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高知地方裁判所 昭和52年(む)2号 決定 1977年5月23日

主文

原裁判を取り消す。

理由

一本件申立の趣旨及び理由は別紙検察官作成の準抗告及び裁判の執行停止申立書記載のとおりである。

二判断

(一)  一件記録によれば、被疑者が本件被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当の理由があると認められる。

そこでさらに記録を精査して検討するに、本件は暴力団関係者である被疑者が回転式けん銃実包を所持していたものであるという事案であるところ、被疑者は右事実について全面的にあるいはその一部を否認している。

被疑者の右のような供述態度と本件事犯の性質に照せば、被疑者が高野耕治・高橋英子らの関係人と通謀し、または同人らを威迫して罪証のいんめつを図る危険性が大きいと考えられる。また本件事案の性質、右のような事情に加え、被疑者の前科関係などを考慮すると逃亡のおそれは優に認められる。

(二)  ところで原裁判は本件が違法な別件逮捕・勾留請求であるというが、一般に捜査官において、すでに逮捕・勾留された別件での身柄拘束期間を利用して、より重大な本件を取り調べる意図がありかつそれが逮捕・勾留の主たる目的であつたとしてもその別件自体に逮捕・勾留の理由・必要が認められる以上右別件が軽微な事件である等の特段の事由がない限り違法な逮捕・勾留とはいえないと解される。

そこでこれを本件事案について検討するに本件は右述のように暴力団関係による事犯で、危険かつ悪質な犯罪であつて軽微な事件とはいえず右の特段の事由がある場合に該当するとは解されない。

(三)  そうすれば本件においては犯罪の嫌疑があり勾留の理由もあり違法な別件逮捕・勾留請求とはいえないから勾留請求を却下した原裁判は取り消しを免れない。

三よつて本件準抗告の申立は理由があるから刑訴法四三二条・四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

(鴨井孝之 松村雅司 門田伸一)

<参考> 準抗告申立

(昭和五二年六月一八日)

【主文】原裁判を取消す。

本件勾留請求を却下する。

【理由】一、本件準抗告申立の理由は、弁護人藤原周作成の「準抗告申立書」と題する書面のとおりである。

二、一件記録および当裁判所に顕著な事実を総合すると別紙理由のとおり本件準抗告の申立ては理由があると認め、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

(宮崎啓一 中田忠男 伊藤正高)

【別紙 理由】

一、被疑事実一は被害者および被疑者の供述が一致していること。

二、被疑事実二は被害者において何らの被害申告もなく被害感情が明白ではないこと。

三、被疑事実一、二共に昭和五〇年五月当時のもので二年も以前の事件であるうえ、二の事実については事件関係人および事犯の概要につき当時から捜査官において知悉していながら今日まで何らの捜査もしていなかつたこと。

四、本件勾留請求以前(五月一九日)に被疑者は銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反により逮捕され、以後二〇日間にわたる起訴前の勾留をされているところ、右銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反の事案は拳銃および実包の所持という単純な事件で右勾留期間内には本件被疑事実を優に取調べられる余裕があつたのに何らの取調べをしていないこと。

五、被疑者は前記別件で保釈中の身であり保釈保証金により逃亡の虞のない担保があり、かつ二の事実の被害者である大島洋との面談を禁じられていること。

六、以上の各事情を総合勘案すると被疑者には勾留の必要性があるとは言えない。

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