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高知地方裁判所 昭和27年(行)22号 判決

原告 山中藤二 外一名

被告 国 外一名

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「別紙目録記載の農地に付、被告国がなした買収期日を昭和二十三年七月二日とする買収処分が原告等と被告国との間に於て無効であること並びに右農地に付、被告国がなした売渡期日を右同日、売渡の相手方を被告畠山とする売渡処分が原告等と被告等との間に於て無効であることを確認する。被告国は右農地に付、高知地方法務局安芸支局昭和二十五年七月十四日受附第三〇八七号を以てなされた被告国(農林省)の所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。被告等は右農地に付、右支局昭和二十六年六月二十五日受附第一六四四号を以てなされた被告国(農林省)より被告畠山に対する所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求原因として「訴外伊尾木村農地委員会は、原告等の共有に係る別紙目録記載の農地に付、自作農創設特別措置法(以下単に法と略称する)第三条第一項第一号に該当する所謂不在地主の小作地として、買収期日を昭和二十三年七月二日とする買収計画並びに売渡期日を右同日、売渡の相手方を被告畠山とする売渡計画を定め、被告国は右計画に基き、昭和二十三年七月二日附を以て右農地の買収並びに之を被告畠山に売渡す各行政処分をなし、且夫々請求趣旨記載の如き所有権取得並びに移転の各登記手続をなした。併し(一)右買収処分は左記の事由により無効である。即ち原告等は昭和十三年十二月十三日右農地外八十四筆の土地を訴外川田兼次から買受け、而して原告山中は右土地に家を構え、長男通広、次男常光、三男清を居住させ、同人等と共に右土地(本件農地を含む)を耕作していたが、昭和十九年三月一日長男通広が、昭和二十年一月十五日次男常光が、同年三月三日三男清が相次いで召集されたため、全部の土地を自作することが困難となつたところ、昭和二十年五月当時の伊尾木部落常会長小笠原与之助からの半強制的要求により、原告山中の子等が復員帰還したならば直ちに返還する約束で、戦時中の食糧増産のために右土地を部落常会に一時的に耕作させることを認めたのであるが、終戦後次男常光、三男清が復員帰還したので、原告山中は前記約定により、返地を請求したところ、常会員等は之に応じないで現在に及んでいるものである。而して被告畠山は常会員の一人として本件農地の耕作をしていたものと思われるが、原告等としては、同被告に小作させたものではなく、亦同被告は勿論他の常会員からも小作料を受領したことはない。従つて本件農地は法第二条第三条に定めれた小作地ではない。仮りに本件農地が小作地であつたとしても、それは原告山中が、前記の如くその子の召集のため、已むなくなした一時的貸借であるから、法第五条第六号、同法施行令第七条第二号に該当し買収することは出来ないものである。仍て本件農地の買収計画は違法であり、之に基く被告国の買収処分も亦違法にして無効である。又、本件農地買収計画に付ては適法な公告縦覧をせず、高知県農地委員会の承認をうけず、所有者たる原告等に適法な買収令書の交付をしなかつた違法があり、従つてこの点からするも右買収処分は無効である。(二)次に本件売渡処分は左記事由により無効である。即ち本件農地の買収処分は叙上の事由により無効であるから、その買収処分によつて被告国は本件農地の所有権を取得せず従つて本件売渡処分は無権利者からの売渡になるから無効である。又、法第十六条第十八条第二十条によれば、売渡は国(政府)が第三条の規定によつて適法に買収した農地に付、市町村農地委員会が売渡計画を定めて公告縦覧せしめ、而して都道府県知事が売渡の相手方に対し売渡通知書を交付して、之をなす訳であるが、本件売渡計画を定めて公告縦覧に供したのは昭和二十三年五月二十日より十日間であり、売渡期日は同年七月二日であつて、他方買収の時期も前記の如く右売渡期日と同日であるから、本件売渡計画は、その買収期日以前に於て既に定められて公告縦覧に供したことは明白であつて、これは買収処分を既になし終えた農地に付、売渡計画を定めることを定めた法第十六条以下の法規に違反するものである。従つて右違法な売渡計画に基く本件売渡処分は違法にして無効である。仍て茲に請求趣旨記載の如く、本件買収処分並売渡処分の無効確認と抹消登記手続を求める」と述べ、被告等主張の買収令書の交付に代る告示のあつたことは争う。仮に右告示があつたとしても適法な交付があつたとは言えないと陳述した(立証省略)。

