高知地方裁判所 昭和59年(ヨ)43号 決定 1984年4月20日
申請人
泉陽機工株式会社
右代理人弁護士
村林隆一
同
野村清美
右輔佐人弁理士
中谷武嗣
被申請人
高知県
被申請人
高知市
被申請人
南国市
被申請人
高知商工会議所
被申請人
株式会社高知新聞社
右五名代理人弁護士
隅田誠一
被申請人
株式会社高知放送
右代理人弁護士
隅田誠一
同
竹内知行
同
井上克己
同
沖辻章
同
山上和則
同
筒井豊
右輔佐人弁理士
鈴木武夫
主文
本件仮処分申請をいずれも却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨
1 被申請人らは、別紙(一)記載の回転ジェットコースタ「ループ・ザ・ループ」を使用してはならない。
2 被申請人らの右コースタに対する各占有を解いて、高知地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
3 執行官は、右コースタを被申請人らにおいて使用しないことを条件として、被申請人らにその保管をさせることができる。
4 右の場合において、執行官は、その保管にかかることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。
二 申請の趣旨に対する被申請人らの答弁
1 主文と同旨
2 本件申請を認容する場合は仮処分執行の停止ないし取消のため解放金額を定める。
第二 当事者の主張
一 申請の理由
1 申請人は、次の実用新案(以下「本件実用新案」という。)の仮保護の権利者である(別紙(二))。
(一) 出願日 昭和五三年八月二九日
(二) 出願番号 昭和五三年第一一八八八六号
(三) 公告日 昭和五七年一月二一日
(四) 公告番号 昭和五七年第三三五七号
(五) 考案の名称 宙返りコースタ
(六) 実用新案登録請求の範囲
別紙(二)記載の各図面表示(本件実用新案につき以下同じ)の中間谷部4よりも後方及び前方を高位置となるように傾斜させて後方斜面部5及び前方斜面部6を形成しかつ該中間谷部4にはねじり状の宙返り部7を有する軌条1を敷設し、かつ該軌条1の全体は平面的に見れば有端の略直線状として敷設し、乗物2は前後方向に往復運動し、さらに、該宙返り部7と上記後方斜面部5との間の低位置にプラットホーム8を設けると共に、上記軌条1を走行する乗物2を発進方向とは逆の後方に引揚げるための引揚機構9を該プラットホーム8乃至後方斜面部5に設けて構成されたことを特徴とする宙返りコースタ。
2 本件実用新案の構成要件及びその作用効果は、次の通りである。
(一) 本件実用新案は、宙返りコースタであつて、
(1) 中間谷部4よりも後方及び前方を高位置となるように傾斜させて後方斜面部5及び前方斜面部6を形成し、
(2) かつ該中間谷部4にはねじり状の宙返り部7を有する軌条1を敷設し、
(3) かつ該軌条1の全体は平面的に見れば有端の略直線状として敷設し、乗物2は前後方向に往復運動し、
(4) さらに、該宙返り部7と上記後方斜面部5との間の低位置にプラットホーム8を設けると共に、
(5) 上記軌条1を走行する乗物2を発進方向とは逆の後方に引揚げるための引揚機構9を該プラットホーム8乃至後方斜面部5に設けて構成されたこと、
という要件からなつている。
(二) しかして、本件実用新案は、右の要件からなる宙返りコースタであることによつて、次のような作用効果をあげる。
(1) 作動と使用方法
(イ) 乗客は、第1図に実線で示されたように低位置のプラットホーム8に停止中の乗物2に乗り込む。
(ロ) その後、引揚チェーン13等から成る引揚機構9によつて矢印Aの如く乗物2は後方斜面部5の所定位置まで引き揚げられる。
(ハ) その後、引揚機構9から、乗物2を放下すれば、後方斜面部5を矢印Bのように発進し、前進し、宙返り部7で適数回の宙返りを、矢印Cの如く行ない、さらに矢印Dの如く前方斜面部6の途中まで登りつめる。
