高知地方裁判所 昭和56年(行ウ)11号 判決 1983年8月08日
高知県土佐郡本川村葛原二二八番地一二
原告
本川生コン工業株式会社
右代表者代表取締役
山中伯夫
右訴訟代理人弁護士
徳弘寿男
高知市本町五丁目六番一五号
被告
高知税務署長
柴田晃二
右指定代理人
西口元
同
小沢康夫
同
安藤文雄
同
山本孝男
同
関安喜良
同
金子敏広
同
工藤茂雄
同
横山正之
同
坂本禎男
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 原告が別表記載の各事業年度ごとに同表上段記載のとおり確定申告した「欠損金額」及び「翌期へ繰り越す欠損金」(別表を含め以下「翌期繰越欠損金」という。)について、被告が、当該欄をそれぞれ同表下段記載のとおり更正した処分は無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、昭和五〇年一二月二四日、肩書住所地を主たる事務所の所在地と定め、生コンクリート製造販売を事業種目とする会社として資本金一〇〇〇万円で設立され、直ちに工場プラント等の建設設備に着工した。
2 原告は、会社設立直後、法人税法一四八条所定の法人設立届出書及び同法第四章「青色申告」、一二一条・同法施行規則五二条以下に基づく青色申告の承認申請書を提出し(その承認を受けようとする法人の帳簿記載事項は規則別表二〇に法定)、いずれも昭和五一年二月二三日被告に受理され、後者はその承認を得て、その制度上の義務を負担(例、同法一二六条、規則五二条ないし五九条、なお貸借対照表及び損益計算書に記載する科目につき規則別表二一)する反面、税法上の権利(特典)を取得した(例、同法一三〇条)。
3 原告は、会社設立時である昭和五〇年一二月二四日以降五一年三月末日までを第一期事業年度とし、同年以降は毎年四月一日から翌年三月末日までを一事業年度とするものであるが、第一期においては、生産は全くなく三三四万三四八三円の法人税法二条二〇号の欠損金額を計上した。
以下、昭和五一年度は同年一〇月に至りようやく生産を開始したが、欠損金額二五八二万〇四九九円を計上し、前期欠損金額との合計二九一六万三九八二円が翌期繰越欠損金となった。
昭和五二年度には三七五四万八三三四円の欠損金額を生じ、翌期繰越欠損金は六六七二万一三一六円となった。
昭和五三年事業年度には五七〇五万二〇四五円の欠損金額を計上し、翌期繰越欠損金は一億二三七六万六三六一円となった。
しかして、原告は、内国法人(法人税法二条三号)として、昭和五〇年の会社設立以降、同法七四条一項及び同規則三四条所定事項を記載した青色申告書である確定申告書を作成し、同法七四条二項及び規則三五条所定の添付書類を付して被告に対して各事業年度の確定申告書を法定期限内に提出し、かつ、その後においても連続して青色申告書である確定申告書を提出してきたものである(同法五七条二項)。なお付言すれば、右申告は現在に至るまで継続しており、一事業年度たりとも怠ったことはない。
したがって、同法五七条一項により、原告は青色申告書である確定申告書を提出した以上、内国法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されるものである。
4 被告の更正
原告は、前記のとおり、青色申告書たる確定申告書をもって法人税法七四条の規定に従い、各事業年度終了の日の翌日から二か月以内に、被告に対し、確定した決算に基づき、同条一項一号の「当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額」のうち、欠損金額を記載した確定申告書を提出してきた。
ところが、被告の職員である法人税担当の森岡某は、昭和五四年五月二二日及び同年六月五日の両日にわたって原告の事務所を訪れ、税務調査を行った際、同人は、別表上段記載のとおり原告が昭和五一年ないし昭和五三年の各事業年度につき確定申告した欠損金額及び翌期繰越欠損金について、持参の修正申告書用紙に別表下段記載の欠損金額及び翌期繰越欠損金を自らが記入するなどしたうえ、原告を強制して右修正申告書を提出させて修正申告を行わしめたものであり、この被告職員の行為により、原告の右確定申告に対する被告の更正が行われた。
5 更正の無効
被告の更正は、次のとおり重大かつ明白な違法があり、無効である。
すなわち、法人税法一三〇条によれば、原告のような青色申告者に対する更正は、その帳簿書類を調査し、その所得金額又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り、これをすることができ、かつ、更正通知書に更正の理由を附記しなければならないとされている。
しかるに、被告職員森岡は、原告の前記確定申告の内容について、原告が工場プラント等の建設当初の数年間は設備投資に多額の経費を要し、かつ、製造開始後も企業経営が軌道にのるまで数年を要すること等について顧慮することなく、単に確定申告書の欠損金額が大であるという理由だけで、全く恣意的に欠損金額及び翌期繰越金を算出して、これを修正申告書に記入したものである。つまり、同人は、原告に対し帳簿書類の不備を指摘することもなく、また記帳について何らの指示も与えないまま、まさに恣意的に更正を行ったものであり、しかも、原告の理由開示要求に対しても、「欠損金額及び翌期繰越欠損金額はこれ以上は認められない。」というにすぎず、更正の理由を明らかにすることはできなかった。
以上のとおり、本件の更正は、租税法律主義を根本的に否定した立場においてなされたものであり、無効たるを免れない。
6 よって、原告は、本件更正の無効確認を求める。
二 被告の本案前の答弁
原告の本件確定申告に対しては、被告は更正をした事実はなく、したがって、本件訴えは、法律上存在しない処分の無効確認を求めるものであって不適法である。
すなわち、国税に関する更正については、国税通則法二四条に規定されているところである。その趣旨は、申告納税方式による国税は、その納付すべき税額が納税者の申告により確定することを原則としているが、その申告にかかる課税標準、税額等が税務官庁において調査したところと異なるときは、課税の適正、充実を期する観点から、右申告にかかる税額等を変更する権能を税務署長に留保している。その権能の発動形式が「更正」と呼ばれる処分である。つまり、国税に関する更正とは、納税者の申告若しくは前の更正にかかる課税標準、税額等の変更の確定を内容とする行政処分である。その手続については、同法二八条一項が、税務署長が所定の通知書を送達して行う旨を定め、その要式行為性を明らかにしているところである。
しかしながら、本件については、右法条の規定する税務署長による更正通知書の送達はなく、したがって、原告の確定申告に対する更正は法律上成立していないのであるから、無効の問題を生じる余地はなく、訴えは不適法たるを免れない。
第三証拠
当事者の証拠関係は、記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 被告の本案前の答弁について判断するに、訴訟要件である行政処分の存在について、原告は、被告職員森岡某が、すでに確定申告を了していた原告の事務所に来所して、持参の修正申告書用紙に自らが欠損金額等を記入するなどしたうえ、原告を強制して右修正申告書を提出させ、もって原告に修正申告を行わせたことを目して、被告による更正の存在を主張するけれども、国税通則法二四条、二八条によれば、納税申告に対する更正は、税務署長が、一定の心要事項を記載した更正通知書を送達して行うものとされ、それに関する行為の主体及び形式が明定されているところであるから、原告主張のような被告職員の行為について、これを更正とみる余地は全くないものといわざるを得ない。そうすると、本件訴えは、更正たり得ない事柄について無効確認を求めるものというほかなく、結局のところ、行政処分の存在を欠くものとして不適法のそしりを免れない。
二 よって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えは不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山口茂一 裁判官 坂井満 裁判官 大谷辰雄)
別表
<省略>