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高知地方裁判所 昭和25年(行)45号 判決

原告 山崎利男

被告 高知市特別都市計画事業復興土地区画整理施行者高知市長

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和二十五年七月三十一日附通知書を以て通知した換地予定地指定の行政処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求める旨申し立て、その請求原因として次のように述べた。

「原告は昭和二十一年六月訴外橋田富恵から同人所有の高知市帯屋町十六番地宅地中の一部四十一坪五合(土地台帳面の地積三十七坪)を賃借しその地上に原告の妻山崎春枝名義の家屋一棟を建て雑貨商を営んでいるものである。ところで高知市において特別都市計劃事業として土地区劃整理を実施するにあたりその施行者である被告は特別都市計画法第十三条に基き原告の右賃借地に対する換地予定地として右宅地中二十坪を指定し、昭和二十五年七月三十一日附でその旨の通知書を発しその頃原告はその通知書を受領した。しかしながらこの指定は次のような理由で違法な処分である。(一)高知市の特別都市計画事業において従前の土地に対する換地の最大減歩率は三割五分であるが、原告の賃借地は前記のとおり実坪数四十一坪五合であるから右減歩率による十四坪五合二勺五才を差し引き換地は二十六坪九合七勺五才となるべきものである。もし原告の賃借地を土地台帳により三十七坪として計算してもなお換地は二十四坪となる筈である。そして右十六番地宅地中一部を右橋田富恵からそれぞれ賃借して営業をしている訴外島村和佐代、秋沢重寿、沢野久枝、横内里次等はいづれも右減歩率三割五分以下の減歩にとどまつているにかゝわらず独り原告に対してのみは四割五分以上の減歩をし前記のように僅か二十坪の換地を指定したのは明らかに不公平な処分であつて耕地整理法第三十条に違反するものといわねばならない。そのため原告は最少限四坪の宅地を失いそれを使用する権利を侵害せられたのであつて、換地予定地が二十四坪あれば現在の家屋はその一部を切断するだけで事が足りるが、二十坪に減歩せられると家屋の三分の一を切断しなければならぬこととなり莫大な損害を被る。(二)特別都市計画法に基く換地予定地指定の処分において仮りにその換地予定地の広狭が施行者の自由裁量処分であるとしても被告の処分は明らかにその裁量権の範囲を逸脱したものである。すなわち被告は本件指定以前に本件賃借地の換地予定地を二十四坪とする指定をし、昭和二十四年二月二十六日附の通知書を以てその旨を原告に通知してきたのであるが、その後台帳の地積、地形等において些かも変動がないのにかゝわらず本件指定において換地予定地を二十坪と縮少して指定したものである。その間の事情として仮りに隣接の賃借人等の間口を広めるため原告のそれを狭くする必要があつたとしても他の賃借人等のため原告が当然与えられるべき間口を削られるべき理由はなく、又本件宅地は原告の間口を狭めなければ他の者の営業が立たぬような地勢でもない。もしさような地勢ならば間口を削るかわりに奥行を長くして、最少限二十四坪を原告のため確保するのが当然の措置である。しかるに被告は漫然原告の間口を狭めて換地予定地を二十坪に縮少したものであるからである。以上のような次第で被告の換地予定地指定の処分は違法であるから原告はこの違法な処分の取消を求めるため本訴に及んだものである。」

被告の本案前の弁論に対し次のように述べた。

「原告は本件換地予定地指定の処分に対し訴願は提起していないが、この指定と並行してなされた行政代執行命令に対し換地予定地指定の処分を不当として異議申立をしている。これはとりもなおさず本件指定処分に対する異議の申立と解すべきものであるから訴訟要件において欠けたところはない。仮りに異議、訴願がなかつたとしても特別都市計画法第二十六条、都市計画法第二十六条によれば行政処分によつて違法に権利を毀損せられた者は直ちに行政裁判所に出訴できるのであるから行政裁判所が廃止せられた現在原告は通常裁判所に直ちに訴が提起できるものである。のみならずそもそも行政事件訴訟特例法は行政処分によつて権利を侵害せられた者をあらゆる角度から救済せんがため立法せられたものであることはその提案理由書に明記するところである。しかるに違法な行政処分により権利を侵害せられた者が異議、訴願の手続を怠つた一事を以て遂に救済の道を与えられぬとすればそれは明らかに立法の趣旨に反する見解であると確信する。」(証拠省略)

被告訴訟代理人は本案前の弁論として次のように述べた。

「原告はその主張の換地予定地指定処分に対し訴願を提起していないから本訴は訴訟要件を欠く不適法な訴である。なお、本件指定処分に対し異議の申立をすることは許されない(耕地整理法第六条)。仮りにそれが許されるとしても本件においては訴提起の要件として訴願をなすべきであるからそれなしに直ちに提起された本訴は不適法である。」

