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高知地方裁判所 昭和42年(行ク)1号 決定 1967年9月20日

申立人 仁淀川砂利採取協同組合

被申立人 四国地方建設局長

訴訟代理人 上野国夫 外七名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一、申立人は「被申立人が昭和四二年七月一八日付四建高河管発第六三号許可書をもつて、前川砂利有限会社に対してなした砂利採取許可処分および同月一九日付四建高河管発第六四号許可書をもつて、株式会社森本興業に対してなした砂利採取許可処分は、高知地方裁判所昭和四二年(行ウ)第三号事件の判決確定に至るまで、いずれもその効力を停止する。申立費用は被申立人の負担とする。」との決定を求め、被申立人は、主文同旨の裁判を求める、と述べた。

第二、申立人の主張の要旨

一、申立人は、中小企業等協同組合法に準拠し、昭和四一年一一月七日設立された協同組合であつて、高知県仁淀川流域の砂利の生産、販売業者を構成組合員とし、砂利の協同採取、販売、加工等をその事業目的とするものである。

二、被申立人は、河川管理者である建設大臣の権限の委任を受け、一級河川について、河川法第二五条、第二七条の土右等の採取、掘さく等の許可権限を有する行政庁であるところ、昭和四二年七月一八日申立外前川砂利有限会社に対し、その申請に基づき、同日付四建高河管発第六三号許可書をもつて、砂利採取許可処分をなし、次いで、同月一九日申立外株式会社森本興業に対し、その申請に基づき、同日付四建高河管発第六四号許可書をもつて、砂利採取許可処分をなした。(以下、両許可処分を、本件許可処分という。)

三、しかしながら、本件許可処分は、次に述べるとおり、被申立人がその裁量権を濫用してなした違法なものである。

(一)  建設省では、近年建設事業の急激な進展に伴つて激増するコンクリート用骨材の需要に対し、全国の主要な水系から、今後供給可能な砂利の掘さく可能量が枯渇化の傾向にあることにかんがみ、このまま推移すれば、河川の管理保全上のみならず、国土建設にも重大な支障を来たすことが予想されるに至つたので、右の事態に対処すべく、総合的な河川対策を講ずることとし、「河川砂利基本対策要綱」(以下、単に要綱という。)を策定して、これを一般に公表すると共に、都道府県知事ならびに各地方建設局長に対し、これを通達した。そして、右要綱の基本方針は、「最近の河川砂利のひつぱくに伴い乱掘等により河川管理上重大な問題を生じている現状にかんがみ、河川管理を強化し、採取業者の自主規制とあいまつて、採取の計画化をはかる一方、未利用砂利資源の開発、河川砂利の用途規制、砕石への積極的な転換などによる総合的な河川砂利対策を講ずる。」というものであり、更に、右要綱に基づく具体的措置の一つとして、「砂利等採取許可準則」(以下、単に準則という。)を策定し、要網と同様、各都道府県知事ならびに各地方建設局長に対し、これを通達した。

(二)  そして、右要綱、準則に基づく砂利採取業者に対する具体的対策として、砂利採取業の協同化および自主規制の推進が強力に行政指導されることになり、被申立人は、従来から、仁淀川流域で砂利採取を行なつていた港砂利有限会社、仁淀砂利こと山下保、共進砂利株式会社、前川砂利株式会社、株式会社森本興業、前川砂利有限会社および株式会社関西土地の七業者に対し、協同組合化を図るよう行政指導をなしたところ、株式会社関西土地を除く六業者は、被申立人の行政指導に対し、協同組合を設立して、右要綱、準則の方針に積極的に呼応することになり、右六業者を組合員として、申立人が設立されるに至つたものである。

(三)  ところで、仁淀川は一級河川であるところ、同川の左岸高知県吾川郡伊野町加田二、四九一番の五地先および右岸同町波川二、二八四番の二地先からそれぞれ下流(河口に至るまで)は、被申立人の管理区域(以下単に、被申立人管理区域という。)と指定され、右各地先から、それぞれ上流は、高知県知事の管理区域と指定されている。そして、被申立人管理区域内では申立人設立前において、株式会社森本興業が可搬式採取機二台、前川砂利有限会社が同機一台、仁淀砂利こと山下保が同機二台、株式会社関西土地が同機二台の設備を有して、それぞれ砂利採取をなしていた。

