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高知地方裁判所 昭和55年(ワ)275号 判決 1981年6月24日

高知県室戸市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

大深忠延

中村悟

住所(本店及び支店の所在地)並び代表者の住所居所 不明

登記簿上の住所(本店の所在地)

名古屋市<以下省略>

被告

相互物産株式会社

右代表者代表取締役

Y1

住所及び居所

不明

最後の住所

名古屋市<以下省略>

被告

Y1

住所及び居所

不明

最後の住所

名古屋市<以下省略>

被告

Y2

高知市<以下省略>

被告

Y3

主文

一  原告に対し、

1  被告らは、各自、金九四一万九〇〇〇円

2  被告相互物産株式会社は右1の金員に対する昭和五六年五月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員

3  被告Y1、同Y2は、各自、右1の金員に対する昭和五六年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員

4  被告Y3は右1の金員に対する昭和五五年七月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員

を支払え

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一  当事者

被告相互物産株式会社(以下被告会社という)は、昭和五四年八月一〇日に設立され、貴金属の販売等を目的としている株式会社であり、被告Y1、A、B(但し、商業登記簿にはB1と表示)ことB2は被告会社の取締役、被告Y2、Cは被告会社の監査役、被告Y3は被告会社の営業担当社員であり、原告は後述のとおり被告らの企画、実施する違法な金地金取引をさせられることにより損害を蒙った被害者である。(なお被告会社高知支店、高知市<以下省略>は四月末で営業を廃止している。)

二  被告らの不法行為

1  重要事項の告知義務違反

日本においては、原告を含む一般人にとって金地金についての基礎知識がなく、金の価格は国際政治、経済、社会、通貨の状況など種々の要因により決定されるのに、その正確な情報が十分でなく、加えて公認の市場もなく、金の売買方法が未だ確立していないのであるから、被告会社は本件取引をなすに際し、次の重要事項を明確に告知する義務があるところ、これを尽さなかった違法がある。

(1)  本件「予約取引」と称する取引がいかなる形態であるかの説明。被告会社より交付された「予約取引契約規則」には、3条に「取引種類・現物取引及び予約取引・予約期間は一二ヵ月以内・取引予約金の決済日は毎月末」と記載があるのみで、右予約取引契約規則を精読しても取引の具体的内容は全く不明である。

(2)  日本においては公認の市場がなく、本件「予約取引」なるものは私設市場を媒体とする先物の相場取引であって、投機性を有すること、かつ相場取引の仕組、特に価格の決定方法。

(3)  取引(売買)単位は一Kgであり、被告会社は委託者に対し高額の保証金を預託させるのであるから、被告会社の返還能力としての純資産額、財産状態等本件金地金相場取引に関する基本かつ本質事項。

2  積極的詐欺等違法勧誘行為

(1)  日本には公認市場がないのに市場正会員といって公認市場であるかの如くいい、相場取引であるのに必ず儲かるといって現物取引になぞらえた「予約取引」と称し、取引を勧誘するのは詐欺そのものである。

(2)  本件「予約取引」は、商品取引における先物取引と同一ないしその類似の形態がとられているが、商品取引においては顧客保護のため、全国商品取引所連合会と全国商品取引員協会連合会において、商品取引員の受託業務に関して次の禁止事項を定めている。

(イ) 無差別の電話勧誘

(ロ) 経済力ない客等の勧誘

(ハ) 委託者が錯覚するような方法の勧誘

(ニ) 無意味な反覆売買

しかるに被告会社は、(イ)新規委託者の開拓を目的として、面識のない不特定多数者に対して無差別に電話による勧誘を行ない、(ロ)原告自身病身で長期通院療養中であり、加えて精神薄弱の長男をかかえ、退職金、年金等で主として生計を維持している。このような者は、商品取引員の受託業務改善に関して昭和五三年九月一日から商品業界で結ばれた新規取引不適格者参入防止協定等にいう新規取引不適格者である。(ハ)取引勧誘に際し「絶対儲かる」「責任をもつ」「利子」「配当」等の言辞を用いて、投機的要素の少ない取引であると委託者が錯覚するような方法の勧誘を行ない、(ニ)同一日に既存の玉を手仕舞と同時に明らかに手数料稼ぎを目的とする新規建玉の受託を行なっている。