(ニ) その後、矢印E、Fで示す如く、乗客の背の方向に後進し、宙返り部7で後方宙返りを適数回行う。
(ホ) その後、プラットホーム8を通過して後方斜面部5を矢印Gのように低い位置まで再度登り、その後、矢印Hのように十分に遅い速度で前進し、プラットホーム8で制動装置を掛けて停止し、乗客は、低位置のプラットホーム8に降りる。
(2) 右のように、乗客は、最初に斜面部5を後方に引き揚げられ、適度の恐怖感をたかめられる。
そして、矢印Gのような前宙返りだけでなく、矢印Fのような後宙返りの非常なスリルをも楽しむことが出来る。
(3) 矢印Hのように最後に後方斜面部5を前進するときには速度は低減しているから、プラットホーム8又は乗物2に設けられる制動装置は著しく小型化が出来る。
(4)(イ)プラットホーム8は中間谷部4に設けられて低位置であるから、乗客は乗り降りが容易であり、エレベータ等の昇降設備を別途備える必要もない。
(ロ) 引揚機構9は引揚チェーソやケーブル等で簡単に製作出来るし、かつ安価である。
3 被申請人らは、昭和五九年三月二〇日から同年五月一三日まで、'84高知・黒潮博覧会(以下「黒潮博覧会」という。)に使用するものとして、既に高知市布師田に別紙(一)記載の回転ジェットコースタ「ループ・ザ・ループ」(以下「本件コースタ」という。)を設置している。本件コースタの構造は、別紙(一)記載の通りである。
4 本件コースタの構造上の特徴および作用効果は、次の通りである。
(一) 構造上の特徴
本件コースタは、宙返りコースタであつて、
(1) 別紙(一)添付の各図面表示(本件コースタにつき以下同じ)の中間部④よりも後方及び前方を高位置となるように傾斜させて後方斜面部⑤及び前方斜面部⑥を形成している。
(2) 該中間谷部④にはねじり状の宙返り部⑦を有する軌条①を敷設してある。
(3) 該軌条①の全体は、平面的に見れば有端の略直線状として敷設し、乗物②は前後方向に往復運動している。
(4) 該宙返り部⑦と後方斜面部⑤との間の低位置にプラットホーム⑧を設けている。
(5) 軌条①を走行する乗物②を発進方向とは逆の後方に引き揚げるための引揚機構⑨(、)を後方斜面部⑤に設けている。
(二) 作用効果上の特徴
(1) 作動と使用方法
(イ) 乗客は、低位置のプラットホーム⑧に停止中の乗物②に乗り込む。
(ロ) その後、引揚機構⑨(、)によつて矢印の如く、乗物②は、後方斜面部⑤の所定位置まで引き揚げられる。
(ハ) その後、引揚機構⑨(、)から、乗物②を放下すれば、後方斜面部⑤を矢印のように発進し、前進し、宙返り部⑦で宙返りを、矢印の如く行い、更に矢印の如く前方斜面部⑥の途中まで登りつめる。
(ニ) その後、矢印、で示す如く、乗客の背の方向に後進し、宙返り部⑦で後方宙返りを行う。
(ホ) その後、プラットホーム⑧で制動装置を掛けて停止し、乗客は、低位置のプラットホーム⑧に降りる。
(2) 右の結果、本件コースタは、本件実用新案と同じ作用効果を有する。
(三) 右の(一)、(二)によつて明らかなように本件コースタは、本件実用新案の技術的範囲に属する。
(1) 右(一)の(1)は申請の理由2項(一)(1)の要件を充足する。
(2) 右(一)の(2)は同2項(一)(2)の要件を充足する。
(3) 右(一)の(3)は同2項(一)(3)の要件を充足する。
(4) 右(一)の(4)は同2項(一)(4)の要件を充足する。
(5) 右(一)の(5)は同2項(一)(5)の要件を充足する。
(6) 右(二)の作用効果は同2項(二)の作用効果と同じである。
5 前項のように、本件コースタは、本件実用新案の技術的範囲に属し、従つて、本件仮保護にかかる実用新案を侵害しているものである。従つて、申請人は、被申請人らに対し、使用禁止(差止)並びに損害賠償の訴を提起する準備中である。