(四)  そして、被申立人管理区域における砂利採取可能量は、被申立人の調査公表したところによれば、昭和四二年四月一日以降は約八万三、〇〇〇立方米にすぎないため、既存の六台の採取機によれば、採取機一台の月間採取能力が約二、五〇〇立方米であるところから、約六ケ月をもつて砂利が枯渇することになつた。そこで、被申立人は、前記(二)の協同組合化の指導に合わせ、被申立人管理区域の内仁淀河口から上流へ一キロメートルの地域(以下、河口区域という。)が未採取区域であつて、採取可能量が約七〇万立方米存するところから、協同組合が設立した場合には、河口区域を組合が協同採取することとし、それによつて、採取の計画化および河川の管理、保全を図ると共に砂利採取業者の運営を保護するという趣旨の行政指導を行なつた。そのため、右河口区域の砂利採取許可を期待した前記六業者は、協同組合の設立準備に当つて、事業計画中に右河口区域における砂利採取事業を含ましめていたものである。

(五)  ところで、河口区域における砂利採取は、採取船をもつてしなければ採取不可能であり、また、要綱の方針により採取設備の増大を許さないという行政指導がなされていたところから、右採取船の建造にあたつても、右の六業者は被申立人の行政指導を受けた。即ち、被申立人は、六業者に対し、採取船一隻の採取能力を可搬式採取機二・五台と認定し、被申立人管理区域において稼働している六業者(現実には前記のとおり三業者)の既存の採取機四台のうち三台を廃棄することにより、河口区域における採取船による採取を許可するという行政指導をした。六業者は、右指導に沿う組合事業計画実施要領を組合設立認可申請書に添付して設立認可を受け、採取船の発注についても被申立人の内諾を得た上で売買契約を成立させた。なお、六業者の保有していた採取機は、高知県知事の管理区域分を含めて、合計九台であつたが、いずれも申立人設立後、申立人が買受けて所有することになつた。

(六)  申立人は、昭和四一年一一月末頃から、河口区域における砂利採取許可申請手続の準備にかかつたが、被申立人から、右申請書に添付するよう指導されていた仁淀川漁業協同組合の砂利採取についての同意書が容易に得られなかつたところから、採取船による許可手続が完了するまで、被申立人管理区域内において、従来申立人組合員が採取していた区域に対し、採取許可申請をなし、被申立人から、昭和四一年一二月三日より昭和四二年三月三一日までは採取機四台で、同年四月一日より同年六月三〇日までは申立人の自主規制により採取機二台として、それぞれ採取許可を得た。

(七)  その間、昭和四二年三月三〇日申立人に対し、組合員株式会社森本興業から脱退申入れがあつたが、慰留しその脱退を承認しなかつた。更に同年四月一八日、組合員前川砂利株式会社から脱退申入れがあり、後者は、自主規制により遊休中の申立人所有の採取機(従前同会社が所有していたもの)を使つて同月二三日から勝手に操業し始めたため、申立人は、同年五月一二日同会社を除名したが、前者については、その脱退を承認しなかつた。

(八)  同年七月四日被申立人側の高知工事事務所長ほか三名と、申立人代表二名が被申立人管理区域内の砂利採取許可につき協議した結果、被申立人は、申立人および株式会社関西土地に対し、採取許可を出すこと、しかし、許可申請が出ている前川砂利有限会社および株式会社森本興業に対しては、右両社は、申立人の組合員であり、個人としての許可申請については、二重許可となり、要綱の趣旨にも反するので、許可しないことが決められた。申立人は、右協議に基づき、同年七月八日より同年八月二四日までの四八日間、採取機二台による採取許可を得たが、河口区域における採取については、右協議の際、右採取期間の内に手続を進めることが確約されていた。

(九)  しかるに、被申立人は、右協議に反し、淀川砂利有限会社に対しては、同年七月一八日付、株式会社森本興業に対しては、同月一九日付をもつて、いずれも申立人に対し長期間の採取許可をなすに至つたものである。

(一〇)  ところで、砂利採取許可処分は、被申立人の上級行政庁である建設大臣が河川管理および国土建設のための河川砂利対策として、策定した要綱、準則にもとづきその趣旨に沿うべく運用されるべきものであつて、同要綱、準則は、河川管理者の砂利採取許可にあたつての裁量権の基準を示したものであるというべきところ、被申立人のなした本件許可処分は、要綱の2の(1) の採取量規制の趣旨および要綱の3の3.5の(3) 砂利採取業の協同化、自主規制の推進の趣旨ならびに準則第七の2の採取許可の場合の配慮の趣旨をいずれも逸脱してなしたものであつて、裁量権の濫用にあたるものというべきである。

