高知地方裁判所 昭和38年(ワ)318号 判決 1964年12月03日
原告 谷口春茂 外一名
被告 国 外一名
主文
被告等は各自原告等各自に対し二五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三八年六月一五日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
この判決は原告等が各自五〇、〇〇〇円の担保を供すれば第一項につき仮に執行することができる。
事実
一、双方の申立
(原告等)
主文第一、二項同旨。
第一項につき仮執行宣言。
(被告等)
請求棄却。訴訟費用原告等負担。
二、請求の原因
(一) 亡谷口幸一は、四国運輸建設株式会社(以下四国運輸と略称)のトラツク助手であつたが、昭和三八年六月一三日、社用で金子香栄の運転する同社の一九六一年型六トン車日産UD六八〇型貨物自動車(高い一〇八七号)に同乗して、高知市より中村市に赴くべく、須崎市安和長佐古トンネル東方約二〇〇メートルの道路上にさしかかつた際、突然国道右側の約二〇メートルないし二五メートル上方(または五〇メートル上方)と思われる箇所から、重さ約二五〇キログラムの岩石が自然落下したため、亡谷口幸一は、この岩石の直撃をうけて即死した。
(二) 本件道路は、一級国道五六号線に指定された国の営造物であつて、事故現場は、高さ約二〇〇メートルに及ぶ急傾斜の山岳がそのまま海中に没するところを、その中腹を切り取つて道路を設置したものである。
それ故、道路の山側は、あたかも屏風を立てたような、切り立つた崖となつているが、その地質は中生代の白堊紀に属する須崎層と呼ばれる泥岩と砂岩で、いたるところに崩壊寸前の岩石をはらんでいるため、従来から落石の絶えなかつたところである。
特に事故現場附近の上方には、このまま放置すれば必らず落石するという危険な箇所が数ケ所もあつたが、管理者は不注意にもこれに対する何等の防災手段をも講じなかつた。
本件事故現場附近が、従来から落石の絶えなかつた箇所であることは、海岸波打ち際を見れば明瞭である。そこには、山側から落下した大小無数の岩石が散在している(現に本件落石が波打ち際のいずれの石にあたるか、似たものが多いため判定困難な状況にある)。
このような実情にかかわらず、被告はかつて本件山腹を調査したことはなかつた。本件山腹は登はんも看視も困難な絶壁で、道路も存しない箇所であるが、そうだからといつて、このような危険箇所を実態調査しないことは大きな手抜かりである。本件事故発生後、被告ははじめて自己の非を悟り、実情調査に乗り出し、ようやく防災措置を準備しつつある。
もし、右の実態調査が完全に行なわれておれば、何等かの防災手段がとられた筈であつた。危険が予想される箇所には効果的な標識も設けられたであろう。落石不可避と判断されれば、道路上に鉄さくも作られたに違いない。このようにして、被告が万全の注意と配慮をめぐらせば、本件危険状態は容易に除去できた筈であるのに、被告はこれをしなかつたのである。
それ故、このような危険な状態は、「道路の構造は、当該道路の存する地形、地質、気象その他の状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであり、且つ、円滑な交通を確保することができるものでなければならない」(道路法二九条)及び「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない」(同法四二条)等と規定された法律の精神にいちじるしく反し、且つ、社会通念上も安全性を甚だしく欠如したものとみられるから、本件公の営造物には、管理の瑕疵が存したものといわなければならない。
(三) 亡谷口幸一は、原告等の間に昭和二一年二月二一日に生れた五男で、健康に恵まれ、自動車運転手を志し、前記のように四国運輸のトラツク助手に採用され、事故当時は一日三七四円(過去三ケ月の平均賃金)の収入をあげ、そのかたわら自動車運転の技術を修習していたものである。