6 ところが、被申請人らは、主催者として昭和五九年三月二〇日から黒潮博覧会を開催し、現に本件コースタを使用しているのであり、このまま本案を提起すると、同博覧会は同年五月一三日に終了し、差止請求権は行使することができなくなり、仮保護の権利はその本来の効力を発揮することができなくなり、申請人としては回復することのできない損害を蒙ることになる。
7 よつて、申請人は、被申請人らに対し、申請の趣旨記載の裁判を求める。
二 申請の理由に対する認否
1 1項は認める。
2 2項について
(一) (一)の本件実用新案の構成要件は次のとおり分説すべきである。
(1) 宙返りコースタであること。
(2)(イ) 中間谷部4よりも後方及び前方を高位置となるように傾斜させて後方斜面部5及び前方斜面部6を形成し
(ロ) かつ該中間谷部4にはねじり状の宙返り部7を有する軌条1を敷設すること。
(3) かつ該軌条1の全体は平面的に見れば有端の略直線状として敷設すること。
(4) 乗物2は前後方向に往復運動すること。
(5) さらに、該宙返り部7と上記後方斜面部5との間の低位置にプラットホーム8を設けること。
(6) 上記軌条1を走行する乗物2を発進方向とは逆の後方に引き揚げるための引揚機構9を該プラットホーム8乃至後方斜面部5に設けること。
(二) (二)記載の作用効果については、実用新案公報中に同趣旨の記載があることを認める。
3 <省略>
4 4項について
(一) (一)、(二)は認める。
(二) (三)については右2項(一)の(1)、(2)(イ)及び(ロ)、(3)ないし(6)の分説と対応する限りにおいて認める。
5 5項は争う。
6 6項中、被申請人らが黒潮博覧会の主催者であること及び本件コースタが昭和五九年三月二〇日から使用に供されていることは認め、その余は否認する。
三 被申請人らの主張
1 本件コースタの使用者等について
(一) 本件コースタの使用者(設置者かつ占有者)は、申請外明昌特殊産業株式会社(以下「申請外会社」という。)であり、被申請人らは、本件コースタの使用者ではない。
(二) 仮に本件コースタの使用者が申請外会社のみではないとしても、黒潮博覧会の運営管理を担当するのは、被申請人らではなく、権利能力なき社団である「'84高知・黒潮博覧会実行委員会」であり、本件コースタを含む黒潮博覧会遊戯施設の設置運営業務についても右委員会と申請外会社との契約によつてなされているものであつて、被申請人らは本件コースタの使用者ではない。
(三) 仮に被申請人らも本件コースタの使用者であるとしても、申請外会社もまたこれを使用する者で、かつ、その使用につき固有の利益を有しているのであるから、被申請人らのみを相手方とする本件仮処分申請が認容されたとしても、その効力は申請外会社には及ばず、かつ、本件コースタに対する直接占有は申請外会社にあるのであるから、申請人が申請の趣旨2項以下において求める本件コースタの執行官保管に関する仮処分命令の執行は許されない。
2 申請外会社の先使用権について
本件コースタは、申請外会社が製造したものであるが、同会社は、本件実用新案の出願日である昭和五三年八月二九日以前から既に本件実用新案と同じ構成要件及び作用効果を有するジェットコースタを製造販売する事業を準備し、具体的にはその設計図面の作成をも完了していた。
従つて、申請外会社は、少なくとも「本件実用新案登録出願に係る考案の内容を知らないで自らその考案をして、本件実用新案登録出願の際、現に日本国内においてその考案の実施の事業の準備をしていた者」(実用新案法二六条において準用する特許法七九条)に該当し、この結果、申請外会社は、その準備をしていた考案及び事業の目的の範囲内において、本件実用新案の出願公告に基づく仮保護の権利について通常実施権(先使用権)を有している。
ところで、本件コースタは、まさしく申請外会社が準備をしていた考案及び事業の目的の範囲内のものであるところ、先使用権を有する者が製造した物を第三者が使用することは当然に適法であるから、結局、被申請人らが本件コースタを使用する行為は、申請外会社が有する先使用権に基づく適法な行為である。
