大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知簡易裁判所 平成6年(ハ)613号 判決 1995年1月17日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求

被告は、原告に対し、金一万三六九八円及びこれに対する平成六年六月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  請求原因

1  原告は、平成六年三月九日被告銀行万々支店(以下「被告支店」という。)に対し、金一億円を振込送金して預け入れた。

2  原告は、同日午後二時三〇分ころ、事務員西山歌子に右預金の通帳及び届出印を押捺した普通預金払戻請求書を被告支店に持参させて金一億円の払戻請求をしたが、右支店はこれを払戻しなかった。

3  被告支店は、翌一〇日午後一〇時ころ、原告の抗議により、やっと右一億円を払戻した。

4  被告支店の払戻拒否は、債務不履行である。

5  よって、原告は、被告に対し、民法四一九条により、損害賠償として、一億円に対する民法所定の年五分の割合による一日分の損害金一万三六九八円及び遅延損害金の支払を求める。

三  当裁判所の判断

1  証拠(甲一、乙一、証人西山歌子、同生田冨繁)によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  原告は、平成六年三月九日午後二時三〇分、訴外高知信用金庫朝倉支店から被告支店に金一億円を振込送金し、同日午後二時四五分ころ、西山歌子を使者として被告支店に赴かせ、同額の金員を払戻請求をさせたこと

(2)  被告支店は、払戻請求者が原告の使者であること及びその払戻請求金額が高額であったことから、慎重を期し、現金一億円を用意した上、原告本人の確認をとるため、原告への連絡方を西山に依頼したが、原告が外出していたため、容易に確認をとることができなかったこと

(3)  原告は、翌一〇日午前九時五〇分ころ、前日中に一億円が入手できなかったことに憤慨して、被告支店に来店し、カウンターにあった花瓶等を投げつける等の行為に及んだ上、被告支店に対し、訴外金庫での一億円の借入費用等として四、五万円を負担するよう要求したが、被告支店は被告本店と協議した上、同日午前一一時、原告の右要求を拒絶したこと

(4)  その後、原告と被告支店との間で、原告が払戻請求書の日付けを九日とすることに固執したことから、その交渉、説得のため時間が徒過し、払戻請求書の日付けを九日とすること、預金通帳には払戻しの日付けを一〇日とすることで合意が成立し、一〇日午後九時四五分ころ、訴外金庫朝倉支店で、被告支店は原告に対し、金一億円を払戻したこと

2  右認定した事実に弁論の全趣旨を考えあわせると、被告支店が、原告からの使者による一億円の払戻請求に対し、慎重な態度をとったことは、被告の業務の性格、本件払戻の金額、取引慣行からいってむしろ当然のことであって、その払戻に二日を要したことは、被告支店の責に帰すべからざる事由によって生じたものと解さざるを得ない。そうすると、これを被告の債務不履行として損害賠償を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官小林裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例