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高知地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決 1974年3月11日

原告 南海工業株式会社

被告 中村税務署長

訴訟代理人 民谷勲 外六名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

「被告が原告の昭和四一年一月一日から同年一二月三一日に至るまでの事業年度の法人税確定申告につき昭和四五年二月二六日付をもつてなした更正処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二原告の請求原因

一  原告は砂利採取を業とする株式会社であるが、昭和四一年一月一日から同年一二月三一日に至るまでの事業年度(以下本件係争事業年度という。)の法人税につき昭和四二年二月二七日所得金額を一九、四六三円、法人税額を五、四三〇円として確定申告したところ、被告は、昭和四二年六月三〇日付をもつて、所得金額を五七四、八八七円、法人税額を一六〇、七〇〇円とする更正をし、さらに、昭和四五年二月二六日付をもつて、所得金額を四、一七五、一六八円、法人税額を一、三六四、四〇〇円とする再更正をした。

二  原告は右再更正処分を不服として、昭和四五年三月二三日-被告に対し異議串立てをしたが、被告は、同年一一月一八日付をもつて、所得金額を三、六二一、五八二円、法人税額一、一七二、〇〇〇円とする一部取消の決定をした。

三  原告は、右決定を不服として、昭和四五年一二月四日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和四六年三月二三日付をもつてこれを棄却する旨の裁決をなし、同裁決書謄本は同月二七日原告に送達された。

四  しかし、右再更正処分は、原告が訴外有限会社四万十骨材から営業権を受贈した事実はないのにこれあるものとして受贈益三、六四一、〇九一円を計上した違法があるから、その取り消しを求める。

第三被告の答弁および主張

一  請求原因に対する答弁

請求原因一ないし三の事実はいずれも認める。同四の主張は争う。

二  被告の主張

1  原告が申告した損益計算は、別表の「A原告金額」欄のとおりであり、被告が主張する所得金額の基礎となる損益計算は同表の「B被告金額」欄のとおりである。

2  右損益計算において、差額がある科目について、被告の算定根拠を明らかにすると、次のとおりである。

(一) 番号4「雑益」の差額三、六四一、〇九一円について原告は、昭和四一年六月二二日訴外有限会社四万十骨材から渡川水系一級河川渡川(左岸、中村市角崎地内、右岸、同市坂本地内)における砂利採取権を無償で譲り受けたが、その権利の価格三、六四一、〇九一円を益金に算入していないので、その金額を受贈益と認め、雑益として原告が申告した益金に加算したものである。なお、この点に関し詳述すれば、次のとおりである。すなわち、原告が現在砂利採取を行つている前記渡川においては、以前訴外島田昇が砂利採取をその業としていたものであるが、昭和四一年二月一日これが採取権を砂利採取権とともに一括四、八〇〇、〇〇〇円で訴外有限会社四万十骨材が買い受け、引き続き同所において同訴外会社が砂利採取をその業とするに至つたものである。被告の調査したところによれば、右譲渡当時における砂利採取権の価格は一、〇〇〇、〇〇〇円と認められたこと、訴外島田に引き続き同訴外会社が前記場所において砂利採取しうる地位を得たことは明らかに経済的価値のある財産権、すなわち砂利採取権を取得したものと認められたこと等の理由により前記差額の三、八〇〇、〇〇〇円に同所における砂利採取権を同訴外会社が取得したことの対価であると認めたものである。その後、昭和四一年六月二二日、原告は、同訴外会社から前記場所における砂利採取にかかる一切の権利を無償で譲り受け、引き続いて同所において砂利採取をその業とするに至つたものであるが、その際においても前記と同一の理由により財産的価値を有する権利としての砂利採取権の譲渡がなされたものと認めたのである。ところで、原告が譲り受けた砂利採取権の価格についてであるが、訴外有限会社四万十骨材が訴外島田昇から取得した右権利の価格は、前述したとおり、三、八〇〇、〇〇〇円である。そこで、被告は、同訴外会社から原告に対する譲渡時の右権利の価格の算定にあたり、この権利が営業権に準ずるものと認められるから、営業権に関するものと同様の方法により、その価格を算定したものである。

その算式を示すと、次のとおりである。

3,800,000円〔訴外有限会社四万十骨材の取得価格〕×0.092〔耐用年数10年の定額法による償却率〕×5/11〔事業の用に供した月数/訴外会社の当該事業年度の月数〕=158,909円〔被告計算による当期償却限度額〕

3,800,000円-158,909円=3,641,091円〔譲渡時の価格〕

(二) 番号6「仕入」の差額一七三、四二四円について

原告は、訴外有限会社四万十骨材から譲り受けた売掛債権一七三、四二四円を利益の部に計上すべきが正当であるのに、誤つて損失の部に計上しているので仕入科目から減算した。

(三) 番号10「減価償却費」の差額二一三、三九六円について

前記(一)の砂利採取権の価格に対応する減価償却費を算定し、損失として原告が申告した減価償却費に加算した。

3  本件係争事業年度における原告の所得金額は、以上の方法により算出したものであつて、その額は別表の「B被告金額」欄の当期利益金のとおり三、六二一、五八二円である。したがつてこれに基づきなされた本件更正処分は適法である。