原告等は亡谷口幸一の両親として、前記のような同人の不慮の死により重大な精神的打撃を蒙つたが、その慰藉料の額は、少なくともそれぞれ五〇〇、〇〇〇円を下らないと見るのが相当である。
(四) 一級国道五六号線の本件事故現場は、道路法一二条ノ二により、国の機関である高知県知事がその維持、管理を行なうべきものとされ、その実際の事務は、知事の命令により、普通地方公共団体の補助機関である須崎土木出張所長が担当していた。
それ故、本件道路は国の営造物であるが、現実に管理の任にあたつていた公務員の俸給、給与等は、高知県から支出されており、管理者と費用負担者は異なつているので、国家賠償法二条及び三条によつて、国及び高知県は、本件営造物の管理の瑕疵から生じた前記損害について、連帯して賠償の責を負わなければならない。
(五) よつて、原告等は被告等に対し、それぞれ二五〇、〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和三八年六月一五日以降完済まで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。
三、被告の答弁及び主張
(一) 請求原因(一)のうち、亡谷口幸一が四国運輸の雇人(トラツク臨時作業員)であつたこと、昭和三八年六月一三日金子香栄の運転する四国運輸の貨物自動車に同乗し、高知市から中村市に向う途中、須崎市安和地内の長佐古トンネルの東方約二〇〇メートルの道路上で事故のため死亡したこと、この死亡が直接的にか間接的にか上方からの落石に起因するものであること(但し、落石は路面垂直約六五メートル上方の岩石が崩壊したものと認められる)は認めるが、その余は知らない。
(二) 請求原因(二)のうち、本件道路が一級国道五六号線に指定された国の営造物であること、この国道の設置されている地形及び土質、本件現場附近を除く従来の落石状況については認めるが、その余は争う。
(三) 請求原因(三)は争う。
(四) 請求原因(四)のうち、本件国道が、高知県知事の管理する道路であり、同知事はその維持、管理を高知県須崎土木出張所の所管とし、従来同所長以下の職員をしてその任にあたらしめていることは認めるが、その余は争う。
(五) 本件事故現場附近の道路は、高知県須崎市から高岡郡中土佐町を経て中村市に通ずる唯一の幹線道路であり、右路線のうち須崎市安和字走上り二六九番の一地先から高岡郡中土佐町久礼字下の城六一七九番地先までの間は、大正九年四月一日県道高知、
中村線として認定され、同日供用を開始されたが、その後進歩する交通事情に対応するため、前記路線のうち、安和、久礼間の山廻り(焼坂峠経由)を海岸廻り(長佐古トンネル経由)とする路線に変更された(昭和五年一一月一九日高知県告示第六三八号)。
その後、右路線に局部改良工事が加えられて、昭和二八年五月一八日二級国道松山、高知線として指定をうけ、同年一一月一七日に供用を開始されたが、右路線は、更に、昭和三八年四月一日付で一級国道五六号線として指定されると共に、同日供用を開始され、現在に至るまで、非舗装の砂利道(幅員約六メートル)のまま一般交通の用に供されている道路である。
右国道は、高知市方面と中村市方面を結ぶ高知県内重要交通路の一であつて、地形上やむなく海岸又は山間の急傾斜面に開設されている箇所が多く、暴風雨等には落石又は崩壊のおそれがないとはいえない箇所のある区間であり、標示札によつて落石に対する通行人の注意を喚起していたが、従来は本件のような事故の発生はなかつた。特に、事故現場附近は山側上方の傾斜が比較的ゆるやかな地形で、従前玉子大の石が二、三個落下した以外交通に支障を与えるような落石又は崩壊の事実はこれまでなかつたし、又予想もしなかつたところである。
本件道路の管理について、その任に当つている高知県知事及び須崎土木出張所には何等の瑕疵もない。分説すれば次の通りである。