被申立人は、淀川砂利有限会社は、昭和四二年五月二三日、株式会社森本興業は同年三月三〇日にいずれも申立人を脱退しているから、申立人と組合員に二重許可したものではないと弁明するが、右両者は、いまだ申立人を脱退したものではない。即ち、前者からは、五月二三日の組合総会で脱退を承認されたので届出る旨の六月三日付脱退届が、後者からは、三月三〇日の組合総会で脱退を承認されたので届出る旨の五月三〇日付脱退届がそれぞれ申立人に提出されているが、申立人は、右両社の主張する日に何ら組合総会を開催していないし、両社の脱退を承認した事実もない。

かりに、右脱退届が組合規約第一二条に基づく自由脱退の意思表示であるとしても、右意思表示は、同条所定の要件を欠き、無効である。申立人は、被申立人に対し、右規約を提出してあるので、被申立人は右規約を十分承知している筈である。

また、更に、右両社の使用している採取機二台は、前記の如く、申立人設立の際、協同採取の方策に従い、申立人の事業計画として、両社から買受け、前記の如く自主規制により遊休させていたものであるから、右採取機二台を使用することとしてなされた本件許可処分は、明らかに協同採取による採取権の自主規制という要綱、準則の基本方針に反し、かつ被申立人の従来からの行政指導と矛盾したものであつて、載量権の濫用にあたるものというべきである。

四、(一) 河川法による砂利採取の許可制は、河川の管理、保全という公共の福祉の見地から設けられたものではあるが、他面砂利採取業者の濫立による砂利採取経営の不合理化を防止することが公共の福祉のために必要であるとの見地から、被許可者を保護する意図をも有するものというべきである。従つて、砂利採取の許可制の適正な運用により保護されるべき砂利採取業者の営業上の利益は、河川法、砂利採取法により保護される法的利益と解すべきものである。

そして、未だ申立人組合員である前記両社に対してなされた本件許可処分は、新規な砂利採取業着に対する許可処分と同様なものであるから、これにより、設備の増大を来たす結果、申立人は、砂利採取業の健全な経営が阻害されることになり、更に、申立人の存立そのものも危殆にひんすることになるのであるから、申立人は、既存砂利採取業者として、本件許可処分を取消すにつき、法律上の利益があるものというべきである。

(二) 次に、要綱、準則は、行政法規ではなく、砂利採取許可に際し、河川管理者が遵守すべき内部基準に属するものではあるが、被申立人は、砂利採取許可処分についてはもとより、申立人の設立、砂利採取の自主規制、協同採取、販売等すべて、要綱、準則に従つて行政指導をなして来ており、更に、申立人の採取船の建造にあたつても、採取機三台の廃棄をもつて、採取船一隻にあてるとの具体的指導を行なつている。従つて、申立人が右採取船による採取許可を得るためには、採取機三台を廃棄できる実績を保有していなければならないところ、被申立人が前両社を申立人から脱退したものと認めて、本件許可処分をなしたものである以上、右両社が使用中の採取機二台の実績は、申立人が実績として、自主規制により遊休させていたにも拘らず、右許可によつて、両社に移つたことになり、申立人の被申立人管理区域内における採取能力の実績は採取機二台となつて、採取船による採取許可申請の資格を失うことになる。そうすると、申立人は、将来、採取船による砂利採取許可処分を受けうる期待的利益を本件許可処分により侵害されたものというべきであるから、本件許可処分の取消を求めるにつき、法律上の利益を有するものというべきである。

五、前記の如く、申立人の被申立人管理区域内での採取許可は、昭和四二年八月二四日で期間が満了し、以後は、河口区域での採取船による採取のみとなるのであるが、右採取船による採取も本件許可処分により、申立人は実績不足となつて、許可申請資格を喪失し、被申立人管理区域内における一切の砂利採取の途をとざされることになるのが明らかである。かくては、申立人の解散、企業閉鎖、新造採取船のスクラップ化は必然となり、申立人は著しい損害を蒙ることが明らかである。

