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高知地方裁判所 昭和45年(ワ)70号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、本件事故の発生等

請求原因(一)、(二)の事実は、原告の受傷の点を除き当事者間に争いがない。なお、<証拠>によれば、原告運転の車両は、自動二輪車(高知市い三三六号、以上甲車という)である。

よつて、まず原告の本件事故による受傷ないしその程度について審究するに、<証拠>には、原告に対する傷病名および態様として、左腎破裂、左肋骨骨折、左胸部打撲、左手擦過傷等があり、左側腹部腰部自発運動呼吸痛あり血尿を持続す、左膝関折腫脹、膝蓋骨跳動あり、その他挫創部疼痛外出血あり、創傷洗滌縫合術後創傷処置にて瘢痕治癒すとの記載のほか、昭和四三年九月二〇日から昭和四四年一月二〇まで入院治療、同月二一日から同年一〇月七日まで通院治療のうえ同日治癒するとの記載があるけれども、他方、<証拠>によれば、まず、腎臓破裂に関しては、原告代理人の質問に対し、一応原告の病名として右破裂を肯定しながらも、尋問の経過に従い、肉眼的にみて尿が赤く、原告が痛みを訴えることからそのように病名としていいかげんに記載したものであつて、右記載が結論的には間違いであり、検査結果では血尿の存在を認めず、結局のところ単なる腎損傷の程度にとどまるものと認めざるをえなかつたこと、また、肋骨々折の点に関しても、右証言によれば、呼吸痛としてその辺が痛むということで一二番目の肋骨々折と診断しているが、レントゲン所見では骨折が認められていないというのであるから、右骨折の事実が疑問であるか、或いはそれが非常に軽微であると認めざるをえないところであり、結局、原告は、本件事故により、以上のほか、右診断書等の病名とされた右胸部打撲等の傷害を受けたにとどまるものと認めるのが相当である。

二、原告の過失

前示当事者間に争いのない本件事故発生の事実に、<証拠>を総合すると、現場は、東西に通ずる直線の平坦なアスファルト舗装道路で、歩車道の区別があり、車道の中央には複線の電車軌道(併用)となり、車道の歩道寄りには自転車道があつて、これと電車の軌道との間は緑地帯となつている。そして、右電車軌道の北端と右緑地帯との間隔は約8.3メートルあり、また衝突地点の西方には巾員約8.1メートルの南北に通ずる道路があつてこれが前記併用軌道と直角に交又し、信号機のない交又点となつている。しかも、同所附近の制限速度は、時速五〇キロメートルである。訴外松木は、右交又点の東北に位置する緑地帯附近から乙車に乗客一名を乗せて東方に向つて発進し、右折Uターンしようとして後方を確認したところ、甲がその約一〇〇メートル後方(西方)を東方に向け進行して来るのを認めたが、その間隔から十分せん回できるものと考え、右折の方向指示器を点滅しながら転回にかかり、時速五ないし一〇キロメートルで進行し、右交又点中央附近で発したと思われる甲車のブレーキ音を認めたが、前方を確認しながらさらに進行し緑地帯から約5.3メートルの地点で甲車の接近を認め停車した。原告は、甲車後部に、同僚でやや酩酊している訴外岡本を同乗させたうえ、時速約六〇キロメートルで東進し、前方約四〇メートルの距離に乙車が右折の態勢に入つていることを認めたものの前同様の速度で進行し、右交又点中央附近で一旦ブレーキをかけたが、右乙車の右側方を十分通過できるものと考え、右斜め道路中央軌道寄りにハンドルを切りながら進行しようとした際、乙車との衝突の危険を感じ直ちに急制動の措置をとつたが、約11.3メートルの斜めのスリップ痕跡をとどめながら慣性による走行を継続したため、これが停車に至る直前、すでに停車中の乙車の右側ドアー附近に自ら衝突路上に転倒するに至つたこと。<反証―排斥>。