(イ) 前記道路のうち、本件事故現場を含む須崎市須崎中学校前から須崎市と高岡郡中土佐町の行政境界線までの約一〇キロの間には、従来須崎土木出張所の修路工手、承認補助工手の各一名及び人夫二人を配置して、排水、排石等による路面の補修及び道路区域の全般にわたつて交通に支障はないかどうか、四囲の状況についても注意して見廻りを行ない、管内道路を常時安全な状態にあるよう確保せしめている。特に、本年は四月以降県下各地に長雨が降り続き、道路の交通に危険を増すことが憂慮されたので、四月当時右土木出張所の係員によつて、須崎市安和黒滝及び久礼橋のたもとの双方に「落石注意」と朱書した一尺五寸四方の白木の標識を立てて一般通行者に注意を与えると共に、警戒、見廻り及び交通制限等を実施して交通の安全性を図つてきたものであるから、道路管理者としては何等違法な管理をしたものではない。
(ロ) ところで、本件道路自体に瑕疵がなかつたことは明らかであるが、道路管理責任の範囲には、自づから限界があるべきで、本件事故の如く上方高度からの落石についてまで道路管理責任の範囲に属せしめることは妥当でない。
道路の管理とは、道路自体ないしはそれと接続する区域について一般交通に支障を及ぼさないよう道路を常時良好な状態に保つよう維持修繕することであるから(道路法四二条、四四条)、道路及びそれに接続する地点以外からの支障物に対してまで、直ちに道路管理者にこれを防禦する責任を負わすことは失当である。
しかし、かりに、道路管理者の責任は、道路自体及びその接続する区域に限定して判断すべきものでなく、四囲の状況との綜合的見地から判断さるべきものであるとしても、道路上に発生した凡ての事故について管理者の責任を追求することを意味するものである筈がない。すなわち、瑕疵の有無は相対的社会的見地に従つて考慮さるべきであり、又、その責任の有無を判断するためにはどこからが予期されない瑕疵になるか、逆にいえば、どこまでがふつうに存在する欠陥として一般に許容されるかという常識ないしは良識に頼るほかないのであり、結局のところ、瑕疵は社会通念に従い、合理的に限定して解釈すべきである。その欠陥が、許容し得る欠陥の範囲を超えており、国道管理者の人力、財力で一般に補修可能であり、不可抗力でない場合にのみ、はじめて管理の瑕疵と判断さるべきものであつて、その欠陥が社会通念上許容し得るものであり、期待可能性のないものであり、不可抗力のものであるときは管理の瑕疵となすべきではない。
本件現場附近は、前記のように、これまで崩壊落石の危険もなくその予期もされなかつた箇所であり、又、道路上方は私人の所有地であつて、崩壊現場は登はんも看視も困難な絶壁の崖の上方の地点で、道路等もないから、多額の費用と長日時を費やして、はじめて調査がなされ得る地帯である。
かような箇所についてまで、道路の管理者側が調査(しかも慎重な調査を行なわなければ本件のような崩壊事故の事前発見は困難である)を行なわなければ、管理に瑕疵があるとすることは、余りにも不能を強いるものである。
かくして、本件国道については、地形上二キロの間に落石等の危険のある欠陥はあつたが、落石等を避けるため交通を禁止することは、重要交通路であるから不可能であり、落石等を防ぐ防護覆を設けることも巨費を必要とし(一〇メートル当り数百万円)、財政上不可能であつた。そのため、止むなく前述のように落石注意の立札をもつて通行する者の注意をうながしていたのである。
(ハ) 本件事故当日には台風三号が高知県西部に上陸したため、須崎地方はその被害が大きく、そのうちでも本件事故現場附近は、ほぼ南面の急傾斜である関係から、本件事故発生時には台風による風雨を正面からうけ、それがため本件のような予想外の岩石の崩壊事故が発生したのである。
(ニ) このような状況の下に発生した本件事故は、管理の範囲外で専ら外部的な事情から生じた事故として、不可抗力によるものというべきであり、これを道路管理の瑕疵を以て論ずることは、道路管理上の責任を著しく拡大するもので、社会通念上妥当性を欠き失当であるというべきである。