3 本件実用新案の拒絶査定の蓋然性について
本件実用新案に対しては、昭和五七年三月二〇日に申請外会社から、また、同年三月一二日には申請外株式会社岡本製作所から、それぞれ実用新案登録異議の申立てがなされ、現在特許庁において右の各異議事件の審理が進行中である。
ところで、本件仮保護の権利に係る考案は、申請の理由に対する認否2項(一)において分説した(1)、(2)(イ)及び(ロ)、(3)ないし(6)の構成要件から成るが、これらの個々の構成要件自体は、本件実用新案の出願前から公知であつたものであり、しかも、これらの構成要件を寄せ集めて本件実用新案を構成することは、まさに当業者ならずとも極めて容易になし得ることである。この意味において、本件実用新案の出願に対しては、右異議事件において拒絶査定がなされる蓋然性が極めて高いと言わなければならない。
4 保全の必要性について
黒潮博覧会は、新高知空港完成、ジェット機就航を機会に「地方〜その望ましき未来」をテーマとして、高知県を中心とする生活、文化、経済の歴史ならびに将来を的確にとらえ、県民のなかに新世紀を築く機運の醸成を目的として、高知県、高知市、南国市、高知商工会議所、高知新聞社、高知放送等の地方公共団体及び公共性の強い法人等六者がこれを主催し、その事業内容も右の目的に適合すると認められたものに限定され、収支決算において剰余金が生じた場合もこれを公共に還元することになつており、これらの点からみても黒潮博覧会が、公共、公益を目的とするもので、営利を目的とするものでないことは明らかで、従つて、また通商産業省、運輸省、郵政省、農林水産省、建設省、科学技術庁、文部省等もこれを後援しているものである。
そして、本件コースタは、黒潮博覧会のいわば象徴的機能、集客的機能を果たすものであり、被申請人らは、採算性を犠牲にして数千万円を投じて本件コースタを会場南西の最も人目を引き易い場所に誘致、設置しているのであるから、その使用を禁止されると、総投資額四〇数億円、出展者四国四県、高知県下五三市町村等の地方公共団体、業者ら総数二〇〇以上に及ぶ極めて公共性の強い黒潮博覧会そのものが休業したかの如き外観を呈する恐れがあり、黒潮博覧会の成否をも左右しかねない重大かつ回復し難い損害を生じることになる。
これに対し、本件仮処分申請が認められない場合に申請人が蒙る損害は、黒潮博覧会の開催期間(五五日間)に限定される僅少で、かつ、将来の本案判決に基づく金銭賠償によつて回復容易なものであり、しかも、被申請人らの賠償資力に何ら不安はない。
仮に申請人が有する権利が財産権的なものだけでなく、精神的な権利も含むものであるとしても、本件仮処分申請は、あくまでも事情を全く知らなかつた最終的ユーザーの立場にある被申請人らのみに対するものであり、申請外会社を相手方とするものではないから、本件仮処分が認容されないことによる申請人の損害としては、せいぜい、黒潮博覧会において本件コースタを受注し得た場合の得べかりし利益か、博覧会の会期中における本件コースタの使用についての実施料相当額にとどまるものである。
更に、本件実用新案は、昭和五七年一月二一日に出願公告されたものであり、本件仮保護の権利は既に右の日から成立していたものである。しかも、本件紛争の背景は、本来、競業関係にある申請人と申請外会社との間の企業競争、実用新案侵害紛争に端を発しているとともに、申請人自身も従前他の博覧会等に遊戯設備を設置したことがあることからすれば、本件の博覧会事務局と申請外会社との契約の骨子、すなわち、本件コースタの設置及び管理運営(使用関係)についての両者の法的関係を知悉していたことは明らかである。
しかるに、本件仮処分申請は、申請外会社を相手方とすることなく(ちなみに、申請外会社は申請人から本件実用新案の侵害に関して警告を受けたことが一度もない。)、右の背景事情を全く知らない被申請人らのみを相手方として、しかも計画の変更が不可能となつた昭和五九年三月一〇日の警告を経たのみで申請されたものである。
