高知家庭裁判所 昭和60年(少)1378号 決定 1985年11月11日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 法定の除外事由がないのに、昭和60年5月2日午前10時23分ころ、高知市○○○町×番×号付近道路において、自動二輪車(高み×××)を運転して道路の右側部分を通行した
第2 公安委員会の運転免許を受けないで、前同日午前10時26分ころ、同市○○町×番××号付近道路において、前記自動二輪車を運転した
第3 自動二輪車を反復継続して運転し、もつてその運転の業務に従事していたものであるが、前第2記載の日時に、同記載の自動二輪車を運転し、同記載の○○町×番××号先道路を西方(○○町方面)から東方(○○町方面)に向かって進行していたが、同所は幅員が約4.8メートルで、道路両側に商店等が連立し、歩行者もあり、しかも公安委員会が最高速度を毎時20キロメートルと定めた道路であつたから、前方注視を厳にし、その安全を確認して進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、後方から追跡してくるパトカーをバツクミラーで現認することに一時注意を奪われ、進路前方に対する安全確認をおろそかにしたまま、慢然時速約60キロメートルないし70キロメートルで進行した過失により、折から、対面歩行してきたA(当時68歳)に気づくのが遅れ、同人を約8.1メートル前方に認めて急制動の措置をとるも及ばず、同人に自車を衝突させて転倒させ、よつて同人をして同日午前10時52分ころ、高知市○○××丁目×番××号所在の○○病院において、両側多発性肋骨骨折、両側血気胸を伴う胸部外傷により死亡するに至らしめた
第4 公安委員会の運転免許を受けないで、
1 昭和60年7月29日午後1時ころ高知県土佐市○○××番地先道路において、原動機付自転車(車台番号×E×-××××××号)を運転した
2 前同日午後1時30分ころ、前同所×××番地先付近道路において、原動機付自転車(土佐市ほ×××号)を運転した
3 前同日午後2時ころ、前同所×××番地先付近道路において、原動機付自転車(土佐市わ×××号)を運転した
4 前同年8月1日午後零時40分ころ、前同市○○町丙×××番地先道路において、原動機付自転車(土佐市わ×××号)を運転した
ものである。
(罰条)
第1の事実について、道路交通法17条4項、119条1項2号の2。
第2、第4の事実について、同法64条、118条1項1号。
第3の事実について、刑法211条前段。
(情状及び措置について)
少年は、中学3年在学中の昭和58年4月ないし同年6月にかけて、共犯者少年と共に単車9台を次々と窃取したうえ、これを無免許で乗り回し、かつ自動販売機7台から現金10、500円位、缶ジユース31缶位(時価3,100円相当)を窃取したことで、当裁判所で不処分の審判を受けた前歴を有するものであるが、昭和60年2月に、保護者の承認のないまま、自動二輪車(400CC)を購入して無免許運転を反復し、同年3月4日に原付免許を取得して、同月10日更に原動機付自転車を購入し、これらを乗り回しているうち、非行事実第1、第2記載の道路交通法違反をし、これを現認したパトカーに追跡されて逃走中、同第3記載の業務上過失致死事件を惹起した。ところが、少年は、前記第1ないし第3の事件について当裁判所が調査中の昭和60年7月3日に、しかも前記違反及び事故により免許を取消された直後に、原動機付自転車の無免許運転をし(本件については審判不開始決定をした)、更にまた前記第1ないし第3の事件について検察官送致決定により公判手続が開始された後に、前記非行事実第4記載の無免許運転を犯したものである(もつとも、前記第4の1については、警察官に現認検挙されたものであるが、同第4の2ないし4は少年の供述にもとづき、原動機付自転車を少年に貸与した少年の友人の供述を得て、その確認がなされたものである)。
以上の如き少年の本件非行とその経緯に鑑みると、少年の道路交通法規軽視の態度は顕著であり、またその惹起した結果も極めて重大であるところ、少年はなお法規範意識の覚せいが十分でなく、加えて少年の保護者は、少年が無免許運転を反復していることを知りながら、それを阻止する手当てをせず、また、業務上過失致死事件の被害者の遺族との間でも、経済的余力がないこともあつて、被害弁償をなし得ず、示談を成立させることができないものである。
もつとも、他方少年は、前記中学生時代の非行後は道路交通法関係以外の非行はなく、定職に従事し、夜間定時制高校に通い、生活態度も真面目であつて、更に一般非行を反復する可能性は、現在においては顕在化していない。