第四被告の主張に対する原告の答弁および反論<省略>

第五原告の反論に対する反論<省略>

第六証拠関係<省略>

理由

一  原告主張の請求原因一ないし三の事実(本件再更正処分の経緯)、ならびに、被告主張の、原告が訴外有限会社四万十骨材から譲り受けた売掛債権一七三、四二四円を利益の部に計上すべきところ誤つて別表<省略>損失の部の番号6「仕入」科目欄に計上した事実、および、被告主張の砂利採取権の価格に対応する減価償却費が二一二、三九六円となる事実は、当事者間に争いがない。しかして、原告の本件係争事業年度における所得の計算上別表番号6の「仕入」並びに同表番号10の「減価償却費」についてはいずれも被告の主張する金額と同一に帰し、同表番号4の「雑益」を除きその余の科目についてはいずれも同表「B被告金額」欄に記載のとおりであることは原告の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。

そうすると、本件再更正処分の適否の争点は、原告に別表番号4の「雑益」に算入すべきものして砂利採取権の受贈による所得が認められるか否かの点に帰着するので、以下これについて判断する。

二  被告は、原告が訴外有限会社四万十骨材から渡川における砂利採取権を無償で譲り受け、その価格を三、六四一、〇九一円と算定し、それが受贈益として益金になるものである旨主張する。

1  ところで、河川法第二五条の規定による土石採取の許可は、許可を受けた者に土石等を採取する権利を付与するものであつて、本件についていえば該権利、すなわち砂利採取権は、公権ではあるが財産的価値を内容とするものであつて、私権に準じ河川管理者の承認を得ることにより譲渡性を有し、その権利の譲受人は、譲渡人が有していた河川管理者の許可に基づく地位を承継するものと解される。

2  <証拠省略>によれば、訴外島田昇は、個人企業として一級河川渡川における砂利採取権を取得して砂利採取業を営んでいたところ、営業不振に陥つたため昭和四一年二月一日訴外有限会社四万十骨材に右砂利採取権を砂利採取機と共に一括して四、八〇〇、〇〇〇円で譲渡したものであること、ところで、同機械は新品の場合約五、〇〇〇、〇〇〇円の価格を有するが、同訴外会社が譲り受けたときには既に八年を経過した中古品であつたうえ、訴外島田昇が操作の誤まりから二回も横転させ悪くしていたので、同業者においてせいぜい一、〇〇〇、〇〇〇円の価値を有するか否かという程度にしか評価されていなかつたこと、他方、砂利採取権は業者間において売買取引の行なわれている実情にあつて、なかには五、〇〇〇、〇〇〇円位の値段をもつて取引された実例のあることを認めることができ、右認定に反する<証拠省略>は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、訴外島田昇から訴外有限会社四万十骨材への砂利採取権とその機械との売買価格四、八〇〇、〇〇〇円のうち一、〇〇〇、〇〇〇円は砂利採取機の価格として、うち三、八〇〇、〇〇〇円は砂利採取権の価格として売買されたものと認めるべきである。

ところで<証拠省略>によれば、訴外有限会社四万十骨材と原告は同一株主であつて、事業内容の充実を図るためと、同じ中村市内に類似商号の企業が他に存在し営業上支障をきたしていたことから、原告は同訴外会社を吸収し、昭和四一年六月三日その所有していた前記砂利採取権を無償で譲り受けたこと、そして該譲り受けについては同月二二日四国地方建設局長の承認を得たことを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  右認定事実によれば、原告は、訴外有限会社四万十骨材から財産的価値を有する砂利採取権を有効に譲り受けたことになるが、訴外有限会社四万十骨材が訴外島田昇から取得した時の価格は、少なくとも三、八〇〇、〇〇〇円の価値を有していたものであるから原告の前記譲り受け時の価格を算定すると、以下のとおりとなる。すなわち、右権利は前述したその権利の性質からみて営業権に準ずる権利とみられるから、営業権と同様の方法によりその価格を算定すべく、しかして被告の算定と同一算式に基づき計算すると、三、六四一、〇九一円の価値を有していたことになる。

4  果たしてそうであるとするならば、被告において、原告が訴外有限会社四万十骨材から無償で譲り受けた砂利採取権を受贈益と認め、その価格三、六四一、〇九一円を益金に加算したことは正当であつて、これに基づいてなされた本件再更正処分は適法であるというべきである。

三  原告は、本件再更正処分は権利の濫用であつて、違法である旨縷々反論するので、以下これについて逐一判断を示すことにする。

1  第一点は、被告のなした本件砂利採取権の価格は不当である旨の反論であるが、この点については前述したとおり被告の算定額は正当であるから失当である。

2  第二点は、被告は法人税の取扱基本通達一五六等を無視している旨の反論であるが、右通達は被告の述べているとおり実質的評価の困難な種類の営業権について実質上の損金を法人が営業権の名のもとに恣意的に計算書類上資産として計上し税の免脱をはかることを防止するための規定であつて、本件砂利採取権のごとく、客観的かつ適正な価値が容易に認められる財産権について規定されたものではないから失当である。

3  第三点は、商法の規定に反する旨の反論であるが、この点も被告の述べているとおりであつて、課税はその目的から当該法人に実質的利益があればこれに基づいて課せられるべきものであるから失当である。

以上原告反論のいずれの点からみても、前記認定の本件再更正処分が適法であることは動かない。

四  以上の次第であるから、本件再更正処分の取消を求める原告の請求は、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安藝保壽 上野利隆 林豊)

別表<省略>

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