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高知地方裁判所 昭和43年(む)24号 決定 1968年1月26日

主文

高知地方検察庁検察官検事蓮井昭雄が昭和四三年一月二四日付で、被疑者寺岡照義については高知南警察署長に、同梶原政利および同浜崎喜三郎については高知警察署長に、同岩本兼芳については土佐警察署長に、同船村忠明および同中山森男については窪川警察署長に対してなした接見等に関する指定は、いずれもこれを取消す。

理由

一  本件申立の要旨

別紙(一)「準抗告申立」と題する書面記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  当裁判所がなした事実調べの結果によると、被疑者らは公務執行妨害被疑事件について、いずれも昭和四三年一月二二日逮捕され、高知地方検察庁検察官蓮井昭雄が同月二四日付で別紙(二)記載の内容による「接見等に関する指定書」をもつて、別紙(一)中申立の趣旨記載のとおり各被疑者が在監する警察署長に対して、被疑者らと弁護人との接見交通に関する指定をしたことが認められ、右指定は法務大臣訓令「事件事務規程二八条」により刑訴法三九条三項に基づき、別紙(二)の様式による指定書の謄本を被疑者および被疑者の在監する監獄の長に交付してなしたものであることが明らかであり、これが一般的指定といわれるものである。

2  ところで、右一般的指定について、刑訴法四三〇条による取消の対象となるためには、これが同条にいうところの同法三九条三項の「処分」に該当しなければならないので、先ずこの点について考えてみる。

これを消極的に解する立場からは、一般的指定は検察官から被疑者が在監する監獄の長(以下本件では警察署長とする)に対する単なる通告であつて、全く内部的なものにすぎず、それ自体としては対外的な効果を及ぼすものではないから、さらに、弁護人に対して具体的に指定がなされない以上、これをもつて右処分とは解せられないとするようである。

しかしながら、被疑者および警察署長に対して、その指定書が交付されると、警察官は右一般的指定書に拘束されて、特に検察官から具体的に指定がなされない限り、これを根拠に弁護人と被疑者との接見交通を拒否することになる。その結果、弁護人は、刑訴法三九条一項に基づき、原則として自由に被疑者と接見交通することを許されているにもかかわらず、実際上、これとは逆に、検察官の具体的指定がなされるまでは、右接見交通が全面的に禁止されるという、弁護人ひいては被疑者にとつて重大な結果が生じることになる。従つて、一般的指定書が交付されるのは被疑者および警察署長であるけれども、その受ける効果は直接弁護人の弁護権に影響を及ぼすことになるわけである。

また、これを実質的にみても、弁護人の接見交通の権利が検察官の具体的指定によつて不当に制限を加えられた場合には準抗告によつて是正する道が開かれているのに、これより程度の重い一般的指定の場合に準抗告が許されないとするのは、刑訴法四三〇条を設けた法の精神にもとるものといわなければならない。

従つて、前記検察官のなした一般的指定は右法条の処分に該当し、準抗告の対象となり得るものと考えられる。

3  次に、本件一般的指定が違法であるかどうかの点について判断する。

そもそも、刑訴法三九条は、弁護人の接見交通の自由を原則として保障し、捜査のため必要があるときに限り、例外として、弁護人の接見交通に関して具体的に日時、場所、時間を指定することができることとして、弁護人の接見交通権と捜査の必要性との調節の機能を果しているものと解される。従つて、事案によつては捜査の必要性が特に強く、そのため弁護人の接見交通が相当に制限される場合もないわけではない。しかし、その場合でも、検察官としては具体的指定を適切に運用することにより捜査の必要性を満たすことができるのであるから、一般的指定の方法によつて前記のような弁護人の接見交通権を一般的に制限することは、前記法条の立法趣旨に照らし、違法であるというべきである。

4  以上のとおり、前記検察官がなした本件接見等に関する指定は、いずれも違法であつて取消すべきものであるから、刑訴法四三二条・四二六条二項によつて、主文のとおり決定する。(安間喜夫 川瀬勝一 和田功)

別紙(一)<省略>

別紙(二)

接見等に関する指定書

被疑者

捜査のため必要があるので、右の者と、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に関し、その日時、場所および時間を別に発すべき指定書のとおり指定する。

昭和  年  月  日

検察庁

検察官  検事

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