降賃借使用中であり、本件建物は、平成五年二月三日当時、相手方永野が動産類を置いており、同人以外の占有はなかったものである(平成五年九月一六日受付現況調査報告書)。
<2> 本件土地及び建物には、平成四年一〇月二日申立外奥井紀子(以下、「申立外奥井」という。)に対し極度額金七〇〇〇万円の根抵当権が設定されているが、申立外奥井は、平成四年一〇月三〇日ころ、申立人の営業次長黒光久に対し、電話で「本件土地及び本件建物を自分に売却してくれれば、相手方田村の賃借権については自分の方で解決できる。」旨申入れた。
<3> 平成五年夏ころから相手方田村の関係者と思われる者が賃借人に対し、「自分の方が正式に管理している。立ち退いてくれ。」などと要求し始め、誰のものとも判らぬ屋台が置かれたり、平成五年八月二八日には、乗用車が駐車され、その中には「この車は所定の手続をして駐車しております。異議ある方はお好み焼ももたろう奥井迄申し出てください。」と記載した貼紙が置かれている。そして、右乗用車は、申立外奥井の親戚でかつ同人の経営する店の使用人である相手方長木偆(以下、「相手方長木」という。)の所有名義である。
<4> 相手方田村は、平成五年七月ころより本件土地を賃借中の申立外ダイワ住宅設備に対し、「春から正式に管理している。何か建てるから車をのけてくれ。」などと申入れ、同年一〇月二〇日には「今日中にのけてくれ。明日から必要である。」旨の要求をなし、申立外ダイワ住宅設備は、賃借中にもかかわらず車を撤去した。
<5> 本件建物は、執行官の現況調査の段階では、郵便受けには「田村寿啓」と記載された紙片が貼られているが、相手方永野の動産類が置かれているだけで、同人以外が占有している状況は認められず、四国電力は平成五年一月一一日送電を停止した。ところが、四国電力は、平成五年八月五日「タムラミノル」という人と契約して、送電を開始している。
<6> 本件土地には、平成五年一〇月二七日夕方、西南隅の二区画の上にコンクリートブロックを並べた土台が造られており、同年一〇月二八日夕方には、右基礎の上に本件収去物件が置いてあり、小屋の北側の扉には全愛会議、東側の二枚のガラス戸には全日本愛国者団体会議、皇道學舎志道塾と横書の表示があった。
<7> 平成五年一〇月三〇日には、本件収去物件の北側扉の上のメーター取付予定場所に四国電力のお客様番号の白い用紙が貼ってあって一二七〇-〇六-〇三〇〇の番号が記入してあり、同番号は高知市永国寺町六の三辺りで「ナカニシマサオ」で契約したものであり、同年一〇月一九日契約解除されているものである。
三、当裁判所の判断
前記認定事実に基づいて判断する。
(1) 相手方田村は、本件土地及び本件建物について、相手方永野から賃借権設定を受け、その仮登記を経由しており、一応占有の外観はあると認められるが、その賃借権は、前記の事情(特に<2>及び<3>の事情)からして、申立外奥井の債権回収のためか執行妨害目的で設定されたものと認められる。
本件土地については、相手方田村から相手方中西が借り受け、簡易なプレハブ小屋を設置していると推認できるが、これも前記の事情からして執行妨害目的で設定されたものと認められる。
そして、相手方中西は、本件収去物件を相手方全日本愛国者団体会議及び皇道學舎志道塾に使わせていることが推認されるが、この利用関係も前記の事情からすれば執行妨害目的であると認められる。
また、相手方長木の本件土地の利用は、前記<3>の事情や同人の申立外奥井との関係等からすれば、執行妨害目的であると認められる。
(2) このように所有者の関与のもとに、債権者の差押後に執行妨害目的で本件土地に建物を設置するなどしている相手方らは、売却のための保全処分の関係では所有者の占有補助者と同視され、保全処分の相手方になるというべきである。
そして、執行妨害を目的とし、暴力団と関係のある相手方らが、本件土地上に本件収去建物等を設置するなどして本件土地や本件建物を占有することにより、買受希望者は入札を躊躇し、正常な競争入札が事実上制限されることになり、本件土地及び本件建物を含む競売土地の売却価額が著しく減少することは明らかであるから、相手方らの行為は、「不動産の価格を著しく減少する行為」(民事執行法五五条一項)にあたるというべきである。
(3) 以上によれば、本件申立ては理由があるから認容し、相手方永野、相手方長木、相手方全日本愛国者団体会議及び皇道學舎志道塾のためには担保を立てさせないで、相手方田村及び相手方中西のためにはそれぞれ金二〇万円の担保を立てさせて、主文のとおり決定する。