5 よつて、本件仮処分申請は理由がない。
四 <省略>
理由
一申請人は、被申請人らにおいて使用している本件コースタが本件実用新案の技術的範囲に属し、従つて、被申請人らは本件実用新案の仮保護の権利を侵害していると主張するのに対し、被申請人らは、本件コースタの使用者は申請外会社であつて、かつ、申請外会社は本件コースタにつき先使用権を有するとともに、本件実用新案の各構成要件は、その出願前から公知であつたのであるから、既に申立てがなされている本件実用新案の登録に対する異議事件において拒絶査定がなされる蓋然性が極めて高い等主張している。従つて、右被保全権利にかかる各争点については慎重な審理を尽して判断する必要がある。しかも、本件において、申請人は、本件実用新案の仮保護の権利を被保全権利として、被申請人らに対し、本件コースタの使用を禁止し、その占有を排除するという、いわば権利の終局的実現(いわゆる断行の仮処分)を求めているのであるから、被保全権利に関する判断をひとまずおいて、まず保全の必要性について判断する。
二ところで、本件は、いわゆる仮の地位を定める仮処分であるところ、仮の地位を定める仮処分における保全の必要性は、権利関係が確定しないために債権者(申請人)に生ずる著しい損害を避け、又は急迫な強暴を防ぐなどの理由で、暫定的な地位を形成して権利関係を規整する必要がある場合にはじめて認められるべきものであり、損害が著しいというためには、仮処分によつて債務者(被申請人)の蒙る損害ないし不利益に比べて、債権者の受ける利益が著しく大きいものであることを要し、特に断行の仮処分にあつては、この判断は慎重でなければならないことはいうまでもない。
そこで、本件につき検討するに、一件記録によれば、次の事実が一応認められる。
1 本件コースタは、申請外会社の製造・所有にかかるもので、黒潮博覧会のうち、「プレイランド」と称する部分において、他の遊戯施設とともに設置使用されている(本件コースタが黒潮博覧会において使用されていることは当事者間に争いがない。)。
なお、本件コースタの使用者については疎明上必ずしも明らかではないが、申請外会社において本件コースタの運営管理業務を担当していることは明白であり、仮に被申請人らが本件コースタの使用者であるとしても、運営管理の一部を担当しているにすぎないものである。
2 黒潮博覧会は、「新高知空港完成、ジェット機就航を機会に『地方〜その望ましき未来』をテーマとして、高知県を中心とする生活文化、経済の歴史ならびに将来を的確にとらえ、県民のなかに新世紀を築く機運」を醸成させることを目的とし('84高知・黒潮博覧会および実行委員会会則二条)、被申請人高知県、同高知市、同南国市、同高知商工会議所、同株式会社高知新聞社及び同株式会社高知放送の六者が主催し(同会則三条)、通商産業省など六〇にも及ぶ官公庁、会社又は団体がこれを後援しており、同博覧会の事業内容も前述の目的に適合すると認められたものに限定され(同会則一五条)、収支決算において剰余金が生じた場合は、一部を公共に還元する(同会則一七条)など、公共的な性質を有するものである。また、同博覧会は、高知市布師田の高知県中小企業団地造成地約二二万平方メートルを会場とし、うち、八万平方メートルの敷地に二二のパビリオンを設置し、総投資額四〇数億円、出展者総数二〇〇以上(四国四県、高知県下五三市町村を含む)、予想観客数八〇万人、という大規模なものである。
なお、黒潮博覧会の開催期間は、昭和五九年三月二〇日から同年五月一三日までの五五日間に限定されている。
3 本件コースタは、四国において初めて設置された回転式ジェットコースタであり、黒潮博覧会の宣伝用ポスター等にもその写真を大きく掲示され、同博覧会において大きな集客的機能を有し、いわゆる目玉商品として多大の経費を支出して設置されたものである。そして、本件コースタの料金は、五〇〇円であり、その利用人員は、昭和五九年三月二〇日から同年四月一〇日まで入場者総数三八万一五六五人の13.68パーセントにあたる五万二二一五人に及んでいる。