被告国の指定代理人及び被告畠山は、いづれも主文第一項同旨の判決を求め、答弁として「原告等の主張事実中、訴外伊尾木村農地委員会が、本件農地に付原告等主張の如き買収計画及び売渡計画を定めたこと、売渡計画の公告縦覧期間が昭和二十三年五月二十日から十日間であつたこと、被告国が右計画に基き原告等主張の如き本件農地の買収及び売渡の各行政処分をなし、夫々原告等主張の如き所有権取得並びに移転の各登記手続をなしたことは、いづれも之を認めるがその他の事実は之を争う。本件土地は明治年間から現在に至る迄、専ら農耕の目的に供せられている農地で、その間転々と売買され、昭和十三年十二月十三日原告両名が所有するに至つたが、被告畠山は明治年間より本件買収期日である昭和二十三年七月二日迄引続きその間の各所有者から賃借し耕作に従事して来たのである。而して買収当時本件農地は原告両名の共有に属していたが、原告山中は高知県安芸郡安芸町に、原告島本は同郡土居村に、夫々住居を有して居たので、伊尾木村農地委員会は、本件農地が法第三条第一項に規定する不在地主所有の小作地に該当するものとして、前記の如く買収計画を定めて、之を昭和二十三年五月二十日から十日間公告縦覧に供し、原告等より異議訴願がなされなかつたので、伊尾木村農地委員会は、右買収計画に付て高知県農地委員会の承認をうけ、次いで高知県知事は右買収計画と承認が適法であることを認めて、その買収令書を発行し原告等に交付しようとしたが、原告等はいづれもその受領を拒絶したので、同知事は、その交付に代えて、同年十一月二十四日高知県公報に高知県告示第七一一号を以て告示したので、ここに本件農地の買収処分は適法に完了した。仍て本件農地買収処分が無効であるとする原告等主張の各理由は失当である。次に原告等は本件農地売渡処分が無効であると抗争するのであるが、原告等は本件農地買受の申込も、売渡計画に対する異議、訴願もしなかつたのであるからそもそも本件売渡処分の当否を争訟するに付て法律上の利益を有するものとは言えないところであるが、売渡処分の実体に付てみても何等原告等主張の如き違法はない。即ち前述の如く本件農地の買収処分は適法であるからその不適法を前提とする原告等の本件売渡処分無効の主張の採るに足りないことは勿論である。ところで、買収農地の売渡に付ては自作農創設特別措置法施行令第十七条の規定により売渡の相手方の順位を定めなければならぬところ、本件農地買収時期に於て耕作の業務を営む小作農であり且農業に精進する見込があり買受の申込をなしている被告畠山は本件農地売渡の相手方の第一順位にあるので、伊尾木村農地委員会は、原告等主張の如く買収計画と併行して、相手方を被告畠山とする売渡計画を定めて原告等主張の期間公告縦覧に供し、何人からも異議訴願がなかつたので、高知県農地委員会の承認をうけ、次いで高知県知事は右売渡計画と承認が適法であることを認めて、被告畠山に対し売渡通知書を交付し、売渡処分を完了したのであつて、右の如く買収計画に併行して売渡計画を定めることは広汎に亘る農地改革を急速に実施するに付て必然的に生ずる処理方法で、法の禁止するところではない。仍て、本件農地売渡処分が無効であるとの原告等の主張は理由がない。而して高知県知事は適法な右買収、売渡の各行政処分に基き法令の定めるところにより、原告等主張の如き所有権取得並びに移転の各登記手続をなしたのであつて、原告等の本訴請求は失当である」と述べた(立証省略)。

三、理  由

まづ本件買収処分が無効であるかどうかに付て判断するに、

訴外伊尾木村農地委員会が本件農地に付原告等主張の如き買収計画を定めたこと、被告国が右計画に基き原告等主張の如き本件農地の買収行政処分をなし且買収に因る所有権取得登記手続をなしたことは当事者間に争がないところである。

