高知地方裁判所 昭和35年(行)1号 判決 1960年4月27日
原告 弘光保雄
被告 高知市長・高知警察署長
主文
原告の訴はいずれも却下する。
訴訟費用はいずれも原告の負担とする。
事実
原告は「被告高知市長氏原一郎が高知市内各街路市出店者に対して為した、道路占用許可処分が無効であることを確認する。被告高知警察署長中沢正市は、高知市内各街路市出店者を道路交通取締法違反で取締れ。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決を求め、請求の原因として、
一、被告高知市長は、露店業者が、高知市内の特定の街路に於て、露店営業をするため、当該道路を占用することを許可しており、現在右占用許可の為されている街路は、日曜日は追手筋及び西蓮池町南側車道上、火曜日は本丁筋五丁目土佐電気鉄道軌道添南北両側歩道上、水曜日は本丁筋梅田橋通り西側車道上、木曜日は高知地方検察庁前附近道路上、金曜日は愛宕町国鉄軌道添道路上、土曜日は種崎町土佐電気鉄道軌道添南側歩道上となつている。
二、ところで、被告市長のなした右道路占用許可処分は、次の理由によつて無効である。即ち、
(一) 被告市長は、特定の露店業者にのみ、道路占用許可処分を為し、原告を含む一般商店業者に対しては右の許可を与えないが、これは市民として平等に有する道路使用権を特定の露店業者のみ有利に取扱うもので、かかる差別的な許可処分は憲法第一四条に違反し当然無効といわざるをえない。さらに道路占用許可処分は道路に於ける交通に危険を生ぜしめない限度において為しうるものであることは道路法及び道路交通取締法の規定の趣旨から明らかであるところ、被告市長のなした前記許可処分は、これによつて幾多の交通事故と極度の交通妨害を招来させており、このような交通違反を認容する許可処分は、道路法及び道路交通取締法の立法趣旨からして無効といわざるをえない。
(二) 原告は現在高知市内大橋通に於て、青果小売商をしているが、被告市長が前記のように特定露店業者にのみ原告の店舖に近い街路での営業を許可している為、正常な業務を妨害され、売上げは減少し、その損害は多額にのぼつている。また原告は市民として道路の使用権を有しているところ、前記街路市のため、当該道路の通行は著しく阻害され、道路使用権を侵害されるにいたつている。
よつて、被告市長のなした本件道路占用許可処分が無効であることの確認を求める。
三、次に被告高知警察署長は、被告市長のなした本件道路占用許可処分が無効であり、従つて露店業者は街路市を占用できないのにかかわらず、これを占用して市民の道路通行に著しい危険を生ぜしめているのを黙認している。よつて被告警察署長に於いて、街路市出店者を道路交通違反によつて取締るべき旨の判決を求める。
と述べ、
被告高知市長代理人は、本案前の抗弁として、主文同趣旨の判決を求め、その理由として、「原告の本訴請求は被告市長の道路占用許可処分によつて、原告の法律上の地位に影響を及ぼすことを理由とするものでないからその訴は不適法である。」と述べ、答弁として「原告主張の請求原因一、の事実は認める。その余の事実は争う。本件道路占用許可処分は被告市長が道路管理権者として、道路法第三二条第一項第六号に基いて制定された高知市道路占用料条例及び同施行細則に則り、あらかじめ道路交通取締法第二六条第五項による高知警察署長の協議を経たうえ、交通妨害のおそれのない区域及び日を選び、街路市出店希望者に当該区域の占用を許可したもので、道路交通に支障の起らないように必要な措置を講じていることは勿論であり、また街路市出店希望者には何人も平等に街路占用を申請し、かつ許可される機会を与えている。従つて原告の主張は失当たるを免れない。」と述べ、
被告高知警察署長指定代理人は本案前の抗弁として主文同趣旨の判決を求め、その理由として「原告の本訴請求は、被告警察署長に対し警察権の発動を求めるもので、このように行政庁に作為を求める訴は不適法である。」と述べ、答弁として「被告高知警察署長は、道路管理権者たる高知市長から、道路交通取締法第二六条第五項の規定に基き、本件道路占用許可をするについての協議を受け、本件道路占用許可処分が、著しい交通の妨害又は危険を生ぜしめるおそれがないと認め、これに同意したものであり、また現に交通の妨害又はその危険を生ぜしめるような事実はない。また仮りに、交通妨害になるとしても、道路管理権者たる高知市長が道路占用を許可している以上、街路市出店者の道路占用を道路交通取締法を適用して取締ることはできない。」と述べた。
理由
一、原告の被告高知市長に対する請求について、
被告高知市長が原告主張のような道路に於て、露店業者が営業をするため、当該道路を占用することを許可していることは原告及び被告高知市長間に争いがない。
そこで、まず原告が本件道路占用許可処分の無効確認を求める利益を有するかどうかの点について検討する。
原告は露店業者に対する本件道路許可処分によつて、原告の売上げが減少し多額の損害を受けている旨主張するが主張のような事実があつたとしても、これは単に事実上又は経済上の損害が生ずることを主張するに止まり、原告の法律上の権利が毀損されたものと認めることはできない。また原告は右許可処分によつて、原告の当該道路に対する通行権又は使用権が侵害されたものと主張するが、道路は公衆の共用に開放された結果の反射的利益として、これを自由に使用することができるにとどまり、各人に対して道路の占用又は使用の権利を設定するものではない。従つて本件についても、露店業者の占用する道路に対して、原告はなんらの権利を有しないものというべきである。そして以上のように権利侵害がないのに当該行政処分の違法を主張し、その無効確認等を求める訴訟は法律の特別の規定をまつて始めて提起しうるものであるが、道路占用許可処分に対しこのような訴を認めている法律規定は存在しないことは明らかである。従つて原告は被告高知市長に対する本件道路許可処分の無効確認を求める利益がないから原告の被告高知市長に対する訴は不適法である。
二、原告の高知警察署長に対する請求について、
原告は被告高知警察署長に対して前記街路市出店者を道路交通取締法に基いて取締るべき旨請求するが、これは行政機関たる警察署長の所管とされている権限であるから同署長の行政的判断にまつべきもので、裁判所が同署長にかような行為をなすべきことを命ずることは三権分立の建前に反し許されないから、右訴は裁判権の対象となりえないもので、不適法といわざるを得ない。
三、以上述べた通り、原告の被告らに対する本訴は不適法であるから、其の余の判断をしないで、これを却下することとし訴訟費用の負担について、行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八九条に則り、主文のとおり判決する。
(裁判官 合田得太郎 隅田誠一 加藤義則)