従つて、申立人は、本件許可処分の効力停止を求め、従前申立人が有していた本件許可処分にかかる採取機二台の実績を回復して、すみやかに河口区域における許可申請をなすことが、申立人の存立できる唯一絶対の途であり、右は、まさに、本件許可処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため、緊急の必要がある場合に該当するものというべきである。

第三、被申立人の意見の要旨

一、申立人の主張要旨中、一、二、三、の(一)ないし(三)の各事実は、いずれも認める。三の(四)は被申立人管理区域における砂利採取可能量が昭和四二年四月一日以降約八万三、〇〇〇立方米であることは認めるが、その余は争う。申立人から、採来河口区域における協同採取を行ないたい旨の意向が提示されたため、被申立人は、必要な助言を与えたにすぎないものであつて、被申立人から積極的な行政指導を行なつたものではなく、また、被申立人の行なつた協同化の行政指導についても、より一般的になしたものであつて、特定した区域の採取を予定してなしたものではない。三の(五)は、被申立人が六業者に対し、採取船の建造および同船による河口区域における砂利採取について行政指導を行なつたこと、同船の発注について被申立人が内諾を与えたことはいずれも否認する。採取機九台を申立人が買受けて所有することにしたことは知らない。採取船の建造は、六業者が自ら計画したものであり、被申立人は採取量増大防止の見地から採取船が稼働した場合における従来の採取機の削減について指導したのみである。三の(六)は、河口区域の採取許可申請にあたつて、利害関係者の同意書を添付するよう指示したことおよび被申立人が申立人に対し、二回にわたつて採取機四台および二台の採取許可を与えたことはいずれも認めるが、その余は争う。三の(七)は争う。三の(八)は、七月四日に会合がなされ、申立人主張の如き結論となつたこと(但し、採取機二台で四八日間の許可をするとした点は争う。)は認めるが、その余は争う。被申立人は、前川砂利有限会社と株式会社森本興業が依然申立人の組合員であるならば、採取許可をすることができないといつたのであり、また、河口区域での採阪許可申請については、被申立人は四八日間の内に調整を進めることを助言したにすぎない。三の(九)(一〇)はいずれも争う。四の(一)(二)および五はいずれも争う。

二、申立人は、本件効力停止申立の本案について、訴を提起すべき法律上の利益を有しない。

申立人は、本件申立の本案につき、訴を提起すべき法律上の利益を有すると主張している。しかし、申立人につき本件許可処分が取消されなければ、新規の許可を受ける資格がなくなるという点については、法律上、そのような趣旨の規定は何ら存在しないのみならず、申立人の存立が危殆におち入り甚大な損害を受けるとの点も、間接的な事実上の問題にすぎず、法的利益の問題というべきではない。また、河川法第二五条、第二七条に基づく砂利採取許可制は、もつぱら、河川管理の支障の有無という公共の見地のみから許否を決するのであつて、申立人主張の如き、砂利採取業者を濫立による経営の不合理から保護するというような趣旨は全く存しない。そして、砂利採取業者の育成助長は、河川管理者の本来的義務ではなく、河川管理者としては、砂利採取許可等の処分を通じて、河川管理の万全を期すこととの関連において、業者に対し、必要な行政指導を行なつているにすぎない。従つて、申立人の本件許可処分の取消を求める本案訴訟は訴の利益を欠き、不適法というべきである。

三、本件許可処分には何らの違法性も存しない。

河川法第二五条、第二七条による許否の判断は、河川管理者の公共的見地からする自由裁量に属する問題である。即ち、本件の如く、一級河川の管理は一般大衆の安全産業経済の発展等の上で欠くことのできない強度の公共性を有するものであり、そのため、河川法は、河川区域内の土砂の採取については、河川管理者の許可を受くべきものとし、その具体的な許可基準については、何らの規定を設けることなく、もつぱら河川管理者の公共的見地からする専門技術的な自由裁量に委ねているものである。申立人は、要綱、準則が河川法上の許可基準であり、法的拘束力を有するか、の如く主張しているが、要綱、準則は、行政庁の事務処理のための内部基準であつて、何ら法的拘束力を有するものではない。