原告等は本件農地は小作地でないこと、仮に小作地であるとしても、それは一時的賃貸借によるものであることを理由として買収計画は違法であり従つて本件買収処分は無効であると主張するが、仮に小作地でない農地を小作地として、或いは又、一時的貸借により耕作に供せられている農地を、その貸借は一時的ではないとして、買収計画がたてられ、之に基き買収処分がなされたとしても、その買収計画若くは買収処分は単に取消し得べきに止まると解すべきであるから、これを以て直ちに右買収計画及買収処分無効の理由とはなし難いのみならず、本件に於ては成立に争のない乙第四、五号証証人山中常光、山脇彦一の各証言及び原告山中本人の供述には原告等主張の如き右事由に符合するものがあつても右証言、供述は後記各証言及び被告本人訊問の結果と比較考察すると之を採用し難いところで他に右主張事由を認めるに足る証拠なく、却つて証人山崎貞吉、松井熊之助の各証言及び被告畠山本人の供述によれば、本件農地は被告等主張の如き経過を辿つて買収時期に於て被告畠山が小作していた法第三条第一項第一号該当の小作地であつて、しかもその貸借は一時的貸借ではないことを認めるに十分であるから、この点の原告等の主張は採用するに由ない。次に原告等は本件買収計画に付ては適法な公告縦覧をせず、高知県農地委員会の承認をうけず又原告等に適法な買収令書の交付をしなかつた違法があり、従つて本件買収処分は無効であると主張するが、成立に争のない乙第一、二号証並びに原本の存在及びその成立に争のない乙第九号証によれば、本件買収計画に付ては被告等主張の通り公告縦覧手続がなされ且高知県農地委員会の承認をうけたこと、高知県知事に於て買収令書を発行し原告等に交付しようとしたがその受領を拒絶されたので法第九条第一項但書により、被告等主張の如く交付に代えて公告したことを認めるに十分であるからこの点に関する原告等の主張も採用するに由なく、従つて本件買収処分の無効確認を求める原告等の請求は理由がない。

次に本件売渡処分が無効であるかどうかに付て判断するに

まづ本件農地買受の申込も、売渡計画に対する異議訴願もしなかつた原告等は本件売渡処分の当否を争訟するに付て法律上の利益を有しないとの被告等の主張に付て判断するに、原告等に於て本件売渡計画に対し異議の申立や訴願をしなかつたこと及び本件農地買受の申込もしなかつたことは明かに争わないところであるが、所謂訴願前置主義は本件の如く行政処分の無効確認を求める訴には適用なく、又法第十六条第一項の定める被売渡適格を有する限り、農地の買受申込をしなかつた原告等に於ても、判決により本件農地売渡処分の無効が確認された後、あらためて買受の申込をすることにより、本件農地の売渡を受け得る訳であるから、原告等は本訴に於て売渡処分無効確認を求めるに付ての正当な利益があると言うべきである。

そこで売渡処分無効事由の有無に付て考えるに、訴外伊尾木村農地委員会が本件農地に付原告等主張の如き売渡計画を定めたこと、売渡計画の公告縦覧期間が原告等主張の通りであること、被告国が右計画に基き原告等主張の如き本件農地の売渡処分をなし且所有権移転登記手続をなしたことは当事者間に争のないところである。ところで原告等は本件買収処分は無効であるから、本件売渡処分も亦無効であると主張するが前段認定の通り本件買収処分は有効であるから、原告等の右主張は採用する訳にはいかない。又原告等は本件売渡計画は買収計画と併行して定められたものであるから右売渡計画は違法で従つて之に基く本件売渡処分は無効であると主張し、而して本件売渡計画が原告等主張の如く本件買収計画と併行してなされたことは被告等の認めるところであるが、元来農地売渡計画は売渡処分そのものと異なり、必ずしも買収処分の完了を前提としなければならぬ訳のものではなく、他方買収計画自体によつて、当該農地の買収が法のいづれの条項に従つて行われるかが明かである関係上、右農地売渡の要件も、売渡計画樹立当時既に具体的に特定していて、利害関係人が法定の異議手続等をとるのに何等支障はないばかりでなくこれによつて行政の円滑な運営が達成されるのであるから、かかる農地売渡計画も無効ではない。従つてこの点に関する原告等の主張も採用できないから、本件売渡処分無効確認を求める原告等の本訴請求は理由がない。

而して叙上の通り本件の買収並びに売渡の各行政処分が有効である以上、これに基き、夫々原告等主張の如き所有権の取得並びに移転登記手続がなされたのは正当で、原告等の本訴請求はいづれも失当であるから之を棄却し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 安芸修 井上三郎 谷本益繁)

(目録省略)

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