これら諸点を総合考慮すれば、少年の規範意識の覚せいを図り、少年に社会生活上必要な規範を身につけさせるためには、少年を施設に収容してその教育を図るほかないが、一般的な非行少年の教育を図る施設が相当であるとするにはちゆうちよせざるを得ないところであり、短期処遇を前提とする交通関係非行少年の教育を図る施設については、その処遇期間の関係で、少年の教育を全うするうえで不十分ではないかともみられる。しかし、他方少年の年齢を考えると刑事処分をもつて臨むことにも疑問がないではない。
結局、以上の如く、少年の教育を図るための施設については、現存の施設のいずれが相当かは、直ちに決め難いところがあるが、本件が移送された経緯、非行の内容、その他の少年の素質、環境等から考えて、比較的適当と考えられるところの中等少年院(交通、短期課程)に少年を送致することとする。
よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条に従い、主文のとおり決定する。
(裁判官 金子與)
〔参照〕 移送裁判所(高知地 昭60(わ)323号 昭60.9.30決定)
主文
本件を高知家庭裁判所に移送する。
理由
本件公訴事実は、
被告人は
第一 法定の除外事由がないのに、昭和60年5月2日午前10時23分ころ、高知市○○○町×番×号付近道路において、自動二輪車(高み×××)を運転して道路の右側部分を通行し
第二 公安委員会の運転免許を受けないで、右同日午前10時26分ころ、同市○○町×番××号付近道路において、右自動二輪車を運転し
第三 自動二輪車運転の業務に従事していたものであるが、右第二記載の日時に、自動二輪車を運転し、前記○○町×番××号先道路を西方(○○町方面)から東方(○○町方面)に向かつて進行していたが、同所は幅員約4.8メートルで、道路両側に商店等が連立していて歩行者もあり、しかも同所は西方から東方へ一方通行と定められ最高速度も毎時20キロメートルと定められた狭隘な道路であつたから適宜速度を調節するとともに前方注視を厳にして進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠りバツクミラーで後方の視認に注意を奪われ、進路前方に対する安全確認を一時おろそかにしたまま漫然時速約60キロメートルないし70キロメートルで進行した過失により、折から対面歩行してきたA(当時68歳)に気づくのが遅れ、同人を約8.1メートル前方に気づき急制動の措置をとるも及ばず同人に自車を衝突転倒させ、よつて同人をして同日午前10時52分高知市○○×丁目×番××号所在の○○病院において、両側多発性肋骨骨折、両側血気胸を伴う胸部外傷により死亡するに至らしめ
たものである。
というものであり、右事実は、当公判廷で取調べた各証拠によつて明らかである。
そこで、被告人の処遇につき検討するに、被告人は、昭和58年11月16日原動機付自転車の無免許運転により不処分決定を受けたことがありながら、昭和60年2月免許もないのに自動二輪車を購入し、その後同年3月4日原動機付自転車の免許は受けたものの、同月ころから右自動二輪の無免許運転を繰り返していたもので、本件公訴事実第一の犯行を交通取締中のパトカーの警察官に目撃され、高知市○○町×番××号先交差点東側付近で同警察官から停止を求められるや、これを無視し急加速して逃走を開始し、前記第三事実記載の場所において、パトカーの動静をバツクミラーで視認するのに注意を奪われて、同事実記載の犯行に及んだものであり、その事案の重大性に加え、反省の情少なく、本件後、原動機付自転車の免許につき取消処分を受けたのに同年7月3日には同自転車の無免許運転をなすなど、被告人の猛省を促す必要があり、本件について家庭裁判所から検察官に送致され、当裁判所に係属するに至つたことは首肯できないことはない。
しかしながら、本件につき刑事処分を科するとすれば、犯行態様、被害の重大性、遺族に対する被害弁償も十分でないことなど諸般の点から、被告人に対しては懲役刑を科することとなり、かつ、その執行の猶予をすることはできないところであるが、被告人は未だ16歳であり、今まで保護処分を受けたことはなく、性格的歪みないし非行性が固定してしまつてもはや保護処分による変容の可能性がないというほどの状態に至つているとまではいえないところである。
以上を総合して判断すると、本件は刑事事件として処置するよりも、家庭裁判所で調査審判を経たうえ、適切な保護処分に付するのが相当であると認められるので、少年法第55条により本件を高知家庭裁判所に移送する。
よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 松本哲泓)