そして本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、次のように述べた。

「原告主張の事実中被告が高知市帯屋町十六番地中原告の賃借地三十七坪の土地に対し原告主張のような換地予定地指定の処分竝にその通知をしたことは認めるが、その余の事実は争う。特別都市計画における土地区劃整理の方法による換地は前従の土地の位置、種目、面積、等位の外評定価格、利用状況等を標準として交付するものであるが、殊に市街地の換地においては面積の外その位置、道路との接触面の広狭、利用状況が重要な要素であつて面積の点だけで換地操作をすることはできない。本件指定の立案についても右の諸要素を標準として検討の上土地区劃整理委員会竝に本件土地所在の工区のその部会に諮り答申を聞いた上立案したものである。しかし都市計画事業の施行上換地と従前の土地の面積が均衡をえられない場合が生ずるのはやむをえないことでその場合は耕地整理法第三十条第一項但書によつて後で金銭的清算を行い公平を期することとなつているのであるから結局関係人の権利、利益を害することはない。本件においては関係人(右十六番地宅地の賃借人等)がいづれも従前の位置における換地を希望しかつ営業上互に間口を重視して要求するので面積の不均衡はやむをえなかつたがその指定の手続としては各関係人の意見を十分に徴しその協議をえた上で指定処分をしたものである。被告の処分には原告主張のような違法な点は何もない。」(証拠省略)

三、理  由

本訴が適法であるかどうかの点について判断する。特別都市計画法に基き都市計画事業の施行者がなす換地予定地指定の処分はいわゆる行政処分であつて、その処分を違法としてその取消を求める訴、すなわちいわゆる抗告訴訟については右法律に特別の規定がない限り原則として行政事件訴訟特例法の適用があるものといわねばならない。そして同法第二条によればかような訴は原則として法令の規定によりその処分に対し異議の申立、訴願その他行政庁に対する不服の申立ができる場合はこれに対する裁決、決定その他の処分を経た後でなければこれを提起することができないことになつている。ところで特別都市計画法第二十六条で準用する都市計画法第二十五条の規定では行政庁のなした処分に不服のある者は訴願ができる旨が定められている。本件について考えると原告は被告が都市計画事業の施行者として特別都市計画法第十三条に基いてなした原告の賃借地に対する換地予定地指定の処分を違法としてその取消を求めるものである。ところでその指定処分に対し原告が訴願を提起していないことは当事者間に争いがない。従つて本訴は行政事件訴訟特例法第二条所定の訴提起の要件を欠く不適法な訴であるといわねばならない。原告は右処分と並行してなされた行政代執行命令に対し右処分を不当として異議の申立をしたからこれにより右処分に対する異議の申立をもしたこととなる旨を主張する。しかしさような異議申立をした事実があるとしても、又右処分に対し果してさような異議の申立が許されるかどうかの点は別としても、行政代執行命令は右換地予定地指定の処分とは別個の行政処分であるからそれに対する異議の申立を直ちに指定処分に対する異議申立であると解することはできないし、又都市計画事業の施行者である被告に対する異議申立が前記都市計画法第二十五条にいわゆる訴願にあたるということもできない。なお、かような異議の申立は本訴の提起につき原告が訴願の裁決を経ないことについて正当の事由となるとも考えられない。次に、特別都市計画法第二十六条で準用する都市計画法第二十六条の規定は行政裁判所と通常裁判所の性格、権限の相違、都市計画事業の技術的な性格及び行政事件訴訟特例法第二条が異議、訴願等のいわゆる前審手続を要求する法意を綜合して考えると原告主張のように行政処分により違法に権利を毀損せられた者は行政裁判所が廃止せられた以上直ちに通常裁判所に出訴できる趣旨のものと解すべきではなく、行政事件訴訟特例法施行後はさような者が通常裁判所に訴を提起するには同法によつて異議、訴願等の前審手続を経由すべきものであると解するのが相当であるからこの点の原告の主張も採用できない。更に行政事件訴訟特例法が行政処分によつて権利を侵害せられた者に対し裁判所の裁判による救済を与えんがため立法せられた法律であることは一応原告主張のとおりであるといえよう。しかし同法はさような者をあらゆる角度から救済しようとするものではない。適法な訴の提起があつた者に対してのみ裁判による整済を与えようとするだけのものである。つまり裁判所の裁判による救済を求めるためには一定の要件が必要である。そしてその要件の一つとして同法第二条に前審手続を経由すべき旨の規定があること前記のとおりである。従つて異議、訴願等の前審手続があるにかゝわらずそれを経由しない場合は適法な訴の提起ができない結果遂に裁判による救済はえられないとしても、それは訴提起の要件すなわち裁判による救済の適格を欠くがためであつてやむをえないことといわねばならない。かような結論は右法律の立法の趣旨に反するとの原告の主張は独自の見解であつてもとより採用に値しない。

そこで本訴は訴訟要件を欠く不適法な訴であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)

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