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高知地方裁判所 昭和55年(ワ)501号 判決 1982年1月27日

原告

岩井完二

右訴訟代理人

藤原周

被告

西森秀男

右訴訟代理人

小松幸雄

主文

一  昭和五五年三月一二日付訴外小松八郎と被告間の金五〇〇万円の金銭消費貸借債務についての原告の連帯保証債務の存在しないことを確認する。

二  被告は原告に対し別紙物件目録記載の各不動産について高知地方法務局赤岡支局昭和五五年三月一二日受付第一七三一号による各根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外小松八郎(以下「小松」という)は、昭和五五年三月一二日被告から、金五〇〇万円を、利息月四分、弁済期を一応同年四月一一日とするが利息を持参すればその持参した利息相当分の期間弁済期を延長するとの約定で借り受けた。

2  原告は、右同日、被告との間で、小松の右債務を連帯保証し、かつ、原告所有の別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という)を右債務の担保に提供することとし、同不動産に、極度額七〇〇万円、債権の範囲を消費貸借取引、手形貸付取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権設定契約を締結し、高知地方法務局赤岡支局同日受付第一七三一号による根抵当権設定登記手続を経由した。

3  小松は、右同日、被告に対し、利息一か月分二〇万円と、訴外山下正三(以下「山下」という)に対し、仲介料二五万円を支払つた。

4  小松は、別紙計算書の番号2から7の支払年月日欄記載の月日に、同書同番号の支払額欄記載の利息をそれぞれ支払つた。

5  小松が山下に支払つた仲介料二五万円は、利息制限法三条により、被告に支払つた利息とみなされるべきである。

その理由は次のとおりである。

(1) 被告と山下は共に金融業者であり、親しい関係にある。

(2) 被告と山下は、利息制限法の制限の内容を熟知している。

(3) そもそも、小松は当初山下に金五〇〇万円の融資申込みをしたのであるが、同人は、資金の無いことを理由にこれを拒絶し、代つて被告を紹介したものであり、被告は、小松に対し、同人への金銭の授受に際し、同人から山下へ二五万円を支払うよう要求し、小松はやむなくこれを支払つたものである。

(4) 山下が本件消費貸借の仲介人としてなした行為は、

イ 小松が持参した登記簿謄本を見たこと

ロ 原告に面会を一回したこと

ハ 原告方に担保物件調査に行つたこと

ニ 抵当権設定登記に立会したこと

ホ 金銭授受に立会したこと

の五つであるが、右各行為の各所要時間は少い。又、右各行為は小松のため必然的に必要とするものでもない。山下の所要時間、行為の性格から二五万円は不当に高額である。

(5) 被告は、客を紹介されて利益となるので山下に謝礼すべき立場にあり、山下の(4)の行為は債権の回収を確保するための被告のための行為である。したがつて、小松が山下に支払つた二五万円は、小松が被告のために被告に代つて支払つたものというべきである。

(6) 山下は、小松の債務に責任を負担しない。

(7) もし、金融業者が互に紹介しあつて債務者から仲介料を取ることが許されるならば、経済的に苦しい債務者の負担を増加するばかりでなく、実質的に利息制限法の脱法行為を許すことになり、同法の存在意義を失う。

6  小松が支払をした利息、仲介料を利息制限法所定の利率に引き直し、超過部分を元本に充当すると別紙計算書の番号1から7の元本充当額欄記載のとおり元本に充当となり、残元本はそれぞれ同書同番号の残存元本欄記載のとおりである。

7  原告は、昭和五五年一〇月二七日被告に対し、三五五万〇八七〇円を弁済のため提供したが、被告はその受領を拒絶したので、右同日右金員を弁済供託した(なお、被告は供託金の還付を受けた)。右供託金は遅延損害金として昭和五五年一〇月一二日から同月二七日までの四万九〇一六円と、元本への充当三五〇万一八五四円となる。したがつて残存元本は二二万五四一八円である。

8  原告は、昭和五六年一二月一一日被告に対し、残存元本二二万五四一八円と同金員に対する同五五年一〇月二八日より同日までの遅延損害金七万五九六三円、合計三〇万一三八一円を弁済のため提供したが被告はその受領を拒絶したので、同月一五日右金員を弁済供託した。

9  原告の右弁済供託により、小松の被告に対する同年三月一二日付の消費貸借債務はすべて弁済されたこととなる。したがつて、右債務についての、原告の連帯保証債務も消滅し、また、前記根抵当権は被担保債権の消滅により失効した。

