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高知地方裁判所 昭和59年(ワ)363号 判決 1985年11月19日

原告 有限会社 吉本交通

右代表者代表取締役 吉本亀

右訴訟代理人弁護士 山下訓生

被告 中田憲二

右訴訟代理人弁護士 松岡章雄

主文

一  被告は原告に対し金五一万六一八五円及びこれに対する昭和五九年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

(当事者の申立)

一  原告

1  被告は原告に対し金一〇二万九五二四円及びこれに対する昭和五九年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(当事者の主張)

一  原告の請求原因

1  事故の発生

原告は、登録番号高五五あ五五三四の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)を所有し、これを旅客運送業の用に供していたものであるが、昭和五七年一二月四日午後六時四二分頃、高知県南国市明見九三三番地先道路において、原告の従業員黒岩正富が原告車を運転しユーターンするため中央分離帯付近に差しかかった際、折から交通事故の処理にあたっていた警察官に指示されたので停車し待機していたところ、被告運転の軽貨物自動車が原告車に追突し、そのため、原告車の後部が大破した。

2  被告の責任

被告は、前方不注視等の過失により右事故を惹起したものであるから、これによる原告の損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の損害

(一) 原告は、原告車が、大破したことにより修理代が高額になり修理に要する日数もかなりかかるなど、経済的に全損というべき状態になったため、これを廃車処分し新車を購入したので、原告の損害は次のとおりとなる。

(1) 原告車の時価 三〇万円

(2) 休車損害 七万八三二五円(一日平均水揚額二万九〇〇九円から燃料費として約一〇パーセントを控除した残額の三日分)

(3) メーター移設費 七万九二二〇円

(4) 無線機移設費 三万六二〇〇円

(5) 消却損 四六万五八七九円

算式 135万円(自動車価格)×0.536(法定消却率)×235日(消却日数)/365日(年間日数)

(6) 新車登録諸費用 六万九九〇〇円

(二) 仮に右(3)ないし(6)が本件事故による損害でないとしても、原告車は、本件事故時までの累積走行距離が二九万五〇八七キロメートルであって、なお二〇万キロメートル、少なくとも二年間は走行できた筈であるから、原告は、本件事故により、新車購入時期を二年間早められたことに帰し、そのため、右(3)、(4)、(6)及び新車価格一三五万円の合計一五三万五三二〇円の五パーセント(民事法定年利率)に相当する七万六七六六円に二年のホフマン係数一・八六一を乗じた一四万二八六一円の損害を被ったことになるので、少なくとも、これと右(1)、(2)を合わせた五二万一一八六円が、本件事故による原告の損害というべきである。

4  本訴請求

よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、前記3の(一)の(1)ないし(6)の合計一〇二万九五二四円(二次的には同(二)の五二万一一八六円)及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年一一月二五日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち、原告車が経済的に全損というべき状態になったことは認め、その余は争う。

(証拠関係)《省略》

理由

一  事故と責任

請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  損害

1  車両損害

本件事故により原告車が大破し経済的に全損というべき状態になったことは当事者間に争いがない。そして、このような場合には、事故時(不法行為時)を基準として、被害を受けなかったとすれば有したであろう車両の交換価格から、被害を受けた後の交換価格、即ち下取り或はスクラップ価格を控除した残額をもって、車両破損による損害とみるのが相当であるところ、《証拠省略》によれば、損害保険協会が認定しているアジャスターは事故前における原告車の交換価格を三〇万円と評定していること、原告は原告車をスクラップとして処分するほかない立場にあるがその処分によって得られる代金は五〇〇〇円程度と見込まれていることが認められ、これらの額が著しく不合理であると断定できるほどの資料はないので、原告車の破損による損害額は三〇万円から五〇〇〇円を控除した二九万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

2  休車損害

《証拠省略》によれば、原告は、使用不能となった原告車の代車として新車を代金一三五万円で購入したが、それまで三日間にわたり、休車を余儀なくされたこと、原告が営業の用に供している車両一台当たりの一日の平均水揚額は二万九〇〇九円、平均所要燃料費は水揚額の約一〇パーセント相当額であること、右休車中には前記黒岩以外の従業員が原告車で乗務する予定であったもので、原告は、その乗務ができなかったけれども、右従業員に所定の賃金を支払ったことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実から判断すると、原告は、休車により、一日につき二万九〇〇九円からその一〇パーセント相当額を控除した二万六一〇八円で、都合七万八三二四円の損害を被ったものというべきである。

3  その他の損害

《証拠省略》によれば、原告は、新車を購入したことに伴い、請求原因3の(一)の(3)、(4)、(6)の費用を支出したことが認められるが、原告車は、その性質上、本件事故に遭わなかったとしても、やがては新車に買い替えなければならないものであり、その際には、必ず右の費用を要するのであるから、その費用自体を本件事故による損害とみることはできない。また、原告は、損害として消却損を主張しているが、これは、右の買替えの時から発生すべき減価消却費が本件事故直後から発生することになったものにすぎないので、やはり本件事故と相当因果関係にある損害であるとみるのは妥当でない。

しかし、《証拠省略》によれば、原告車は、原告が新車として購入してから本件事故時までの累積走行距離が二九万五〇八七キロメートルであって、原告の他の営業車や他社のそれの実績等に徴し、なお二〇万キロメートル、概ね二年間は走行できた筈であったと推認でき、この認定を左右するに足りる証拠はないから、原告は、本件事故により、右費用と前記新車代金をあわせた一五三万五三二〇円の支出を二年間早められることを余儀なくされたことに帰し、これについてのいわゆる逆行的中間利息相当額、即ち、右金額の五パーセント(民事法定年利率)に相当する七万六七六六円に二年のホフマン係数一・八六一を乗じた一四万二八六一円の損害を被ったというべきである。

三  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、金五一万六一八五円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年一一月二五日(訴状送達の日の翌日)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当であって棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山脇正道)

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