(ホ) かりに本件事故が、管理の対象内であり、管理の瑕疵と目さるべき事案であるとしても、瑕疵があることについて、真に止むを得ない事情があり、その匡正が国、公共団体の人力、財力をもつてしては一般に期待できないのであるから、営造物に瑕疵があることによる違法は阻却されるものであり、賠償責任を認めることは著しく正義に反することになる。
四、被告等の主張に対する原告等の反論
(一) 本件は一級国道に接続する急斜面よりの自然落石にもとづく事故である。長期にわたる山腹の風化作用によつて、砂岩が崩壊すべくして崩壊した事件である。
一級国道は国の営造物の代表的なものであるが、その管理に瑕疵があるかないかの判定は、被告が仮定的に認めるように、道路自体及びその接続する区域に限定して判断すべきものではなく、四囲の状況との綜合的な見地から考慮されなければならない。このことは、既に多くの判例、学説の認めるところである。
被告は「道路の各一側について幅二〇メートル」以内を沿道区域として規定する道路法四四条を援用し、あたかも二〇メートルを超える地点の危険物に対しては、道路管理者は防禦責任はないかの如く論じている。しかし、同条は公権力により右の沿道区域における土地、工作物等の管理者に損害予防義務を負担させる趣旨に出たものであつて、道路管理者の注意義務の範囲をこれにより限定したものではない。
(二) 本件道路は交通量の多い一級国道であり、本件危険は直接国民の生命を脅やかすものであるから、本件欠陥は、如何なる意味からしても社会通念上許容されたものとは言い難い。
又、被告等が主張するような金額(一〇メートル当り数百万円)なら、防護覆を設けることは財政上不可能という程のものではない。現地を調査すれば、危険箇所は容易に判明するが、その数はさして多くないと考えられるからである(もつとも、危険箇所が無数にあるとしても、本件落石現場だけに防護覆を設けることは容易であつた筈だから、被告等の主張は理由がない)。
(三) 本件事故発生時には、小雨は降つていたが、風はなかつた。台風による予想外の落石だという主張の成立する余地はない。
(四) 本件事故は明らかに被告の落石に対する防災措置の不完全性にもとづくものである。問題は右不完全性に期待可能性や不可抗力の理論をいれる余地があるかどうかである。余地があるとすれば、管理の瑕疵は否定されようし、余地がないとすれば、被告はその不完全性に過失があろうがなかろうが、賠償の責を負わなければならない。
ところで、本件については、従来の道路行政の慣例上被告に多少の同情すべき余地もある。しかし、本件被害者に払うべき同情は、ほとんど絶対的である。けだし、道路上で自然の落石のため死亡した事例は稀有であり、しかも被害者には何等の責められるべき点がないからである。
被告等は国民の税金によつて巨大な財力を有している。本件と同種の事故はほとんど考えられないから、本件について賠償の先例を作つたところで、これが被告等の財力を脅やかす心配はない。
およそ、損害賠償の窮局の理念は、損害の公平な分担にある。前述の期待可能性や不可抗力の理論も、所詮はこの根本原則に立脚しながら検討されなければならない。本件事故につき、原告等が何等の救済手段のないまま放置されてよいとすることは、著しく社会正義に反すると考えるものである。
五、証拠<省略>
理由
一、四国運輸の雇人亡谷口幸一が、昭和三八年六月一三日、金子香栄の運転する同会社の貨物自動車に同乗し、高知市から中村市に向う途中、須崎市安和長佐古トンネル東方約二〇〇メートルの道路上で事故のため死亡したこと、右死亡が道路の上方からの落石に起因するものであること、本件道路は一級国道五六号線に指定された国の営造物であつて、高知県知事が管理にあたり、その実際の事務は高知県須崎土木出張所の職員が担当していたこと、本件道路は、高さ約二〇〇メートルに及ぶ急傾斜の山岳がそのまま海中に没するところをその中腹を切り取つて道路を設置したものであり、道路の山側はあたかも屏風を立てたような切り立つた崖となつているが、その地質は中生代の白堊紀に属する須崎層と呼ばれる泥岩と砂岩で、至るところに崩壊寸前の岩石をはらんでいるため、(本件現場附近を除き)従来から落石の絶えなかつたところであること、は当事者間に争がない。