これらはいずれも前記商品取引員の受託業務に関しての禁止事項に反する違法な勧誘行為である。

3  公序良俗違反

本件金地金取引は、日本商工(貴金属)取引センターと称する私設の金地金市場を土台にするものであるが、その市場たるや、金相場につきその需要と供給によって自由かつ公正に形成される市場である保障は全くないこと(該市場は何らの法規制がなく監督官庁もないし、かつ加入会員と顧客との取引紛議につき自立的紛争解決機能も有しない)、さらに前記のとおり該市場を媒体とする取引につき、被告会社から顧客に対し重要事項が告知されていないばかりか、右市場に加入する被告会社が委託者の買・売注文を市場に対し取次ぐに際し、金地金の数量、価額その取引額の大きさからみて、その財産的基礎が脆弱で取引から生ずる責任を全うする保障もなく(商品取引においては、委託者債権の保全のため、委託証拠金の分離保管や社団法人商品取引受託債務補償基金協会の制度的保障がある)、しかもその人的構成からみて業務を公正かつ的確に遂行することができる知識及び経験を持たず又社会的信用もなく、その取引方法については「予約取引」なる名称を用いているが、その実体は先物取引そのものである。このような組織実体そのものが日本各地において莫大な被害を続出させているのであって、明らかに公序良俗に違反するものである。従って、かかる組織を企画実施する行為自体当然に不法行為として違法性を帯有するものである。

4  商品取引所法八条違反

商品取引所法八条は、「何人も先物取引をする商品市場に類似する施設を開設してはならない。何人も前項の施設において売買してはならない。」と定めている。先物取引とは同法二条四項によると、「売買の当事者が、商品取引所が定める基準及び方法に従い、将来の一定の時期において当該売買の目的物となっている商品及びその対価を現に授受するように制約される取引であって、現に当該商品の転売、又は買戻をしたときは差金の授受によって決済することができるものをいう」と定義している。被告会社の取引の実体は先物取引であり、前記条項に違反する違法なものである。

三  責任

被告会社を除くその余の被告らはいずれも、違法な本件取引を行なえば、原告に対し後記のとおりの損害を発生させることをあえて承知しながら、被告会社とともに、代表取締役、取締役、監査役、営業担当員として本件取引を企画、実施、推進し、原告を顧客として勧誘せしめ、後記のとおり損害を発生させたものであり、いずれも民法七〇九条に基づく責任がある。

四  損害

1  原告は昭和五四年一〇月三一日より同五五年一月二五日までの本件取引の間に、予約金として計八四一万九〇〇〇円を出捐させられた。内金一〇万円につき、昭和五五年五月一三日被告Y1から原告に対し振込送金があり、右金額を損益相殺する。

2  本件取引において出捐させられた金員は、原告の退職金であり、病身の原告及び精神薄弱の長男の将来を託すべき財産であり、これを被告らに奪われたことにより、今後の生活に対する不安で夜も眠れない日が続き精神的にも追い詰められ、この精神的被害を慰藉するには金三〇万円を下ることはないから、金三〇万円の限度で請求する。

3  本訴を遂行するためには弁護士に委託しなければならず、原告の被害金額の一割相当額である金八〇万円を以って弁護士費用となし、本件不法行為を相当因果関係あるものとしてこれを請求する。

4  なお、原告及び原告訴訟代理人は昭和五五年四月二一日より被告Y1と交渉したところ、同被告は出資金八四一万九〇〇〇円について、被告らと相談のうえ誠意をもって解決するので同年五月末まで提訴を猶予してもらいたい旨の申入があったが、同月一三日に原告宛に被告Y1より前記のとおり金一〇万円の送金があったのみで現在に至っている。

五  よって、原告は、被告ら各自に対して、前記損害金合計金九四一万九〇〇〇円と被告会社に対し右金員に対する訴状送達の翌日である昭和五六年五月八日から、被告Y1、同Y2に対し各自右金員に対する訴状送達の翌日である昭和五六年三月七日から、被告Y3に対し右金員に対する訴状送達の翌日である昭和五五年七月一九日からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と陳述し、

立証として、甲第一ないし第三号証、日本商工取引センター、株式会社高知相互銀行下知支店及び高知電報電話局に対する各調査嘱託の結果並びに原告本人尋問の結果を援用した。

被告会社代表者兼被告Y1及び被告Y2は、公示送達による適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

被告Y3は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、請求原因一項は認める、同二項1の(1)ないし(3)は認める、同2の(1)は否認する、同(2)の(イ)は認める、(ロ)は否認する、(ハ)は認める、(ニ)は争う、同3は否認する、同4は否認する、と陳述した。

理由

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一、二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第三号証、日本商工取引センター、株式会社高知相互銀行下知支店及び高知電報電話局に対する各調査嘱託の結果並びに原告本人尋問の結果を綜合すると請求原因一ないし四項の各事実が認められる(もっとも、原告と被告Y3との間においては、請求原因一項1の(1)ないし(3)の各事実、同2の(2)の(イ)及び(ニ)の各事実はいずれも争いがない。)。右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、原告の被告らに対する本訴各請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一)

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