ところで、申立人は、本件許可処分が要綱2の(1) の採取量規制の趣旨に違背すると主張するが、右要綱2の(1) は、将来なお相当の採取可能量のある河川についての目標を示したものであつて、仁淀川の如く、採取可能量が極めて限定された河川においては、右目標の示す計画的漸減が既に意味を有しない段階に達しているため、被申立人は、あえて、この規制を行なわなかつたものである。従つて、本件許可処分にあたり、かかる規制がなされなかつたとしても、右要綱に違背するものではない。また、申立人は、本件許可処分が要綱の3の3.5の(3) および準則第七の2の趣旨に違背すると主張しているが、これは、砂利採取業者の協同化について指導すべきことを定めたものであつて、被申立人としては、仁淀川の砂利採取について、他の関係行政庁と協力して現存七業者に対し協同組合の設立を勧告、指導しその結果六業者による申立人の設立をみたものである。そして、協同化が、健全な姿で行なわれた場合、要綱によれば砂利採取の許可は極力これらの協同体に対して与えるようめられてはいるが、協同化はあくまで業者の自主的行為であつて、河川管理者において、これを強制すべきすぢあいのものでないので、一旦設立した申立人の組合員の半数が事実上組合から脱退したとしても、それは被申立人としては、如何ともなしがたいところである。申立人は、被申立人が脱退者に対し許可処分を行なつたことが要綱、準則に違背すると主張するが、一旦設立した協同体が事実上分裂している現状においては、申立人が健全な協同化の結果生じた協同体であると必ずしもいい難い。換言すれば、右の脱退が法律上有効か無効かについては、被申立人としては確知できないが、脱退者に協同の意思がないことは、その後の経過に照らして明白であるから、少くとも要綱、準則の意図する健全な協同化は本件に関する限りそこなわれたといわざるを得ないのである。

本件許可処分に際しては、前川砂利有限会社および株式会社森本興業は数年前より実績を有する既存業者であり、かつ、被申立人の介入し得ない事情によつて、実質上、申立人から脱退したことが事実であるならば、被申立人としては、その許可申請を受理せざるを得なかつたのであり、被申立人は両者の許可申請に基づき書類審査および現地踏査を行なつた結果、河川管理上その他特に支障がないため、これを許可することにしたものである。従つて、本件許可処分は、要綱、準則からみても何らこれに違背するものではない。

四、申立人には、本件許可処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため本件効力停止を求めるべき緊急の必要性がない。

申立人は、本件許可処分の効力停止がなされなければ、現在申立人に対して存する許可処分の期間が満了しても新規の許可申請をする資格がなくなる旨主張するが、本件許可処分の申立人のなす新規許可申請との間には、法律上何ら申立人主張の如き関連性はなく、かりに、本件許可処分と申立人のなす新規許可申請との間に、なんらかの関連性があるとしても、行政事件訴訟法第二五条による停止決定は、本案判決確定に至るまでの暫定的な措置としてなされるものであり、その効力は将来に向つてのみ生ずるものであるから、本件許可処分の効力停止が認められても、本件許可処分の存在まで否定することはできず、そうすると、申立人がいう如く、採取船による新規許可申請資格が回復されるということはありえないので、申立人には、本件許可処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため効力停止を求めるべき緊急の必要性は何ら存しないものである。

第四、<証拠省略>

(判断)

第一、申立人が、中小企業等協同組合法に準拠し、昭和四一年一一月七日設立された協同組合であつて、高知県仁淀川流域の砂利の生産、販売業者を構成組合員とし、砂利の協同採取、販売、加工等をその事業目的とするものであること、被申立人は、河川管理者である建設大臣の権限の委任を受け、一級河川について河川法第二五条、第二七条の土石等の採取、掘さく等の許可権限を有する行政庁であり、昭和四二年七月一八日および同月一九日に、申立外前川砂利有限会社および同株式会社森本興業に対し、それぞれ本件許可処分をなしたこと、はいずれも当事者間に争いがない。