以上の疎明事実によれば、申請の趣旨記載のとおりの仮処分により、被申請人らが本件コースタの使用を禁止されたとすれば、被申請人らは、本件コースタによる売上金が得られなくなるばかりでなく、代表的遊戯機の運転が停止されることによつて集客的機能が失われることとなり黒潮博覧会の入場者の減少を来たし、ひいては公共性の強い黒潮博覧会の成果にも大きなダメージを及ぼすことが容易に予想されるところであり、回復が著しく困難かつ甚大な損害を蒙ることとなる。
これに対し、本件仮処分申請が認容されることによる申請人の利益は、黒潮博覧会の開催期間(五五日間)中における権利侵害の停止であり、これが認容されないことによる申請人の損害としては、前記のとおり、仮に被申請人らが本件コースタの使用者であるとしても、本件コースタは申請外会社の製造・所有にかかるものであり、被申請人らはその運営管理の一部を担当しているにすぎない立場にあることに照らすと、せいぜい、申請人が黒潮博覧会において本件コースタを受注し得た場合の得べかりし利益か、黒潮博覧会の会期中における本件コースタの使用についての実施料相当額にとどまるものと考えられるのであり、被申請人らが本案において敗訴し、その損害を賠償するとしても、被申請人らには地方公共団体が含まれているのであつて、その資力に問題はなく、被申請人らにおいてその支払が将来において不可能ないし困難であるとは到底考えられない。
従つて、本件仮処分が認容された場合に被申請人らが蒙る損害と、申請人が受ける利益とを比べると、後者が前者よりも著しく大きいものであるとは到底認められず、かえつて両者間には著しい不均衡が存在することが明らかであり、前述したところから、かかる場合には保全の必要性を認めるべきではないというべきである。そして、実用新案権が財産的なものだけでなく、精神的な権利を含むものであるとしても、右結論を左右するものではない。
なお、裁判所は、申請の趣旨を超えない範囲内において、申請(申立)の目的を達するに必要な仮処分を発することができるが、一件記録を精査しても、被申請人らに対し右範囲内における占有移転禁止等の仮処分につき保全の必要性があるものとは認められない。
三以上の次第で、本件申請は、保全の必要性についての疎明を欠くこと明らかであり、保証金をもつて疎明に代替させることも相当でないと認められるので、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものとして却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(山口茂一 大谷辰雄 田中敦)
別紙(一) 被申請人らの回転ジェットコースタ
1 所在地 高知市布師田
2(一) 図面の説明
第1図は、ジェットコースタを示す全体正面図
第2図は、同平面図
第3図は、同左側面図
第4図は、同右側面図
(二) ジェットコースタの説明
①は軌条であり、平面的に見れば、有端の略直線状である。乗物②はこの軌条①に沿つて走行するが、宙返りをしても乗物②が軌条①から脱落しないようにしてある。この軌条①は中間谷部④よりも後方及び前方を高位置となるように傾斜させて後方斜面部⑤及び前方斜面部⑥に形成されている。
この中間谷部④の略中央部にはねじり状の宙返り部⑦が形成されている。
この宙返り部⑦は360度の宙返りをなすようにねじられて構成されている。
⑧はプラットホームであつて、乗客が乗物②に乗降出来る場所であるが、該プラットホーム⑧は宙返り部⑦と後方斜面部⑤との中の範囲において、低位置であるところの中間部に設けられている。
は滑車であり、は引上ロープであつて、両者によつて引揚機構⑨を構成してあつて、後方斜面部⑤に設けてある。