そして、右の事実に基づいて検討するに、原告につき右交又点において徐行する義務がないとしても、夜間、制限速度を超えて走行する場合の衝突事故発生の危険が大であることはいうまでもなく、訴外松木勝義が方向指示燈を点滅しながら右折の態勢に入つたことは前示のとおりであつてみれば、夜間であることを考慮して右訴外人の過失を肯定せざるをえないとしてもなお、同人の後方確認の義務は、或る程度軽減されていると考えられるから(高松高判、昭和四二年六月一二日、判例タイムズ二一六号二四〇頁、なお、最判昭和四二年一〇月一三日、判例タイムズ二一一号二一〇頁、参照)、これらを併考すると、本件事故発生については、原告にも一〇キロメートルの速度違反ならびに前方不注視という五〇パーセントを下らない過失があつたものと認めるのが相当である。

三、原告の損害の程度

原告が、本件事故による胸部打撲等の傷害により、事故直後から平田病院に入院、治療を受けたことは前示のとおりであり、この間休業を余儀なくされたことは明らかであり、また、原告が本件事故により自賠保険の休業補償費ないし慰藉料として総額金五〇〇、〇〇〇円を受領していることは当事者間に争いがなく(なお、被告立替の金一六〇、〇〇〇円は、この金額に何等消長を招来するものではない)、<証拠>によれば、右五〇〇、〇〇〇円がすべて、右傷害による入・通院治療費として右平田病院に支払われていることが認められるところである。しかして、一定の傷につき医師によりなされた治療行為ないしそのために要した治療費は、一般の場合、それが相当なものであることが事実上推定され、特別の事情のないかぎり、交通事故の被害者は、右治療費の全額を事故による損害としてこれを加害者に請求し得ると解するのが相当であるけれども、本件についてこれをみた場合、原告の運転する甲車は、ほぼ停止の状態で乙車に衝突しているに過ぎず、原告本人尋問の結果によれば原告自身僅か四か月の入院期間を経て昭和四四年一月二〇日退院の翌日から通常の勤務に就いているのであつて、以上により原告の傷害等の程度についてはこれをさほど重大視しえないものがあるばかりでなく、医師は、原告の傷害を腎破裂等という病名により原告に対する治療を継続していることが窺われるが、前示のとおり、右病名の記載が著しく事実と懸絶し、それが単なる腎損傷(しかも、右は本人の主訴によるものであつて開腹の事実もない)。その他打撲傷を主体とするものであつて、右退院時には右外傷は瘢痕治療しているところであるから、原告が事故後痛みを訴えており、これに対し入院のうえギプス固定による治療を継続する必要性は一応肯定するとしても、受傷による治療の程度ならびに治療期間等が相当なものであつたか否かについては著しい疑問が存在するというべく、かかる治療の経過については原告の関与を許さない事情が存在するけれども、なお本件につき治療費ならびに治療期間(従つて休業損害等)の一部につき、事故との相当因果関係を肯定することができず、これを結局、原告の不利益に帰せざるをえないところである。のみならず、原告は、腎臓破裂により生死の境をさまよつた旨述べ、<証拠>中にはこれにそう供述部分があるけれども、前示のとおり著しく過大むしろ乱診の疑いがもたれる病名をカルテに記載されたことに基づき、原告らがこれを事実と誤信したため必要以上の精神的苦痛を味つたとしても、かかる第三者により誘発拡大された苦痛のすべてを、事故による精神的苦痛と評価することは相当でなく、むしろ、交通事故による慰藉料の範囲は、被害者が事故(ないしその受傷)により客観的にみて通常感ずると思料せられる精神的・肉体的苦痛を限度とすると考えるのが妥当であるから、以上の点を本件における原告の慰藉料算定の際の減額事情として斟酌することとする。

してみると、原告が本件事故により右限度(必ずしもその範囲を計数上正確に確定することができない)で財産上ならびに精神上の損害を蒙つたことはこれを認むべきであるが、これに原告の前示過失を斟酌控除すると、原告が本訴において主張する損害額に治療費等を含めた本件事故による全損害額の詳細について改めて検討するまでもなく、自賠保険による金五〇〇、〇〇〇円、および、当事者間に争いのない附添費として支払いずみの金一九、五三〇円により、右損害はすでに全部填補され、従つて、原告の被告に対してなお請求しうべき損害額はもはや残存しないと判断せざるをえないところである。(稲垣喬)

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