第二、そこで、まず、申立人に本件許可処分の効力停止を求めるにつき、法律上の利益があるか否かにつき判断する。

申立人は、本件申立において、被申立人が申立外前川砂利有限会社および同株式会社森本興業に対してなした本件許可処分が違法であるとして、その効力の停止を求めているのであるが、行政事件訴訟法第九条にいう、「当該処分の取消しを求めるにつき、法律上の利益を有する者」とは、これを一般に、第三者に対してなされた行政庁の許可処分の取消の訴についていえば、当該処分によつて、直接自己の権利ないし法律上の利益が侵害されたか、あるいは将来において、かかる権利ないし法律上の利益を受ける機会を喪失せしめられ、右処分を取消すことによつて、その侵害あるいは機会の喪失が除去され、権利ないし法律上の利益を回復しうる地位にある者をいうと解すべきである。従つて、単に当該処分によつて、事実上の不利益を蒙るにすぎない者は、右にいう法律上の利益を有する者に該当せず、右処分の取消の訴えの原告適格を有しないものである。そして、右処分の取消の訴を本案とする効力停止の申立は、申立人が右取消訴訟につき、原告適格を欠くときは、右の申立もまた法律上の利益を欠くことになり、不適法として却下を免れないものである。

ところで、河川管理者が、河川法第二五条、第二七条に基づいてなす砂利採取の許可は、河川が国民生活の維持安全、産業経済の進歩発展等の上で、欠くことのできない社会公共性を有することにかんがみ、もつぱら、河川の管理、保全上の社会公共の福祉の見地から、治水および利水上支障が生じない場合に限り、砂利採取業者にこれを与えるものであつて、右許可により、砂利採業取者に独占的地位を付与して、濫立による経営の不合理化からこれを保護するとか、あるいはその一定の営業上の利益を保護するとかの目的を有するものではないと解するのが相当である。

なお、河川法(昭和三九年法律第一六七号)の施行に際してなされた昭和四〇年六月二九日付「河川法の施行について」と題する河川局長通達によれば、砂利採得の許可等の方針につき、通商産業省軽工業局長建設省河川局長共同通達「砂利採取法第一一条運営要領について」の趣旨が河川法の施行後も継続されることになつているところ、同通達10によれば、「砂利採取業の健全な協同化を促進するため、協同組合または企業組合の採取許可申請に対しては、特別に配慮すること」とあるので、これより考えれば、砂利採取等の許可には、砂利採取業の健全な協同化を促進させる方向においては、砂利採取業者を保護する趣旨が含まれているようにも一応うかがわれるが、更に、同通達によれば、同法第一一条は、砂利採取等の許可方針は、河川等の公共物の管理に支障を与えない限度において、同法の趣旨-砂利採取業者の保護育成を目的とする-に沿つた許可をすべきものというのであるから、これと前記10とを総合して考えれば、砂利採取等の許可は、前述のとおり、河川の管理、保全上の社会公共の福祉の見地からのみ与えられるものと解するのが相当である。

従つて、本件許可処分に基づき、申立外前川砂利有限会社および同株式会社森本興業が砂利採取をなし、その結果申立人が事実上、営業による利益が著しく減少し、あるいは、申立人の存立そのものが危たいにひんするに至るとしても、その営業利益は、右に述べたとおり、法律によつて保護される利益ということはできない。

そして、この理は、右前川砂利有限会社および株式会社森本興業の申立人からの脱退が法律上有効か無効か、即ち右両社が法律上いぜんとして申立人の構成組合員であるかどうかにかかわらないところであるというべきである。

次に、本件許可処分によつて、申立人が喪失せしめられたと主張する河口区域での砂利採取船による砂利採取許可申請資格が、前記の「法律上の利益」といいうるか否かにつき検討するに、河川法第二五条、第二七条の許可は、もつぱら、河川の管理、保全上の社会公共の福祉の見地からなされたものであつて、砂利採取業者を保護する目的を有するものではないこと前段に述べたとおりであるところ、他に、申立人の採取船による砂利採取許可申請資格が法的に保護された利益であることを認めるべき行政法規は、何ら存在しない。なお、要綱、準則は、河川管理者が遵守すべき内部基準に過ぎないものであるから、これをもつて、砂利採取業者の許可申請資格を保護すべき行政法規ということはできない。従つて、本件許可処分の結果、申立人の有する採取船では、河口区域における砂利採取許可申請資格が喪失するに至るとしても、その期待的利益は、右に述べたとおり、法律によつて保護される利益とはいえない。

そうすると、いずれにしても、申立人は、本件許可処分の取消を訴求する法律上の利益を有しないものであるから、本件申立についても、またその当事者適格を欠くものといわなければならない。

第三、よつて、申立人の本件申立は、不適法として、これを却下することとし、申立費用につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 小湊亥之助 岡崎永年 西尾幸彦)

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