10  よつて、原告は被告に対し、昭和五五年三月一二日付小松と被告との金五〇〇万円の消費貸借債務に対する原告の連帯保証債務の存在しないことの確認、並びに、所有権に基づき本件不動産に対する前記根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1ないし4の各事実は認める。

2  同5は争う。小松が山下に二五万円を支払つたことについて被告は全く関与していない。それなのに、右二五万円が、被告の受領した利息とみなされるべきであるというのは、原告の独自の見解に基づくもので、全く理由がない。

3  同6は争う。

4  同7のうち、前段は認めるが、後段は否認する。

5  同8のうち、原告が、その主張の金員をその主張の経緯により弁済供託したことは認めるが、その余は否認する。

6  同9及び10は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因第1ないし第4項の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、請求原因第5項の主張(小松が山下に支払つた仲介料二五万円は、被告に支払つた利息とみなされるべきである旨の主張)について判断する。

<証拠>を総合すると、被告と山下はともに金融業者であり五年位前から親しいつき合いをしていること、両名は金融業者としてともに利息制限法の制限の内容を熟知していること、山下は、年間、件数で一〇〇件位、金額の総額で一億円位の取引をしていること、小松は当初山下に金五〇〇万円の借入れ申込みをしたのであるが、山下は資金のないことを理由にこれを拒絶し、代つて被告を紹介したこと、山下が仲介人として行つた行為は、小松に担保となる本件不動産の登記簿謄本を持参させたこと、被告と小松と三人で担保提供者たる原告に会いに行きその際本件不動産を見たこと、被告の事務所において金銭の授受に立会したこと、の四つのみであること、被告は、同人の事務所で小松に金銭を授受するに際し、山下に仲介料として五%を支払つてやつてくれと申し向けたこと、そして、小松は、被告の右要求に従つて、金銭を受領した後間もなくその現場で山下に二五万円を支払つたこと、したがつて小松としては、右二五万円は被告に支払つたという意識であつたこと、以上の諸事実が認められ、<る。>

判旨右認定事実によれば、山下の仲介人としてなした行為は、極めて容易になし得ることばかりであり(登記簿謄本の持参を要求した以外は、単に被告とともに立会したというにすぎない)、被告が自分でなせばそれで十分足りる行為であつて、山下が特に仲介人として関与する必要性は認められないし、純粋の紹介料であれば二五万円という金額は高額に過ぎるばかりでなく、これは本来被告が山下に支払うべきものであるし、借りる身の弱味で被告に言われるままに山下に二五万円を支払つた小松にとつて、右二五万円は、被告から金五〇〇万円を借り受けるに際し支払わざるを得なかつた「元本以外の金銭」であることに変りがなく、結局山下が被告に小松を紹介し、同人から山下が仲介料として二五万円を取得するということは、利息制限法の制限の内容を熟知している山下と被告が、客を紹介しその仲介料をとるという形式にすれば同法の制限を免れることができるとの考えの下に企図した行為であると推認せざるを得ない。

そうだとすれば、右二五万円は、利息制限法三条が「債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他何らの名義をもつてするを問わず、利息とみなす。」と規定し、金銭貸借における高利を抑制し、経済的弱者を保護しようとする意図を明確に打出していることに鑑み、同法三条にいういわゆる「みなし利息」に該当するものというべきである。

けだし、もしそう解さなければ、金融業者が互いに紹介しあつてそれぞれ債務者から高額の仲介料をとることも許さざるを得なくなる(右仲介料支払契約が暴利行為として無効になる余地があるのは別論とする)が、それは、前示の利息制限法の趣旨に反するばかりでなく、同法の存在意義を著しく損なうことになり、到底許されないところだからである。

三小松が支払をした利息及び仲介料について、利息制限法所定の制限利率を超える部分を元本に充当すると、別紙計算書の番号1から7の元本充当額欄記載のとおりとなり、残元本はそれぞれ同書同番号の残存元本欄記載のとおりとなる。

四原告が、昭和五五年一〇月二七日及び昭和五六年一二月一五日、それぞれその主張する経緯によりその主張の金員を弁済のため供託したことは当事者間に争いがない。

そうすると、原告主張のとおり、別紙計算書の番号8及び9に示す如く、小松の被告に対する残元本及び遅延損害金はすべて完済されたことになり、したがつて、右小松の債務についての原告の連帯保証債務も消滅し、また、前記根抵当権は被担保債権の消滅により失効したことになる。

五以上のとおりであるから、原告の本訴各請求はいずれも理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(増山宏)

計算書、物件目録<省略>

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