二、成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証の一、二、乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四号証、証人金子香栄、尾崎晴光、下岡正昭、西本速夫、松本喜志馬、中脇良孝、竹崎茂太郎、和泉一の証言、本件現場検証の結果を綜合すれば、次の事実が認められる。
(一) 亡谷口幸一が死亡したのは、本件道路に接続する急斜面の狭間の東側面垂直上方六五メートル(斜距離七七メートル)の箇所が、東西の長さ約一〇メートル、高さ約二メートルにわたつて崩壊したため、直径約一メートルの岩石が運転台助手席に落下して、被害者を直撃したことによるものであること、
(二) 右落石は、本件崩壊現場附近が砂岩と真岩の互層帯で、風化し易い真岩の長年月にわたる自然風化のため、数日来の降雨が誘因となつて、崩壊を起したことによるものであること、
(三) 事故当日午前一一時に風雨注意報と波浪注意報が発せられていたが、本件事故発生当時(午後〇時三〇分頃)には、現場附近はまだ小雨程度で風もなかつたこと、
(四) 本件崩壊現場の下方の道路際には、長さ九・八メートル高さ八〇センチメートルの鉄筋コンクリートのガードレールが設けられている(昭和五年頃設置)が、そのガードレールはコンクリートが崩れ落ち、鉄筋が曲つて露出し、ひどい部分は痕跡を止めているに過ぎず、その部分の断崖下及び附近一帯の海岸には岩石が累々と散在していること、
(五) 本件崩壊現場を事前に調査すれば、崩壊落石の危険を探知し得たこと、
(六) 高知県須崎土木出張所は、本件落石事故防止対策として被告等の主張するように修路工手等をして見廻り等をさせたほか、特に右のような調査をせず、本件事故現場附近より約二キロメートル手前に「落石注意」の白木の標示札を設置した(それも、事故直前まで存在したことは確認できない)に過ぎないこと、
(七) 須崎土木出張所は、本件事故発生後直ちに崩壊現場を調査したが、まだ二立方メートルほどの崩壊寸前の岩石があり、その他にも崩れ落ちた砂岩が積もつている箇所があるので、落石事故を防ぐため、下方の道路に鉄材による防護覆を設置すべく計画したが、取りあえず落石の危険のある部分を人工的に落下させて危険度を少なくしたので、予算が足りないこと、本件道路中他にもつと危険な箇所があること等のため、未だ実現しないでいること、
等を認めることができる。
以上の事実関係の下においては、本件道路は通常備えるべき安全性に欠けていたというべきであり、原告等の前記主張の通り、本件道路の管理には瑕疵があつたと解するのが相当である。被告等が主張するように本件崩壊現場の事前調査が困難であり、かつ、防護覆を設けるには莫大な費用を要することは認められるが、だからといつて、右の瑕疵が、やむを得ないものとして一般に許容されるべきものであるということはできない。被告等の前記主張はとらない。
三、成立に争いのない甲第一号証、原告両名本人尋問の結果によれば、亡谷口幸一の両親である原告等が、前記のような不慮の事故によつて同人を失なつたことによつて甚大な精神的損害をうけたことが認められ、その額が原告等各自について二五〇、〇〇〇円をこえるものであることは明らかである。
四、被告国、同高知県は、管理者及び費用負担者として、本件国道の管理の瑕疵によつて生じた損害を賠償する義務があるので、被告等に対し原告等各自に二五〇、〇〇〇円及び昭和三八年六月一五日以降完済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める原告等の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 下村幸雄)